神竜降臨Ⅱ 全エピソード

 
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本能と力がすべてを支配する異界。
強き者が望むままに力を振るい、弱き者を屈服させることをこぞ“正義”と呼ぶ世界。
その地に生きる人々は、さらなる力を求め、数多の手段を採っている。
その手段のひとつに、「竜との契約」があった。

強大なる異種族たる竜と契約し、その力を授かるというものだ。
契約者は竜の翼や尾、角、そして「竜力」を得た「竜人」となる。
無論、より強い竜と契約すれば、より強い竜力を授かる。
ゆえに――最強の竜と契約した戦士クロードは、「伝説の竜人」と畏怖されていた。

そのクロード一族の末裔たる少女「ミネバ」は、
内なる竜力をより強く練り上げ、また一族の名をより高く轟かせるため、旅を続けていた……

    * * *

「く……、う――」

『雷鳴の竜魔』ミネバ・クロードは、苦しげにうめきながら起き上がった。

一瞬、自分がどこにいるのか把握が遅れた。
無理もない。つい先ほどまで、彼女は気を失っていたのだ。

(私は……確か――)

旅の途中だったはずだ。このなだらかな街道を進んでいた。
そして突如、すさまじい悪寒と苦悶に襲われ、街道の脇に倒れて気絶してしまったのだ。

(何事だというの……)

クロード一族を倒して名を上げたい、あるいは純粋に強者と戦って己の力を高めたいと望む者は後を絶たない。
そうした者たちの奇襲を受けたのかと思ったが――
ミネバは縛られてもいないし、傷ついてもいない。倒れる前となんら変わりはない。
もっとも、まだ頭はくらくらしていたし、全身を強烈な気だるさがむしばんでいたが……

(とにかく、どこか休めるところに……)

重い足を引きずるようにして、街道を再び歩き出す。
そのうち、前方から何か小さなものが飛んできた。

女の子だ。

(竜人……!?)

――だろうか。頭部こそ幼い女の子そのものだが、首から下は竜のそれに近い。
竜人にしては、「竜」としての部分が濃すぎるようだ。

女の子は涙目で、背中の翼を必死にはばたかせていた。
どうやらただごとではなさそうだ。ミネバの相貌に、さっと緊迫の気配が走る。

彼女が逃げる理由はすぐに明らかとなった。
大地を踏み鳴らすようにして、複数の獣が姿を現したのだ。
いや――ただの獣ではない。あれは、竜だ!

「くっ……!」

ミネバは、気だるさを訴える全身を叱咤して駆け出した。
飛んでくる女の子とすれ違いざま、内なる竜力を具現化し、指先に収束させる。
ばぢっ、とはじける紫電こそ、『雷鳴の竜魔』の異名の由来――

「馳せよ迅雷!」

高らかなる詠唱に応え、ミネバの指先から閃電が走る。
それはたちどころに風を貫き、向かいくる竜たちを撃ちすえた。

竜たちが激痛に悶え、怒りの眼差しでにらみすえてくる。ほとんど効いていない――
相手が強いのではない。本来なら、もっと激しい雷が放たれるはずだったのだ。

(私の竜力が……弱まっている!?)

ミネバは思わず息を呑んだ。心臓を直接、握りしめられたような戦慄――
力の強さを絶対とするこの世界において、「力が弱くなる」というのは、
あらゆる立場が同時に弱まったに等しい。

「あうう……」

背後では、飛び疲れたらしい女の子が目を回しかけている。
ミネバは慌てて彼女を胸に抱きとめた。

竜たちが迫ってくる。いつもなら、歯牙にもかけず吹き飛ばせる相手。
だが、今のミネバでは――

「いったい……どうして……!」

歯噛みしながらも、少女の瞳から戦意は消えない。
今もなお凛然と、敵の姿を見すえ続けている……

    * * *

突然、力のほとんどを失ったミネバ。
同時に、この異界の各地において、かつてない異変が生じつつあった。
彼女に、そして世界に何が起こっているのか――

誰よりも気高き魂を持つ少女に、過酷なる試練の時が訪れる!





ミネバにとって、「戦う」ということは、生まれる前からの宿命だった。
最強の竜と契約した竜人クロードの末裔として、
ミネバは常に「最強である」ことを証明し続けなければならなかった。

幼い頃から、厳格な両親の過酷な特訓を受け、数々の武術と魔法を叩き込まれた。
食器の使い方よりも先に武器の扱いを伝授され、子守唄の代わりに魔法の詠唱を覚え込まされて育った。

「クロード一族は、誇りある竜人の血族。決して『弱さ』を見せてはならぬ。
クロードの血肉は『強さ』のみにて形作られておらねばならぬ」
父は、いつもそう言っていた。

「だが……ミネバよ。だからと言って、『誇り』を失うこともあってはならぬ」
「誇り……」
「強いだけでは獣と同じ。真の強者は、気高い誇りを抱いておらねばならぬのだ」
父は、自負に満ちた笑みでミネバの肩を軽く叩いた。
「弱者を侮らず、見下さず、侮蔑せず、しいたげることなかれ。
我らは弱きを支配せんとする欲のために強さを求めるのではない。
『誇りある強さ』……それこそを求める一族なのだ」

質実剛健なる教えに従い、ミネバは気高く凛然たる竜人として成長した。
そして、2人の弟とともに武者修行の旅に出た。
クロード3姉弟は各地で武功を立て、その強さを世に知らしめた。

そろそろ別々に旅をしてもいいだろうと、うなずき合って3人は別れた。
1人になってなお、ミネバは圧倒的に研ぎ澄まされた力で各地の強者を下していった。
しかし、打ち勝ちはしても、その財産を奪ったり、隷属を誓わせることはなかった。
彼女は、強さを証明できさえすればよかったのだから。

いつしか『雷鳴の竜魔』の名は広く轟き渡っていた。
『雷鳴の竜魔』こそ今代最強の竜人であると、人々は盛んに噂しあった。
少し恥ずかしくはあったが、一族の末裔として、誉れが高いに越したことはない。
どこぞの武器商人との契約の話だの、どこぞの王との結婚の話だのを丁重に断りながら、
ミネバはさらなる高みを目指し、旅を続けた。

だが――そんな彼女に、試練が降りかかった。
誇りある力のほとんどを、突如として失ってしまったのだ。

理由はわからない。多少の竜力こそ残っていたものの、
とてもクロードの血族を名乗れるほどのものではなかった。
これまでずっと、自らの力に確固たる自負を抱いてきたミネバにとって、
それは奈落に突き落とされたような戦慄であり、衝撃だった。

 「取り戻さねば……クロードの一族にふさわしい力を……!」

力を失った時に出会った幼い女の子、アニマを守りながら、ミネバは誓う。

驚くべきことに異界からの来訪者だという、
黒猫を連れた魔法使い――その助力がなければ満足に戦えない。
悔しいし、一方的に頼ってしまって魔法使いに申し訳ないが、今はそうするしかない。

力を取り戻すべく、魔法使いとともに強敵に挑みながら。
必死の思いを抱く一方で、ミネバは、新鮮な驚きを覚えてもいた。

信頼できる誰かと、力を合わせて戦う――
それは、彼女にとって初めての体験だったのだ。

悪くない――そう思う自分がいることにこそ、彼女は驚いていたのだった。





ぱちぱちと、燃えるたき火が爆ぜている。
月の皓々と照らす夜。街道を渡っていた君たちは、火をおこし、野宿をしているところだ。

君から見て、たき火を挟んで向かい側にはミネバの姿がある。
彼女は眠たげなアニマを腕に抱き、物語を聞かせているところだった。

「あるところに、クロードという戦士がおりました……」
美しい声音で、謳うように朗々と語る。

「最強の力を求めて旅をしていたクロードは、ある村で相談を受けました。
 最近、近くの森で凶暴な竜が暴れているそうなのです。
 竜を退治してくれないか、と頼まれたクロードは勇敢にうなずきました」

「クロードはさっそく森に向かいました。
 すると確かに、森の奥から何かの暴れるような音が聞こえてきます。
 奥に進んだクロードが見たのは、傷ついた1頭の竜の姿でした」

「竜はクロードを見ると、ぐるる、と重々しく唸りました。
 倒すなら、今が好機です。
 でもクロードは剣を抜かず、何があったのかと訊ねました」

「恐るべき魔神が現れたのだ、と竜は告げました。
 放っておけば、この世界全土が魔神に焼き尽くされるだろう。
 今、その魔神とこの森で戦っているところなのだ、と……」

「魔神の力は強大で、最強と名高い竜の力を以ってしてもかないません。
 それでも竜は、あきらめず、戦おうとしておりました。
 どうしてそうまでして戦うのかと、クロードは訊ねました」

「大した理由があるわけではない、と竜は答えました。
 強き者と戦うことこそ、強き竜のさだめ。
 それに従っているだけだ、と」

「ならば、とクロードはうなずきました。力を合わせ魔神と討とうと。
 その提案に、竜は驚いた様子でしたが……
 やがて、仕方あるまい、とうなずきました」

「クロードとドラゴンは、さらに森の奥へと進みました。
 そこでは、ドラゴンと戦い傷を負った魔神が休んでおりました。
 クロードとドラゴンは、息を合わせて魔神に挑みました」

「魔神は恐るべき力を持ち、クロードたちを苦しめました。
 それでもクロードたちは怯みませんでした。
 勇猛果敢に魔神に挑み、手傷を負わせていきました」

「ですが、クロードたちは次第に追い込まれていきました。
 魔神の攻撃をしのぎながら、竜はクロードに言いました。
 もはや勝ち目はない。おまえはさっさと逃げるがいい、と」

「クロードは首を横に振りました。おまえを置いてはいけないと。
 おまえはただ竜のさだめに従って戦っているのではない。
 この森を戦場に選んだのは、魔神との戦いで犠牲者を出さないため。
 魔神と戦うのは、世界を守ろうとしているからではないのか、と。
 クロードは、竜の高潔な魂を見抜いていたのです」

「竜は、そんなクロードをじっと見つめて言いました。
 ひとつだけ方法がある。
 竜がクロードと契約し、力を授ければ、魔神にも勝てるかもしれないと」

「竜は、自分が認めたものとしか契約することはありません。
 クロードは、竜にその魂を認められたのです」

「クロードは竜と契約を交わし、その力を授かって魔神に挑みました。
 竜の翼に竜の角、竜の尾と竜の力を得たクロードは、見事、魔神に打ち勝ちました。
 そしてクロードは、最強の竜の力を得た戦士として、長く語り継がれていくのです……」

ミネバの物語が終わる。
むにゃむにゃと目をこすりながら、アニマは首をかしげた。

「りゅう どうなったの?」
「……竜はね。魔神に受けた傷が深すぎて、命を落としてしまったの」
アニマを優しくなでながら、ミネバは神妙に告げた。
「世界のために魔神と戦い、クロードにすべてを託して散った竜……
 クロードの一族は、その竜の高潔なる魂に敬意を表するため、
『ただ強い』だけでなく、『気高さ』をも同時にあわせ持たんとしているのよ」
「ふぅん……」

ふわぁ、とアニマがあくびをする。ミネバは、苦笑交じりに彼女のまぶたを下ろしてやった。
「ほら、もうおねんねしなさい」
「ん……。ねえ みねば」
「なに?」

とろんとした目で、アニマは竜人の少女を見上げる。
「あにまも けだかさ もてる?」

ミネバは、わずかに目を見開き――すぐに、穏やかに微笑んだ。
「ええ。あなたなら、きっとね」
「ん……」

満足そうにうなずいて、すやすやと寝息を立て始めるアニマ。
そんな彼女を、ミネバは慈しみの眼差しで見守っていた……





力こそがすべて――とされるこの世界において、スーチャは、しいたげられるべき弱者であった。

身体が弱い。気が弱い。魔法も使えず、武術も修めていない。
こと戦闘という分野において、スーチャはまぎれもなく最下層に位置する存在だった。

スーチャは、両親とともに辺境の街で仕立て屋を営んでいた。
常に強者の顔色をうかがい、媚びへつらいながら過ごす日々だった。
そうしなければ、スーチャのような弱者は生きてはいけなかった。

「ウチの一族もな、昔、ご先祖さまが竜と契約して、強ォーー大な竜力を
手に入れてな、それこそ一国を治めるほどで……」
酔っぱらうと、父はよくそんな話をした。
しかし、その力は世代を経るにつれ失われてしまったらしい。
今は、名残として背中に翼が生えているだけだ。

ある日、粗暴な客が、店で売っている衣服の値段に文句をつけた。
見るからに強そうな相手だった。父は平謝りしたが、相手は怒りを収めることなく、とうとう剣を抜き放った。

「だ、だめえっ!!」

スーチャは、覆いかぶさるようにして父をかばった――
――次の瞬間、彼女の腕から膨大な魔力が吹き荒れたかと思うと、粗暴な客を勢いよく吹っ飛ばした。
それが、スーチャの“竜腕”の目覚めたきっかけだった。

どうやら、失われたと思っていた竜力が、スーチャの身に先祖返りしたらしい。
それも――スーチャの体質と相性がいいのか、並みの竜人をはるかに上回る力が発揮されていた。

ただ、スーチャ自身があまりにもひ弱であるために、あふれ出る竜力をまともに制御できなかった。
 “竜腕”は、スーチャの防衛本能に敏感に反応し、自動的にその力を発動させた――
臆病な少女は、ことあるごとに竜腕の威力を詐裂させてしまうこととなった。

街の人々はスーチャにひれ伏し、貢ぎ物を捧げさえした。
スーチャの機嫌を損ねるまいと、あるいはスーチャに気に入られようと、
誰もが媚びた笑みを浮かべて、顔色をうかがってきた。かつてスーチャがしていたように。
スーチャが竜腕を制御できない以上、人々は、彼女を刺激しないように努めるしかなかったのだった。

正直――制御できない、そもそも自分の実力ですらない力のために畏れ敬われるというのは、
とてつもなくいたたまれない気分だった。
弱いくせに、人々に貢ぎ物を捧げさせてしまう自分が、ひどく邪悪な存在に思えてならなかった。

「このままじゃだめ……私、この竜腕を制御できるようにならないと!」

スーチャは一念発起した。旅に出たい、と告げると、優しい両親は笑顔で送り出してくれた。
自らの力で竜腕を制御するため――スーチャは、決意を胸に旅立った。

――なお。
その後、「臆病な弱者にしか見えない態度を装っておいて、
襲いくる狼籍者たちを強烈に叩きのめす猛者少女」の噂が、世界中に流れることになる。





本能と力が支配する世界――
強者が弱者を屈服させることが正義とされる、弱肉強食の世界。
それを、パメラは疑問に感じていなかった。そういうものだと、当たり前のように思ってきた。

彼女は領主の娘として生まれた。竜人と契約した祖先が、力ずくで勝ち取った領だ。
領民たちは頭を垂れ、自ずと税を捧げていた。
パメラの一族には祖先の得た竜力が受け継がれており、決してかなわないと知っているからだ。
弱者がこの世界で生きていくには、強者におもねるしかない。

祖先は、苦難の果てにこの力を得たのだ。
強くあるために努力をした者が、そうでない弱者を屈服させるのは当然の権利であり、正当な財産だ。
祖先の努力は、祖先の遺してくれた力は、パメラの誇りだった。
街に降りると、領民たちは幼いパメラにも一様に頭を下げた。なんとも気分の良いことだった。

パメラは同年代の子らに混じり、意気揚々と彼らに命令を下しながら存分に遊ぶのが好きだった。
特に、セーナという少女がお気に入りだった。いつもパメラの後ろについてきて、パメラが望めばいつでも遊び相手になってくれた。

ある日、いつものように遊び場に向かうと、セーナの姿がなかった。
他の遊び仲間に問いかけると、彼らは重々しい□調で答えた。

「セーナは……もう来ません」
「な――なぜだ? 私は、そんな命令は出しておらんぞ!」
「命令されても、来られないんです。セーナは……遠いところへ行ってし
まったから」

セーナの父は乱暴な遊び人で、金がなくなるたびセーナの母にせびりに来ていた。
そしてついにセーナの家の金が尽き、父は強引にセーナを連れて街を出たのだと言う。
どこかでセーナを売りさばき、その金で遊び暮らすつもりなのだろう。
みな、そうわかっていた。しかし止められなかった。セーナの父親は強かったから。

その話を聞いて――パメラは愕然として理解していた。
か弱いセーナは、ひどい未来が待っているとわかっていても、強者たる父親に抵抗さえできなかった。それがこの世界の理だからだ。
今、パメラは初めて、この世界のありように恐怖を覚えていた。「セーナの身になって考える」ということができたからだった。これまで得意になっていた自分を刺し殺したくなるほどの、猛烈な慙愧の念がパメラを襲っていた。

その後、パメラは矢のごとくセーナの父を追い、圧倒的な力を以ってセーナを奪った。
そして、泣きじゃくるセーナを胸に抱き、決意の叫びを上げた。

「私は……私は、あんな強者にはならない!
 なるものか……なってたまるものか! おまえを悲しませるような強者などに……!」

    * * *

――十数年の時が経ち、パメラは旅に出た。見聞を広めたいと思ったのだった。
鎧をまとい、槍を携え屋敷を出るパメラは、見送る侍女に穏やかに笑いかけた。

「行ってくる。留守を頼むぞ、セーナ」
「お帰りをお待ちしております――パメラさま」

侍女となったセーナは、心からの笑顔で応えた。
強者と弱者。しいたげる者としいたげられるべき者。
その関係にありながら、ふたりの間には、確かに分かちがたい絆があった。





バスの身体には、強力な竜の力が宿っていた。
遠い祖先が竜に挑み、契約の果てに得た力だ。

竜人の力は、契約した竜の強さに大きく依存する。
そして、バスの祖先が契約した竜は、きわめて強大な個体だった。

その力を受け継いだバスは、幼い頃から負け知らずだった。
自分なら、伝説の竜人と呼ばれるクロード一族にだって負けはしない。
バスは、そんな自信にあふれていた。

少年の頃、バスは多くの強者に挑み、勝利を飾るのを趣味としていた。
自分よりはるか歳上の相手を打ち負かすのが、楽しくて仕方なかったのだ。
そして、ある時、いかにも歴戦の猛者といった風格を持つ壮年の戦士に挑んだ。

結果はバスの敗北だった。手も足も出なかった。
それだけでも驚きだが――相手が竜力をほとんど使わず、純粋な武の技を
以ってこちらを圧倒したことにこそ、バスは心底から驚嘆した。

「確かに、おぬしは強い力を秘めておる」猛者は泰然と言った。
「されど、技量が伴っておらぬ。いかに強い力を持っていようと、
ああもぞんざいな使い方をするのでは、見切られるは必定と心得よ」

バスは感銘を受けた。竜力の強さこそ勝利の条件だと思っていた。
その常識を覆されて、悔しさよりも屈辱よりも、すごい、という素直な尊敬の念が湧き上がっていた。
次の瞬間には、バスは平身低頭、猛者に弟子入りを願っていた。

それからバスは、猛者のもとで武術の修業に明け暮れた。

武とは、持てる力を効率的に、かつ最大限に引き出すための技。
これまでバスは思うまま竜力をまき散らしていたため、狙いも適当で力のロスも大きかった。
しかし、先人たちが長い時をかけて編み出してきた武技を学ぶことで、
常に竜力を最適な形で振るうことが可能となった。

学ぶべきは戦いの技ばかりではなかった。師は、精神修養こそ武の本質であると告げた。
心は常にくもりなく、澄んだ水面のごとくあるべし。かくあればこそ、真の強者たるものの威厳と貫録が宿る。
武技を培い己の力を高めるは、いかなる事態にあっても平静を保つための手段に過ぎぬ。
確固たる強さと威厳を備えれば、自ずと誰もが強者と認めよう――

本能と力が支配する世界にあって、師の言は異質なものだと言えた。
だが、バスは抵抗なく受け入れることができた。
バスと戦った時、師は泰山のごとく動じず、冷静沈着にこちらの攻撃をさばいていた。
力で勝る相手を技で破ることができるのは、常に最適な技を繰り出す
明鏡止水の精神があってこそだと、バスは身に染みてわかっていたのだ。

やがて、バスは師から免許皆伝を告げられた。
「世界には数多の強者がひしめいておる。
 彼らと拳を交えることで、おぬしはさらなる武の高みを目指すことができよう。だが――」
「承知。抱くべきは敬意であって憎悪にあらず。いかなる敵をも師と思い、存分に学ぶべし」
答え――青年となったバスは、ニッと悠然たる笑みを浮かべて見せた。

「いかなる強者と出会い、己を高められるか……それがし、待望の極みにござる!」





水竜ジャスクスは、おそろしく荒い気性で知られていた。

彼は、己が縄張りを侵されることを何よりも嫌っていた。
棲みかたる湖の周辺に不用意に立ち入る者には、苛烈な制裁を加えてきた。
やがて、湖の周辺ば蒼竜の聖域、と呼ぱれ、誰も踏み入ることはなくなった。

――にも関わらず、ひとりの女が現れた。
それも、うっかり縄張りに入ってしまった、という風ではなかった。
堂々たる足取りで、まっすぐにジャスクスのいる湖を目指して歩んできたのだ。

水面を割って姿を現したジャスクスは、憤怒にまみれた惘喝を放った。
『女――その不遜、己が命であがなわねばならぬと知っての所業か?』
「よほど縄張りが大事と見ゆるな、蒼き竜」
女は唇を歪めて笑った。
「それでよい。それでこそだ。そんな貴様の力こそ、私の求めるものなのだ」
『戯れよるわ!』
赫怒に駆られたジャスクスは、魔力を以って湖の水を練り上げ、女へと放射した。
岩盤すら砕き散らす波濤の一閃を、女は軽やかにかわし、剣を抜いた。
それを皮切りに、ふたりの戦いが始まった。

ジャスクスの猛攻は、当たりさえすれば女を一撃のもとに絶命させるはずだった。
しかし、女は身軽な動きで、ひらひらと攻撃をかわしてみせた。
一歩間違えれば死が待ち受けているという状況にありながら、その動きに乱れはなかった。


「私は契約を望んでいるぞ、蒼き竜!」
飛来する水流の矢をかいくぐりながら、女は叫んだ。
「我は王族! 強者を正義とするこの世界において、国を守るためには力がいる!」
『ゆえに我が力を欲すと言うか!』
「そうとも! 縄張りを守るおまえの力、それをこそ望むのだ!」

幾度めかの水流をかわすと同時に、女は鮮やかな跳躍を見せた。
地を蹴り、ジャスクスの身を駆け上がるようにして、高々と舞う。
そして――ジャスクスの鼻の上に降り立つと、ぴしりと剣の切っ先を突きつけた。

静寂が訪れた。どちらも動きを止めていた。神話を描いた壁画のようだった。
『……斬らぬのか』
怪冴そうにジャスクスが告げると、
「このなまくらでは、貴様の鱗に傷もつけられまいよ」
女は、あっさりと告げた。
「私が欲するのは、縄張りたる国を守る力であって、外敵に攻め入る力ではない」
『貴様……その意を示すがため、我が攻撃を避け続けてみせたのか?』
「語るより、わかりやすいかと思うてな」

平然と言う女に、ジャスクスはあきれた。
同時に、どこかおかしみを感じ始めている自分に気づいた。
『クク――短小なる人の身に留めておくのが、惜しいほどの肝よ』
「自分でもそう思う」女は笑った。「だからここに来たのだよ」
『いいだろう』
ジャスクスもまた、喉の奥で笑った。
『汝の気概、我ここに認めり。汝と契約し、我が力を授けよう――』

    * * *

――数百年の時を経て、ジャスクスは女の子孫と避遁することになる。
身に余る力が宿った竜腕を、必死に制御するか弱き少女。
あの女とは似ても似つかぬはずながら、なぜか目を離さぬ何かがあった。
彼女が何を守り、何を見出すのか。
その答えを見極めるべく、ジャスクスは、少女に過酷な試練を授ける――





竜とは、この本能と力がすべてを支配する世界の体現のごとき存在だった。
本能のままに生き、喰らい、大いなる力を以って数多の弱者を屈服させる。
雷竜ゲドゥザもまた、そんな竜の1頭として生きてきた。

さらなる戦いを求めて世界をさすらっていたゲドゥザは、ある人間の老夫婦と出会った。
彼らは手練れの宝石細工師であり、原石を巧みに研磨し、飾りつけて、見
事な装飾品へと仕立て上げるすべに長けていた。
竜とは元来、宝物の類を好むものである。ゲドゥザは老夫婦の腕前を気に
入り、自分のために見事な装飾品をこしらえるよう脅した。

「畏れながら、竜どの。かように怖いお顔をされていては、手が震えてノミが撃てませぬ」
「どうか落ち着かれますよう。ささ、こちらの地酒はいかがかな」
老夫婦は、竜に脅されているというのに、始終にこにことしていた。
酒を勧められては呑まぬわけにはいかなかった。竜は酒の類も好むのである。

かりそめの人の身に変化し、ちびちびと酒を味わいながら夫婦の作業を待った。
夫婦は培った技術のすべてを費やし、鬼気迫るほどの集中力を見せた。
そのさまは霊妙なる儀式のようですらあった。ゲドゥザは思わず見入っていた。

やがて、ゲドゥザのための宝飾の腕輪が完成した。
あまりに見事な出来栄えに、竜は思わず唸った。素晴らしい、という言葉ですら足りなかった。
あの作業のさまを見れば、凄まじい、と形容するしかなかった。
ふつふつと、己の内に湧き上がる感情があるのに、ゲドゥザは気づいていた。

「俺にも、できるだろうか」気づけば、おそるおそる問うていた。
「貴様たちのように……こうも見事な品を生み出すことができるだろうか」

それからゲドゥザは、夫婦の細工の業を習い始めた。
極限の集中を以って原石を加工し、金銀を編んで精緻な意匠と織りなしていく。
すべてを打ち砕く戦いの業とは対極の行いに、ゲドゥザは本気で熱中した。
老夫婦は、にこにことゲドゥザに業を伝授し、ゲドゥザもいつしか笑みで応じていた。

――ある時。
旅の途中、腰の悪い老夫婦の代わりに川から水を汲んできたゲドゥザは目を見張った。
武装した一団が老夫婦を取り囲み、短剣を突きつけていた。
先頭に立つ男が、ぎらつく眼でゲドゥザに言った。

「貴様がゲドゥザか。この夫婦の命が惜しければ、俺と契約し、力を授けよ」
「下劣な……なぜ堂々と俺に挑まぬ!」
「力さえ手に入ればそれでいい」男は冷笑した。「この世界ではそれがすべてだ」

男の瞳には、狂おしいほどの力への渇望があった。
それはかつて、ゲドゥザにも宿っていたはずのものだった。
いつしか、自分のなかのそれが跡形もなく消え去っていることを、ゲドゥザは自覚した。

「……承知した。契約をしてやろう。だから彼らを離すがいい――」

深く嘆息しながら、ゲドゥザは答えた。
視線は男の足元に向いていた。男は、夫婦が落とした見事な装飾品を、無造作に踏みにじっていた。
力だけに焦がれ、美しきものに感銘を受けることのない男の姿に、ゲドゥザはあわれみすら抱いていた。

    * * *

――数百年の時を経て、ゲドゥザは男の子孫と迦遁することになる。
あの男とは違い、ただ強くあることを嫌って、真なる強さを求める少女。
彼女の魂に、あの老夫婦の業を見た時のような鮮烈な感嘆を覚えたゲドゥザは、ある試練を課すのだった――





いかにして己の力を高めるか。
炎竜レツィーユは、それだけを考え続けてきた。

世界の習わしに従い、本能のままより強い敵と戦い、打ち負かす。
ずっとそれを繰り返してきたレツィーユは、竜族のなかでも屈指の力を得
るに至った。
だが、まだ足りない。もっと力を高められるはずだ。
飽くなき欲求が、レツィーユを衝き動かしていた。

ただ、問題があった。
強敵と戦えば戦うほど強くなる――それが竜のサガである。
だが、今のレツィーユにとって“強敵”と呼ぶにふさわしい敵は、もはや世界にほとんどいなくなっていた。
もしも彼らと戦い、打ち勝ってしまえば、もう自分は強くなることができなくなる……

悩んでいた時、レツィーユは、ある竜が人と契約し、力を与えたという話を聞いた。
竜と契約した者ば竜人、と化し、授かった力をさらに強く練り上げていくのだという。

これだ、とレツィーユは思った。
己の力を強き人間に授ければ、その人間はどんどん力を練り上げていくだろう。
そうやって“強敵”を“育成”していけば、自分は永遠に強さを求められる。

レツィーユは、さっそく強き人間を探し求めた。
強大なる晃翼灼竜レツィーユが契約者を求めているという噂は、
すぐに世界全土を席巻し、我こそはという猛者たちが、次々と現れた。
そのほとんどは、まるで見込みがなかったが……
ひとりだけ、おそろしく好戦的な男がいた。


「かはは――くっははははははは!」
レツィーユの猛烈な打撃を受け、満身創痍となってなお、男は愉悦に吼えていた。
 「楽しいぜ――おい! 楽しくて楽しくてたまんねーぜ! くははははは!」
何度倒されようとも立ち上がる、不屈なる意志。
倒されるほど盛んに燃え上がる、戦いへの愉悦。
この男なら、自分の竜力をどこまでも練り上げてくれるだろう――実力も、人間にしては申し分ない。

遠い未来、“強敵”と化した男の子孫と立ち会うことへの喜びを覚えながら、レツィーユは高らかに宣言した。

『おまえを契約者として認めよう。我が力、受け取るがいい!!』

    * * *

――数百年の時を経て、レツィーユは男の子孫と避遁することになる。
だが……

「やや、貴殿が我が先祖と契約された竜にござるか! その節は、先祖がお世話になり申した!」

現れた“強敵”は、からからと朗らかに笑った。
あの男のような相手を想像していたレツィーユは、思わず硬直したが、動揺を押し隠して対峙した。

『我と戦えば、おまえはさらなる力を得られることになる。さあ、おまえの力を見せてみろ!』
「いや、申し訳ない。先日、我が力はほとんど消え去ってござる」
『……は?』
「そんなことより、レツィーユ殿。この近くに、まこと悪辣な盗賊団が砦
を構えておってな! 世のため義のため、かの者らの討伐にお力をお貸しいただきたい!」
『義……? なんだそれは?』
知らぬ単語に首をかしげると、青年は、自信に満ちた笑みで答えた。
「強さの秘訣にござる!」

――そうと聞いては、その“義”とやらがなんなのか、確かめないわけにはいかない。
それに、青年が竜力のほとんどを失っているというのであれば、
それを取り戻してやらぬことには、“強敵”と戦う機会を得られなくなってしまう。

レツィーユは、しぶしぶ青年と行動を共にすることになる――






赤ん坊の彼女は、霊山に捨てられていたという。
本来なら生きていけるはずもなかったが――ロドムという竜が彼女を拾った。

大地の竜力を安定ならしめる努力を長いこと続けてきたロドム――
家屋ほどの体躯に、長さ時を経てきた巌のごとく剛健なる鱗を持ちながら、
穏やかにして優しい瞳を持つ古き竜。
赤ん坊は、その竜の子として生きることとなったのだった。

ロドムは、赤ん坊にイェルノーという名前を授け、慈しんだ。
イェルノーは生まれつき身体が弱かったため、ロドムは赤ん坊の彼女と契約し、
己の力をゆっくりと注ぎ続けることで健康をもたらしてやった。

イェルノーはすくすくと育った。遊び場たる霊山をやんちゃに駆け回り、あるいは翼で飛び回った。
ロドムは彼女の親代わりとして、時に誉め、時に叱り、そしていつも愛情を注ぎ続けた。

「なあ、ロドム。あんたさ、なんで竜力の調整なんてやってんの? 誰かに頼まれでもしたわけ?」
ある日、幼いイェルノーが素朴に問うた。

『そういうわけではない。その素質を持つ者は我をおいて他になく、我が
やらねば世界は崩壊してしまう……我とて死を望むわけではないからな。
仕方なくやっているのさ』
「ふうん……でも、ずっとここにいるなんて、退屈じゃない?」
『まあな。だが……』
ロドムは目を細め、イェルノーの頭をそっと撫でた。
『今はおまえがいる。退屈する暇もないさ』
その言葉に、イェルノーは「いぇへへ……」と照れたように笑った。
「んじゃ、あたしがずっとそぱにいてあげるよ! あんたがさびしくないようにさ!」

――十年ほど経った頃、異変が起こり始めた。

『大地の竜力が激しく乱れている……』ロドムはうめいた。『竜力を持つ
者が増え、野放図に力を使った影響か……』

乱れた竜力を調整するため、ロドムは必死に精神を集中した。
竜のためにイェルノーがしてやれることはなかった。せめて、そばにいてやることくらいしか。

ロドムは日に日に樵悴していった。
彼がそこまで力を振り絞っても、竜力の乱れはとどまるところを知らなかった。

イェルノーは、やせ細ったロドムの身体にすがりついて泣いた。
「もう、もうやめようよ、ロドム! 無理だよ! このままじゃ、あんたが死んじまうよ!」
『我がやらねば、世界は崩壊する。ここでやめても、座して死を待つのみだ』
ロドムは浅い呼吸を繰り返しながら、イェルノーの頭をなでた。
『させてくれ、イェルノー。おまえが生きる、この世界を守るために……』
イェルノーは答えなかった。嗚咽する以外、どうすることもできなかった。

いつしか、イェルノーは泣き疲れて眠っていた。
ぼんやりと、彼女は夢を見た。まだ異変が生じる前の霊山の夢を。

1頭の竜が――ロドムが歩いていた。イェルノーは慌ててその後を追い……
そして、見た。
ロドムが、1人の赤ん坊を拾うのを。ロドムの前に、1人の男がいるのを。

「この子は長く生きられぬ……」男は泣いていた。
「もはや、あなたにすがる以外にないのだ……勝手とわかってはいるが――」
『引き受けよう』
驚いて見上げる男に、ロドムは笑った。
『ここにいると、退屈でかなわぬ。幼子の面倒を見るは、長さ無聊のなぐさめとなろう――』

イェルノーは、ハッと目を覚ました。
傍らにいたはずのロドムがいなくなっていた。

慌てて見回すイェルノーの頬を、頭を、何かがそっとなでていく。
風だ。
淡く輝く優しい風が、イェルノーの周囲に吹いている。

光の風は――ぼんやりと、見慣れた竜の姿を形作っていた。

「あ……」

消えていく――薄れていく。風が、ほどけるように宙へと溶ける。
最後まで、イェルノーを案じるようになでながら。

「ああ……ああああああーーあああああああああっ……!!」

膝を着き――イェルノーは咆啼した。

力尽きるまで――命尽きるまで、魂を振り絞って竜力を抑えようとしたロドム。
このまま世界が消えてしまうなら……その遺志はどうなる?
ロドムの奮闘は、無為なものと終わるのか?

「させる……ものか!」

涙をまき散らすようにして、イェルノーは叫んだ。

「何も残らないなんて……そんなことにさせるものかっ!
 なんとしてでも――残すんだっ! ロドムの……世界の存在した証を!!」





――霊山ロドムの山頂は、緊迫の雰囲気に包まれていた。

いつも通り、竜力制御の練習に励むアニマと、彼女にロドムの語っていた
コツを教えるイェルノー……そして、そんな2人を見守るミネバ。

その前に、見慣れぬ竜人の少女が現れ、告げたのだ。
自分こそ、『均衡を保つ者』ロドムの後継者である、と……

「わたしはナフィーヤ」
吹き荒ぶ風のなかにありながら、少女の声音はよく通った。
「死に瀕した『均衡を保つ者』ロドムが『切り離し』た竜力の化身……」

「なんだって……!?」驚くイェルノー。「じゃあ、あんたもアニマと同じ……」
「そう――意志を持った竜力です」
答え、ナフィーヤは、じっとアニマを見つめた。
アニマはナフィーヤを見返しつつも、警戒するようにミネバの後ろに隠れている。

「ロドムに代わって世界の竜力を安定させるため、わたしは生まれた……」
ナフィーヤは、すっと目を細めた。
「世界の終焉が早いか、わたしが十分な力を得るかが早いかは、きわどいところでした。
ただ、あなたがたのおかげで、ひとまず安定は保たれ、こうしてわたしは顕現できた……」

ミネバが首をかしげる。「では、これからはあなたが竜力の調整を……?」
「いえ。何が起こるかわからぬ以上、できればそちらの化身にも引き続き
協力を願いたいと思っています。……。ただ」


アニマを見すえ、ナフィーヤはゆるりと身構えた。
「この世界を背負う覚悟が、あなたにあるかどうか……確かめさせていただきます!」
「か、かくご?」アニマは、あたふたと慌てる。「よ、よくわかんないけど……あたし、ちゃんとがんばるよ!?」
「それができるかどうか、心根を確かめると言っているのです……行きます!」

ばさり、と背中の翼をはばたかせたかと思うと――
ナフィーヤは、團風と化してアニマに突撃した。
「っ……!」「うひゃあっ!?」
ミネバとアニマは、互いに突き飛ばし合うようにして突撃をかわす。

「おいおいおい」イェルノーが頭をかく。「ロドムはそんな乱暴者じゃなかったよ!?」
「ロドムの後継者ではありますが、あくまで私はナフィーヤです」彼女は地面に降り立ち、冷然とアニマをにらんだ。「世界を守るためなら、どんな過酷な試練でも課します」

「むうううう~!」
憤然として、アニマも身構えた。
「かってばっか、いっちゃってさ! もーおこったんだから! ぶっとばしてやる!」
「短絡的で直情径行ですね。それで世界を背負えるつもりですか?」
「よくわかんないこといって、こんらんさせよーったって、きかないもんねー!」
べえっとアニマが舌を出し――
2人は同時に詠唱を開始した。

「汝、敬神の是のなくは、命の熱さを失いて、吹雪く闇路に虚ろうべし!」
「ふるえよこがれよくずおれよ! ほむらひしめけ、ななつにじー!」

ナフィーヤのあらわす吹雪と、アニマのあらわす烈火とが、真っ向から激突した。

水と炎の魔力なら、炎の方が不利となる。その理に従い、吹雪は烈火を圧倒しつつあった。
涼しい顔をしているナフィーヤに対し、アニマは強く奥歯を噛みしめている。

「アニマ!」ミネバが思わず声を上げると、
「こおん……のおおおおおー―――っ!!」
アニマの翼が黎明のごとく輝き、炎の勢いがいや増した――


「こーけーしゃだかなんだか、しんないけどさ!
 あたしは、みねばといっしょにがんばって、それでここまできたんだからっ!」
アニマは、万丈の気炎を噴き上げる。
「もんくなんかっ……、いわせるもんかぁーっ!!」

ばきいんっ……と、ガラスの砕けるような甲高い音が響いた。
属性の不利を覆し、アニマの魔力がナフィーヤの魔力を相殺したのだ。

ぜえぜえと荒い吐息をつきながらも勇ましく身構えたままのアニマに対
し、ナフィーヤはおもむろに構えを解いた。

「……いいでしょう。唱える理屈の単純さが気になりますが、意気は認めます」
「ふんだ。どーせ、ひとりでちょーせーするのさびしいから、てつだってほしいんでしょ」
「なっ……、へ、変なことを言わないでください! そんなのじゃありません!」
「へーん! むきになった、むきになったー!」

からかうアニマに、憤然と怒るナフィーヤ。
新たなる世界の黎明を司る竜力の化身……としては幼すぎるやり取りに、
ミネバとイェルノーは苦笑を交わし合う。

……と。

「おーい!」

山道の方から、野太い声が響いた。
見れば、2人の若者が、それぞれ幼い男の子を連れて登ってくるところだった。

ミネバが目を丸くする。「ザッハ、レガート!」
「へ?」すっとんきょうな声を上げるイェルノー。「それって確か……」
「はい。私の弟たちです」

直後、2人は思わず沈黙し、顔を見合わせた。

――数日前まで、世界の異変のため、強き竜人たちの力は暴走していた。
ミネバが暴走をまぬかれたのは、とっさに竜力の一部を切り離したためだった。
そして、その竜力が意志を持ち、成長して今のアニマとなったわけだが――


ザッハ・クロードに、レガート・クロード。いずれ劣らぬクロード家の血族たち。
ミネバ同様、並みならぬ能力を持つ彼らもまた同じようにして難を逃れていたとしたら、
傍らにいる2人の男の子は……

「…………」

沈黙したまま、ミネバとイェルノーは、アニマとナフィーヤに視線を戻す。
あかんべーをして逃げるアニマを、ナフィーヤが追いかけているところだった。

「はは……」
イェルノーは、乾いた笑いを響かせた。
「なんか……世界が安泰になる代わりに、あたしの苦労がとんでもないことになりそうだ……」
「――仕方ないですね」
がっくりと肩を落とすイェルノーの隣で、ミネバが不敵な笑みを□元に刻んだ。
「ここはひとつ……あの子たちに、姉の威厳というものを見せつけておきましょうか」

そして彼女は、なおもケンカを続けるアニマとナフィーヤの方へ、おもむろに歩き出していった……


    * * *

――本能と力がすべてを支配する異界。
たそがるる世の果てに、貴き竜神、顕現す。
すなわち、地の竜力を司る4柱の竜神である。
彼らは東西南北の四方をそれぞれ守護し、世界に安寧をもたらしたという。

ただ……
そんな彼らの誰ひとりとして、頭の上がらぬ竜人がいたとも言われているが――
真実は、今や伝承の彼方である。









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