狼たちと鮮血ずきんさん Story

 
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<ウィズセレクション【祭】Legend with 狼たちと鮮血ずきんさん>
2017年 10月6日 16:00 ~ 10月13日 15:59

目次

Story1 盗んだものって……
Story2 禁断の出会いかも
Story3 悩むと爆発しちゃう
Story4 ふさふさは魅力
最終話 狼姫と赤ずきん





story1 盗んだものって……


「ほう、この宝石は、良い品物ですな。これなら、うーん……金貨30枚は出せそうです。どうされますかな?」
「いくらでもいいぜ。どうせ、その宝石は俺の物じゃないからな。」
「相変わらず、悪い男ですなあ。ま、私は品物が手に入ればいいので、出所は訊かないでおきますよ。はい、金貨です。」
「その金貨は俺にじゃなくて、故郷にいるチビ共に送ってくれ。……って、いつも言ってるだろ?」
「ああ、そうでしたね。じゃあ、この金貨は、私の責任でちゃんと送っておきますよ。」
「頼むぜ。」

商人は、ラグールから買い取った宝石を大事そうに懐にしまうと、軽く会釈してから立ち去った。


「ふっふっふっ……。
ふっふっふっ……。はーっはっはっ!
あの間抜けな貴族め、今頃家宝の宝石を盗まれたことに気付いて、目を白黒させているだろな!
やっぱり、盗みは最高だ!やめられねえぜ!」

王都の貴族たちを絶望のどん底に突き落としている大怪盗。
それが、このラクール・リオンだった。
盗みは、彼の仕事であり、生き甲斐だった。

「さてと。次はなにを盗もうかなっと。」
森の中の細い道を、一台の馬車が通りかかる。
「お? ちょうどいいところに、おあつらえ向きの獲物がノコノコやってきたぜ。一体、どこの貴族の馬車だ?」


「……。」

馬車の幌の隙間から覗いた少女の姿にラグールは目を奪われた。

 (ほう……あの耳の毛並み、エンシェントウルフ族の娘だな。可哀想に人間に捕まっちまったのか)
「でもよ。この大怪盗のラグール様に見つかった以上、素通りさせるわけにはいかねえよな!
俺様のこの「影脚」を使えば、馬なんて、地面を這うナメクジのようにとろく感じるぜ!」

風のように素早く。そして、影のように一切の音を発さず。
ラグールは、馬車の前方に回り込んだ。


「何者だ!? 掲げられているこの紋章が見えんか?これは、領主様の馬車であるぞ!」
「お前らこそ、俺の顔知らないのか?俺様は王国一の大怪盗! ラグール様だ!
俺様に賭けられた賞金の合計は、小国がひとつ買えるほどだぜ!知らなかったのなら、この機会に覚えておきな!」
「なにを……賞金首が偉そうに!」
「お宝のあるところ、俺様はどこにでも現れる。うちに帰って、お前のガキにも教えとけ!」

瞬きする間に、ラグールの手刀が兵士たちの首筋を打った。
領主の兵士たちは、なにが起こったのか理解する間もなく、その場に昏倒する。

「さてと……。獲物のご尊顔を拝見させて頂こうかなっと。」

邪魔者が居なくなったラグールは、さっそくお宝のツラを拝もうと馬車の幌を開く。


「がう! がう、がう……なの!」
ひとりの少女の半狼が、飛び出してきた。
姿は、人間そっくりだが、頭部に半狼であることを示す立派な耳が生えている。

「おいおい、それで吠えてるつもりか?威嚇にしては、迫力がなさ過ぎるぜ。なりは立派な半狼だが、まだまだ修行不足だな。」
「がう。がう! がう……がう……なの……。
やっぱり、私らしくなかったわね。反省する……。」
「素直なお嬢さんだな。そんなんだから人間なんかに捕まっちまうんだぜ?」
「でも、あなたが助けてくれた……の?」
「甘いな。俺は大怪盗ラグール様だぜ?俺は、他人を助けるなんてことはしねぇ。」
「じゃあ……。」
「俺様は大怪盗。盗むのが仕事だ。だから、今からあんたを盗ませてもらう。」
「あたしは、リコラ・ラレット。あんた、じゃないわ。」
「リコラか……半狼にしては、綺麗な名前だな。」
さてリコラ、盗ませてもらった以上、お前は俺の物だ。これからは、俺様の言うことを聞いてもらうぜ?」
「痛いことはしないで……。それ以外のことだったら、あなたに従うわ。」

うなだれたまま、リコラは力なく答える。
思わず、リコラのきらきらした光を放つ耳の毛や、宝石のように輝く瞳に目を奪われそうになった。
その美しさは、人間が大事にしている黄金すら色褪せて見えるほどだ。

「話が、早くて助かる。それじゃあ、行こうぜ。」

ラグールは、リコラの手を取って……。それから辺りを警戒する。

「音を立てないように静かに歩くんだ。実は、この森には、俺たち半狼の天敵がいるんだ。」
「あなたでも、恐ろしいものがあるのね?」
「まあなさすがの俺様も、あいつには手を焼かされている。だが、奴に見つからなきゃ問題ない――」


「ほよ? あなたの言う、“てんてき”ってどこにいるの?」

「うぎゃ!? で、出たな! 鮮血(あか)ずきんのメメリー!」
「鮮血ずきんじゃなくて、赤ずきん!人が聞いたら、勘違いするからやめて欲しいな。無職のお兄ちゃん?」
「誰が、無職だ! 俺様は大怪盗ラグール!そっちこそ、人聞きの悪いことを言うんじゃねぇ!
「でもでも、ラグールのお兄ちゃんは、ちゃんとした”定職”に就いてないんだよね?村のみんなが言ってたよ!
だったら無職も同然だよね? ね?」
「……そういうことに、なるのかな? いや違う。俺様は、大怪盗!仕事はちゃんとある!」

ラグールは、とっさに視線を走らせた。
逃げ道を探ったのだ。
この”悪魔”……いや、“魔王”のように恐ろしいこの少女から逃れるために――。

「だめだよ。無職のお兄ちゃん。人とお話してる時によそ見するのはさあ……。」

『影脚の怪盗』と呼ぱれ、王都の貴族たちから恐れられた大怪盗ラグールも、この『鮮血ずきん』メメリーには敵わない。

「ぐお……。」

彼を襲った悲劇――。
それは、銀の弾丸を打ち込まれたわけでも、十字架を掲げられたわけでもない。
ラグールを襲ったのは、強烈な拳の一撃。
肉眼で捕らえることのできない速さと重量が伴った……(腹パン)だった。


「悪い狼は、せーばい。せーばいだよ。無職のお兄ちゃん?」
鮮血ずきんメメリーは、ラグールの腹部に拳をめり込ませながら、あどけなく笑っていた。


story1-2



「やったね、悪い狼を捕まえたぞー!今夜の夕飯は、狼鍋だー!」
「……。」


「おや、メメリーちゃん。久し振りに狼を退治してきたのかい?」
「うん! 無職のお兄ちゃんが、働かずにぶらぶらしてたから、めっ! ってお仕置きしてあげたの。」

「おい、この狼男って、王都で噂になっている大怪盗ラグールじゃないか?憲兵隊が、血眼になって探しているという……。」
「まさか、そんな大物が、そう簡単に捕まるかいきっと狼違いだよ。」
「……そうか。」

メメリーは、半狼ラグールの首にさび付いた首輪を嵌めて、地面の上を乱暴に引きずっていた。
狼を退治するのは、赤ずきんを譲り受けたメメリーの使命。
そして、悪い狼に容赦は無用。
それが、尊敬する祖母からの教えだった。

「メメリーは、今日も悪い狼から、村を守ったのです!」
「ありがとうメメリーちゃん。はい、これ。少ないけどお礼ね……。」
村の住人は、メメリーに少額のお金を渡した。
「俺たちが平和に暮らせるのは、メメリーちゃんのお陰だよ。」
「そんなことないのです! メメリーはばっちゃんから受け継いだ赤ずきんの誇りを汚さ……べら!」
「……大丈夫?」
「ひてて……ちょっと噛んだだけです。そんなに思い詰めた表情で見つめないで欲しいのです。
噛んだときは、堂々としろ。逆に誤魔化すな。ばっちゃんの教えです!だからメメリーは媚びませんし、怯みません。
それじゃあ、これから捕まえた狼に石を食べさせて、川に沈める儀式がありますので、失礼します……。」

首輪に繋がれた鎖をつかむと、そのままラグールをずるずる引きずって歩きはじめる。

「あちち!あっちっちっちっ!」
「ほよ?まだ息があるの!?」
「ちっと気を失っていただけだ。全然死んでねぇ!つーか、摩擦熱が起きるぐらい、勢いよく引っ張るなよな! あー、熱かった!
おおい! この首輪はなんだよ!?よく見ると「犬用」の首輪じゃねえか!? 相変わらず、狼のプライドをズタボロにする術に長けてるなお前は。」
「ほよ? 狼に褒められたのかしら?」
「ほよ? じゃねえよ。一体、何度俺様を捕まえれば気が済むんだよ?」
「そんなの決まってるよ。お兄ちゃんが、まっとうな定職に就くまでだよ。」
「だから、前も言っただろ?俺は無職じゃないの! 職業は、怪盗なの泥棒して、生計を立ててるの!」
「チッチッチッ!泥棒は仕事じゃないって、ばっちゃんが言ってました。
メメリーは、騙されないのです!えっへん!」
「あのなメメリー、お前は知らないかもしれないがな?王都には、俺様のファンも沢山いるんだぜ?
なにせ俺は、貧乏人からは絶対に盗まない――金持ち専門の大怪盗だからさ。
中には、俺を義賊様だって崇める人も――あっついいっ!」
「動いちゃだめだよ。摩擦熱ってどのぐらい熱いのかなって、今調べてたところなんだから。」
「自分の身体で調べろ!俺の身体を使って調べるな!」
「お兄ちゃんは狼なんでしょ? どのみち、メメリーにせーばいされる運命なんだよ。どうせ死ぬんだから、実験したっていいでしょ?」
「残酷。子どもって、ほんと残酷。」

追い詰められたラグール。
彼の命運は、メメリーに握られている。まさに風前の灯火。
しかし、こうしてメメリーに捕まるのは、実は5回目。
捕まるたびにラグールは、なんだかんだメメリーの目を盗んで逃げおおせていた。

(だから、今回も上手いことメメリーを叫して逃げる隙を作ってみせるぜ。
俺は「影脚のラグール」と呼ばれた男。隙さえあれば、音もなく立ち去ってみせる!)

その時、ラグールは重要なことを思い出した。

「あ、そういえば、リコラのこと忘れてたぜ。」
「ほよ?リコラ……って誰?」
「俺が“助け出した”半狼の女の子だよ。ほら、俺と一緒にいただろ?」
「いたっけなあ?」
「いたよ。俺が、ここで死んだら、あのリコラは悪い主のところに連れて行かれちまう。それは、さすがに可哀想だろ?」
「うーん……。」
「可哀想だよな? な?」
「でも、その人も狼なんでしょ?」
「ああ、そうだ。狼ってより、半狼だけどな……。」
「狼は悪い奴ら、絶対に退治するべきだってばっちゃんが言ってた!
赤ずきんのメメリーが、狼を助けるのは変だよね? ね?」
「問答無用で、半狼は悪い奴だと決めつけるのか?」
「うん!狼は、この世から絶滅するべきだよ。だって、ばっちゃんがそう言つてたもん!」

澄んだメメリーの瞳を見て、悪い冗談を言っているのではないと感じた。

「メメリー……。」
「ほよ?どちたの?」
「どうか、命だけは勘弁してください!」

ラグールは、地べたに額を擦りつけた。
見栄も誇りも、この期に及んでは不必要なものだ。

「お兄ちゃん、命が惜しいの? 狼なのに?ねえ、どうして悪いことしたのに命乞いするの?許して貰えると思ってるの? ね? ね?」
「思ってません! でも、俺様は生きたいんです!ここで逝きたくはないんです!」
「じゃあ、命までは取ってあげる。それで許す! メメリーが決めました!」
「それって、殺すってことだよね!?頼む! それだけはなにとぞ勘弁を!
置いてきたリコラを助けたいんだ!あいつをのたれ死にさせたくないんだ!」
「うーん。そうか。のたれ死には可哀想だよね……。うーん。」
 (お、躊躇しているな。リコラを出汁にして、もう一押ししてみるか)

「とにかく一度、さっきの場所に戻ろうぜ。リコラを助けられたら、俺はどうなってもいい……。」(嘘だけど)


story2 禁断の出会いかも


「ううっ……喉が渇いたわ。水飲みたい……がう。」

取り残されたリコラは、水場を求めて森の中を彷徨っていた。
リコラだって半分狼の血を引いている。
だから、大自然の中で生きて行くための基本的な術には長けていた。


「ふあ~。綺麗な狼……。」
「あの子は、可哀想な半狼なんだ。あの子が安全に生きていける日が来るまで、守ってやりたいんだよ。」
「あの人は、本当に狼なの?あんな綺麗な狼みたことないよ……。どうしてだろう、心臓がどきどきしてきた。」
「顔が赤くなってるぞ? 平気かお前?いや、平気じゃない方が、俺にとってはありがたいんだけどな。」

ふたりの気配に、リコラが気付いた。

「そこにいるのは、誰?」
「俺だ!ラグールだ! 驚かせちまって悪いな?」
「よかった、生きていたのね?突然、連れてかれたからびっくりしたわ。」
「まあ、命綱一本で、やっとこさ繋がってる命だけどな。」
(なんとか、リコラを利用して、生き延びる方法を考えないと……)

その時、リコラは、ラグールと共にいるメメリーの存在に気付いた。

「そこにいるのは……まさか人間!?うううっ、がうがう……なの!
「リコラ。落ち着いてくれ。こいつは……って、おいメメリーどうしたんだよ?


メメリーは、ラグールの背中に身を隠している。
そして恥ずかしがる子どものように、ちらっとだけリコラに対して顔を覗かせる。

「あ、あなたは……狼なのですか!?」
「そうよ。正しくは、半狼だけどね。がうがう……なの!ほら、怖いでしょ?」
自分の吠え声には、人を畏怖させる効果があると思つているリコラは、「どやっ」と胸を張っているが……。

 (なんだか、今までの狼とは印象が違って、すっごく可愛いな。それに、とても綺麗……
ううつ。なんてだろう? リコラを見てるだけで、暖かい気持ちになってきて胸がドキドキしてくるよ。
お母さん……。そうだ。死んだお母さんが夢に出てくる時、いつもこんな風にドキドキしちゃう……)

「もしかして、リコラに興味があるのか?」
「メメリーは、狼退治の専門家赤ずきん様ですよ!それが、リコラを見てドキドキするなんて、あり得ないのです! うんうん!
それに狼は悪い奴。絶対に倒さなきゃいけないって、ばっちゃんが言ってたもん!」
「それは、あなたのおばあさまが間違ってるわ。」
「ほよ?そんなことないよ!」
「人間にだって、悪い人もいい人もいるでしよ?半狼も同じよ、悪い奴もいるし、良い奴もいるの。」
「じゃあ、リコラは……?」
「どっちかしら? 少なくとも悪い半狼じゃないと思っているわ。」
「うーん……。」

赤ずきんを両手で覆って、メメリーは深く考え始めた。
赤ずきんを受け継ぐものは、狼退治の達人として生きるのだと、祖母から教育されてメメリーは成長した。
狼は絶対の悪。人に害しかもたらさない悪い存在だと教え込まれてきた。

 (ばっちゃんの言うとおり、今まで出会った狼は、無職のお兄ちゃんのようなろくでもない狼ばっかりだったの……
でも、リコラは悪い狼には見えない。むしろ、いい狼に見えるよ……
ばっちゃんは、こういう時どうしたらいいのか、教えてくれなかった)

メメリーが、赤ずきんとしての己の存在と個人の感情の板挟みになっている隙に――。
(まさか、リコラの一言で混乱するとは、案外ちょろかったな。今のうちに逃げさせてもらおうか)

「きっとあなたは、半狼のことを誤解されているのですね。誤解を解くには、お互いを知るのがー番です!
名前は、メメリーというの?ねえ、メメリー、私と友達になりません?私も人間のこと、もっとよく知りたいし……。」
「と……友達?メメリーと?ほええええっ!?」
「友だちとしてー緒に行動することで、お互いを理解できると思うの。ね、いいでしょ?じゃあ、今日から私とメメリーは友だちね。」

こうして、メメリーに生まれて初めての友だちができた。


story2-2


「でもでも!友だちって、なにをするの?」
「あらメメリーは今まで、友だちと遊んだことないの?」
「メ、メメリーには、友だちは必要なかったのです。だって、狼退治で忙しかったし……。友だちなんて別にいらなかったの! 本当だよ?」
「私は、里に沢山友だちがいたわ。だから私か、友だちとしては先輩ね?教えてあげるわ。友だちって、どういうものかを。」
「う、うん……!」

 (なんだか面白いことになってきたぜ。リコラの影響で、メメリーの考え方が変われば、もう俺の邪魔をすることもなくなるかもな)

「メメリー、お腹空いてないかしら?友だちになってくれたお礼に、なにか食べ物をとってきてあげるわ。」
「食べ物!? 狼の食べ物といったら――。」
狼は悪い奴という先入観しかないメメリーは、人間の肉をむさぼり食うリコラの姿を想像してしまった。

「あそこに美味しそうな木の実が生えてるわね?ちょっと待ってて。すぐにとってくるわ。」
リコラは、近くの木の幹に爪を立てると、慣れた動作で上って行き――あっという間に降りてきた。

「はい! 新鮮な実が沢山採れたわ。ほら、メメリーも食べて。美味しいわよ!」
さっそく採った実を、口ー杯に頬張るリコラ。
それを見たメメリーも、恐る恐る透き通るように赤く熟れた実を口にした。
「酸(す)っ!
す……酸っぱい! けど、美味しいの!あの木になってる実がこんなに美味しいなんて、きっと、ばっちゃんも知らなかったの!」
「メメリーは、今まで食べたことなかったの?この近くに住んでいるんでしょ?」
「木の実は、あんまり食べないかも。」
「じゃあ、いつもなにを食べてるの?」
「狼退治をしたり、森を見張ってたお礼に村の人から、守り代を頂いてるの。」
「小さいのにメメリーは、自分の腕で稼いでるのね? 偉いわ。」
「偉い!? 本当に? メメリーは、偉いの!?」
「偉いわよ。私は……今までずっと周りにいる半狼たちに頼ってばっかりだったわ。ひとりになってようやく自分の無力さに気付いたの。
実は果物の採り方も、ついこの間まで知らなかった。今までずっと周りの半狼たちが採ってきてくれたから……。」

「エンシェントウルフ族の中では、良いご身分だったんだな?」
リコラは、力なく微笑み返すだけだった。
(このリコラって子、ひょっとして……)

「肉は? 今まで肉は食べなかったの?狼は、動物の肉を食べる奴らだって、ばっちゃんが言ってたよ。」
「私……お肉食べられないの。半狼なのに、変だよね?」
「確かにな。草食の半狼なんて、聞いたことがないぜ。」
「生まれつきお肉が食べられない体質で……だから、ずっと木の実とかキノコを食べてきたの。」
「無職のお兄ちゃんは、お肉食べるんだ?」
「もちろんだ。なにせ半狼だからな?」
「ふーん。やっばり狼なんだね。いつか人間の肉も食べるんだ……?いや、もう食べてるのかな?」

リコラに向けるのとは正反対の冷たい視線を感じて、ラグールは忘れかけていた自分の立場を思い出した。

「あ、いや! 違う! 俺も肉、嫌い! 大っ嫌い!
俺様、肉の話になるとじんましんが出てくるぐらい肉嫌いなんだ! ほら、ここ、じんましん!」
「半狼にだって色々いるのよ。メメリーにだって、好き嫌いはあるでしょ?
「うん……。実はメメリー、キノコが食べられないの。歯ごたえが、あるのかないのか、わかんないあの食感が苦手なの……。」
「それはきっと、いままで美味しいキノコを食べたことがないからよ。
今度私が、メメリーのために美味しいキノコを採ってきてあげるわ。」
「本当に? あ、でもだめ。キノコのことを考えると、いつもお腹の横が、むずむずしてかゆくなってくるの。」
「わかるわ。私もお肉のことを考えると、背筋がむずむずしてくるの。」
「リコラもそうなの?みんなから変だって言われたけど、やっばりむずむずするよね!?」
「私たち似たもの同士ね? うふふふ。」

リコラは、上の木の枝を見上げた。
美味しそうな木の実や果物は、まだ沢山実っている。


「今度はあの赤い実を採ってきてあげる。あれも美味しそうね!」
「あ、リコラ。」
「どうしたの?」
「……気をつけて。木から落ちたら危ないよ。」
「ありがとう。メメリーは、優しいわね。私を捕らえた人間たちとは、全然違うわ。」
「……ごめん。」
「どうしてメメリーが謝るのよ? 変なの。」

またしても目にもとまらぬ速さで、リコラは木を登って行く。
それを心配そうに眺めながらメメリーは考えていた。

(狼は悪い存在。だから、それを退治するために赤ずきんがいるんだってばっちゃんが言ってた。
でも、メメリーは、リコラを退治したくない。だってリコラは、悪い狼じゃないもん!
悪いのは、リコラを捕まえてた人間たち……だよね? でも、人間は狼に食われる側、守ってあげるべきだってばっちゃんが言ってた。
ってことは、ばっちゃんが間違ってたの?わかんないよ……。うーん。うーん……うーん)


story 悩むと爆発しちゃう


「うん、よく焼けてるわね?はい、メメリーちゃん召し上がれ。」
メメリーは、いい具合に焼けたキノコを怖々受け取った。
「食べて大丈夫かなあ?あとで、笑いが止まらなくなったりしないかなあ?」
「毒キノコじゃないから、きっと大丈夫よ。これは、私も普段からよく食べてるキノコだし。」
同じキノコを手にとって、リコラは先にかじって見せた。
「あちちっ。うん……美味しいわ!」
それを見たメメリーもまねをしてキノコをかじってみる。

「がぶっ!ふあ……あちちっ!熱いよぉ!」
「あーもう、冷ましてから食べないと火傷しちゃうわよ? ほら貸して。ふーっ、ふーってしてあげる。
ふーっ、ふーっ。」
「……。」
「はい、これで大丈夫よ。ん?どうしたの?」
「な、なんでもないよ!ありがとう。」
「どう致しまして。」

にこっと微笑むリコラを見て、メメリーはなぜか頬を染めて顔を逸らしてしまう。
なぜ、リコラに微笑まれて、顔が赤くなってしまうのか……メメリーにはわからなかった。
でも、こんな気持ちになったのは、生まれて初めてだった。

(ほえー。リコラと一緒にいると心臓のドキドキが止まらないよ!
まさか、これって……は「心筋梗塞」の予兆なの?)

とんちんかんな自己分析をしているメメリー。
もうラグールのことなど、どうでもよくなっていた。


(俺と接している時と、メメリーの態度が明らかに違うぜ。やっぱりこのふたり、気が合うみてえだな?
俺と接している時のメメリーは、「隙あらば始末する」という殺気を放っているが、いまのあいつからは、殺気は感じられない。
メメリーをあんな風に変えたリコラ……。不思議な子だぜ。ただの半狼の娘とは思えないな。ちっと正体を探ってみるか)

「む?」
闇の中を進む、何者かの気配を感じた。
それも、ひとつではない。かなりの数だ。少なくとも、100人はいる。


「ようやく見つけたぞ。そこにいるのは、大怪盗ラグールだな!?
「お前たちは、領主の兵隊か?おそろいでどうした?
「そこにいる狼の女は、領主様がお買い求めになられた「物」だ。ただちに返してもらおう!
(ちっ、完全に囲まれてやがるな。さすがにこの数はまずいぜ……。どうする?)

「あの人たちは……!?」

兵士の登場により、リコラは怯えたように身をすくませている。
メメリーは両手を広げて、リコラをかぱうように立った。

「大勢の大人が、よって集って弱い者虐めをするのは、よくないのです!」
「おお! その格好。お前は、狼退治の専門家の赤ずきんじやないか?ちょうどよかった。
領主様の大事な物を強奪した大怪盗ラグールを退治し、そこにいる狼を確保するためにご助力頂きたい。」
「確かにメ、メメリーは……赤ずきんなのです。でも……でも……。」
「これまで数々の狼を退治したと聞きます。我々に協力してくださるなら、報酬は領主様から沢山頂けますぞ?」
「お、お金の問題じゃないのです!狼には、良い狼もいる……のです。」

(ほう、メメリーに迷いが生じているのか。これはいい機会かもしれねえ)

「メメリー、ここの領主は、珍しい生き物を闇市場で買つてきては、自分の館に閉じ込めて、玩具のように酷い扱いをしていると聞くぜ。」
「ほえ?どうしてそんなことをするの?」
「ペットにするためだよ。そんなことのために、リコラは連れてかれようとしているんだ。
そこの兵士に捕まったら、二度と外には出られないだろうなあ。」
「そんなのおかしい……。リコラは、なにもしていないのに?」
「そうだ。本当に悪いのは、果たして半狼なのかな?それとも、人間……どっちだろうなあ。」
「本当に悪いのは……。悪いのは……。」
「さあ、どっちを選ぶメメリー?リコラを助けるか、領主様に従うがどっちだ!?」
(ふふふっ、良い感じに追い詰められてやがるぜ。あとー押しだ!)

「う一ん……うーん。
うーん……うーん。本当に悪いのは……狼?それとも人間?でも、メメリーは赤ずきんだし……う一ん。」


「? なにが起こった!?」
「きゃ!? メメリーが爆発したわ!」

 (狼は悪い奴らだって言ってたばっちゃんは、間違ってたのでしょうか?メメリーには、わかんないで……す)

「でも、リコラはメメリーの大事な友だちなのです!」
「なんだと!赤ずきんの癖に、狼の味方をするのか!?」


story3-2


メメリーの祖母は若い頃、森で遭遇した狼に食べられそうになったという。
しかし、鋭い牙にかじられる直前、祖母の体内の『赤ずきん魂』が覚醒し 
起死回生の必殺技「鮮血頭禁拳(あかずきんけん)」が詐裂して、見事狼を撃退したという。
その後、狼退治に生涯をかけた祖母だったが……。
最後に800匹の人食い狼軍団と7日7晩に渡る大立ち回りの末、相打ちとなって命を落とした。
祖母日く――
『世は強者だけに優しい。強くないと生きていけないのは、世の理。生きることに執着するならば、狼よりも強くあれ』
孫のメメリーにあてた言葉だったが、まだ幼かったメメリーには、当然理解できるはずもなかった。

(ばっちゃんは、最期まで狼から人間を守るために戦った。だって狼は悪い奴だから。
でも、メメリーの目には、狼のリコラよりも、領主様たちの方が悪い人に見えるの……
だから……は教わった「鮮血頭禁拳」を人間相手に使うね?)

「くらえ一、きっとあの葡萄は酸っぱい!認知的不協和拳!」

「ぬぎゃああああああっ!」
「赤ずきん!我々人間を裏切って狼の味方をするのか!?」
「リコラを悲しませる奴らは、みんな悪い奴らなの!」
とりゃー!お腹が空いたでしょ?これをお食べ!毒林檎暗殺拳!」
「うぎゃあああああああああっ!」

「物語の最後は、いつも切ない終幕!腹裂石積蹴!」
「ぎゃああああああああああっ!」

なす術を失った兵士たちは、這々の体で逃げ出すしかなかった。
メメリーは、祖母から受け継いだ狼退治の極意を余すところなく用いて領主の兵たちを散々にやっつけた。

「あーはっはっはっ!勝った!勝った!」
尻尾を巻いて逃げていく兵士たちを見て、勝利の快感に酔いしれる。
この時ばかりは、祖母が残した言葉も、赤ずきんの継承者という立場も、頭からすっぽり抜け落ちていた。

「でも、いいのメメリー?あの人たちと戦うと、あとでメメリーの立場が悪くなるんじゃないの?」
「あえ……っ。
……で、でもでも。あいつら、悪い兵隊だったし、悪い人間と狼は、退治するべきだってばっちゃんが言ってたよ!」
「お前のおばあちゃんは、人間も退治すべしって言つたのか?」
「うっ……。ばっちゃんは言ってないかも。でもきっと、じっちゃんは言ってたと思う。言ってたんじゃないかな……。」
「とにかく、これでメメリーも、領主の兵たちに追われる立場になったわけだ?」
「どんな奴がこようと、メメリーは負けないのですえっへん!」
「おいおい、そこは威張るところじゃないだろ?」

 (でも助かったぜ。メメリーがいなきや、今頃リコラも俺も、領主の館に引つ立てられていたところだった。ひとつ借りができたな)

リコラが、思い詰めた表情のまま口を開いた。

「どうやら私がここにいると、メメリーに迷惑をかけてしまうようね?
「ほよ? そんなことないよ!悪い奴が来たら、またメメリーが守ってあげるよ。

「そうは言うがリコラ。行く宛てがあるのか?」
「エンシェントウルフのー族は、滅んでしまった。けどー部の半狼たちが、大陸の果てにいるという噂を聞いたわ。
彼らを探して旅を続けるわ。」

(そんな……)

「え……リコラ、行っちゃうの?」
「ごめんねメメリー。でも、私がここにいたら、さっきのような奴らがまた来るわ。友だちを危険な目に遭わせたくないの。」
「やっぱり、同族同士じゃないと、わかり合えないものな。リコラの決断は正しいと思うぜ。
さて、俺はどうするかな? メメリーは、リコラのことで頭がいっばいみたいだから、俺なんかに構ってる場合じゃないだろうぜ。
リコラの旅に同行するのもいいな。あの子ひとりじゃ心配だし……どうせ、行く場所もない。
しばらく適当に旅をして、盗みたいものが見つかったら、また仕事に取りかかればいい。
にしても、しけた村だぜ。こんなところには、俺が盗みたいものはないな。」

 「それでね……。」

(やばい、人が来た)
ラグールは、とっさに物陰に身を隠した。
村人は、ふたりいた。どちらも難しい顔をしている。


「そうだな……。そろそろ決断するしかないか。
「そうしてよ。狼なんて、めっきり出なくなったのに、あの赤ずきんに守り代だけ払い続けるのはもったいないわ。

 (あいつら、メメリーの話をしているのか?)

「でもなあ、メメリーちゃんも頑張ってると思うが……。」
「人の娘さんなんて、どうだっていいじゃない!他人よりも、うちの娘たちのこと考えなさいよ!」
「うっ、そうだな。すまん。」

 (へっ、メメリーの奴、村人たちから必要とされなくなってやがんの。
メメリーみたいな危ない奴がいる村に、半狼は、誰も近付かないだろうな……
でも、それって……今までメメリーが、頑張って半狼を退治してきた証拠じゃねえか)
「……。」
(故郷の奴らから、冷たくされて居場所を失うか……。まるで、昔の俺のようだ)

いまでもラグールは、故郷にいる幼い弟たちに仕送りはしているが。
故郷を飛び出してから、まだー度も帰郷したことはなかった。

「ちっ。どうして俺が、あんなガキの心配をしなくちゃいけないんだ。
あんなガキがどうなろうが知ったこっちゃねぇ。」


story4 ふさふさは魅力


「がう! がう! がう! ……なの!
うーん。ちょっと違うかな?もっと、大きく口を開けてみようかしら?」

「がうううう!がう!がう一ううっ!……なの!
さっきよりも、迫力が出たかしら?」


「熱心だな。さっきからやっているのは、吠える練習か?」
「い、いたの!? 練習してるところ見られちゃった。恥ずかしい……。」
「吠えるのが下手な半狼なんて、あまり聞いたことがねえな。どうして吠えるのが、そんなに下手なんだ?」
「そ……それは、子どもの頃から、あまり吠える必要がなかったからよ。」
「なかなか良いご身分だったようだな? もしかして、リコラはお姫様だったんじゃねえか?」
「……。」
「おいおい、まさか図星かよ。とんでもないお方と、知り合っちまったぜ。」
「けど、それは過去の栄光に過ぎないわ。今の私は、何者でもない流浪の半狼だわ。」

悲しげに目を伏せる。
エンシェントウルフ族の姫という立場でありながら、一族の滅亡を防ぐことができなかった――
その後悔が、リコラの心を沈めていた。

「そうか、俺にしてやれることは少ないが、せめて半狼らしい吠え方を教えてやろうか?」
「お、教えて!どうしたら、半狼らしく吠えられるの!?」
「もっとこう……腹の底から吠えるんだ。全身を使って、声を吐き出す感じだな。」

「がう!……なの! がう!……なの!……こうかしら?」
「その……「なの!」っているか?それが余計に弱々しく感じさせているんだと思うぜ。」
「なの……は、いらないのね?わかった、やってみる。」

「がう! がう!……だぞ!がう!……だぞ!」

「どう?」
「そういう問題じゃなくてだな……。」

道のりは、果てしなく長そうだとラグールは感じた。


 ***


メメリーはしょげていた。
考えているのは、当然リコラのこと。

「リコラ行っちゃうんだ。どうしよう、せっかく友だちができたのに。寂しくなる……。
ううん。寂しいどころじゃないよ!やっとできた友だちなんだよ!?居なくなって欲しくないよ!
これからもリコラとー緒にいたいよ。でも、リコラには旅する目的がある……。
そうだ!メメリーも一緒に旅をすればいいんだ!
だって友だちだもん、リコラとー緒に旅しててもおかしくないはずなの!
でも、旅に出ちゃうと、この村はどうなるんだろう? メメリーがいなくなると、誰が狼から村を守るのかな?」

メメリーはひたすら悩んでいた。
悩んで悩んで……。悩みすぎて、知恵熱が出てしまった。

「ふあ、頭がふらふらするよぉ。」
「ヘヘヘっ、ここか。噂のエンシェントウルフが出没したっていう村はよぉ。
あのふさふさの耳の毛を売れば、王都に屋敷が買えるほど儲かると言われている貴重な種族だ。
他の奴らに先を越される前に、なんとか俺の物にしたいぜ。」

資金稼ぎの言葉をぼんやりと聞いていたメメリーは……。

(そうだよね。リコラの耳の毛、ふさふさしてて、触り心地良さそうだもんね
リコラがいなくなると、あのふさふさな耳の毛が触れなくなるんだ……)

「一度でいいから、触ってみたい。でも、リコラがいなくなると……二度と触れない。
そんなのはイヤだ!」

めめりーのなかで、なにかが吹っ切れた。
その瞬間、知恵熱もあっさり吹き飛んだのだった。


story4-2


「ぐへぇ……!」
「参ったか!?メメリーの友だちに手を出すとどうなるか、帰って仲間にも教えるの!」
「くそっ、お前は人間を守る赤ずきんじゃねえのかよ!? 狼に肩入れして、人間を敵に回すのか!?」
「ほよ?だって、悪い奴をやっつけるのが正義の味方でしょ?
メメリーは、正義の味方であって、人間の味方ではないのです!」
「く、くそう!王都に屋敷を建てたかったぜ……!」
男は、惨めに泣きながら逃げていった。


「あう……やっちゃったかも。」
威勢良く啖呵を切ったはいいが、メメリーには、まだ祖母の言いつけを破るほどの覚悟ができていなかった。
「昔から言われてたんだった。メメリーは、調子に乗りすぎるところが良くないよって。
人間を殴るなんて……。ばっちゃんが、天国で怒ってるよ、きっと……!
で、でも、正義の味方になるのは、悪いことじゃないもん!きっとばっちゃもわかってくれるよ!……うん!」

「メメリー!」
「ほよ?リコラ!?」
「今逃げていった人間は、私を狙ってきた人なの?大丈夫? 怪我はない?」
「当然です!メメリーは、丈夫なのです!」
「やっぱり、私がここに居るだけでメメリーに迷惑かけるようね。迷ったけど、今夜ここを発つわ。」
「あの、そのことだけど………。メメリーもリコラと一緒に行きたいの!お願い連れてって!」
「だめよ! メメリーは、まだ子どもでしょ?故郷を捨てるには、早いわ。」
「そんなことないよ!確かに村の人たちには、お世話になってるし……お別れするのは辛いけど………。
リコラとお別れするのは、もっと辛いよ。」
「ありがとうメメリー。私も、同じ気持ちよ。
でも、だからこそ、メメリーとは一緒に行けないわ。」
「どうして?」
「私の旅は、目的を果たせるかどうかわからない旅だもん。そんなことに他人を巻き込めないわ。
それに、今みたいに私を狙ってくる人間が沢山いるわ。」
「だから、メメリーが守ってあげるよ。」

せっかくのメメリーの申し出だったが、リコラは優しく首を横に振るだけだった。

「……きっとまた、メメリーに会いに来る。絶対よ。」

「ふえ……。でもでも……。」
「ごめんね、メメリー。」

メメリーの顔は、今にも泣きそうに崩れていた。
そんなメメリーをリコラは、優しく抱きしめる。
 (暖かいよぉ。おかあさんって、こんな感じなのかな……?)

メメリーは、リコラの胸の中で声を殺して泣き続けた。
そんなふたりの様子を離れた場所からラグールが見守っている。

(ちっ。こういう雰囲気は、苦手なんだよな。
安心しろ、メメリー。リコラは、俺が絶対に守ってやる。お前はここで赤ずきんを続けろよ。
その方がお互いのためなんだ……
メメリーは人間、俺たちは半狼、いつか別々の道を行く宿命なんだよ)

ただひとつ気がかりなのは……メメリーの立場だった。
もう、この辺に半狼はいなくなっている。
赤ずきんの噂は、大陸の隅々まで届いていたから、近付こうと思う半狼もいないだろう。
そうなってくると村人たちは、メメリーの存在を疎んじ始める。
この先きっとメメリーは、肩身の狭い思いをするだろう。

 ***

「なあ、なあ。聞いたかい?」
「ああ、珍しい狼女が、この付近にいるって噂だろ?」
「そうだよ。もし捕まえて売り払えば、もの凄い大金が手に入るというじゃないか。」
「だけど、そう簡単に捕まえられるかな?」
「こういう時こそ、あの子に役立ってもらうんじゃないか。なにせ、狼退治の専門家なんだろ?」
「確かにそうだ。どうせなら、共倒れにでもなってくれれば、面倒がなくていいんだがなぁ。」
「あんた、そんな大きな声で……。もし、メメリーにでも聞かれてたら、どうするのさ?」
「おっといけねぇ。」

(参ったな。やっぱり、滑稽さでは人間どもには敵わないぜ……
俺を故郷から追い出した奴らも、きっと影でこんな風な話をしてたんだろうぜ)
「……。」


「誰だ!?」

「よお。今夜は、いい月だな?」
「お、狼だ!? 狼が出たわ!」
「そうだよ。俺は半狼だ。お前たち人間が恐れ、忌み嫌う、凶暴な“狼”なんだよ!
でも、俺から見れは、お前たち人間の方が、よっぽど校揖で卑怯な存在だ。本当……反吐が出そうだぜ。」


「ぐるるるるる………。
がお! がおおおおおおん!! がおおおおおおーーーん!」



最終話 狼姫と赤ずきん


騒ぎを聞いたメメリーは、すぐさま村に駆けつけた。
村はあちこちが荒らされ、まるで嵐が通り過ぎた後のような有様だった。

「酷い……。」
「おばちゃん、おじちゃん!一体なにがあったの!?」
「ああ、メメリー……よく来てくれたね!助けておくれ……。」
「狼が……凶暴な狼が……突然襲ってきたんだ!」
「どんな狼だったの?」
「とても動きの素早い狼で……腰に何本も短剣を差してた。」
 「まさか、ラグールがやったの?いったい、どうして……。」

「以前メメリーが捕まえてきたあの若い狼だよ!あのあと、逃がしちまったのかい!?どうしてちゃんと始末しておかなかったんだよ?」
「え……。」
「メメリーが逃がしちまったせいで、私たちの村はこんなに荒らされたんだよ。これじゃあ、怖くて夜も寝られないよ。」
「メメリーは、狼退治の専門家なんだろ?なあ、頼む。あの若い狼を捕まえて、俺たちの前に引つ立てて来てくれよ。」
もちろん、生きてようが、死んでようが構わないお礼はたっぷりするから、な? 頼むよ赤ずきん!」
「……。」

 リコラが、これ以上我慢できない、とでも言うように口を開いた。
「確かに村を襲ったラグールは悪いですが、そんな言い方はあんまりです!がう……がう、がう!」
「なんだよこの子?」
「きっとラグールには、なにか事情があったんです!よく調べもしないうちに決めつけるのは――
よくないです!がう! がう!」
「なんだその……がうがうって?」
「がう!がうがう!がう!……だぞ。」

リコラは、一生懸命に吠えているが、村人たちには、まったく怖さが伝わっていない。
半狼としての迫力は、昨夜のラグールと比べれば、大人と子ども。比ではなかった。


「やめてくれよ、こんな時に狼の物まねなんて。お嬢ちゃんは下がってな。」
「おや? この子、耳が生えてる。もしかして、噂の狼女って……この子のことじゃないの?」
「本当だ!この子のことだったのか!」
「やったよ、お前さん!これで私たちも億万長者だ!」
「なにしてるんだよ赤ずきん!目の前に狼がいるじゃないか!?お前は、狼退治が仕事なんだろ?」
「……。」
「この子を捕まえとくれよ!それから、村を荒らした狼の退治も当然頼むよ?」
「……。」

(なんて人たちなの?この人たち、自分のことしか考えていない……)

「あなた方の手に掛かるほど、私は安い命じゃありません!下がりなさい!
が……がう!……だぞ! がうがう!……だぞ!」

必死に声を荒げて威嚇するリコラだったが、まったく効果がなかった。

「お、怒ったのか? それにしては、迫力がねえな。こいつなら、俺でも捕まえられそうだ!」
「下がりなさい!あなたのような人間の手に触れられたくは、ありません!
ぐるるるるる……がう! がうがうっ! がうっ!……だぞ!」

(やっぱり、私じゃだめなんだ。必死に練習したのに……
エンシェントウルフの鳴き声には、魔力が宿ると言われてる。私のお父様たちは、その咆陣で人間たちを怯えさせたというのに……
私には無理なの?エンシェントウルフらしく吠えることはできないの?)

「なにしてるの赤ずきん!?狼が、あんなに吠えてるじゃないかすぐにあの子を退治してくれよ!」
「……。」
「どうしたんだい?」
「じ……実は……。」
「ん?」
「今まで黙っていましたが、実はメメリーは狼だったのです。いえ、メメリーこそ狼だったのです。」
「はあ? なにを言ってるんだい?」

「あー、ごほんごほん。ぐるるるるる……。がうん!」
「がうがう!がうがう!」

「これは……どういうことだ?メメリー、悪い冗談はやめるんだ!」
「がうん! がうがう!がうん!がうがう!!」
「がうがう!がうがう!」
「ちょっとあんたたち……。」

「がうがうがうがう!」
「がうがう! がうがう! がうっ! がうっ!」
「がうん! がうがう! がうん! がうがう!!」
「がう! がうがうっ! がうっ!がうっ! がおおおおおおん!」
「がおおおおおん!」

「お、おい、逃げよう。よくわかんないが、この子たちなんだか怖い。」
「え……ええ。」

村人たちは、首を傾げながら逃げていく。


「がうがう! がうがう」
「……もういいわメメリー。あの人間たち、逃げていったみたいよ?」
「がうがう!」
「もう、いいったらメメリー。」

「がうっ!がうっ!」
「がうっ!!がうっ!」
「がうっ! がうっ!……あはははははははっ!」
「うふふふふふふっ!」

「あー、面白かった!狼になるのって楽しいんだね!?全然知らなかったよ!」
「私も、生まれて初めて心の底から吠えることができたわ。見た? あの人たちの怯えた顔。
初めてよ、人間を怖がらせることができたのは。これも、メメリーのお陰ね? 感謝するわ。」
「ほよ~。そんなこと言われると照れるよぉ……。」



story5-2


『村の付近に悪い2匹の女狼が出没する危険あり』
『ひとりは、毛並みの立派な狼女。もうひとりは、赤い頭巾を被った少女』
こうしてメメリーには、晴れで村を出て行く理由ができたのだった。

「村に住めなくなったのは、リコラのせいだもん。責任とって欲しいな。」
「えへへ。これからもリコラとー緒だね。嬉しいなっ。」
「しょうがないわね。」
「メメリーも、今日から狼になるのです。だから、色々教えてください! おっす!」
「ふふっ。赤いずきんを被った狼なんて、聞いたことないわね。しかも、こんなに可愛い子がね……。」
「そんな、可愛いだなんて、照れちゃうよお~。」
「あ、でも、狼になるには、自分の食べ物は、自分で確保しなきゃだめよ?
今日からさっそく、食べられる木の実とキノコの見分け方を教えてあげるわ。」
「うん!一人前の狼になれるように頑張る!」
「私もまだまだ修行中の身だから、一緒に頑張ろうね?」
「じやあ、行こうよ!うわー。知らない土地に行くんだ。すっごくドキドキする。」

高鳴る胸を押さえながら、メメリーは歩き出した。
この村から出たことのないメメリーにとって、この先は未知の世界。

「ねえ、メメリー?」
「ほよ?」
「ラグールは、今どこでなにをしているのかしら?」
「うーん……。きっと今頃、村を襲ったこと反省してるんじゃないかなあ?」
「それとも、メメリーにお仕置きされることを怖かって、どこかに隠れてるかもしれないね!」
「どっちにしろメメリーは、ラグールを探してお仕置きする予定だったのです。だから、ラグールを探すのです!」
「そうね。彼を見つけ出して、お礼を言わなきゃ。」
「ほよ? どうしてお礼を言うの?」
「そっか……お礼は変ね。じゃあ、ラグールを探して、ちゃんと叱らなきゃね。
ふたりでたっぶりお仕置きしてあげようね?いくら狼だからって、人間に迷惑かけちゃいけませんって!」
「そうね。たっぶり、叱ってあげましょう!」

目的はできた。まずはラグールを探して、それからリコラの一族の生き残りを探す。
旅の準備も万全だ。
もう、ここに帰ってくることはないだろう。
「……。」
メメリーは、生まれ育った故郷を振り返る。そして――


「ばっちゃん!行ってくるね!」

風が吹き、メメリーのずきんを吹き飛ばした。
風に舞う赤ずきんは、どこまでも高く舞い上がっていた。
そして、メメリーはリコラの手を握って、ふたりは仲良く歩き出した。


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