空戦のドルキマスⅡStory・前編 【黒猫のウィズ】

 
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白猫ストーリー
黒猫ストーリー


今、復讐を遂げるために――



プロローグ



 突如として大陸を襲った謎の敵、
 〈イグノビリウム〉。

 ドルキマス軍とともに、その王を倒しても、
 〈イグノビリウム〉の軍勢が
 消えることはなかった。
 君は魔道艇を操り、
 〈イグノビリウム〉の残党と戦い続けた。

 来る日も来る日も……。

 はるかなる大空を舞い、敵影を見つけては戦った。

 時間感覚はとうにマヒしきっていた。
 この世界に来てどれくらい経つだのかすら、
 いつしかわからなくなっていた。
 そして今日も……また明日も……
 終わることなどないかのように、延々と……。

 延々と……延々と――




 ウィズ  
キミ! 起きるにゃ!

 ウィズの声で、君はハッと目を覚ました。

 敵か――ほとんど反射的に魔道艇に
 魔力を込めようとして、
 ここがブリッジではないことに気づく。
 もはや耳慣れた、重々しいエンジン音。
 微細に揺れる鋼鉄の床。

 魔道艇の廊下で眠ってしまったのか――
 そう思った君だったが。



 ウィズ  
魔道艇じゃないにゃ。
たぶん、ドルキマスの戦艦だにゃ。

 君は首をかしげた。
 ドルキマスの戦艦に移った覚えはない。

 ウィズ  
私もにゃ。気がついたらここにいたにゃ。

とにかく人を探すにゃ。
誰かに状況を聞かなきゃどうしようもないにゃ。

 そうだね、とうなずいて、
 君はウィズとともに歩き始めた。

 ウィズ  
思えば、この異界に来てから、
戦いっ放しだにゃ。

そろそろ地上に降りて、
ゆっくり休みたいにゃ……。

 ウィズの言葉には、君も同感だった。

 でも、戦いを止めるわけにはいかない。
 この異界の人々を支配下に置こうとする
 〈イグノビリウム〉を放っておくわけには……。




 ローヴィ 
……!?

 考え事をしていた君は、
 曲がり角で、ばったりローヴィに出くわした。

 ローヴィは、かなり驚いた顔をしている。

 いつも冷静沈着で厳格な表情を崩さない彼女にも、
 そういうことはあるんだな、と、
 君はぼんやり思った。


 ウィズ  
ローヴィにゃ。ってことは、
ここはディートリヒの船にゃ?

 ローヴィ 
しゃべる……猫!?

 ウィズ  
にゃ?

 狼狽から一転、ローヴィは、
 にわかに君へと銃口を向けた。


 ウィズ  
にゃにゃ!?ローヴィ、どうしちゃったにゃ!?

 ローヴィ 
動かないでいただきます。
あなたがたが何者であれ、少なくとも
この船への侵入者であることに違いはない。

 ウィズ  
な、なにを言っているにゃ!?

 君は唖然となった。
 ローヴィはいったいどうしてしまったのか。
 まさか〈イグノビリウム〉に何かをされたのか? 

 君たちが混乱していると、
 廊下の奥から、規則正しい革靴の音が響いた。

 揺るぎなく刻まれる力強い響き――
 聞くものに、頼もしさではなく
 得体のしれない戦慄をもたらす足音。

 その足音の主が誰か、考えるまでもない。




ディートリヒ
侵入者か。

 ドルキマス軍元帥――
 ディートリヒ・ベルク。

 彼はいつもと変わらない、
 冷徹と酷薄の瞳で君たちを見つめる。


ディートリヒ
何者かは知らないが、
変わった出で立ちをしている。

 ウィズ  
にゃにゃにゃ!?
ディートリヒもどうしちゃったにゃ!?

ディートリヒ
ほう。人語を解する猫とはな。
世界の広さを感じさせてくれる。

 ローヴィ 
捕縛いたしますか、閣下。

ディートリヒ
丁重にな。




 騒ぎを聞きつけたのか、
 他のドルキマス兵も集まってきた。

 無数の銃口が、
 四方から君に狙いを定める。

 ウィズ  
ま、待つにゃ!
本当に私たちのことがわからないにゃ?
いっしょに〈イグノビリウム〉と戦ったにゃ!

 ウィズの訴えに、ディートリヒは眉をひそめー―

 決定的な一言を、口にした。

ディートリヒ
〈イグノビリウム〉? 聞かない名だな。



story1 捕縛



ディートリヒ
魔法使い、か……。

 ディートリヒ軍旗艦内――独房。

 銃を突きつけられた君とウィズは、
 独房に入れられ、
 ディートリヒとローヴィから尋問を受けていた。



 君たちが別の世界からここに来たこと。
 ディートリヒらと出会い、魔道艇を託されたこと。
 ともに〈イグノビリウム〉と戦ったこと。

 そのすべてを説明したが、
 ふたりとも心当たりはないようだった。


ディートリヒ
うろんな話だ。

が、興味はあるな。
ドルキマス王の手の者にしては、
貴君の振る舞いは純朴に過ぎる。

 ウィズ  
ドルキマス王?

 君とウィズは顔を見合わせた。

 ウィズ  
確か……ディートリヒが謀反を起こして、
失脚させたんだったにゃ。
その王に狙われてるにゃ?

 ローヴィ 
なんですって……?

 愕然となるローヴィ。

 対照的に、ディートリヒは愉快げに笑った。


ディートリヒ
その話がまことであるなら、
まったくもって面白い。

我々は今まさに、
その“謀反”を行っている最中なのだからな。

 ウィズ  
にゃ!?

 まさか――と
 再び顔を見合わせる君たちに、
 ローヴィが補足を入れる。


 ローヴィ 
1週間前のことです。
元帥閣下は、ドルキマス王打倒の命を
全軍に発令されました。

今は、王都に進軍している途中です。

ディートリヒ
つまり、貴君は未来から来たということになる。

だからこそ、信じるわけにはいかんな。

 ディートリヒの表情が、わずかに変わる。

 〈イグノビリウム〉との戦い――
 特に、その〈王〉との決戦で目にした表情だった。

ディートリヒ
戦争の結末を知っているなどー―
興ざめもよいところだ。


 本当につまらなそうに、彼は言った。

 ***

 ドルキマス国境付近――

 その上空に、10隻の軍艦が集まっている。

 中央に位置する船のブリッジで、
 ヴィラム・オルゲン大尉は大きく嘆息した。



 ヴィラム 
ベルク元帥率いるドルキマス軍主力艦隊を相手に、
お貴族どもが逃げるまでの時間稼ぎをやれとはね。

はあ~あ……まったく。
貧乏クジもいいところだ。
“極貧クジ”って言ってもいいくらいだぜ。



 ???  
それでも、
雇い主のご意向とあっちゃあ逆らえんのが、
傭兵家業の悲しさってヤツだわな。

 ヴィラム 
俺たち国境番備兵だって、似たようなもんさ。
ケツまくって逃げ出したいってのが、
本音なんだがね。

とはいえ、な……いくらいけ好かない貴族でも、
その奥さんやら坊ちゃんやらご令嬢やらまで、
まとめてひどい目に遭うのを見るのは忍びない。

 ???  
なにせ軍部の課反だもんな。
これまで利権を貴ってた貴族連中に、
どうツケを払わせるか、わかったもんじゃない。

だから、一家が安全なところまで逃げられるよう、
身体張って時間を稼ごうってんだろ。
泣かせるね、ヴィラムの旦那。


 ニヤリと笑う青年に、
 ヴィラムは意味深な視線を送る。


 ヴィラム 
それより、どうなさいますんですかね、
フェリクス・シェーファー偏兵隊長殿。
まさか正面からぶつかる気じゃないだろ?

フェリクス 
ふむ……。


 フェリクスは、ブリッジの向こうに目を凝らした。

 分厚い雲の層が目の前の空にできている。

 そのせいで見えないが、哨戒艇の報告によれば、
 ディートリヒの大艦隊が接近中であるという。


フェリクス 
みんなそう考えるよな……。

 つぶやいて、フェリクスはヴィラムを振り返った。

フェリクス 
決めた。

 ヴィラム 
よーし、じゃあ行こうそれで行こう。
で、どんな作戦よ?

 フェリクスは、真顔で言った。

フェリクス 
作戦名“そのまさか”。

 ヴィラム 
…………。え。


 ***


 国境付近に、豊かな雲の層ができている。

 ディートリヒ軍は、
 その雲の向こう側に10隻の軍艦が
 控えていることを探知していた。




 ローヴィ 
ザイデル辺境伯庵下、国境警備隊と思われます。

動くそぶりがないところを見ると、
雲を楯に時間稼ぎをするつもりでしょうか。

ディートリヒ
……いや。

あれは、“来る”な。


 ディートリヒがそう□にした直後。

 雲を突き抜けて飛来した砲弾が、
 先鋒を務める1隻にぶち当たった。
 正面、斜め上方から、砲弾が降り注ぐ。

 そのほとんどは虚空を突き抜けるのみだったが、
 一部は先鋒艦隊の装甲に命中し、
 派手な爆炎の華を咲かせる。


 先鋒艦隊を仕切るクラリア・シャルルリエ少将は、
 周囲の動揺を肌で感じるや、
 即座に無縁で叱咤を飛ばした。

 クラリア 
うろたえるな!
やけっぱちで撃ってきているだけだ!
こちらの数と力を思い知らせてやれ!





 ローヴィ 
まさか、たった10隻で、
我が軍と戦おうというのでしょうか?

ディートリヒ
いや。ザイデル辺境伯が逃げるまでの、
時間稼ぎを命じられているのだろう。

風上かつ高みに陣取っての攻撃だ。
あちらの砲は届くが、こちらは届かない。
そういう状況を作り、混乱を招こうとしている。

 ローヴィ 
なら、高度を上げつつ、
雲を迂回して攻めれば――。

ディートリヒ
その間に雲を挟んで下に逃げ散る算段だな。
それを容易とするため、
まずこちらの混乱を誘った。

戦うつもりではない。逃げるつもりだ。
だが、勇敢な逃げ方だな。

 ディートリヒは笑った。

ディートリヒ
前に出るぞ、ローヴィ。
指揮官の顔を見たくなった。

 ローヴィ 
前に、とは――

 前方に広がる雲の層を
 面白そうに見つめ、ディートリヒは言う。

ディートリヒ
前は、前だ。



 ***



 ウィズ  
魔法で扉を破るのは簡単だけど、
破ったところで話を聞いてもらえなかったら
どうしようもないにゃ。

 独房のなかで、ウィズがため息を吐く。

 外では戦いが行われているようだ。
 振動から、戦艦の速度が上がったのを感じる。

 それにしても、いったいどうして
 時間を遡ってしまったのだろう?

 ウィズ  
キミ、覚えてるかにゃ?

〈イグノビリウム〉と戦っているうちに、
だんだん周囲の空間がねじれていったにゃ。

 確かに。

 長く続く戦いのなかで、
 まるで彼らの持つ闇に呑み込まれるように、
 魔道艇周辺の空間が変質していった。

 最後には、昼のはずなのに、
 夜のような暗闇のなかで戦っていた。

 ウィズ  
ひょっとしたら、
お互いの魔力がぶつかりすぎて、
時空を歪ませてしまったのかもしれないにゃ。

〈イグノビリウム〉も魔道艇も、
この世界の古代魔法文明の産物にや。
何が起こってもおかしくないにゃ。

 だとしたら、と君は言う。

 この世界には
 まだ〈イグノビリウム〉が来ていない。
 聞けば、〈イグノビリウム〉は襲来後、
 瞬く間に大陸を席巻していったという。

 だが、最初から〈イグノビリウム〉の到来が
 わかっていて、対処手段がそろっていたなら、
 そんな悲劇は起こらなかったはずだ。

 君がその脅威をこの世界の人々に訴えれば、
 今から対〈イグノビリウム〉の準備を
 整えることができるかもしれない………

 ウィズ  
そうだにゃ。でも――

問題は、信じてくれるかどうかにゃ。


 ***




 レーダーの表示を見て、ヴィラムはうめいた。

 ヴィラム 
奴ら、雲を突っ切ってきやがる!

フェリクス 
敵先鋒は“戦争狂”のシャルルリエだったか?
さすがに思いきりがいいというか、
命が惜しくないのかね、まったく……!

まあいい、時間はじゅうぶんに稼いだ!
あとは雲の下に回って逃げ――



 太く青白い輝きが、雲を割って伸びた。

 迫り来る光の柱――としか見えないものが、
 フェリクスたちの船の足元を突き抜け、
 空を焼き焦がしていく。

 “そちらに逃げてくれるなよ”、と笑うように。

フェリクス 
――な。



 そして、その光を追いかけるように、
 1隻の軍艦が雲を突き破って現れた。

 ヴィラム 
あれは――

フェリクス 
ディートリヒ・ベルクの旗艦じゃねェか!
御大将自ら突っ込んでくるなんざ、正気か!?

 まったく正気とは思えない速度で猛然と空を走る
 ディートリヒの船が、フェリクスの船の真横を
 鮮やかにすり抜けていく。

 そのとき、フェリクスは、はっきりと見た。

 すれ違う軍艦――
 そのブリッジからこちらを見て笑う、
 ひとりの男の姿を。




フェリクス 
…………。

 長い嘆息とともに、フェリクスは
 座席に身を沈めた。

 ヴィラム 
……どうするよ、傭兵隊長殿。

フェリクス 
降参だ。白旗挙げて待機。

 ヴィラム 
あっさり決めるねえ。

フェリクス 
相手が混乱してくれないってんじゃ、
逃げようにも逃げられねェ。
“逃げるな”とも“言われ”ちまったしな。

 げんなりとした表情で、彼はぼやいた。

フェリクス 
あえてツラを見せたからには、
情けをかける用意かある――って
ことだとは思いたいがね……。



 ***



 ドルキマス王国第1王子、
 アルトゥール・ハイリヒベルクは、
 告げられた報告に眉を動かした。

アルトゥール
ディートリヒが国内に入ったか。

 ???  
順調に進軍しておるようです。
ま、辺境伯に止められるはずもありませんからな。

 ???  
しかし、殿下。ディートリヒはなぜ、
まだ国外にいる段階で
謀反を宣言したのでしょうな。

 ディートリヒ率いる主力艦隊は、
 周辺国の制圧にあたっていた。

 謀反を起こすなら、任務を終えて
 王都に帰投してからの方が、
 圧倒的にやりやすかったはずだ。

アルトゥール
正直、解せぬ。だか、あの男のやることだ。
なんの意昧もないわけはない。
父への心理的打撃を狙ったのかもしれんな。

父は小物だ。
ディートリヒが命を狙って進軍してくるとなれば、
最悪、戦わずして降伏することもありうる。

 ???  
陛下でなくても、そうしたくなるでしょう。
国内の船をかき集めたところで、
ディートリヒ軍には太刀打ちできませんからな。

アルトゥール
で、あろうな。

ユリウス。
例の件、速やかに実行に移せ。
もう時間がない。

 ユリウス 
あの娘にも動いてもらう必要がありそうですな。

アルトゥール
“アレ”か……。

 憂鬱な顔を見せるアルトゥールに、
 ユリウスは麗々と言う。

 ユリウス 
彼女としては、願ったりでしょう。

ずっと待っていたのですからな。
ディートリヒに復讐する機会をー―


story3 従兵エルナ



 ウィズ  
船の速度が落ちたにゃ。
戦いが終わったのかにゃ。

 そうかもしれない、とウィズと話していると、
 独房の外の廊下から、
 カラカラと何かを運ぶ音が聞こえてきた。

 ウィズ  
ごはんのにおいにゃ!

 すぐに独房の扉が開かれ、
 軍服をまとった少女がひとり、
 トレイを手にして入って来た。



 ???  
失礼します。
お食事をお持ちしました。

 ウィズ  
待ってましたにゃ!

 ???  
お待たせしちゃって、ごめんなさい。
本当はもっと早くお持ちしたかったんですけど、
先ほどまで交戦状態にあったものですから。

ビーフシチューです。
黒猫さんにはこちらのチキンフライを。

 ありがとう、と言って、
 君は食事の乗せられたトレイを受け取った。

 ウィズもチキンフライにかぶりついている。

 ウィズ  
にゃはは! まあまあの味にゃ!

 ???  
お□に合って良かったです。

 にっこり笑って、彼女は一礼する。

 エルナ  
わたし、ベルク元帥つきの従兵のエルナと
申します。今後もお食事をお持ちいたしますので、
よろしくお願いしますね。

 ウィズ  
ディートリヒの従兵……にゃ?

 エルナ  
はい。閣下のお食事やお着替えを準備するのが、
わたしの務めなんです。

 ディートリヒの
 身の回りの世話をする人がいる……。

 考えてみれば当たり前だが、
 なんだか不思議な気がした。

 ウィズ  
火薬を食べて生きてそうだしにゃ。

 エルナ  
あはは。たまに言われますね。
“元帥閣下が食事を摂っている光景が
まるで想像できない”って。

でも、閣下も人の子ですから。
そりゃあ必要ですよ、そういうことも。


 エルナは、朗らかに笑った。

 まるで軍人ではなく普通の町娘のような、
 素朴で明るい笑顔だ。

 ディートリヒの近くにいる人間としては、
 ちょっと意外なタイプかも、と君は思った。


 ウィズ  
ところで、私たちは
いつになったらここから出してもらえるにゃ?

 エルナ  
うーん、すみません。
そればっかりは、ベルク元帥次第ですので………

わたしからも申し添えておきますね。
おふたりとも感じのいい方で、
きっとスパイなんかじゃないと思いますよって。

 ウィズ  
助かるにゃ!

 君も、微笑みながら、
 ありがとう、とお礼を述べる。

 そうしてみると、
 なんだか笑ったのさえ久々に感じた。

 このところずっと、〈イグノビリウム〉との
 戦いに明け暮れていて、
 笑顔を浮かべることさえなくなっていた。

 こんなふうに微笑みなから、誰かと会話を交わす。

 そんな当たり前のことさえ、
 すごく懐かしいことのようだった。

 エルナ  
ところで、魔法使いさん、ウィズさん。

おふたりは、未来からいらっしゃったんですよね?

 ウィズ  
そうにゃ。
ディートリヒは信じてくれないけどにゃ。

 エルナ  
ふふ。わたしは信じますよ。
おふたりの話が本当だったら。
ドルキマス王を倒せるってことですもんね。

 ウィズ  
エルナは、
ディートリヒの謀反が
成功した方がいいって思ってるにゃ?

 エルナ  
もちろんです。

 エルナは真剣な顔でうなずいた。

 エルナ  
わたし、もともとはスラム育ちで……
ドルキマスの荒廃をずっと見てきたんです。

ドルキマスは小さな国で、
他国と戦争になったらまず勝ち目はない、って
言われていました。

幸い、小国だからこそ戦略上の価値も低くて、
まだ侵略の標的には
なってなかったんですけど――

それでもいつかは呑み込まれる。
王はそれを恐れて、国の防備を固めに走りました。

新しい要塞や戦艦を建造するため、
たくさんの人を無理に動員したり、
極端に税率を上げたり……。

その結果、
貧富の差が急速に拡大して……
国内の治安も極端に悪化してしまったんです。

 ウィズ  
外敵から国を守ろうとして、
国内が荒れる原因を作っちゃったんだにゃ。

 ウィズの言葉に、エルナはこくりとうなずく。

 エルナ  
そうなんです。
でも、それはもう過去の話なんですよ。

ついに他国の侵略が始まり、案の定。
ドルキマスは敗戦を重ねていって……
そんなとき、ベルク元帥が入軍されたんです。

そして、ベルク元帥はドルキマス軍の劣勢を覆し、
ついには侵略してきた国へ逆に侵攻して。
ドカンと制圧してしまったのです!

 ウィズ  
……とんでもない武勇伝にゃ。

 普通なら眉唾物だが、
 あのディートリヒならやりかねない……と、
 君も思わずうなずいていた。

 エルナ  
そこからはもう、連戦連勝の日々ですよ!
周辺諸国を次々に平らげ、
我がドルキマスは一気に豊かになりました。

 えへん、とエルナは我がことのように胸を張る。

 ウィズ  
国が豊かになったのなら、
どうして謀反なんか起こそうとするにゃ?

 エルナ  
それがですね……
ドルキマス王が、相も変わらず、
どんどん要塞とか増やしちゃうんですよ。

 ウィズ  
もうどこからも攻められてないのに……にゃ?

 エルナ  
ええ。まるで何かを怖がってるみたいに……。
おかげで、国にお金が入っても、
かなりの量がそっちに消えちゃうんです。

だから元帥閣下も、そんな奴は
いい加減どうにかしちまえ、とおっしゃって。

 実際は、
 もっとちゃんとした発令だったんだろうけど。
 意味的には、確かに彼の言いそうなことだ。

 エルナ  
このまま謀反が成功したら。
“王様のせい”で起こっていた
いろいろな問題が、一気に解決するんです。

そうしたら治安も回復するでしょうし、
要塞を建造する費用なんか、医療や教育に
ガンガン回せるようになると思うんです。

だからね。みんな、期待しているんですよ。
ベルク元帥が導かれる国――
平和に満ちた、新たなるドルキマスに!



story2 初級 国境を越えて


 降伏したフェリクスとヴィラムは、
 ディートリヒの船に招かれた。

 そこで待っていたのは、やはり、
 ブリッジ越しに顔を合わせた、あの男だった。



ディートリヒ
ドルキマス軍の人間ではないな。
ザイデル辺境伯が雇った私兵か。

フェリクス 
傭兵さ。
もっとも、雇い主の方が逃げちまったけどね。

 天下の“奸計大元帥”を前に、
 フェリクスは臆することなく肩をすくめてみせる。

ディートリヒ
ならば、我が軍が雇おう。
フェリクス・シェーファー傭兵隊長。

 ローヴィ 
こちらが契約書です。
ご確認を。

 ディートリヒの傍らに控えるローヴィから、
 きびきびと契約書を手渡され、
 フェリクスは大仰に顔をしかめた。

フェリクス 
ご用意のいいこって。
まるで決定事項みたいにおっしゃるね。

ディートリヒ
不服か?

フェリクス 
言ってみただけだよ。
天下の大元帥に雇っていただけるってんなら、
そりゃ文句はないさ……。

ディートリヒ
では、貴君には、シャルルリエ少将とともに
我が軍の先鋒を担ってもらう。



 ローヴィ 
オルゲン大尉。
貴官もシャルルリエ少将の船に配属となります。

 ヴィラム 
え、俺も?

 なんで自分まで連れてこられたのかわからない、
 という顔で所在なげにしていたヴィラムが、
 ぎょっと自分の顔を指差した。

ディートリヒ
“不死身のシャルルリエ”……
ブルーノの右腕であった貴官なら、
シャルルリエ少将を支えるに適格と見たが。

 ヴィラム 
また古い話を持ち出してくれますね……。

 ヴィラムは渋い顔をした。

 ヴィラム 
何が“不死身のシャルルリエ”ですか。
その異名がマジモンだったら、
あの方は今でも最前線でかなってますよ。

 わざとらしく、機械化義手を動かしてみせる。

 ローヴィ 
オルゲン大尉。これは命令です。
貴官に拒否する権利はありません。

 ヴィラム 
へいへいへーい。言ってみただけでーす。

 あからさまに嫌そうな顔でぼやくヴィラム。

 ローヴィはさすがに層をひそめたが、
 ディートリヒには気にした風もない。

ディートリヒ
通達は以上だ。
両名――私の期待に応えてくれたまえ。



story4 少将だ!!




 クラリア 
クラリア・シャルルリエ少将だ。

 その少女は、傲岸不遜に腕を組み、
 厳めしく名乗った。



 クラリア 
久しいな、オルゲン。
父の右腕と称された貴様が、
どうして国境くんだりでのんびりしていたのだ。

 ヴィラムは困り顔で頬をかく。

 ヴィラム 
右腕、右腕って……俺ぁただの整備兵ですよ。
あんまり買いかぶってもらっちゃ困るんですがね。

 クラリア 
買いかぶってなどいるものか。
貴様の話は父から聞いている。
その評価に見合う扱いをさせてもらうぞ。

 言うだけ言って、クラリアは、
 ヴィラムの隣に立つフェリクスを見やった。



 クラリア 
でー―
こっちが、あの“雲隠れ”をしようとした
傭兵とやらか。

あいさつが遅れた。
クラリア・シャルルリエ少将だ。

フェリクス 
…………。

 フェリクスは、
 これ以上ないというくらいの真顔を
 ヴィラムに向けた。

フェリクス 
ヴィラムの旦那。冗談だろ?
なんだこのちっこいのは。

 クラリア 
クラリア! シャルルリエ! 少将だ!

フェリクス 
少将て。

 がりがりと、フェリクスは頭をかいた。

フェリクス 
わけわかんねえなァ、ドルキマス軍ってのは……
元帥があんな若いかと思ったら、こんなちっこい
のが少将だ?人手不足が深刻なのか?

 ヴィラム 
あー、そいつは否定できんがね。

 クラリアが、ふんと鼻を鳴らす。

 クラリア 
あきれたな。
年齢を理由に相手を侮るのが傭兵の流儀か?

フェリクス 
いや、ほんとはこっちがそういうセリフを
吐く側なんだが。

しかし、こいつは……うん……予想外だわ……。

 ヴィラム 
そう言うな、フェリクス。
シャルルリエ少将は確かにちっこくてお若いがね、
実力は確かさ。

フェリクス 
あの元帥が先鋒に任じてるってんなら、
そうなんだろうけどな……。

 ひとしきり、唸ってから。

 フェリクスは、不意に鋭く目を細め、
 上体を折り曲げるようにして、
 少女の瞳をのぞきこみ――。

 ぞっとするほど底冷えする声で、問うた。


フェリクス 
楽しいかい、お嬢ちゃん。

 クラリア 
何がだ。

フェリクス 
何百人って人間が、あんたの命令ひとつで
空の塵と消えるのが……さ。

 クラリアは、なんだ、そんなことか、
 と言わんばかりに鼻を鳴らした。

 クラリア 
私が喜ぶのは相手の死ではない。
ドルキマス軍の勝利であり、元帥閣下の勝利だ。

敵兵どもが死のうが生きようが、
知ったことじゃない。

無論――金で雇われた戦争屋が、
敵を侮って無様に死のうともな。

 その返答に。

 フェリクスは、両手を挙げて降参を示した。

フェリクス 
悪かった。そうならんよう、
せいぜい肝に銘じとくよ。

 言いながら――思わず、内心で嘆息する。

(自分に酔ってるってんでもなけりゃ、
信仰や使命感に溺れてるってわけでもない。
本気で戦争やってるタマか)

(とんでもない連中に雇われちまったのかもなァ、
俺……)



story5 中級 復習と裏切りと


 国境を突破して数日――
 王都へ向かう空路の途上。

 クラリア艦の整傭兵に任じられたヴィラムは、
 分厚い書類を片手にブリッジに上がった。

 ヴィラム 
ちょいとうかがいたいんですがね、少将殿。

 クラリア 
我が船に何か問題でもあったか?

 ヴィラム 
問題ってんじゃないんですが――

この船、というかベルク元帥の軍じゃ、
レーダーで敵味方の識別かできる、って……
これ、マジなんすか?

 クラリア 
なんだ、そんなことか。
当然、“マジ”だ。

 クラリアは腕を組み、誇りの笑みを浮かべた。

 ヴィラム 
そりゃそうでしょうね。
もし敵味方が入り乱れるような状況になっても、
同士討ちを防げるわけですから。

 クラリア 
ベルク元帥の船に乗っている、
得体のしれない研究者が作ったものだが、
おかげで敵の制圧が楽になったぞ。

 言いつつ、ヴィラムは書類をめくる。
 件の“敵味方識別式装置”に関するものだ。

 ヴィラム 
応答波を出す特殊な機材をエンジンに設置して、
レーダーに“味方でさァ”と訴えるわけだ。

 クラリア 
そうらしいな。
詳しいことは知らんが。
“使える”のと“役に立つ”のは確かだ。

 うなずきながら、しかしヴィラムは、
 妙に引っかかるものを感じていた。

 (……けど、なんでエンジンにくっついてんだ?
 この構造なら、
 そこでなくてもよさそうなもんだが……)

 フェリクス 
 ”少将さんよ、気をつけな!”

 突然、フェリクスの船から通信が入った。

 クラリア 
なんだ、シェーファー。
敵は来ていないはずだぞ。

 フェリクス 
 “識別上は敵じゃあないがね……
 右翼の味方が旋回を始めた!
 ありゃあすぐにでも撃ってくるぜ!”

 クラリア 
なんだと!?

 クラリアは、あわててブリッジの窓に駆け寄った。

 視線の先――確かに、右翼の船が何隻も、
 旋回を始めている。

 この世界の通例として、
 船の正面を相手に向ける。というのは、
 警戒・敵対の姿勢を見せることに等しい。

 特殊な鉱石を利用した“光砲”を発射する
 最大威力の主砲が、
 船の正面に設置されているからだ。



 クラリア 
馬鹿な――いったいどうなっている!?

 フェリクス 
 “どうなってるも何もないでしょ、少将殿。
 こりゃ明確な裏切りですよ――って、
 うわ、もう主砲こっち向きそうじゃねえか!”

 “とにかくさっさと対応しろ!
 いつまでも敵さんに腹ァ向けてんじゃねェ!”






 空に、無数の砲火が瞬いている。

 ディートリヒ旗艦のブリッジからは、
 軍艦が混沌と入り乱れ、
 撃ち合うさまが見えていた。

 一目に、“混乱している”とわかる状態だ。




 ローヴィ 
閣下。
前線からの報告では、およそ半分が寝返って
攻撃を仕掛けてきているものと……!

ディートリヒ
フェイクだ。
それほどの数ではあるまい。

 席に座したまま、彼はそう切って捨てた。

ディートリヒ
敵味方の識別ができないことを利用し、
誤情報を流している者がいる。

 ローヴィ 
だとしても、一度空域を離脱すべきかと。
敵と味方の区別がつかない状況で
乱戦を続けては、消耗戦になります!

ディートリヒ
想像はつく。

造反の発生位置から見て、右翼の部隊だな。
2ヶ月前、本国から援軍として合流した。
それかそもそも“仕込み”だったというわけだ。

ディートリヒ
アーレント開発官を呼べ。

 ディートリヒが静かに告げると、



 ???  
とっくに来ておりますわ、元帥殿。

 笑みを含んだ艶やかな声とともに、
 ひとりの女性がブリッジに姿を現した。

 ローヴィ 
レベッカ・アーレント開発官……。

 女性は軽くローヴィに投げキッスを飛ばしてから、
 ティートリヒヘと微笑みかける。

 レベッカ 
アレがご入用なんでしょう?

ディートリヒ
ふふ――用意のいいことだ。

 レベッカ 
だって、せっかくの機会なんですもの。

 なまめかしい唇が、
 ぞっと鋭い三日月の形をなす。

 レベッカ 
使わずに戦争が終わったらどうしようかと
思ってましたわ。
うふふ――まったく寝返りサマサマね。


 ***




 ウィズ  
なんだかすごい騒ぎにゃ。
敵が来たのかにゃ。

 艦内があわただしくなっている。
 その気配を、君も察していた。

 ウィズ  
何もできることがないっていうのは、
落ち着かないにゃ。


 そうだね、と君はうなずく。

 魔道艇がない以上、
 軍艦同士の戦いで君にできることはない。

 それに、仮に魔道艇があったとしても、
 この戦いに参加する理由は――



 ???  
失礼する。

 考えていると、突如、独房の扉が開かれた。



 入ってきたのはドルキマス軍の兵である。
 他に誰もいないところを見ると、
 独房の見張りなのだろう。

 ウィズ  
ちょ、ちょっと待つにゃ。

 ウィズが声を上げると同時に、君も気づいた。



 この兵の顔には、見覚えがありすぎた。

 ウィズ  
ルヴァルにゃ!

 兵は、意外そうな顔をした。

 ルヴァル 
私のことを知っているか……
未来から来たという話、眉唾ではなさそうだ。

だが、今はその話をすべきときではない。
ついて来てもらえないだろうか。

 ウィズ  
どうしてにゃ?

 ルヴァル 
良くない気が立ち込めている。

気をつけろ、魔法使い。
この船は、戦場になる。

 ***



 クラリアたちは苦戦していた。

 なにしろ、相手に先手を打たれた形だ。

 どうにか隊列を整え、
 こちらの主砲を敵に向ける間に、
 幾度も敵艦の砲撃にさらされることになった。

 加えて、自軍が寝返ったのでは
 敵味方識別のしようもなく、
 さらには誤情報が流れて混乱が拡大してゆく。

 状況は泥沼の様相を呈していた。


 クラリア 
撃ってくる船が敵だ!
迎撃しつつ、どの船が寝返ったのかを確認し、
逐一無線で報告しろ!

 クラリアは持ち前の果断さで即応したが、
 明らかに委縮し、混乱した船が多い。

 どの船が突如裏切り、襲いかかってくるかも
 わからない――そんな疑心暗鬼が生まれ、
 ディートリヒ軍の動きを鈍らせている。



 クラリア 
くそっ、なんたる不始末だ!

 ヴィラム 
やれやれ、こいつは参った。
閣下を信用していない誰かが、
謀反に備えて先手を打っていたんですかね。

(しかし、すっきりしないな。
軍の一部が寝返っただけじゃ壊滅には至らない。
敵の増援があってしかるべきだが――)

 今のところ、その気配はない。

 そんな余力がない、というのが実情かもしれない。

 なにせこちらはドルキマス軍の主力艦隊だし、
 国内兵力の多くは国境警備に専念している。

 ヴィラム 
(とすると、こいつらにできることはー―
せいぜいこっちの数を減らすのと、
時間を稼ぐことくらいか……)

 だが、そんなことは寝返った船の連中にも
 わかっているはずだ。

 おそらくは王の息のかかった、忠誠心の高い
 連中だろうが――だからと言って、命を捨てて
 こんな作戦に従事するものだろうか?

 ヴィラム 
(時間稼ぎをしながら“何か”を待ってる……
となると、考えられることは――〉

 ヴィラムがそこまで思考を巡らせたとき。



 突如、前方から砲撃してきていた軍艦が、
 ぐらりとかしいだ。

 そのまま、みるみる高度を落としていく。

 ヴィラム 
は?

 その船だけではない。

 “こちらに主砲を向けている船”のすべてが、 
 悪酔いした飲んだくれよろしく、
 空中で態勢を崩している――

 ヴィラム 
なんだ?何か起こってんだ……?

 クラリア 
なんでもいい、好機ではないか!

 クラリアが、興奮気味に快哉を叫んだ。

 クラリア 
きっとベルク元帥が手を打たれたのだ!
裏切りの兆候など、
事前に見抜いていたに違いない!

 ヴィラム 
(違う……!
裏切りを察していたのではない!〉


 ***


 造反艦に不調あり――
 その報告を受けたローヴィは、戦慄の顔で、
 ディートリヒの方を振り向いていた。



ディートリヒ
速やかに掃討せよ。

 最初からすべてわかっていた――とでも
 言わんばかりの風情で、
 ディートリヒは薄い笑みさえ浮かべている。

 その笑みに、ローヴィはひとつの確信を抱いた。

 根拠はなにもない。しいて言うなら、
 “彼ならやりかねない”というだけだが――

 それでもローヴィにとっては確信だった。

 ローヴィ 
(この方はー―
自らが指揮する船のすべてに、
同じ細工を施しているのだ!)

(そして、“疑わしき船”すべてに手を下した!
この方は、味方の誰ひとり、
信じてなどいない!!)




 ***




 ルヴァル 
すでに知っているかもしれないが、
私はルヴァル・アウルム。
天の使い〈ファーブラ〉の者だ。

 早足に通路を進みながら、彼は名乗った。

 ウィズ  
知ってるにゃ。
いっしょに〈イグノビリウム〉と戦ったにゃ。
プルミエはいないのかにゃ?

 試すようなウィズの言葉に、
 ルヴァルは驚きの顔を向けた。

 ルヴァル 
人の子が知るはずもない名ばかりを言う。
未来から来たという話……
信じるしかなさそうだな。

 ルヴァルはどうしてこの船に乗っているの?
 と、君は尋ねた。

 ルヴァル 
〈イグノビリウム〉……
かつて魔法を使えた時代の人間たちが蘇る。
〈ファープラ〉に、そう予知した者がいたのだ。

詳細は不明だが、奴らが蘇るのだとしたら、
魔法を失った今の人間たちに勝ち目はない。
我ら〈ファーブラ〉が戦うにしても限界がある。

ゆえに彼らへの対抗戦力たりうる人間を探すべく、
下界へ調査に下りていた。

 ウィズ  
じゃあ、ディートリヒに目をつけているにゃ?

 ルヴァル 
そうだ。彼の優秀さは疑うべくもない。
いささか悪魔的に過ぎるがな………

ともあれ、その資質を見極めねばならない。
今は志願兵ルヴァルとして船に乗っている。
卿らにも口裏を合わせてもらえると助かる。


 それは構わない、と君は答えた。
 君も、いずれ来るであろう〈イグノビリウム〉の
 脅威を伝えたいところだったのだから。

 ウィズ  
でも、どうして私たちを独房から出したにゃ?

 ルヴァル 
言っただろう。良くない気が立ち込めていると。

嫌な予感がする。
何か起こるが予測もつかない。
だから念のため卿らにも――

 ???  
お待ちなさい!
あなた、この船の人間ではありませんね!



 突如、鋭い声が飛び、君はぎょっと身をすくめた。

 一瞬、見つかったか――と思ったが、
 その声は曲がり角の先から
 聞こえてきていた。

 ウィズ  
エルナの声にゃ!

 君たちは、急いで廊下を駆け抜け、
 角を曲がる。

 そこには、銃を構えたエルナと――
 その向こうに佇む数人の軍人たちの姿があった。



 女性軍人 
ええい――目ざとい奴め!

 その先頭に立つ女性が、
 忌々しげに舌打ちして武器を構える。

 ウィズ  
エルナを助けるにゃ!

 君はうなずき、懐から力―ドを取り出した。





 銃という武器は、魔道士の天敵だ。

 高い殺傷能力を持つ銃弾を一瞬で放つ。
 攻撃力では引けを取らないとはいえ、呪文詠唱と
 いう手間がある分、魔道士側が不利になる。

 昨日今日この世界に来た身ではない。
 銃の危険を理解していた君は、まず防御障壁を
 張って敵の銃撃を無効化し、攻撃魔法に移った。

 君の魔法を受け、軍人たちは次々に昏倒した。

 先頭の女性軍人だけは、
 打ち倒されながらも意識を保っていたが、
 戦う力が残っていないのは明らかだった。


 女性軍人 
くそっ……なんだ、この力は……!

 エルナ  
ふう……助かりました、魔法使いさん。
本当に魔法が使えるんですね!

 エルナが、ほっと胸を押さえている。
 ひとりで彼らに立ち向かおうとしていたのだ。
 あるいは死を覚悟していたのかもしれない。



 エルナ  
そちらの方は、確か志願兵の……。

 ルヴァル 
アウルムだ。独房の監視任務に当たっていたが、
鍵が破損し、扉が開いてしまったので、
一時的にこの者を別所に連行していた。

それで、この者たちは――?

 エルナは、いつになく厳しい面持ちで、
 倒れた女性軍人を見下ろす。

 エルナ  
少なくともこの船の人間ではありません。
そして、そんな人間が船にいるはずはありません。

ベルク元帥の暗殺を企てていた――そうですね?



 女性軍人 
あの男が何をしたか、知らぬわけではあるまい!

 女性軍人は、憎悪にまみれた咆哮を上げた。

 女性軍人 
行き場のない“ならず者”たちを集め、
棺桶同然の廃船に乗せて敵軍に突撃させる!
そんなことを繰り返してきた男だ!

確かにドルキマスは勝った。
だがそれは、
行き場のない者たちの命を使っての勝利だ!

民は喜んださ!
戦争に勝っただけでなく、
ならず者が滅って治安が良くなったとな!

だが、考えたことはないのか!?
そのならず者にも家族がいるということを!!

何が国のためだ!
そんなことのために命を使い捨てにして!
あたしの……あたしの弟だって!


 血を吐くようにまくしたてる。
 その瞳には、狂的な憎しみと、
 悲しいまでの怒りが燃えている。


 女性軍人 
ここにいるのはみな、ディートリヒ・ベルクに
恨みを持つ者だ……!

何を聞き出そうとしても無駄だぞ。
この船に手引きしたのが誰か、
あたしたち自身さえ知らないんだからな!

確かなことは、ただひとつ――
あの男を憎み、恨み、呪っている人間は、
あたしたちだけではないということだ!!


 糾弾の声が、殷々とこだまする。

 エルナもルヴァルも、何も言うことはなかった。

 ただじっと、女の叫びを聞いていた――


 ***




 ローヴィ 
造反艦、掃討完了いたしました……
今のところ、敵と思しき船はありません。

ディートリヒ
無能な王に打てる手ではないな。

良くも悪くも、大胆な手を好む者が、
あちら側にはいるようだ………

 どこか楽しげなその横顔をちらりと見て、
 レベッカは、そっと肩をすくめた。




 レベッカ 
(エンジン付近に設置された敵味方識別装置……
それはひとたび専用のコードを受信すると、
緊急時のエンジン停止スイッチとなる……)

(そんなものを作らせるとは正気じゃないよ、
元帥閣下)

(ま……だから、
正気じゃないあたしに作らせたんだろうけど)


 造反艦との戦いが終わり、
 ディートリヒ軍全体に
 重苦しい空気が立ち込めていた。

 ディートリヒ艦も例外ではないことは、
 その廊下を歩いていれば肌で感じられる。




フェリクス 
元帥閣下に呼び出し喰らうとはね。

 だからというわけではないが、
 フェリクスはつい、
 先導するローヴィの背中に声をかけた。

フェリクス 
何が俺に落ち度でもあったかい、副官さんよ。

 ローヴィ 
その逆です。
元帥閣下は、寝返りに気づき警告を発した
あなたを、高く評価していらっしゃいます。

フェリクス 
ほう。てことは、給料を上げてもらえるのか?
そいつはがんばったかいがあるってもんだ。

 ローヴィは、つと氷の瞳を彼に向けた。

 ローヴィ 
裏切りにはお詳しいようですね。
フェリクス・シェーファー。

フェリクス 
職業柄、いろんな裏切りを見てきたんでね。
依頼主に裏切られて捨て駒にされる、
なんてこたァしょっちゅうさ。

 ローヴィ 
それはよかった。

フェリクス 
いいわけあるか。

 ローヴィ 
そんなあなただからこそ、
お願いしたいことがあるのです。

フェリクス 
ほう――?


 空気が変わる。
 それもまた、肌で感じられることではあった。

 だから、次のローヴィの言葉にも、
 フェリクスは驚かないでいられた。




 ローヴィ 
元帥閣下を裏切り。
“こちら側”についていただきたい。

ドルキマス国第1王子――
アルトゥール・ハイリヒベルク殿下の側に。



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