空戦のドルキマスⅡ・中編【黒猫のウィズ】

 
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story


 戦いが終わってしばらく後。

 君は、エルナとともに
 ディートリヒに呼び出された。



ディートリヒ
確かに、魔法を使ってみせたのだな。

 エルナ  
はい! いやあ、すごかったですよ!
銃を持った暗殺者たちを、
ばったばったと薙ぎ倒して!

ディートリヒ
ふむ……ありえないことではないか。
今は失われたとはいえ、
かつては存在したはずの技術だ。


 意外にあっさりと、
 ディートリヒは魔法の存在を受け入れた。
 思い返してみれば、“使えるかもしれない”と
 いうだけで魔道艇を準備させていた男だ。


ディートリヒ
貴君の言をすべて
信じるというわけではないが、
非礼は詫びよう。魔法使い。

 ディートリヒは君をじっと見つめた。

 蛇に呑み込まれるような圧迫感に、
 君は息苦しさを覚える。

 エルナ  
そんなに睨んじゃだめですよ、閣下。
魔法使いさんか緊張なさってます。

ディートリヒ
睨んだつもりはないのだがな。

 親しげな物言いを咎めるでもなく、
 ディートリヒは目線を外した。

 ウィズ  
ディートリヒ相手にそんなことを言える人間、
初めて見たにゃ。

 エルナ  
みなさん、元帥閣下を怖がりすぎなんですよ。
それに、従兵のわたしがいちいち委縮してたら、
料理をお出しするどころじゃないでしょ?

 にっこりと言われると、
 確かにそうかもしれない、という気もしてくる。

 ディートリヒも、別段、そんなエルナの言葉に
 気分を害した風はない。


ディートリヒ
部下を救ってもらった恩ができた。
貴君には今後、客室を使っていただこう。

〈イグノビリウム〉とやらについては。
ドルキマス王を排除した後で、
話を聞かせてもらう。

 それで構わない、と君はうなずいた。

 ウィズ  
それにしても、暗殺とは物騒な話にゃ。
ドルキマス王の差し金なのかにゃ?

ディートリヒ
我が船に暗殺者を送り込むほどの器量が
あの男にあったなら、
討つ必要などなかったかもしれないがね。

 エルナ  
我が軍で最も警備の厳重な船ですからね。
確かに、陛下じゃ何もできそうにないです。

 真剣な表情でエルナも同窓する。

 自国の王に対して、かなり辛辣な評価だ。
 軍人たちもそう感じていたからこそ、
 ディートリヒの謀反に賛同したのかもしれない。

ディートリヒ
想像はついている。

 ディートリヒが、目を細める。

ディートリヒ
もっと慎重な人物かと思っていたが……
なかなかどうして、楽しませてくれるものだ。


 ***



アルトゥール
討てぬにしても、もう少し、
進軍を遅らせられるかと期待したのだかな。

 ユリウス 
あれしきで止まるような男ではない、と
思ってらっしゃったのですな。

アルトゥール
なんらか、果断な手を打つだろうとは思っていた。

だが、予想以上だ。
全艦に細工を施させていたとは……。

 ユリウス 
他人を信用しない、あの男らしい行動です。

しかし、これは諸刃の剣と言うべきですな。
その細工を施した者が裏切れば、
全艦が一気に窮地に陥ることになる。

アルトゥール
その手も期待したが、
ローヴィが言うには、無駄だそうだ。

アーレントなる研究者な。狂気の徒だという。
戦争が技術を加達させると信じ、
戦争を拡大させるベルクに期待を寄せている。

 ユリウス 
噂には聞いております。扱いにくい女ですな。
しかしベルクにとってみれば、信頼の必要も
裏切られる不安もない手合いです。

アルトゥール
正直、こちらとしても抱き込みたくはない。
天才であることは認めるが、常に戦争を広げる
者の側につこうとするのではな……。

 ユリウス 
殿下が戦争をされたがらないとわかれば、
早々に敵国に襄返りかねませんからな。

アルトゥール
それより、ユリウス。
“卵”の首尾はどうか。

 ユリウス 
どうにか間に合いそうです。
多少なりともベルクの進軍が遅れたおかげですな。

なら、それに賭ける。

もし、うまく行かなかった場合は――
王都への到達は、止められまいな。

 ユリウス 
陛下のご様子は?

アルトゥール
怯えておられる。
明日にでも城を引き払われるおつもりだ。

 ユリウス 
元帥の謀反に怯えて王がお逃げあそばされたと
なれば、いよいよ人心は離れますな。

アルトゥール
そうあってくれればいい。

なかなかご退陣くださらなかったが、
命の危険があるとおわかりになった今、
ようやく諦めていただけそうだ。

だが――だからと言って、
ベルクに実権を握らせるわけにもいかない。

王が退位し、ベルクが沈む。
そうして初めて、
このドルキマスに平和が訪れるのだ……。

story



 レベッカ 
はい、どうぞ。

 笑顔で手渡された代物に、
 クラリアとヴィラムは困惑の表情を見せた。



 ヴィラム 
……えーと。レベッカ・アーレント開発官?

 レベッカ 
なあに?ヴィラム・オルゲン大尉?

 ヴィラム 
なに、っつーか……
なんスかね。この、けったいなのは。

 レベッカ 
見てのとおりの、自律式小型戦車だけど。

その名も、メカシャルルリェアー!!

 ヴィラム 
言いにくッ。

 レベッカ 
リモコンから電波を飛ばして遠隔操縦が可能。
ちょっとやそっとの被弾なんてものともせず、
敵陣に突撃して暴れ回る逸品よ。

 ヴィラム 
敵障っておっしゃいますがね。
艦隊戦にどう役立つってんです、こんなもん。

 レベッカ 
接舷後の白兵戦のお供にどうぞ。

 ヴィラム 
今どきいねえスよ、白兵戦なんざやる奴ぁ!

 後に“艦砲射撃がまるで効かない敵艦隊。相手に
 “接舷しての白兵戦”を強いられることになる
 未来を、このときのヴィラムはまだ知らない。

 ヴィラム 
どうせなら艦隊戦用の新兵器を考えてくださいよ。
アンタ、そのために元帥閣下の船に
乗ってんでしょうが。

 レベッカ 
そりゃあいろいろ考えてますことよ。
けど、今から兵器工場に打診しても、
できたときには謀反も終わってんじゃない?

 クラリア 
新兵器などなくとも、我が軍は無敵だ。
国内の残存兵力など敵ではない。

 クラリアは、まるで興味のなさそうな様子で、
 水筒に入れていた紅茶を味わっている。

 ヴィラム 
かもしれませんかね。
楽ができるに越したこたァないでしょ、
シャルルリエ少将閣下殿。

 レベッカ 
新兵器ってんじゃないけど。

 ぽん、とレベッカは手を打った。

 レベッカ 
あの……えーと、シェーファー傭兵隊長だっけ。
彼が使ってる船、面白い砲を乗せてるみたいね?

 クラリア 
そうなのか、オルゲン大尉?

 ヴィラム 
ええ。ありゃあもともと、ザイデル辺境伯の
国境警備隊の船でしてね。フェリクスは、
教練役ってことで層われてたんですが――

いざってときのために必要だとかなんとか
ザイデル辺境伯を説き伏せて、
あの“狙撃砲”を取り付けさせたんスよ。

 レベッカ 
見たところ、貫通力と射程重視の実弾砲ね。
専用の測距儀も使ってるって話だから。
じっくり狙えばかなり命中精度高いんじゃない?

 クラリア 
我が軍には不要な品だな。
じっくり狙っている暇があったら、
突撃して殲滅した方が早い。

 ヴィラム 
そりゃ、少将閣下はそうでしょうけどね。

 レベッカ 
コンセプトは面白いな~と思うのよね~。
レーダー測距と連動する仕組みを作れたら。
目視抜きで目標を狙撃できるかも。

 ヴィラム 
そいつぁいい。射程の長さを活かせば、
敵の射程外から狙いをつけて、
一方的に当てられるってわけか。

 クラリア 
却下だ。
潔くない。

 レベッカ 
んじゃ、クラリアちゃん的にはどんなのほしい?

 クラリア 
む……。

 クラリアは、じっと考えてから、言った。

 クラリア 
超強い角。

 ヴィラム 
当てんの!?

 クラリア 
もしくは牙。

 ヴィラム 
噛むの!!?

 レベッカ 
じゃあ、主砲の代わりに船首を衝角(ラム)に
して~……敵艦にブッ刺すと同時に切り離して
遠隔操作で爆発させられるようにしとこっか?

 クラリア 
いいな。

 ヴィラム 
主砲取っちゃダメ!!!!

story 上級 空の迷い路




フェリクス 
補給艦が近づいてきたみたいだぜ、少将さん。

 ドルキマス王都まで、
 あと数日というところだった。

 燃料、砲弾、食糧。大軍勢を支える物資は数多い。

 これまでは制圧地域のドックから補綸していたが、
 ここから王都まではドックがない。

 そこでディートリヒは、
 国内の商人ギルドと約束を取り付け、
 補綸艦を用意させていた。

  クラリア 
 “ご苦労。戻っていいぞ、シェーファー。”

フェリクス 
いや。補輪中を敵に狙われる可能性がある。
このまましばらく哨戒を続けるつもりだ。

  クラリア 
 “慎重だな。いいだろう、任せる。”

フェリクス 
傭兵なんてのは、
慎重なくらいでちょうどよ、ちょうど。

 軽口を叩いて、フェリクスは通信を打ち切った。

 その顔から、スッと表情が消える。

フェリクス 
さて……仕事か――


 ***



フェリクス 
内通者がいるんだろうとは思っちゃいたが、
まさかあんただったとはね……。

しかし、ずいぶんすんなり打ち明けたもんだ。
俺がその話を手土産にディートリヒと
話すとは思わなかったのか?

 ローヴィ 
傭兵は金で動くものでしょう。

 ローヴィは、1枚の小切手をフェリクスに手渡す。

 ローヴィ 
これだけあります。成功報酬はこの2倍です。

フェリクス 
……なるほどね。
こいつは確かに、大したもんだ。

 ローヴィ 
加えて申し上げますが――
我々は、あなたの素性もつかんでいます。

ボーディス王国……
2年前に閣下が攻め落とされた国の、
第2王子であらせられる。

フェリクス 
…………。

 ローヴィ 
アルトゥール殿下は、
ボーディスを属国ではなく、
独立国として扱う用意がある、と……。

フェリクス 
ついでに、引き受けなかったら、
俺が敗戦国の王子だって情報を
ディートリヒに流すつもりだろ。

ふん……選択の余地はないってわけか。


 ***

フェリクス 
こちとら傭兵なんだ。悪く思うなよ……。


 ***


 到着した補給艦がディートリヒ軍と合流し、
 空中で勧資の受け渡しを行っていく。

 早々に補給を済ませたクラリア艦は、
 敵の襲撃に備えて目を光らせていた。

 その甲斐あって、“謎の飛行物体の襲来”に
 気づいたのは、彼女の船が最初だった。


 クラリア 
――って、あれは――


 翼を広げて大空を舞い、激しい咆嘩を上げて
 迫り来る、その巨体は。



 クラリア 
ド――ドラゴンんん!?



 ***





 ルヴァル 
魔法使い!

 警報が鳴り響くディートリヒ艦。

 その廊下で、君はルヴァルに呼び止められた。

 ルヴァル 
卿に頼みがある。力を貸してほしい。

 いいけど、何を?と尋ねる君に、
 ルヴァルは苦々しい顔をしてみせる。

 ルヴァル 
実は今、この艦隊をドラゴンが襲っている。

 ウィズ  
ドラゴン!?
ひょっとして、〈ウォラレアル〉にゃ!?



 竜とともに戦う者たちの国が、
 この世界にはあるはずだった。

 ルヴァル 
いや。彼らとは違う。別口のドラゴンだ。

ドルキマスの隣国の山に棲む、古の竜。
人語を解するほどの知性はないが、
本能的に魔力を操るのに長けている。

万全の状態であればともかく、
補給中に奇襲を受けたのでは、
この軍とて蹂躙されかねん。それほどの相手だ。

 ウィズ  
どうしてそんなものが襲ってきてるにゃ!?

 ルヴァル 
怒り狂っている。魔法で呼びかけてみたが、
我を忘れているため、交渉どころではない。

ただ、竜はこう叫んでいる。
“我が卵はどこにある”――と。

ひょっとして……。

 ルヴァルは、静かにうなずいた。

 ルヴァル 
竜の卵が、運び込まれたのだ。
補給艦によって。
この軍の、いずれかの船に。

それを探さねばならない。
手伝ってくれるか、魔法使い。

 一も二もなく、君はうなずいた。

 ルヴァル 
卿にこれを預ける。

〈天翔靴〉だ。
空を駆けるように跳躍できる。
これを使って卵を探してくれ。

竜の卵は魔力の塊のようなものだ。
魔道士である卿ならば、
近くに行けば感知できるだろう。

 靴を受け取った君は、ルヴァルの魔法で、
 一瞬にして船の上へと転移した。

 そこからは、状況がよく見えた。

 ドルキマス軍艦の2倍近い大きさを誇る竜が、
 艦隊のど真ん中で、
 めちゃくちゃに暴れ回っている……!

 何隻もの軍艦が
 竜の腕や牙を受けて火を噴き上げ、
 高度を落としていく。

 ドルキマス軍も竜に砲撃を繰り返しているが、
 竜にはいっさい痛打を与えていない。
 魔力の膜が、その全身を守っている。


 ルヴァル 
ディートリヒのことだ。
すぐに対処手段を講じ、竜を撃墜するだろう。

だが、あの竜は周辺地方の季候の安定を
司る存在でもある。殺させるわけにはいかない。

私が竜を抑える。
頼んだぞ、魔法使い……!


 ***





 ディートリヒ
 “なるほど。竜の卵、か……。”

 君は、ドルキマスの艦隊を跳び移りながら、
 ディートリヒ艦と通信していた。

 これもルヴァルに借りた〈天想羽〉なる道具に
 よるものだ。

 ウィズ  
どれかの船にこっそり積まれてるはずにゃ。
こっちでも探してみるけど、
そっちでも探してみてほしいにゃ!

 ディートリヒ
 “ローヴィ。”

  ローヴィ 
 “はっ。各艦に伝達いたします。”

 ウィズ  
助かるにゃ!

 ディートリヒ
 “ところで、あの竜に砲撃が効かないのは、
 魔力による防御のせいだと言ったな?”

 そうだよ、とうなずいて、君は遠くに視線をやる。

 砲弾の雨をものともせずに暴れる竜が、
 また1隻、軍艦を叩き落としたところだった。

 ディートリヒ
 “魔力とは、無限に湧いて出るものか?”

 ウィズ  
そんなことはないにゃ。
使い続ければいずれ枯渇して――

 言いかけて、ウィズがハッとする。

 が、遅かった。

 ディートリヒ
 “そうか。”

 ディートリヒは、それしか言わない。

 だが、彼の頭のなかに対抗策が生まれたことは
 まちがいがなかった。

 おそらくは――きわめて非情な対抗策が。

 ウィズ  
待つにゃ、ディートリヒ!
あの竜を倒したら、
隣国の季候が荒れるらしいにゃ!

 ディートリヒ
 “ドルキマスに害はないということだな。”

 あっさりと彼は答える。

 ウィズは、がっくりと肩を落とした。

 ウィズ  
ごめんにゃ。私がうかつだったにゃ。
ディートリヒが何かするより早く、
卵を見つけなきゃいけないにゃ……!

 だいじょうぶ、と君は答える。

 ちょうど、
 新たな船の上に跳び移ったところだった。

 足元から、驚くほど濃密な魔力の気配が、
 ぞくぞくと伝わってくる。

 ウィズ  
あった!卵にゃ!

 あとはこの船の人間に話を通して、
 竜に卵を返せるようにすれば――


 ルヴァル 
卿!

 突然、目の前にルヴァルが飛んできた。

 ウィズ  
ルヴァル、ドラゴンはどうしたにゃ!?

 ルヴァル 
どうにかこちらに誘導した。

 ルヴァルは天の使いの証たる翼を広げ、
 手に聖なる光を放つ剣を携えている。

 ルヴァル 
しかし、竜の怒りは頂点に達している。
このままでは卵を渡すと言ったところで
聞いてくれはしないだろう。

卿の魔法なら、あの竜にも打撃を与えられる。
荒っぽいやり方になるが、
いったん武力で鎮めるぞ!



BOSS

 ***


 君とルヴァルの攻撃を受けて、
 巨竜はふらつき、攻撃の手を止めた。

 ルヴァル 
よし。私は竜に呼びかける。
卿はこの船の者と話してくれ!



  クラリア 
 “竜の卵?確かにその話は聞いているが――
 は!?この船にか!?”

 “……それを渡せば、竜は攻撃をやめるんだな?”

 “わかった。
 ――貨物庫、開け!
 他の物資が壊れてもかまわん!”


 ***


 動きを止めた竜――その目の前にある船の
 貨物庫が、ゆっくりと開いていく。

 そのさまを、フェリクスの船は捉えていた。

 なだらかな山脈の影に隠れ、
 息を潜めて戦いの様子をうかがっている。



フェリクス 
そういうことかよ……。

 依頼内容を思い返し、フェリクスは舌打ちする。

  ローヴィ 
 距離を取って待機し、
 もしシャルルリエ少将の船に竜が近づいたら、
 貨物庫を狙撃してください。


  傭兵  
どうすんだい、隊長。
“敵さん”射程内に入ったぜ。

 フェリクスはわずかに考えてからー―

フェリクス 
撃ち方、始め。

 静かに命じた。


 ***




 ウィズ  
にゃはは!
なんとかなってよかったにゃ!

 君とウィズは、ルヴァルの魔法で
 ディートリヒの船に戻った。

 ルヴァル 
助かった。卿のおかげで、事なきを得た。

しかし、相手も大胆な手を打ってくる。
古の竜の卵を利用してまで
ディートリヒを討とうとは……。

 ウィズ  
補給艦に敵がまぎれこんでたのかにゃ?

でも、それなら、伏兵を置いていても
よさそうなものだったけどにゃ……。

 そうだね、と君は苦笑する。

 卵を取り戻したドラゴンは、
 ルヴァルの説得の甲斐あって、
 怒りを錆め、山に帰ってくれた。

 ルヴァル 
兵力の少なさか敵のネックらしいからな。
竜を利用したのも、その弱点を補うためだろう。

なんにしても、おかげで竜を死なせずに済んだ。
心より礼を言う、魔法使い。

 ウィズ  
お礼は、この靴と羽でいいにゃ!

 ルヴァル 
すまないが、それはちょっと……。


 本気で申し訳なさそうな顔をするルヴァルに、
 君はあわてて、
 ウィズ流の冗談であることを伝えた。

 ***




ディートリヒ
報告は聞いた。卵を狙っていた
敵艦を沈めてくれたそうだな。

フェリクス 
さすがに敵さんも。
ドラゴンを放り出しておしまいってんじゃ
なかったわけだ。

そのへんはカンがきくんでね。
主砲を撃とうと首ィ出したところを
ズドン!てなもんさ。

ディートリヒ
働きには、相応に報いよう。
今後も、貴君の力を見せてくれたまえよ。

フェリクス 
あんたが俺らを買ってくれている限りは。
ご期待に添えてみせるとしますかね。

ディートリヒ
ところで、貴君。
ボーディス王国の第2王子だな。

 さらりと言われ、フェリクスは言葉に詰まった。

フェリクス 
……なんだ、バレてんのかよ。

王子って言っても、今はしがない傭兵だ。
我が国は傭兵大国でね。
家督を継がない王子は傭兵をやる決まりなのさ。

とはいえ、疑うなってのが
無理な話かもしれんが……。

ディートリヒ
いや。

 ディートリヒは、静かに笑みを深めた。

ディートリヒ
貴君はもはや王子という器には戻れまい。
すでに戦争のにおいにまみれすぎている。

フェリクス 
身だしなみには気をつけるタチなんだがね。

ディートリヒ
どう繕ったところで、わかる者にはわかる。

沁みつくのだよ。
血と、鉄と、火の香りが――
その魂にな。

 ***


 ディートリヒの部屋を辞し、
 しばらく歩いたところで――

 通路の先で待つローヴィに出くわし、
 フェリクスはニヤリと笑った。



フェリクス 
美人に出待ちをしてもらえるなんてなァ、
男冥利に尽きるね。

 ローヴィ 
金で動くのが傭兵……
ではなかったのですか?
フェリクス・シェーファー。

 硬い表情を見せるローヴィに、
 フェリクスは悪びれた風もなく、
 肩をすくめる。

フェリクス 
契約中に乗り換えるってのは、
ま、さすがにちょいとね………
仁義にもとるって、考え直したのさ。

それに――積み荷を撃つとは聞いたが、
それが卵とあっちゃあね………

 ローヴィ 
傭兵にしては甘いことを言いますね。

フェリクス 
自分で納得できないマネはしたくないのさ。

 フェリクスは、ふと真剣な顔になって言った。

フェリクス 
そいつを許すと、なんでもありになっちまう。
俺みたいなごろつきは。
どっかで歯止めをかけとかなきゃならん。

それと、理由はもうひとつ。
あんたの瞳が揺れてたからさ。

 ローヴィ 
私が……。

 予想外の言葉で切りこまれ、
 ローヴィは思わずたじろいだ。

フェリクス 
ブレてる奴の側につくのは、リスクが大きい。
こいつは俺の経験諭だ。

 フェリクスは、
 ローヴィの手に小切手を押しつけ、
 すたすたとその横を通り過ぎていく。

フェリクス 
安心しな。あんたのことは言わんよ……。

別に情けをかけるってんじゃない。
言ったところで、
俺の方が信じてもらえないだろうからな。

だが――

そろそろ、選ぶ時期が来てるんじゃないのかい。
大元帥の副官さんよ。

 ローヴィ 
…………。

 ローヴィは答えず、じっと沈黙を保っていた。



 ***




ディートリヒ
貴君。

 唐突に廊下で呼び止められ、
 ルヴァルは振り返って敬礼した。

 ルヴァル 
いかなる御用でしょうか、元帥閣下。

 顔を近づけ、ささやくような声で、
 ディートリヒは問うた。

ディートリヒ
貴君は、何者だ?

この船で貴君だけか唯一、熱を帯びていない。
聞こえないのだよ。戦争の鼓動が……。

 ルヴァルは答えない。

 ディートリヒは、
 喰らいつく隙をうかがう蛇の瞳で、
 名を呼んだ。

ディートリヒ
答えたまえよ。
ルヴァル・アウルム………

story



 エルナ  
お食事をお持ちしました!

 エルナが、君たちの前のテーブルに
 朝食を並べていく。

 君とウィズ――
 そして、ローヴィとディートリヒの分を。

 ウィズ  
…………。

 君たちは、ディートリヒから
 朝食の席に招かれていた。

 なぜか。

 まさか、朝食をいっしょに食べるためだけに、
 なんてことはないだろうけど………

 (もしかして、ルヴァルのことかにゃ……)

 ドラゴンの件では、ルヴァルの存在は伏せた。

 だが、勘のいいディートリヒのこと、
 助っ人がいたことを察しているかもしれない。

 重い気分で、君はテーブルに置かれたサラダに
 フォークを突き刺し、野菜を□に運んだ。

 補給が済んだばかりのためか瑞々しい野菜だった。
 しかし、とても味を楽しめる気分ではない………

 ディートリヒの方を見やると、
 ナイフとフォークを優雅に駆使し、
 ソーセージを一口大に切り分けていた。



ディートリヒ
ドルキマス王は都を離れ、
要塞に立てこもったという。

 案の定、彼が□にしたのは物騒な話題だった。

 ローヴィ 
鉄機要塞……かつて王が建造を命じた、
きわめて堅固な要塞です。
対空防備にも優れています。

もっとも、この戦力で挑めば、
落とせないことはないはずですが――

ディートリヒ
まだ敵が隠し玉を持っていないとは限らない。
兵力の差を竜で埋めようとするような手合いだ。

正直に言って、あれは予想外だった。
こういうことがある、というのは、
戦争の醍醐味だな。

 ウィズ  
そんな醍醐味はいらないにゃ……。

ディートリヒ
貴君らの存在も、その“醍醐味”のひとつだ。

場合によっては、
魔法の力、借りることになるかもしれん。

 魔法は嫌いなんじゃなかったの、と、
 君は尋ねた。

ディートリヒ
好かんな。
だが、便えるとわかっているものを
使わない理由もない。

 言って、ソーセージを食べ始めるティートリヒヘ、
 エルナが、あきれたように□を出す。



 エルナ  
もう、閣下ったら。
素直に、“昨日は助けてくれてありがとう”って
おっしゃったらいいのに。

 ウィズ  
にゃにゃ!?


 君とウィズは思わず顔を見合わせた。

 もし、それがこの朝食会の理由だとしたら……
 いやいや、彼に限ってそんなわけか……。

 ディートリヒはソーセージを呑み込み、
 ナプキンで口元を拭いてから答える。


ディートリヒ
昨夜の活躍については無論、感謝している。
おかげで、戦力を減らさずに対処できた。

 いつもどおりの口調に、君の背筋が冷える。

 つまり、戦力を減らす前提でなら、
 なんとかする手はあった――というわけだ。

ディートリヒ
兵を使い捨てにする戦争は気に入らない――
そんな目だな。魔法使い。

 当然だよ、と君は答える。

ディートリヒ
私とて、無駄な犠牲を出したいわけではない。

“資源”は有効に使わなければな。

 エルナ  
そこは嘘でも“兵の命は大切だ”って
言いましょうよ、閣下。

ディートリヒ
大切な資源だ。

 エルナ  
閣下ってば……。
副官も何とかおっしゃってくださいよー。

 ローヴィ 
いえ、あの、私は……。



 ウィズが、君の肩の上でそっとささやいてくる。

(なんというか、貴重な子だにゃあ……)

 確かに。ディートリヒやローヴィに対して、に
 こうも自然体でい続けられる人間など、
 いったいどれほどいるだろうか。 


 ローヴィ 
ところで、閣下。
その、王都のことですが………

 狂った調子を戻そうとするように、
 ローヴィが発言した。

 ローヴィ 
全軍を要塞に差し向けてよろしいのですか?
ドルキマス王のいなくなった今、
王都の占領は容易かと思われますが……。

ディートリヒ
いつでもできることなど、後回しでよい。
今は王を討つことに全力を傾けるべきだ。


 ディートリヒの言葉に、君は違和感を覚える。

 彼のこういった強硬な姿勢は、
 対〈イグノビリウム〉戦役で目の当たりにした。


 否、だ。ローヴィ。たとえそうなったとしても、
 進軍だ。

 ここに来るまでに費やした時間、戦力、
 それを考えれば、
 退くことなどありえない。


 対〈イグノビリウム〉であれば理解もできた。
 あれは、それほどの憲志、
 徹底的な強硬さがなければ勝てない敵だった。

 だが、ドルキマス王は小物であるという。

 だからこそ、ディートリヒがここまで
 ドルキマス王の打倒にこだわることが、
 君には不思議だった。


 エルナ  
王を討ったら、やっと国が変わるんですね。

 夢見るような瞳で、エルナが言う。

 エルナ  
国民もみんな、期待してますよ。
閣下が新たなドルキマスを築かれるのを。

ディートリヒ
私はあくまで軍人だ。
そう鮮やかには国は変わるまい。

 ディートリヒの返答は、
 あくまでも淡々としたものだった。

ディートリヒ
少しはマシになるかもしれないがね。




story 天使降臨?



 クラリア 
どう思う。

 レベッカ 
うーん、これだけじゃあねえ~。

 鉄機要塞攻略戦の要諦打ち合わせのため
 クラリア艦を訪れたフェリクスは、
 眉をひそめてヴィラムに視線を送った。


フェリクス 
ヴィラム。こりゃなんの集まりだ?

 ヴィラム 
少将殿がドラゴンとの戦闘中に天使を見たんだと。

 クラリア 
見ただけではない。すぐに写真を撮らせた。

 クラリアは、どうだ、とばかりに
 テーブルに置いてある写真を見せる。

 そこに映っているのは――

 レベッカ 
ピンボケだけど、確かに、
翼の生えた人影……ぽいかも?

 天使と言われればそう見えなくもないかも、
 というくらいの影だった。

フェリクス 
噂の“魔法使い”ってのじゃないのか?
戦艦を跳び移ったって聞いたぜ。

 クラリア 
魔法使いは別に映っている。
ほれ、このローブ姿がそれだ。

きっと、天の使いが協力してくれたに違いない。
天もベルク元帥の勝利を望んでいるのだ!

 拳を握って力説するクラリアに、
 フェリクスは笑いながら冗談を投げる。

フェリクス 
むしろ元帥閣下が御自ら羽生やして
竜を止めたとかじゃねえの?

 クラリア 
…………。

捨てがたい。

フェリクス 
おいヴィラム。
この子、本格的に心配だぞ。お脳が。

 ヴィラム 
元帥殿にはそれだけカリスマがあるってことだよ。

 レベッカ 
さすがに元帥閣下じゃあないだろうけど――
でも、本当に天の使いと言うセンは
あるかもしれないわよ。

 そう告げるレベッカに、その場の全員が、
 ぱちくりと目を瞬かせた。

 レベッカ 
あら、何かしら。その意外そうな視線。

 ヴィラム 
意外なんスよ。
そういう話、真っ先に否定するタイプかと思った。

 レベッカ 
未知のものを簡単に否定するのは主義じゃないの。

それに、古代の遺跡を調査するとね、
どの文化圏でも、
共通の“御使い”の姿が描かれているのよ。

 クラリア 
御使い……?

 レベッカ 
翼を生やし、輝ける聖剣を携えた御使いね。
男性だったり、女性だったりするけど、
その2点は常に共通しているわ。

時期的には、人類が魔法を失い技術進化の停滞を
招いた暗黒時代の直前にあたるの。
つまり――

この“御使い”こそが、
この世界の人間から魔法を奪った張本人!
なんじゃないかと思っているワケ!

 クラリアたちは、顔を見合わせ。

 答えた。


  3人  
へー。

 レベッカ 
あっコラあんたら何よその興味なさげフェイス!


フェリクス 
“御使い”とか言われてもなァ……。

 ヴィラム 
“魔法使い”よか信憑性ねぇスよ。

 クラリア 
ベルク元帥じゃないならどうでもいい。


 レベッカ 
何よその文化に対する情熱のなさ!
こないだ伝説のドラゴンに襲われて
ピーピー言ってたくせにい!

 憤慨するレベッカから顔を背けて、
 フェリクスは、やれやれとぼやいた。

フェリクス 
もし本当にいるんだったら、ドラゴンなんざより、
この荒れた世の中をどうにかするのが、
御使いサマの仕事なんじゃねえのかね。



 ***





 ルヴァル 
…………。

 兵士たちに与えられる食事を前に、
 ルヴァルは複雑な表情でつぶやいた。

 ルヴァル 
今日の食事は……
手羽先……か………



空戦のドルキマス2 Story・後編


空戦のドルキマス
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空戦のドルキマス ~沈まぬ翼~ 
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2015/10/22
空戦のドルキマス 外伝2015/10/22
金色の空戦記 (正月)2016/01/01
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勝戦への疾走 (黒ウィズGP2016)2016/06/13
空戦のドルキマスⅡ ~昏き英雄~
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