金色の空戦記 Story【黒猫のウィズ】

 
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story1 



 ドルキマス国は、空戦が繰り広げられる大陸において、小国――あるいは弱小国と呼ばれていた。
 軍事力、政治力……そういう面において、この小国は他国より劣っていると言われていたからだ。
 当のドルキマス国王も、小国を体現したような、いわゆる小物であった。

 仕方がなかった、のかもしれない。
 もとより力のない国が大国に立ち向かうなど、無謀にほかならないからだ。
 その意味においていえば、ドルキマス国は矮小であったからこそ、生き延びられたのだろう。
 造船に優れた国とはいえ、しょせんは“それしかない”国であった。

 しかし――。

「――元帥閣下。」
「…………。」

 戦争狂、死にたがり、あるいは戦争の亡霊と他国からそしりを受ける男――
 ディートリヒ・ベルクは、珍しく窓の外を眺めたまま、動かなかった。

「シャルルリエ少将が敵国の戦艦を10隻落としたと報告が入りました。」
「そうか。」

 ドルキマス国の軍を掌握するディートリヒは、日に幾度もこのような報告を受ける。
 ほぼ無傷で大勝を収める職艦もあれば、時には大打撃を受け撤退する隊もある。
 それはこの大空戦が繰り広げられる大陸においては、日常の一部であると言えた。


「……敵国の動きは。」
「元帥閣下が仰られたように、彼らは自国を戦場としたくないようです。
奇襲――いえ、先手を打ち、乗り込んだことで、少なからず混乱をきたしている、と。」
「…………。」

 ローヴィの言葉に沈黙で返したディートリヒは、再び外に目を向けた。

「元帥閣下。何か気がかりがおありですか?」
「そう見えるか。」
「……はい。」

 ローヴィが、ディートリヒを補佐する立場について数年。
 このような彼の姿を見るのは初めてだった。

「そうか。」

 戦争を是とし、大国から勝利を収めてきた元帥。
 冷たい風が吹きすさぶ外の景色を眺めながら、ディートリヒは幼少の頃をふと思い出した。




 ****


 それは冷たく、痛みさえ感じるほどの夜だった。

 心を暖めるには薄すぎる布切れを1枚。
 少年は、それを体に巻き寒さに耐えていた。

 広がる空は、それは美しい星がいくつも輝いていた。

 今日は爆撃の音が聞こえない。
 それだけで周囲の人々は安心して眠れる、のだという。

 屋根のない廃墟、柵み重ねられた瓦礫、“血や異臭”までも漂う場所。
 少年が育ったのはドルキマス国内にありながら、国から見捨てられた――そんなところだった。

 血生臭さを吸い込み、その日を生きながらえることだけを考える。
 およそ人と呼べる生活は見込めず、何より人であるものからは虐げられる日々。
 気が狂いそうになるほどの日常が、少年を育てていった。


 少年とともにここへ流れ着いた母は、1年ほど前に死んだ。
 母の墓を作ったのが、人らしい行動といえばそうかもしれない。

 街は――明かりや穏やかな声が聞こえるほど、色濃く息づいている。

 まるでこことは正反対だ、と少年は思う。
 母と自分を見捨てた父は、その中心に立っていることだろう。


 馬鹿な母であった。

 目を腫らし、幾夜も幾夜も、少年に「ごめんなさい」と言っていた。
 少年が眠れるよう、幾夜も幾夜も彼を抱きしめ、風から守っていた。
 救いようのない馬鹿な母親であった。

 “自分を見捨て、己ひとりなら生きていけただろうに”

 彼は幼心に、そんなことを考えていた。
 そうして気づいた頃には、モノ言わぬ“何か”に成り果てていた。

 許せるものか――少年は、怒りに震えていた。
 血が繋がっている程度で、謝罪する母親にも、自らを捨てた“父親”にも。

 少年は決して拭えないドス黒い景色を眺めながら、復讐することを胸に誓う。

 どんな手を使ってでも、たとえこの身が巧ち果てようとも――
 必ずドルギマス国王を絶望の淵に追いやってやると。


 ***


「ローヴィ。」
「はっ。」
「血縁者は健在か。」
「…………。」

 外を眺めていたディートリヒからの、突然の問いかけに、ローヴィは困惑を隠し切れない。

「父、母、兄弟、あるいは繋がりの薄い者でも構わない。血縁者は健在か。」
「……4年前、父は戦場で。母もその年に亡くなりました。兄弟はおりません。」
「そうか。確か貴族の出だな?」
「国に影響力を持っていたとは言い難いですが……。」
「何故、軍に入ろうと思った。」
「……戦うためです。」

 ローヴィはほんの少し迷いを見せたあとで、そう言った。
 それは本心ではあったが、本音とはいえない言葉であった。

「…………。」

 ディートリヒもまた、それを見抜いたのだろう。
 ローヴィから視線を外すことをしなかった。

「シャルルリエ少将の父は、軍人だった。」
「…………。」
「アレも同じことを言っていた。――そしてそれはシャルルリエ少将も同様だ。
戦う覚悟を決め、死に場所を知る者の目を、アレらは持っている。」

 だがローヴィは返答できずにいた。

 無論、覚悟がないわけではない。
 戦争を繰り返し続けるこの大陸に生まれた者は、戦で死ぬことを知っている。

「ローヴィ。」
「はっ。」
「前線へ向かう。ついてこい。」


story2 我が敵を討つ


 戦艦は速度を一定に保ったまま、前進する。

 ディートリヒが前線へ赴くのは、そう珍しいことではない。
 軍の指揮をとりながら、なおも争いのさなかに身を投じるの姿を、ローヴィは何度も見てきた。

 彼がこうして死地に立つことを、ローヴィは止められずにいた。
 元帥閣下が前へ出てはいけないのだ――と、言えないままであった。

「シャルルリエ少将が率いる軍はどこにある。」
「先導させます。」
「損害は?」
「現状ではほぼ出ていません。」
「……戦いが上手いものだ。」

 ディートリヒは、つまらそうに呟く。
 シャルルリエ少将は、父とは違い非常に優秀な人であると、ディートリヒは知っている。
 して何より、彼女がディートリヒ・ベルクに心酔していることも――。

「進め。道を阻むものは、全て撃ち落とせ。」


 ***


「ベ、ベルク元帥……何故このような場所におられるのですか。」

 敵の出方を窺っていた軍に合流すると、慌てたようにクラリア・シャルルリエが姿を見せた。
 うら若い少女ではあるが、戦争を知るれっきとした軍人である。

「なに、“この目で”碓かめに来ただけだ。少将の活躍を。」
「そんな……お、恐れ多い……。」
「首尾よく進んでいるようです。敵国もすぐに落ちるでしょう。」

「無論です、ベルク元帥。私がすぐにでも勝利を持ち帰ります。」
「すぐ――それはどの程度だ。」
「……は?」
「戻り次第、この軍には次の任を与えるつもりだ。」
「次?お言葉ですかベルク元帥、この国を落とせば、国土は十分に拡大できます。
“太らせ”すぎると、国が立ちゆかなくなると教えてくれたのは、ベルク元帥ではありませんか。」
「くっ、ふふ……あくまでも国を広げることに固執しすぎると、という話だ。」

 ディートリヒは口元を笑み歪めて、シャルルリエ少将を見下ろした。

 シャルルリエ少将は気づいていないかもしれないが、ローヴィはその目が苦手だった。
 内に轟く狂気、異常性をぶつけられる感覚。
 だからローヴィは会話に口を挟まずにいた。


「べルク元帥、いったい我々はどこを攻めればよいのです?」
「ああ、これが終わったらすぐにわかる。“何を”落とせばよいのかは、な。」


 ***


「…………。」

 自身の戦艦の中で、ディートリヒはまた外を眺めていた。
 冷たい風は忌々しいほどに強くなっていく。

「敗戦することはないだろうが、少将は強引な戦い方を好むきらいがある。」
「無理もありません。お父上、そして元帥閣下の背を見て育った、と語っていましたから。」
「あんなもの、船を捨て、いらぬ人間を捨てるだけのやり方にすぎない。」

 他国から流れ着いたならず者、国が手に負えない者、そういう者を使った戦法だ。

 打ち捨てられる寸前の戦艦、いわば巨大な棺桶にういう者を詰め込み、奇襲をかける。
 おかげで何度となく、大国、貴族連中を打ち破ってきたのは確かだが、
 それはある意味で無謀な策であった。


「策を変えさせることもできますが。」
「構わん。アレは我が軍最高の武力でもある。わざわざ士気を下げることもない。」
「少将が戻るのはまだ先になりそうですが、次というのはいったい………」


 周囲の国は、ほぼ全て掌握している。

 同盟であったり、敵国として潰しあったりと、形は様々だが………
 ドルキマスは、十分に力を蓄えているはずだ、とローヴィは考える。

 であるなら、ここは急くこともなく、時を待つのが上策ではないのか?
 だがの程度のこと、ディートリヒが気づいていないとも思えない。

「元帥閣下の仰る次とは、いったいどのような敵なのですか?」

「ドルキマス国王。それが我が軍の敵だ。」


story3 夜明けの王


 戻ってきた軍は、ほぼ損害を受けることなく、任務を全うした。
 しかし、ディートリヒの口から国王を討つと伝えられたからか、重々しい空気が漂っている。

「……元帥閣下は何を考えておられるのだ。よもや国王を討て、などと。」

 誰も彼もが困惑を隠し切れない。
 ドルキマス国王は、国民の支持を受けているわけではない。

 それどころか、かつては敗戦が続き、自らは逃げるように要塞に篭っていたこともある。
 恐らく――国王を討っても、波紋を呼ぶことはないだろう、とローヴィは思う。

 しかし、よもや国の頭を……それが大きな危険を孕んでいることは間違いない。


「もはやアレは国にとって何の役にも立たない。」

 ディートリヒは、この軍、そして凄まじい数の戦艦の前で、そう言った。
 不必要だから切り捨てるのだ、と。

 不安や恐れは皆が抱いていたが、しかし決してできないとは言わせない……
 そんな不気味な力が、ディートリヒにはあった。


 ***


「反応は様々ですが、このままいけば……。」
「そうか。」
「外に何か?」
「…………。」

 だがディートリヒは答えない。
 そこには何もないのだと、彼は知っている。

「元帥閣下。」
「考えてみれば――年が明けていたのだな。」
「は……?」
「そうか……夜明け、か。」


 思えば母は、年を越ことがなく倒れた。
 あの日も、今日のように強い風が吹いていた。

 感傷に浸るなど、まるでらしくない。

 ローヴィは気づいているのかいないのか……それ以上、言葉を発することはなかった。


「戦が終われば――」

 言葉を止めて、ディートリヒは息を吐く。

 自らの復讐のため、軍を利用する。
 だがどうしてあのタイミングで「王を討つ」ことを□にしてしまったのか。
 こんな日でなければ、もう少し上手くやっていたはずだ。
 全く度し難い。感情に左右されるなど、馬鹿げている。

 ディートリヒ・ベルクにとって、戦争とは日常の一部でしかなかった。
 心はあの夜に冷えきっている。しょせんは戦だ、と。
 だがその戦を利用して、彼は復習を果たそうとしている。

 強力な軍は手中に収めた。
 あとは己の目的を果たすだけだ。

 だがその後はどうなる?

「……後のこと、か。」

 そこまでを考えてはいない。
 復讐することが全てなのか、その先に何かがあるのか――。

 ディートリヒは空を仰ぎ見た。
 軍の戦艦が飛んでいる。

「…………。」

 復讐を果たしたところで、こびりついた血生臭さや、あらゆるものからの憎悪は消えない。
 しかし、許せるものか――あの時の少年は、今もその感情を抱いていた。

 年が明け、陽が出ているというのに、視界は昏く淀んでいる。

 ――ドルキマス国を掌握した後に、何があるうと自分の知ったことではない。
 たとえ国が消え失せようと、それはディートリヒには何ら関係のないことだ。

 だからこの陽が黒く落ちていこうとも――

 絶望の淵は、ほど近い。



『金色の空戦記』


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