魔法使いと嘘猫のウィズ Story

 
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2017/04/01







君は書類の束から目を離し、窓の外を見た。
凝り固まった視野が、明るい外の光に癒されて、じんわりと広がっていく。

受けた依頼の報告書と戦っていた君にとっては、何よりの滋養である。
やらなければいけないこととは言え、中々辛い仕事である。

ウィズはというと気ままに外へ出かけた。
猫は気楽でいいな。と少し羨ましく思った。

そんなことを考えていると、背後の扉が音をたてる。
いつでも帰って来られるように半開きにしておいたのだ。

もちろん帰ってくるのは……。


「よっ。」
だれだこいつ。と君は思った。

「チミチミ。」
チミ? キミと言いたいのだろうか?

「よっ。」
片手を上げて、挨拶のつもりなのだろうか?

どちら様ですか? と君は一応尋ねてみる。

「どちら様だって? チミは師匠に対して失礼ニャ。
アタイはウィズニャ。見ての通り四聖賢のウィズニャ。」

どこをどう見ろと? 君は言い返した。
そもそも猫かすらも怪しい。なぜか二足歩行だ。

「疑うのかニャ? それならこれを見るニャ。」
と謎の猫(?)は一枚の紙片を渡した。

「アタイが銀行に預けているお金ニャ。」
かなり貯め込んでいた。

「それが四聖賢の力ニャ。」
そんな力は嫌だ、と君は思った。


「どうニャ? アタイのこと見直したニャ。」
いや、むしろガッカリしました。と君は率直に告げた。

「それがチミの答えかニャ?」
ええ、そうですと君は即答する。

「……ぶぶー。不正解ニャ。」
そう言う話ではないと思うけど? と言ってみたが……。

「やれやれ不甲斐ない弟子のために、アタイが一肌脱ぎますかニャ。
……って、おおっと! もうすでに裸にマント一枚の姿だったニャー!」
恥ずかふぃー! 恥ずかふぃー!

聞いちゃいなかった。
仕事の邪魔なんで帰ってもらえませんか? と君は謎の猫(?)に頼んでみた。

「嫌ニャ。居座れるだけ、居座るつもりニャ。」
想定の範囲内の答えが返ってきたので、特に驚きはしなかった。

「いまからはアタイがどこかに隠れるニャ。チミはそれを見つけるニャ。」
分りました。隠れて下さい。と君は謎の猫(?)に答える。

「了解ニャ。では目をつむって3つ数えてほしいニャ。」

君は目元を手で覆い、3つ数える。

……1
……2
……3

君は覆った手を下ろした。


「ふー、ふー、ふーー…」
隠れろよ、と君は思わず毒づいた。そしてこの猫(?)、やたら鼻息が荒い。

「所詮、アタイはドラ猫。気の向くままに生きるだけニャ。」
君は謎の猫(?)に、お願いだから、隠れてください、と頼んだ。
「とは言え、弟子にここまで言われたら、やらないわけにはいかないニャね。」
そう言って、謎の猫(?)は部屋から出て行った。

君はふうと一息ついて、机の前に戻り、書類仕事に再び取り掛かる。
まだ開封していない封書を手に取り、君はペーパーナイフを取り出すために、引き出しを開けた。

「ちゃんと探してほしいニャ。」
引き出しの中には、ギチギチに謎の猫(?)が詰まっていた。

「チミ、探さないで、そのままなかったことにしようとしたニャ?」
はい。その通りです。と君は答える。

「そんなことしたら……アレをするニャよ。」
アレ? と君は聞き返す。

「アレ、ニャ……。」
アレ、ニャ……ア、アレニャ……ア、アレニャ……

たぶん何も考えていないんだろう、と君は思う。
もう面倒なので、君は謎の猫(?)について行くことにする。

 ***

部屋を出ると、謎の猫(?)は……。

「アタイを見つけるのは、なかなか骨の折れる仕事ニャよ。」
と言って、君の前から消えて行った。

君はやれやれ、とぼやきながら、謎の猫(?)を探し始めた。



嘘詠唱法講座


ウィズがいつも君に講座を開く野原に、謎の猫(?)はいた。

「よく見つけたニャ。よっ。この見つけ上手。」
よっ。足速い。 よっ。小金持ち。
よっ。好き嫌いなし。 よっ。二重瞼。 よっ。聞き上手。 よっ。八方美人。

よく……というか、全然隠れてなかったよね、と君は言った。
実際、丸わかりだった。どこがどうとは言い表せないが、丸わかりだった。
本当に隠れる気があったの? 君はちょっとした興味があって聞いてみた。

「隠れる気なんてさらさらなかったニャ。
アタイの本当の目的は、新しい詠唱方法が見つかったから、それをチミに教えることニャ。」

新しい詠唱方法か。このクエス=アリアスでは、日夜魔法の研究が続けられている。
ひょんなことから、新しいものが見つかることは少なくない。
だが、この謎の猫(?)が、それを知っているのは、少し納得できない。

「新たな詠唱方法というのは、音韻詠唱法と言うニャ。
チミが声をあげることによって、叡智の扉が反応するニャ。ものは試し。一度やってみるニャ。」

どうすればいいのか、と具体的な方法を尋ねた。

「アタイがせーのって言うからチミが声を出すニャ。
じゃ、行くニャ。大声でアタイの名前を呼んでほしいニャ。
せーの……!!」

「うそニャ。」

ネタばらし早すぎない? 肩透かしを食らったような気になった君は、謎の猫(?)に言った。

「うそは長引かせてもロクなことないニャ。」
まあ、そうだね。と君もそれには納得する。

「話を変えるニャ。
これはうその話なんだけどニャ。ちょっと聞いてほしいニャ。」

え、嘘なの? と、君は意外に思い、聞き直してみる。

「うそニャ。」
当然のように謎の猫(?)はそう答えた。
聞く意味ないよね、その話? と君は当然のことを主張した。

「これはアタイのおじいさんが、バカンスで出かけた時のことニャ。」
その時のおじいさんはまだまだ若くてバリバリだったニャ。バリバリといっても硬いわけじゃないニャよ。

だが、謎の猫(?)は聞いちゃいなかった。

君が自分の話を聞いていないと見て、謎の猫(?)は話を止めた。

「ちゃんと本当の話だと思って聞いてほしいニャ。」
無理……だよね。と君は困り果ててしまう。

「じゃあ、いまから本当の話みたいに、うその話をするニャ。それだったら大丈夫ニャ?」
その話も嘘だよね、と君は確認する。
「うそニャ。でもすごくホントっぽく話すニャ。」
でも、嘘なんだよね、と再び確かめる。
「うそニャ。」

それなら駄目だよ、と君はピシャリと言い捨てる。どうしてそんなに嘘をつこうとするの? と謎の猫(?)の真意を問いただした。
すると、謎の猫(?)は少しだけ俯き、喋り始めた。

「アタイがうそをつき始めたのは、アタイがまだ黒い虎だった時代にさかのぼるニャ……。」
それも嘘だよね、と君は横槍を入れた。
「うそニャ。」
あっさり認めるところがむしろ手に負えない、と君は思う。

「人を殺したことがあるニャ。」
それも嘘だよね、と半ばあきれながら君は言った。
「…………。」
なんでそこだけ黙るの? 答えて。 君がそう言っても、謎の猫(?)は黙っている。
君の心はすごくムズムズした。


「そろそろ帰るニャ。」
このまま帰らないでほしい、と君は言った。すごく心がムズムズしたままだからだ。
だが、謎の猫(?)は首を横に振る。

「所詮アタイは時代が生んだ鬼子ニャ。憎まれこそすれ、愛されることはないニャ。」
意味の分からないことを言って、断られた。君の心は最高にムズムズした。

「そうニャ。アタイの正体が知りたいってチミは言ったっけニャ?」
そんなことは言ってない、と君は思う。

「よく見るニャ。アタイの正体は……。」
ふー、ふー、ふーー…
近づくな、と君は眼前に迫った顔に言い放つ。そして鼻息が荒い。


「さ、今度こそ本当に帰るニャ。所詮、アタイは一夜限りの夜の蝶……。」
猫だろ。……いや猫でもないか、と君は思う。

「今日という日が終われば、消えるのみニャ。
さよならアデュー……。」


「ふー、ふー、ふーー…」
もう帰って下さい、お願いですから。と君は思った。


 ***


君は顔を上げる。そこは君が間借りしている部屋。そして机の前、山積みの書類。
どうやらいつの間にかつっぷして、眠っていたようだ。

先ほど見たのは夢だったのだろうか? いやむしろ夢であって欲しい。
でも、もし夢だったとすれば、自分は相当疲れているんだろうな、と思う。

背後の扉が開く音がする。振り返ると、ウィズがいた。


「ただいまにゃ。仕事は片付いたにゃ?」

ウィズにそう言われて、君ははっとなる。慌てて書類の山を見ると、もちろん何も進んでいない。
「どうしたにゃ。キミらしくもない。そんなことじゃ、立派な魔道士になれないにゃ。」
ウィズの小言も君の耳には聞こえない。もちろん、それどころじゃないからだ。

「それも魔道士の大事な仕事のひとつにゃ。私みたいな立派な魔道士を目指して頑張るにゃ。

私 み た い な……。」








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