空戦のドルキマスⅡ・後編 【黒猫のウィズ】

 
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story 封魔級 向かうべきは、ただ



 ディートリヒ軍は、鉄機要塞へ進軍した。


 ウィズ  
未来で〈イグノビリウム〉に乗っ取られた要塞と、
同タイプって話にゃ。

 ただ、あのときとは大きな違いがあった。



 槍のごとく切り立った山岳地帯の存在である。

 ディートリヒ軍は、
 その山岳の間を縫うようにして、
 要塞へと近づいていく。


 ウィズ  
どうして山の上を飛び越えて行かないにゃ?

 ローヴィ 
このあたりは、高空に乱気流ができやすいのです。
複雑な山脈の形状や、海との位置関係が、
原因なのではと推測されています。

 フェリクス 
 とはいえよ、相手は対空防備に優れた要塞だろ。
 高度を下げて侵入したらいい餌食だぜ。

  クラリア 
 案ずるな。要塞の対空砲は、そのほとんどが、
 他国からの侵略に対して備えつけられたものだ。

 レベッカ 
ドルキマス国内側から攻め入られるって状況は、
想定していなかったわけね。
お粗末なこと。

  ヴィラム 
 国王側には、もうほとんど艦隊戦力はない。
 このまま要塞を攻め落としゃ、
 つつがなく元帥閣下の勝利ですな。

 そうだろうか、と君は不安を感じる。
 竜の卵を便うという奇策を打ってきた相手だ。

 何の対策も講じずに要塞に引きこもる、という
 行動を是とするだろうか?

 もちろん、手を打ち尽くしてしまって、
 そうするしかないという可能性もあるのだが――

 フェリクス 
 ん?おい待て、レーダーに反応だ。

 不意に、フェリクスが緊迫と驚愕の声を上げた。

 フェリクス 
 敵影――こいつはッ……!

 そそり立つ細長い山岳の間から現れ、
 ディートリヒ艦隊に砲撃を敢行してくる影。

 通常の艦の4分の1ほどの大きさもない、
 それはー―



 ***

 クラリア 
こっ……小型艇だとぉ!?

 被弾の衝撃に震える艦内で、
 クラリアは目を丸くした。

 クラリア 
こんな、もう戦力にも数えられないような
旧式の小型艇を集めていたとは……!

 迎撃を命じるが、功を奏していない。

 敵小型艇は、その小ささと機敏さを存分に活かし、
 山岳さえも楯にして、すいすいと砲撃をかわす。

 そして、敵の砲撃は、威力こそ小さいとはいえ、
 確実にディートリヒ艦隊に損害を与えていた。

 中には、小型艇の集中砲火から逃れようとして、
 焦ったあまり山岳に激突、沈む船もある。

 予想外の事態に、クラリアは歯噛みした。

 クラリア 
くそっ、こんなものにいいようにされるとは……!

 フェリクス 
 旧式だの小型だのって言っても、局面次第だ。
 いくら虎の図体がでかかろうか、檻に入ってちゃ、
 猫相手にゃられたい放題だろ!

 しかもあいつら、ただの猫じゃない。
 この動き――傭兵!
 百戦錬磨のドラ猫どもだ!

 自国の艦隊兵力がなくなったもんで、
 小型艇使いの傭兵どもをお呼びなすったかい!


 ***


 ローヴィ 
閣下、このままでは――

ディートリヒ
進め。

 ディートリヒは、ただ泰然と告げた。


ディートリヒ
ここまで来た。
退く理由などどこにもない。
進め。すべてを喰らい尽くせ!


 ***

 ディートリヒ軍の船が、また1隻、
 小型艇に翻弄されて撃沈されていく。

 対してこちらは
 ほとんど敵に損害を与えられていない。

 クラリア 
なんというふがいなさだ!
最後の勝利を目の前にしていながら……!

  ユリウス 
 ハハハハハハ!
 戦場で指揮官が毒づく姿を見せてはならんぞ、
 クラリア・シャルルリエ少将!

 突然割り込んできた無線の声に、クラリア以下、
 ブリッジの兵たちはぎょっとなった。

 クラリア 
ヒ――ヒルベルト教官ッ!?


  ユリウス 
 今は退役して、ただの傭兵よ!
 ハハハ、そら、あいさつ代わりだ!

 クラリア艦の近くを小型艇がかすめ、
 衝撃がブリッジを揺るがした。

 クラリア 
くっ……!

  ユリウス 
 旧式だのなんだのと言われておるがな。
 わしが現役だった頃は、
 こいつらが主役を張っていたものよ!

 さあ、ドルキマス軍人の意地と誇りを見せてみろ!
 それが生半可なものであれば、
 このわしがへし折ってくれるぞ!


 ***




ユリウスめ、はしゃいでいるな……。

 自艦のブリッジで戦況報告を聞きながら、
 アルトウールは苦笑する。

 鉄機要塞前の山岳地帯――
 その地の利を活かし、小型艇で敵軍を翻弄する。
 その作戦は、功を奏していると言えた。

(しかし、ベルクが諦めるとは思えん)

 さらに二重、三重の策を用意している。
 とはいえそれでも安心できる相手ではなかった。

(奴が、我々の用意した策を破りきるか否か。
この戦いの結末は、それで決まる)

(さあー―どう出る?
ディートリヒ・ベルク……!)


 ***




 状況が芳しくないのは明らかだった。

 しかも、仮にこの逆境を覆しえたとしても、
 第1王子の側にはさらなる策が控えている。

(それを超えることができるのか――)

 あるいは、超えられず倒れてしまうのか。

 ディートリヒが死ぬときは、自分も死ぬときだ。
 その覚悟は、すでに決めきっている。

 (ディートリヒ・ベルク……
あなたが、この状況をも覆せる方であるか否か。
私はそれを知るために――)

 ディートリヒの席へと視線を向ける。

 誰もいなかった。

 ローヴィ 
……え?


 ***


 ディートリヒはいなかった。

 先ほどまで、そこで指揮を執っていたはずの彼が。

 忽然と、姿を消していた。


 ローヴィ 
…………!!?

 ローヴィは文字通り、己の目を疑った。

 だが、何度席を見直しても、
 やはりそこにディートリヒの姿はない。

 だが、いつ?
 いったいどうやってー―?

 茫然となるローヴィの耳を、
 悲鳴じみた被害報告が滑りすぎていく……。


 ***

 自艦の被弾報告が続く。
 友軍艦が撃沈されたという報告が届く。

 悲鳴や怒号が交錯するブリッジで、
 クラリアは静かに腕を組んでいる。

 状況は悪い。きわめて不利だと言っていい。

 だが、こんな事態はいくらでもあった。

 小国でありながら
 周辺諸国への侵略を敢行したドルキマス軍――
 その先鋒を担ってきた彼女だ。

 敵艦に包囲されたこともあったし、
 援軍を断たれ、孤立無援に陥ったこともあった。

 艦が撃沈寸前になったことも、
 一度や二度ではない。

 それでも、クラリアは常に生きて帰ってきた。


 何も特別なことをした結果ではない。

 クラリアの行く道は、常にひとつ。


 クラリア 
前進せよ。

前進!? 前にゃあ山がありますって!

 クラリア 
吹き飛ばせ。


 整備士でありながら、すでに少女の片腕とも
 言っていい立場にあるヴィラムは――

 このとき初めて、
 振り向くクラリアの顔に、
 その父親と同じ表情を見た。


 クラリア 
我が軍の前に立ちふさがるものは――
船だろうと山だろうと、吹き飛ばしてしまえッ!

 クラリア艦の主砲が放たれた。

 前方に位置していた小型艇の群れが、
 白い光の砲撃を軽やかにかわす。

 それでも、砲撃は狙いどおりに直撃した。

 そそり立つ、槍のような岩山へと。

 合わせて、他の軍艦も主砲を放った。

 いずれも山へ。
 小型艇を無視して、立ち塞がる山々へ。

 光砲を浴びせ、打ち崩しにかかる。

 “檻”があるなら、食い破るー―
 クラリアは、そういう“虎”だった。


 ***



フェリクス 
“窮地を切り拓く”ってのは、
こういう意味じゃないと思うんだが。

けどここは、便乗させてもらうとしますかね!

 フェリクスは、自らも山への砲撃を命じた。

フェリクス 
くたばれ!



 ***




ディートリヒ
ふふ……いつもながらのやり方だな、
クラリア・シャルルリエ少将。


 空を揺るがす戦いを見つめながら、
 ディートリヒは笑う。

 馬上である。

 山脈を抜けた先、鉄機要塞にほど近い平地。
 そこに、馬とともに佇んでいる。

 彼だけではない。
 付き添う君とエルマもまた、
 馬上の人となっている。


 ルヴァル 
天の使いを輸送機代わりに使った男は
卿が初めてだ。

 翼を広げたルヴァルが、
 ディートリヒをあきれたように見やっている。

 そう――君たちは、ルヴァルの魔法によって、
 艦内からここまで瞬間移勤してきたのだ。

 ディートリヒはすでに、
 ルヴァルが人でないことに勘づき、
 接触を図っていたものらしい。


ディートリヒ
思いのほか快適な旅だった。
感謝する、アウルム卿。

 ルヴァル 
まだ卿を完全に見定めたわけではない。
だが、〈イグノビリウム〉との戦いにおいて、
必要不可欠な人間だとは思っている。

今、卿に死なれるわけにはいかないのだかな。
本当に自ら要塞に乗り込むつもりか?

ディートリヒ
そうでなくては意味がない。

心配なら同行するか?

 ルヴァル 
いや。少し気になることがある。
それを確かめさせてもらう。

ディートリヒ
天の使いも、存外に忙しいようだ。

 冗談めいたことを□にして、
 ディートリヒは要塞へ馬首を返した。

ディートリヒ
ドルキマス王を討つ。
ついてきたまえ。


 ***


 クラリア艦が活路を開いてなお、
 ディートリヒ軍の劣勢は続いていた。

 ディートリヒに代わって指揮を執るローヴィの
 もとには、次から次へと報告が飛んでくる。

 とてもさばききれるものではなかった。
 戦況を考慮し、対策を講じても、
 すべてが後手に後手に回ってしまう。

 今更ながらにディートリヒの優秀さを
 思い知らされる。

(元帥閣下なら、どうするだろうか)

 わからない。わかるはずもない。

 その采配を見るためにこそ、
 彼の傍にいたはずだったのに。


 ***



少将の件は残念だったな。

 ローヴィ 
父は軍人として、
ドルキマスのため身命を賭す覚悟でおりました。

わたくしも、父の遺志を継ぎ、
国のために尽くすつもりです。
アルトゥール殿下。

君がそう言ってくれて、嬉しく思う。
私も少将には世話になった身だからな。

……ひとつ、頼みがあるのだが、
聞いてくれるだろうか。

 ローヴィ 
なんなりと。

君をディートリヒ・ベルクの下に配属する。
あの男に近づき、真意を探ってほしい。

 ローヴィ 
ディートリヒ・ベルク……。

“過去のない男”“必勝を示す者”……
味方にどれだけの被害が出ようとも、
必ず生きて帰ってくるという――

そうだ。その噂に偽りはない。

……少将が散った船にも、あの男が乗っていた。

 ローヴィ 
――!

しかし“なぜか”船を移って生き延びていた。
少将の船が敵援軍の集中砲火を浴びている隙に、
敵の目をかいくぐってな。

 ローヴィ 
ディートリヒ・ベルクが……
父を囮に使ったと……?

確証はない。
そうであるかもしれない、というだけだ。

だから、君に見極めてほしいのだ。
ディートリヒ・ベルク……あの男が、
ドルキマスに仇なす者なのかどうかを。

無論、そうでないとわかれば、
そのまま彼の右腕として活躍してほしい。
疑惑はどうあれ、優秀な男には違いないのだ。

君の素性はこちらで用意する。
さる貴族の子ということになるだろう。
家名を偽ることになるが……やってくれるか。

 ローヴィ 
…………。

――御意に。



(ディートリヒ・ベルク)

(あなたは、本当に英雄なのですか。
それとも……)

(私の父を殺した仇なのですかー―?)



 ローヴィ。我らには軍人の血が流れている。
 国を守り、民を守る。
 そのために命を尽くし、この身を捧げる者だ。

 すべてはドルキマスのために。
 おまえに流れる血は、その誇りでできている。

 だからな、ローヴィ。たとえこの父が戦場で
 果てたとしても泣かないでおくれ。
 ドルキマスのために死ぬなら、本望なのだ。



 ひとつだけ、確信の持てることがある。

 (まちがいない。父を殺したのはディートリヒだ。
あの男ならやる!
自分の目的のためなら、どんなことでも!)

 (でも――だとしたら、
あなたの目的はいったいなんなのですか?)

 ドルキマスの実権を握りたいのなら、
 ここで逃亡する理由などないはずだ。

 そもそも王都を占領してしまえばよかった。
 だか、ディートリヒは王を討つことにこだわった。

 民意を確実に得るための
 大義名分を欲したのかとも思ったが――

 何か、違う理由があるように思えてならない。

 それがなんなのかが、
 ローヴィにはねからなかった。

(わからない……)

 悲鳴のように、思う。

(あなたはいったいなんなのですか――
ディートリヒ・ベルク!)


story 絶級 惜しみゆく果て


 君たちは鉄機要塞に侵入し、内部を進んだ。

 さすがに正面から行ったわけではない。
 ディートリヒが抜け道を知っていたので、
 そこを利用して潜入した。

 内部にはドルキマス兵の姿があったが、
 ディートリヒとエルナが先行し、
 敵に気づかれるより早く倒していった。


 ウィズ  
ふたりとも、手慣れているにゃ。


ディートリヒ
私とて、最初から元帥だったわけではない。

 エルナ  
わたしも、元はスラム育ちの志願兵ですので。
ま、こんなもんです!


 なぜ従兵であるエルナを達れてきたのか――
 その理由は単純に、
 彼女の個人戦闘力の高さにあったらしい。

 速やかに、かつ密やかに、君たちは進む。

 要塞内は静かなものだ。
 まだ潜入には気づかれていないのだろう。


ディートリヒ
いずれ気づかれるはずだ。
その前にドルキマス王のもとに
辿り着かなければならない。

艦隊の方は放っておいて大丈夫にゃ?

ディートリヒ
ドルキマス王を倒せば戦いは終わる。
味方が心配なら、迅速に目的を速することだな。

この分なら、なんとかなりそうですね。
予想以上に警備が手薄ですし。

ディートリヒ
“王を守るために手勢を割いてはいられない”
ということだろう。
やはり、軍を率いているのは第1王子か。



 そのときだった。
 
 君は不意に、背中を氷の刃で刺されたような、
 ぞくりと鋭い気配を感じ、背後を振り返った。

 そこにいたのは、敵兵ではなかった。



 機械だ。
 さまざまな部品を寄せ集めたような、
 いびつな人型の機械が、立っている。
 ゆっくりと、こちらに歩を進めてくる。

 だが、君を戦慄させたのは、
 その異形の姿が原因ではない。

 感じるのだ。

 暗く、重く、冷たい情念。失われたはずの慟哭。
 求められぬものを求め続けるような、その気配。

 忘れられるはずもない。


 ウィズ  
――〈イグノビリウム〉にゃ!

イグノビリウム
ア……ア、ア……。

 ソレは、声を発した。
 喉を焼きつぶされたような、歪んだ声だった。

イグノビリウム
〈王〉ノ……仇……
我ラノ……仇………

 その声に、ディートリヒが眉をひそめる。


ディートリヒ
なんだ?あれは何を言っている?

 エルナ  
いえ……ぜんぜんさっぱり……。

 やはり、魔法を失った彼らには、
 〈イグノビリウム〉の言葉は理解できないのだ。

 ウィズ  
〈王〉の仇って言ったにゃ。
こいつ、ひょっとして……。

 ウィズの推測に、君はうなずく。

 あのときの戦いで時空の歪みに巻き込まれたのは、
 君たちだけではなかったということだ。

 目の前にいるのは古代の亡霊――
 であると同時に、未来世界から漂流してきた、
 〈イグノビリウム〉の残党兵!

イグノビリウム
殺シテ……ヤルゾ……
ディートリヒ・ベルク……。

 狙っている。ディートリヒを。
 過去の彼とわかっているのかいないのか。
 いずれにせよ、恐ろしいまでの憎悪を燃やして。

 君は懐から力―ドを取り出し、構えた。

 ウィズ  
ディートリヒ、エルナ!
ここは私たちに任せるにゃ!

ディートリヒ
よいのだな?

 君はうなずく。

 こいつは君が連れてきてしまった亡霊だ。
 本来、この時間軸にいなかったはずの邪魔者。

ディートリヒ
わかった。この場は任せる。
後ほど、武勲のほどを聞かせてもらおう。

 エルナ  
がんばってくださいね、魔法使いさん!

 ふたりは、通路の奥へ駆けていく。

 君も、ふたりとは反対側に駆け出した。

 〈イグノビリウム〉――例すべき敵へと向かって。



 ***



 要塞に、振動が走る。


 エルナ  
魔法使いさんと。
〈イグノビリウム〉……が、
戦ってるんでしょうか。

ディートリヒ
あちらは任せておけばよい。

 にべもなく言って、ディートリヒは足を進める。

 その後ろ姿にエルナは、くすりと笑いをこぼした。

 エルナ  
閣下、意外と買われてますよね。
魔法使いさんのこと。

ディートリヒ
意志の強さは疑うべくもない。
もし戦場であいまみえたとしたら、
ある意味、最も厄介な手合いだ。

 エルナ  
ふふ。かもしれませんね。

 人なき道を駆けてゆく。

 王の元へと続く道。
 勝利をもたらす道。

 ひた走り、駆け抜けて――


 ???  
ディイィイイィイイトリヒィィイィィイイッ!!

ディートリヒ
――!


 轟音が、道そのものを割り砕いた。

 見えたのは、赤。赤黒い衝撃波。

 それが天井を粉砕し、瓦璋の雨を降らせ――
 廊下いっぱいに広がって、
 ディートリヒをエルナを吹き飛ばした。


 エルナ  
ああっ……!

ディートリヒ
ぐっ……!


 巨人の拳を叩きつけられたような衝撃。
 骨が軋み、砕ける感触を味わいながら、
 ディートリヒは激しく床を横転する。

ディートリヒ
……。

 ディートリヒはすばやく立ち上がり、
 銃を構えた。

 もうもうと立ち込める噴煙の彼方に、
 不気味な赤光が瞬く。



 鉄機要塞をぶち抜いて現れた女――
 その瞳に燈る、人ならざる瞳の光が。

ディートリヒ
(あの女――ザビーネ・クーンと言ったか)

 ディートリヒの命を狙い、艦に潜入していた女。
 独房に閉じ込められたままのはずだったが――

 ザビーネ 
ディートリヒ……仇ッ……
弟の仇……〈王〉の仇いいいいッ……!!

 近づいてくる。
 踏み出す都度、嘆き上がる赤黒い気が、
 床をどろりと溶解させてゆく。

 その気配は、先ほど相対した
 〈イグノビリウム〉なるものと酷似している。

ディートリヒ
人の念を呑むのか。
〈イグノビリウム〉とやらは。

 ザビーネ 
うぅぅうあああぁああああああーっ!!

 自ら築いた瓦榛を弾き飛ばすようにして、
 ザビーネが走り出す。

 ディートリヒはすばやく、そして正確に、
 女の胸に狙いを定めて引き金を引いた。

 直撃。女が足を止める。

 だが、それだけだ。死なない。向かってくる。

 エルナ  
……閣下ぁっ!

 通路の壁側に吹き飛ばされていたエルナが、
 ザビーネに体当たりをするようにして組みつく。
 その隙に、ディートリヒは撃った。

 女の頭部を弾が貫通する。

 ザビーネ 
邪魔だァッ!!

 止まらない。ザビーネが激しく腕を振るった。

 赤黒い閃光が詐裂。
 周囲の瓦篠ごとエルナを吹き飛ばす。

 エルナ  
あ……。


 閃光に胴を薙がれ、エルナは鮮血を噴いて倒れた。
 その上に、砕けた瓦磯のかけらが降り注ぎ、
 押しつぶしていく。

 おかげで、敵の動きが一瞬、止まった。
 ディートリヒは銃を構える。

 胴。額。いずれも致命傷にはならなかった。
 ではどうする。どこを撃てばいい。


 ザビーネ 
ディートリヒィッ!!


 ザビーネが来る。
 尽きせぬ憤怒と憎悪に瞳を赤くきらめかせて。

 憎悪。他のすべてを喰らい尽くすようなー―

 忽然として、ディートリヒは悟った。


ディートリヒ
――そうか。“目”か!


 撃つ。

 銃弾は狙い違わず、
 迫り来るザビーネの左目に飛び込み、
 赤い輝きを貫通していく。 

 止まらない。まだ。
 右目が尽きせぬ憎悪に満ちている――


 ザビーネ 
おまえが奪ったッ!

 血走るような叫びと共に、腕が伸びた。

 避けようとしたが、骨が軋んだ。一瞬の停滞。

 その隙に喉をつかまれ、持ち上げられた。
 向けようとした銃は容易に弾き飛ばされる。


 ザビーネ 
おまえが弟を殺したんだディィイトリヒィィイ!
おまえが〈王〉を殺した、〈イグノビリウム〉
がならず者の消えろとみんな喜んで!!

 言葉の断片を繋ぎ合わせただけのでたらめな糾弾
 と共に、喉をつかむ手に力が込められる。


ディートリヒ
ぐ……。

 ザビーネ 
おまえは――この手で殺すッ!




 ***



イグノビリウム
ディートリヒ……仇……!!


 激しい憎悪をまき散らしながら、
〈イグノビリウム〉の残党兵は暴れ回る。

こいつを、ディートリヒとエルナのところへ
行かせるわけにはいかないにゃ!


 確かなことは、ただひとつ――
 あの男を憎み、恨み、呪っている人間は、
 あたしたちだけではないということだ!!


 だからね。みんな、期待しているんですよ。
 ベルク元帥が導かれる国――
 平和に満ちた、新たなるドルキマスに!



 ディートリヒは、決して平和の使者ではない。

 彼の行く道は、
 多くの人間の犠牲の上に築かれた道だ。

 だが――今、この戦いが、荒れ果てた
 ドルキマスの民に光明をもたらすことも事実。

 そして、その光は、来るべき
〈イグノビリウム〉との戦いにおいて、
 確かな希望となる。

 だから。

 君は新たな力―ドを取り出し、魔力を込める。

 この世界、この時代にいるべきでない者同士、
 決着をつけるために――



BOSS イグノビリウム


***


イグノビリウム
ウアアアアアアアアッ!!

 幾多の魔法を浴び、ほとんど壊れかけの状態で、
 それでもなお〈イグノピリウム〉は向かってくる。

 君は気力を振り絞り、
 さらなる魔法を放つべく精神を集中する。


 ルヴァル 
見事追いつめた――魔法使い!

 白い閃光が駆け抜けた。

 天より降り注ぐ光そのもの。
 清らかなる光の刃が、
 ぼろぼろの〈イグノピリウム〉を断つ。

イグノビリウム
が……ア……。

 ついに〈イグノビリウム〉は倒れ、
 完全に消滅した。

 ルヴァル 
すまない。救援が遅くなった。

ひょっとして、
ルヴァルの言ってた
“気になること”って……。

 ルヴァル 
戦場に〈イグノビリウム〉の気配を感じた。
蘇るには早すぎるが、もしやと思ってな。

その気配が要塞に向かったので、追ってきたのだ。

 ウィズ  
私たちと同じ時代から来た奴だったみたいにゃ。
でも、やっつけたから、これで安心にゃ!

 ルヴァル 
いや。
感じる。この奥に、もう1体いる。


 そう告げるルヴァルの横顔に、悔恨が浮かぶ。

 ルヴァル 
あの船で感じた“よくない気”の正体は、
これだったか……。



 ***




 ――夜は、いつも暗く濁っていた。

 心の奥まで切り劃むような冷たい風が、
 いつも、鉄サビめいた血のにおいを運んでくる。

 屋根のない廃墟。
 積み重ねられた瓦礫。
 “血や異臭”までも漂う場所。

 ドルキマス国内にありながら、
 国から見捨てられた――そんな場所。

 血生臭さを吸い込み、
 その日を生きながらえることだけを考える。

 およそ人と呼べる生活は見込めず、
 何より、
 人であるものからは虐げられる日々。

 そんな場所に追いやられながら、
 自分を育ててくれた母が、
 今わの際に残した言葉は――

 エルナ  
う……。

 自分自身のうめき声が、
 記憶のなかの澱んだ夜から意識を引き戻した。

 激痛。血臭。視界がぼやけ、焦点が合わない。
 わたしはどうしてここにいるんだっけ――?

 「そうか。“目”か!」

 男の声と銃声が、エルナの頭を強烈に叩いた。

(そうだ、わたしは……!)

 ハッとして、半ば閉じかけていたまぶたを開く。


 見えた。

 屋根のない通路。
 積み重ねられた瓦磯。
 血と異臭にまみれた女の後ろ姿――

 女が吼える。その指が誰かの首にかかった。
 持ち上げられる――首をつかまれてなお、
 揺るぎない瞳――ディートリヒ・ベルク元帥!


 エルナ  
元、帥……閣下っ……!


 うつぶせから、身体を起こそうとする。

 だめだ。動かない。上に何かが乗っている。

 血にまみれた鉄の瓦磯。

 結局おまえは廃墟と瓦礫と血生臭さから
 逃れられないのだと、言われているようだった。

(だっ、たら……!)

 腕を伸ばす。何かに触れた。
 冷たい鉄の感触。銃。
 震える指で確かにつかみ、引き寄せる。

(見せてやる……わたしが培ったもの!
あの夜のなかで磨いてきたものを!)


 “あ い つ を 殺 し て”

 母は言った。泣きながらの遺言だった。
 独りで生きていけるようになるまで育ててくれた 
 母の願いだから、叶えるのは当然だと思った。

 復讐。
 そのために腕を磨いた。銃の撃ち方。殺しの技。
 ただひとりの男に報いをくれてやるためだけに。

 だが、復讐のために入った軍で、見てしまった。

 ディートリヒ・ベルクという男を。
 彼が軍を導き、勝利を重ねるさまを。
 それが国を変えていく光景を。

 茫然となった心に、願いが生まれた。

 母から託された願いではなく、自ら抱いた願いが。

 “この人に、変えてほしい。”

 “澱んだ国を。あの廃墟と瓦磯を。
 もう誰も、あの夜の寒さに
 震えることなどないように。”


 エルナ  
く、う――

 “目”――ディートリヒはそう言った。
 彼があえてロにしたからには意味がある。
 目を狙え。きっと自分にそう教えるために。

 片方はディートリヒが潰した。
 もう片方。右目。それさえ撃てば。
 だが、後ろからでは――

 エルナ  
元、帥っ……閣下ぁぁああーっ!

 エルナの叫びに、彼は応えた。

ディートリヒ
………ッ!!

 首をつかまれ、
 じわじわと締めあげられている状態で、
 カッと左目を見開き――

 ザビーネの横っ面に、渾身の右拳を叩き込んだ。

 ザビーネ 
――!?

 不意打ち。打たれたザビーネの顔が、衝撃で
 ぐるりと右を向く。

 エルナの位置から、右目が見えるように。

 エルナ  
くっ――

 だが、エルナの目はかすみ始めていた。

 視界が揺らぎ、銃口が震える。
 狙いが定まらない――

 エルナ  
(母さん……)

(お願い――助けて、母さん!)

(あの人は――
あの夜を終わらせてくれる人なの!!)


 視界が開けた。

 ふっと身体が軽くなり、ぴたりと銃口が定まった。

 その感覚があった瞬間、撃っていた。

 すべてが銃口から放たれたような心地だった。

 過去も、願いも、魂も――
 自分という自分のすべてが弾丸となって。

 こちらを向いた女の右目を撃ち抜き、
 頭蓋を貫通して、
 ディートリヒの顔の真横を通り過ぎていった。


 ザビーネ 
が……。

 女が、くたりと倒れ伏す。

 それを見届ける力すら、エルナにはなかった。

 それでも、彼女は微笑んでいた。

 エルナ  
ありがとう……母さん……。


 ***


 〈イグノビリウム〉を倒し、
 ディートリヒの後を追った君たちは、見た。

 破壊の爪痕にまみれた通路の奥――
 瓦磯の下に横たわるエルナと、
 その傍らにしゃがみこむディートリヒの姿を。



 エルナ  
ごめんなさい……閣下……。

わたし……実は、閣下のこと……
利用、しようと……思って……。

 音を喰われ尽くしたかのごとく
 静まり返った通路に、
 かぼそい声が響いていた。

 エルナ  
王を……殺してほしかった……。
わたしと母さんを捨てたあいつを……。

でも……あなたを見て、思ったんです。
あなたなら……この国を変えてくれる……
あの夜を……終わらせてくれるって……。

お願いします……閣下……
あの夜のなかで……死んでいった……
みんなの、ために……。


 君は走った。
 癒しの力を秘めたカードに魔力を込めながら。

 だが、彼女のもとに辿り着いたとき。

 もう、声は聞こえなくなっていた。


ディートリヒ
……私たちだけでは、なかったということか。

 ディートリヒが、ぽつりとつぶやく。

 感情ひとつ、読み取ることはできなかった。
 声からも。瞳からも。
 その表情からすら。

 ディートリヒは立ち上がり、歩き出す。


ディートリヒ
ゆくぞ。王はこの先だ。


 なにひとつ、顧みることとてなく。


最終話 昏き英雄



 要塞の奥。
 固く閉ざされた扉の向こうに、彼はいた。


ディートリヒ
ご無沙汰しております。
グスタフ・ハイリヒベルク国王陛下。

 その老人は、皺深い顔に恐怖の色を乗せ、
 喉が引きつったような声を上げる。


 グスタフ 
ディートリヒ・ベルク……
なぜ、貴様が……。

いや……やはりそうか。

貴様の目的は、このドルキマスなどではない。
わしの命――このわしへの復讐か!

ディートリヒ
……ほう。

 やや意外そうに、ディートリヒは目を細める。

ディートリヒ
お察しのとおりです、陛下。
意外と回る頭をお持ちだ。

 グスタフ 
元帥となった貴様に会ったときから、
そうではないかと思ってはいた……。

そんな冷たい目をする人間が、
この世にふたりといるはずはないと……。

 顔中に、どっと脂汗を流しながら、王は問う。

 グスタフ 
わしが憎いか……ディートリヒ……。

ディートリヒ
もはや憎い憎くないの問題ではない。

あなたのような無能な人間は、
王という地位にあってはならない。

 グスタフ 
王なきあと……貴様は、国をなんとする!

ディートリヒ
知ったことではありませんな。

 ディートリヒは、冷然と笑った。

 それは――
 君が今まで見てきたディートリヒの笑みのうち、
 最も冷たく、最も酷薄な微笑だった。


ディートリヒ
国も。軍も。
今このときのために使い捨てるべきものでしか
なかったのですから――

 グスタフ 
そ……その目だ。
その目だ、ティートリヒッ!!

わしはその目を恐れていた。
幼いおまえの目に宿る、冷たすぎる理性の光を!

だから排した! すべてはおまえが原因だ!
おまえの母も、おまえさえおらねば
巻き込まれることはなかったのだ!!

 グスタフの糾弾を、ディートリヒは鼻で笑う。

ディートリヒ
今さら――そんな言葉で私が止まるとでも?

それに、あなたが捨てたのは我々だけではない。
妾に子を産ませてはもろともに捨てる――
そんなことを繰り返してきたのでしょう。

 グスタフ 
き、貴様にっ、貴様にわしの気持ちがわかるかっ。

こんな戦乱の世、こんな小さな国の王家に生まれ、
く、国を守るために、わしがどれだけ重圧に
耐えてきたか、わからんのかっ。


 ウィズ  
(“わかるか”と聞いたり。
“わからんのか”と言ったり、忙しいにゃ)

(話からするとディートリヒの父親みたいだけど、
とてもそうは思えないにゃ)


 ディートリヒのような智謀もなく、度胸もなく、
 生まれを選べず小国の王になるしかなかった。

 その辛さ、その苦しみは、確かにあるだろう。

 だが――だからといって、
 人の運命を狂わせることが
 許されるわけでもない……。



ディートリヒ
では、陛下。

 ディートリヒが、すっと銃を持ち上げた。

 グスタフ 
ひっ―ー

 銃口を突きつけられたグスタフは、
 腰を抜かして後ずさる。

 グスタフ 
や――やめろ、やめろディートリヒ!
王位を、王位をくれてやるっ。いや、
おまえこそ王になるべきだ、そうではないか!

ディートリヒ
あいにく、興味がございません。

 ディートリヒの指が、引き金にかかる。

 その銃を、君は横からそっと押さえた。

ディートリヒ
……なんのつもりだ?

 君は首を横に振る。

 “彼を王座から下ろす”のが目的なら、
 もう銃弾はいらない、と。

 この国は変えられる。
 あえて王の命を奪わなくとも。
 ディートリヒ自身がその状況を組み上げたのだ。


ディートリヒ
…………。

 ディートリヒは、じっと君を見つめた。

 その瞳に宿る色は、やはり君には読み取れない。

 やがて。

 ディートリヒは小さく意を吐き、銃を下げた。

ディートリヒ
……かもしれんな。
思った以上に小物であった。
もう少しくらい気骨があるかと思っていたが。

それに――そうだな。
“彼女”も、
この男の死を望んで逝ったわけではなかった。

 ディートリヒは、くるりときびすを返した。


ディートリヒ
これほど小さな男にこだわる理由は、もはやない。
ゆくぞ、魔法使い。
戦争の終わりを告げねばならない。



 そうして、ゆっくりと歩き出す。

 君は、ほっと胸をなでおろし、
 ディートリヒの後に続いた。

 銃声。


 ウィズ  
にゃっ――



 君は硬直し、前をゆく男の背を見つめる。

 彼は振り向きすらしていなかった。
 ただ、銃を持つ右手をさらりと後ろに差し出し、
 当たり前のように引き金を引いていた。 

 振り返る君の視線の先で、
 胸を撃ち抜かれたグスタフ王が、
 ずるりと倒れ伏してゆく。

 なぜ――とつぶやく君に。



ディートリヒ
なんだ、貴君。
まさか――

 ディートリヒはようやく振り向き、
 笑いながら、言った。



ディートリヒ
私の言うことを、信じたのか?




***


 ――その後。

 要塞を占拠したディートリヒが、敵味方全軍に
 ドルキマス王の崩御を伝え、
 降伏を勧告した。

 これに対し、
 敵軍を率いていた第1王子アルトゥールは、
 速やかに降伏を宣言。 

 ドルキマス王国史上初の謀反が、
 ついに達成された瞬間であった――


 ***



 ヴィラム 
おいおい、マジかよ。
なんで要塞の内部から元帥殿が降伏勧告してんだ。

フェリクス 
文字通り、キングをチェックメイト……
にしたって、御自ら要塞に乗り込むなんざ、
正気か、おい?


 クラリア 
ふん。新参者は知らないだろうが、
ベルク元帥は自ら前線に立たれるお方だ。
そして、だからこそつかめる勝利がある!


 ***


 ディートリヒは、
 要塞の前まで降下してきた旗艦に迎えられ、
 ブリッジヘと上がった。



 ローヴィ 
……元帥閣下。

ディートリヒ
留守を守ってくれたようだな、ローヴィ。
よくやった。

 ローヴィ 
はっ……。

ディートリヒ
ところで――

 ディートリヒは、ローヴィの隣を通り過ぎざま、
 ぼそりと小さくささやいた。

ディートリヒ
殿下にお目通りを願いたい。
場を設けてくれるか、ローヴィ。

 ローヴィ 
……!! 閣下、あなたは――

 愕然と凍るローヴィに、
 ディートリヒは、ただ薄く笑うのみだった。



***


 放棄された鉄柵要塞の一室で、
 彼らは、この謀反の勃発以来、
 初めて顔を合わせていた。


ディートリヒ
会談に応じていただき、ありがとうございます。
アルトゥール殿下。

アルトゥール
懇勲無礼な態度はやめろ、ディートリヒ。
私はすでに王子ですらない。
王たる父は貴様に討たれたのだからな。

ディートリヒ
ならば、王位を継承なされませ。

 あっさりとした物言いに、
 アルトゥールもローヴィも息を呑んだ。

アルトゥール
……私を傀儡の王とするつもりか?

ディートリヒ
私は無能な王を排除するべく兵を挙げたのです。
その後の統治を望むものではない。

 その言葉に、アルトゥールは、
 あっけに取られて固まった。

 すべての前提が狂っていた――
 今更ながら、その事実に気づかされていた。

アルトゥール
ディートリヒ……我が弟よ。

 ローヴィ 
――!

 事情を知らなかったローヴィが瞠目する。

 構わず、アルトゥールは続けた。

アルトゥール
まさかとは思ったが……
おまえは本当に、父を討つことだけが――
復讐だけが目的だったというのか。

小型艇を使う策くらい見抜いていたのだろう。
にもかかわらず無策で艦隊を進ませたのは――

艦隊それ自体を囮として、
自らの手で父を討ちたかったからか!
ディートリヒ!

ディートリヒ
私は最適な手段を行使したにすぎません。

そして、勝った。それだけのことです。

それに、殿下。
それをおっしゃるなら、私の方こそ、
殿下のなさったことに疑間があったのですが。

アルトゥール
なんだと?

ディートリヒ
なぜ、降伏勧告を受け入れたのです。

 どこかつまらなそうに、ディートリヒは言った。

 アルトゥールは言われている意味かわからず、
 目を瞬かせる。

アルトゥール
なぜ――とはなんだ。おまえが王を討ったのだぞ。

ディートリヒ
それだけです。殿下の優勢に変わりはなかった。
先王の崩御など気にせず、
我が艦隊を殲滅すればよろしかったのです。

アルトゥール
は――旗印を失った状態で抵抗を
続けたところで、泥沼の消耗戦にしかならぬ。

ディートリヒ
ですか、勝ち目はあった。
それなのにどうしてあっさり降伏したのか――
実は、それがずっと疑問だったのです。

 アルトゥールは押し黙った。

 暗に、“諦めの良すぎるつまらぬ男”と
 擲楡されているような気がした。

 “王座に就いたところで安心するな” 
 暗愚とわかればすぐにでも討つ。――
 そう言われたような気もしていた。

アルトゥール
(だが……無能な王を討つ、というのは、
父に復讐するための口実ではなかったのか?)

 ディートリヒに権力への執着がないことは明白だ。

 そして、積年の悲願であったろう復讐も、
 見事、その手でやり遂げている。

 なら、今のディートリヒには何がある?
 どんな願いが、
 望みが残っているというのだ……?

アルトゥール
……ディートリヒ。

 疑問に駆られ、アルトゥールは思わず問うていた。

アルトゥール
復讐を果たし、私を王位につけて――
おまえはこれから、何を望む?

 ディートリヒは、かすかな笑みを浮かべ。

 当たり前のように、答えた。


ディートリヒ
――戦争を。

それ以外に、何も望むものはありません。



 ***


 その後、種々の交渉を済ませ、
 ディートリヒはローヴィとともに部屋を辞した。


 何も言わず、通路を歩き始める。

 その背に、ローヴィは声をかけた。 


 ローヴィ 
閣下。

私が第1王子の手の者だとわかっていて……
どうして、お側に置かれたのです。

ディートリヒ
言わねばわからぬような者に、
副官の任を与えたつもりはない。

 ローヴィ 
私は――私にとっては、ドルキマスがすべてです。
この国の繁栄……この国の存続!
それを守り、導くことが、私の使命です!

お答えください、元帥閣下。

あなたは――
この国をどうされるおつもりなのですか!?

ディートリヒ
国を守りたいのなら、私に敵を示せ。
ローヴィ。

 ディートリヒは振り返らない。

ディートリヒ
――私を利用してみせろ。




 ***





ディートリヒ
待たせたな、魔法使い。
では、準備をしようか。

次なる戦争――その、準備を。




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