古の森の千年桜 Story

 
最終更新日時:
ストーリーまとめ

2017/00/00


目次

プロローグ
夢と現実の調律者 ツツジ・カミノキ
一獲千金 マツリ・サガミヤ
因果律の変調者 オモテ・ソラゴト
氷を戴く女王 レリア・フェリズ
奸智の梟雄 ユング・アーレンス
歴史を紡ぐ雅舞 ヤヤコ・ミカグラ
冬枯凍姫 アイシャ・ミエヴィル
春眠桜姫 フィオナ・カリーナ
エピローグ



プロローグ

冬を越え、永い眠りを終えた生命たちが、
まるで顛うかのように芽吹きの時を迎える季節。

――春。

草、木、虫、獣、そして花。
さまざまな生が溢れだし、それにあてられた者が春風の中に歌を聞いて、自らも歌いだし、
心地良い陽の光の中に踊りを見出し、踊りだす。
誰もが生命の回帰する季節を祝おうとする。
そして、新緑とともにその季節を彩る桜の花の鮮やかさは祝祭の季節にふさわしい。

その世界でも春の訪れは喜ばしいものとして年に一度の贅をこらして祝われた。
何日もかけて、人々の願いや望みを孕みながらその祭りは準備されてゆく。
それも例年以上の盛大さで。
今年、街の千年桜が千年に一度の聞花の時期を迎えたのだ。

――千年桜は千年に一度咲くのか、それとも千年待っても咲かないのか。

そんな言葉遊びが、いつの頃からか街の人たちの問で流行っていた。
言い換えれば、千年桜は千年間咲かなかった。
いや、それ以上かもしれない。誰も花聞く植を見たことがないという意昧での千年。永遠という意昧での千年。
この世界では桜という木には花がない。そう信じられていた。
千年にー度咲くというはただのお伽噺。
千年桜という名前はただの皮肉。
千年桜の聞花を本気で信じている者は誰もいなかった。

 「きっと、きっと咲くよ!」

たったー人だけの例外。
ちょっとドジで、ちょっと夢見がちな新米巫女。
彼女は察りのクライマックスとなる桜花の儀で、千年桜に祈りを捧げる大役を担うことになった。
それだけに千年に一度という機会を本気で信じていた。
小さい頃の寝物語で聞いた桜の光景。
花咲き乱れ、舞い散るさま。
千年に一度のこの機会、夢物語だと言われたとしても……

 「私、桜の花が見てみたい」

ある日、少女は夢を見た。
ほの暗く閉ざされ、まるで季節を失ったような森の奥。
狡猾そうな獣。高飛車な女の人。尊大な男の人。そして、とても寂しそうな少女。
恐ろしさと同時にとても悲しい感じのする四つの彫。
その影に囲まれて、眠る少女。
どこかで見たことがある気がする。
それを確かめようと、眠る少女に手を差し伸べるが、届かない。
影たちが分厚く、重く、隔てる。

夢から醒めた時、少女は走り出す。

「あの子、きっとあの桜だ! あの千年桜の。なんとかしなきゃ!」

でもどうすればいいか。彼女にはそれがわからなかった。
自分が信じて、間違いないと思ったとしても、それを他人が信じてくれるとは限らない。
ましてやこんな話……
本当は森がどこにあるかもわからない。
いつだって夢見がちだと言われておしまいだった。


――夢見ることはそんなにいけないことなんだろうか。

気づいたら少女はただ一人で千年桜の前に立っていた。
誰も信じてはくれなかった。

「あなたは千年待っても咲かない木なの、それとも千年に一度咲く木なの?
私は信じてあげるよ、千年に一度なんだから、信じてあげる。でもごめん。私だけなの……」

風が吹いた。
春らしい風。
心地の良い風に包まれ、少女は眠りに誘われた。
夢の始まりは扉の向こうに出る光景だった。
その先には黒猫を連れた魔法使いがいた。


story2 夢と現実の調律者 ツツジ・カミノキ


――春眠暁を覚えず。

どこかの国にはそんな言葉があるらしい。
私、ツツジ・カミノキはここ三日間で三回目の遅刻を確実なものにしてしまい、
絶望的な気持ちで桜花の儀の御勤め練習に向かっています。
でも私はめげません。
というのも私はただ怠け心から寝坊をしているわけではないからです。
もしかしたら三日問続けて見ている同じ夢の中に、千年桜の花が聞く秘密があるかもしれないからです。

その夢。暗くて寒い季節を失ったような森の中で眠る、ううん、眠らされている女の子。
あの子はきっと千年桜の女の子だと思ったのです。
一目見たときから感じていた、懐かしい感じ。あれは千年桜の傍でお昼寝している時に感じるものと同じだったからです。
なぜそんなことが言い切れるのか?
だっていつも千年桜に会いに行っているからです。
桜花の儀に抜擢される前も、された後も、そんなこととは無関係に私はあの桜に会いに行きました.

――小さい頃、おばあちゃんが私のことを幸せだと言ってくれました。
年に一度、春を祝う春日祭では、毎年17歳になる巫女が桜花の儀の御勤めを担う。
ちょうど千年桜が聞花の時を迎える年、私は17歳になる。
私がもし御勤めに選ばれたら、その年の桜花の価は桜の花でいっぱいの、誰も経験したことのない見事なものになる。
――だから幸せだ、と。

そのことを聞いて以来、私は暇さえあれば千年桜の傍にいました。
私が御勤めに選ばれても、選ばれなくても、咲いてほしい。
そう願いながら。
たから託宣の枝が私を差した時、私の願いは確信めいたものに変わりました。
――きっと咲く。千年桜が私の願いを叶えてくれるんだ。
でもそんなこと言っているのは私だけでした。
みんな千年咲かないものが咲くわけがないと言っています。
たしかにほかのどの植初もすでに花を咲かせています。
そんなところ、三日続けて同じ夢を見るようになりました。
一日目、千年桜の“あの子”は濃い影たちに覆われて触れることさえ叶いませんでした。
二日目も同じでした。
でも三日目! 今日の夢は私に協力してくれる人がいました。


――喋る黒猫をつれた魔法使い。
これは大きな進歩だと思いました。
きっと魔法使いさんを見つければ、あの森に連れて行ってくれて、“あの子“を助けてくれるはずです。
私は今日の御勤めの練習が終わった後にその魔法使いさんを探しに行きます。
一人じゃ大変なので友達も誘いました。
きっと魔法使いさんは見つかると思います。
そうすれば千年桜はきっと咲きます。
桜が咲いたら私だけじゃなくて、みんな幸せになれるはず!!
これは御勤めと変わらないくらい大事なことなんです!!

だから私の遅刻をどうか許してください。
宮司植。

――ツツジ・カミノキ――


story3 因果律の変調者 オモテ・ソラゴト



――千年に一度。
この機会に巡り合えた幸運に私は興奮を禁じ得なかった。
千年に一度の今年の春日祭は特別なものになる。
それは誰もがわかっていること。
この街に住む人だけでなく、遠方の人々にもこの千年に一度の機会は知れ渡っている。
みんな、まだ見ぬ桜を一目見ようとこの街に足を運ぶ。
もうー生見ることができないかもしれない花を見にやってくる。
とてもロマンチックなストーリーで、とても素晴らしいことだと思う。
一体どれほどの人たちが、この街にそんなロマンチックなストーリーを求めてやってくるのか。
そして、どんな人たちがやってくるのか。

幼いわが子に千年に一度の光景を見せようとする親たち。
――素敵。

人生の思い出にと千年にー度の花を見に来る老夫婦。
――素敵。

千年にー度の桜の花の下で永遠の愛を誓いあう恋人たち。
――とても素敵。

みんなそれぞれの物語を抱え、千年にー度の物語の信じてやってくる。
――とても。
――とても多くの人々が……

――まさに一攫千金!


この機会に巡り合えた幸運に私は興奮を禁じ得なかった。
このマツリ・サガミヤに流れる商家の血が、

――魂が、

――滾る!!

どれほど想定しても想定しきれない。
千年桜の物語にいったいどれほどの人々が、どれほどの購買意欲をかきたてられるのか。
いったいどれほどの売り上げが想定されるのか!
花見団子に桜餅、花見酒におつまみに、千年桜ストラップに、マスコットのせんちゃん人形。
仕入れ、商談は上々。
とはいえ時間が足りない。人も足りない。元手も足りない!

17歳で迎える春日祭の日。
サガミヤの者にとって、それはー人前を証明するための試験の日を意味する。
確実に数字を残さなければいけない日。
それどころか私はとびっきりの好機を得ているのだから、
サガミヤの歴史に残る売り上げを記録してみせる。
そのためには1分1秒でも惜しい。

「マツリちゃん。今日の午後空けといてね。千年桜を咲かせるために魔法使いを探すんだ」
魔法使いを探す? 千年桜を咲かせる?
ごめんね、ツツジ。
もう子供じゃないだから、そんな理由で私の時間を割いてあげられないの。
どっちも私には必要じゃないから。


私に必要なのは――
時間。
タイムイズマネー。
今日は午後から商談が二本ある。どちらも決めてみせる!

千年に一度の時、私は一攫千金の夢を信じていた。


story4 因果律の変調者 オモテ・ソラゴト


――オモテ・ソラゴト。

たしか最初はそんな名だった。
いや、最初かどうかは自信がない。ただかつてはっきりとそう名乗っていた時期があることを覚えているだけだ。
森にやってきた者を案内するたびに嘘の名を願ったので、いまじゃ名などどうでもよくなった。
その時々、思いついた名を名乗るだけだ。
私がオモテという名を覚えているのは、その頃、この森にはまだ季節があった。
だから覚えている。それだけだ。
あの衒学的なフクロウが、片方のお姫様に取り入ろうと
小賢しいことをしたせいでこの森は季節がなくなってしまった。
それがいいか、悪いかはそれほど興味がない。
ただ、そのせいであのフクロウがずいぶん偉くなった。私に命令するほどだ。
ここにやってくる者を導いてやれ、と。
いったいどういう意味で言っているのか。
ま、私の好きに解釈しているがまったくあのフクロウの本意を理解していないわけではなかろう。

――そうだ。思い出した。
眠り続けるお姫様は私をオモテと呼んでいた。
あれ以来誰もいないのではないか? 私をオモテと呼ぶものは。
しかも私はいま、ガラにもなくそのことを懐かしいなどと思っているのだ。
何を求めているのか。またこの森に季節の変転が訪れるのを期待しているのか。
それも悪くない。
ずいぶんと長い間、季節を失ったままだ。
少々、飽きた。
ほかの者たちは違うたろうが私にとってはどちらでもいいことなのだ。


――ん?
森の息吹が聞こえる。ほんの少しだけだが、かつてのような息吹だ。
森の入り口で何かあったようだな。
ふむ。昔を懐かしんでいたらこのようなことが起こるものなのか。
偶然にしては出来すぎだ。
かといって運命的とは思わん。

――巫女と黒猫と魔法使い?
ずいぶんと変わった取り合わせだ。
先ほどの森のざわめきは彼らの仕業か。ここに来ているから間違いないだろう。
来訪者とは久しぶりだ。もうこの森のことなんて誰も覚えていないと思っていた。
なんの目的があるのかしらんが酔狂なやつらだ。
さて、そろそろ私の出番か。どうも道に迷っているようだ。
もっとも私がそう仕組んでいるのだがな。

――おっと、今回はなんと名乗るべきか。
オモテ・ソラゴト。
それしかないか。
懐かしい名だ。かつての森とあのお姫様のことを思い出す。
不思議なことだ。


story5 氷を戴く女王 レリア・フェリズ

この森の季節が失われ、訪れた長い冬はこのレリア・フェリズを意外な方向へ向かわせた。
かつて私はこの森に住まう霜の妖精に過ぎなかった。
冬の終わり、春の始まり、その合間に森を染めるささやかな存在。
そのことに不満があったわけではない。
ただもう少しだけ長く、時間があってもいいのではないか。
そう考えていただけだった。

――かつては。

そして長い冬が始まった。
はじめは何が起きているのかわからなかった。
良いことか悪いことか、それすらも。
私はいっこうに訪れない春を待つ間、自らの役割をこなし続けた。
森の奥のことはあまり考えないようにした。
考えたところで私のようなささやかな存在には関係のないことだと考えていた。
そうして私が長く自分の役割に没朗し続けるうち、私が生み出したささやかな霜たちは互いに桔びつき、
成長し、いつしか周囲には氷の世界と呼ぶに相応しいものが作り上げられていた。
そして私自身もささやかな存在のままではなかった。
この長い冬のおかげではあるものの、私はこの氷漬けにされた世界の、
唯一にして絶対の女王としての存在を手に入れた。

一度手に入れたお気に入りの玩具を、それが他人のものだったからといって素直に返すのは、とても難しい。
私は、私が作り上げたこの完璧な氷の世界、すべての生命が冷たさに息をひそめる完璧な静穏を愛している。

そこに君臨する私自身も。
女王レリア・フェリズを愛している。
再びあのささやかな存在に戻るつもりはない。冬は永遠に続けばいい。
この永遠の冬を生み出したあの方の悲しみも私にはわかる。
そうするより他なかったのだ。
なぜ自らの存在理由をたったーつの理によって縛られなければならないのか。
逸脱は悪なのか。

違う。
悪ならばなぜ、私が生み出した氷の世界はこのように美しいのか。
私が作った氷の花は永遠に散ることはない。永遠に美しい姿を保ち続ける。
それは理を越えた至高の美しさだ。
そう信じている。

何者かがこの森に入り込んだようだ。
静穏な森に騒々しさをまき散らしながら、美しさを保ち続ける氷の森の姿を無遠慮に踏み荒らしながら、
ここにやってくるのがわかる。
許せない。私の作った世界を台無しにする愚か者たち。代償はその身で払ってもらおう。
その愚かしさを永遠にこの森でさらし続けるがいい.


story6 奸智の梟雄 ユング・アーレンス

――真の賢者とはなにか?

それは、必ずしも品行方正である必妻はないのだ。いや、
むしろ正しきを知るだけでは賢者とは言い難い、悪をも知らねば全てを知るとは言い難いのだ。
私は全てを知る者ユング・ア一レンス。
善も、悪も、全てを知っている真の賢者。少々、悪に偏っているが。
「あなたが眠らなければいけないと、いったい誰が決めたのですか。理とは破るためにあるのです」

始まりはこの言葉だ。

「一度だけ、たった一度だけです」

最後はこの言葉だった。
たったこれだけのことでこの森は季節を失った。
なぜこんなことをしたのか。単純なことだ。
どうなるか知りたかった。それだけだ。
それだけだ。何が悪い。
あらゆるものは知に奉仕すべきた。そして費やされるべきだ。
人の命であろうと、自然の理であろうと例外はない。

――千年桜は、千年待っても咲かない桜なのか、それとも千年に一度咲く桜なのか。

面白いことに私の試みは、桜についてのこんな言葉遊びを生むことになった。
ただの言葉遊びと悔れないのは、なぜ人々は千年に一度咲くかもしれないと考えたのか、ということだ。
千年咲かないのなら、その桜は枯れて死んでいるのだとなぜ考えないのか。
不可解だ。
人の命は百年にも満たない。どう足掻こうと千年先の桜を見ることはできない。
桜を知ることなく寿命を迎えるものは数えきれないほどいる。
一度も桜の花を見たこともないのに、いったいどんな花で、どのような性質を持つのか、
何も知らないのに、咲くかもしれないと愚直に信じている。
咲かせる力すら持たず、願うだけで、待っているだけで、信じているだけで、咲く。
不可解だし、不愉快だ。

桜は決して咲くことはない。いくら信じていても、何も起こらない。
しかしそれを覆そうとしている奴らがいる。
黒猫、魔法使い、少女。
だいたいの想像はつく。桜の姫君が短い半覚醒の間に呼び寄せたのだろう。
なぜならそれくらいのことができるようにしておいたのが私だからだ。
もちろんどうなるか知りたいからだ。
これは先ほどの疑問に的確な解を与えてくれるだろう。
なぜ千年咲かないものを咲くと信じたのか。
その愚かな考えに至る精神性を解き明かしてくれるだろう。
そんな頭が悪そうな考えは知りたくもないのだが、全てを知る者としては、知っておかねばならないだろう。

――桜が咲いた。
ずいぶんとこの森にも季節が戻ったようだ。
長い間、桜を見なかったが、私の知的好奇心になんの刺激も与えない女々しい花だ。
こんなものを千年間待ち続けようというのは……

――不可解だ。


story7 歴史を紡ぐ雅舞 ヤヤコ・ミカグラ


 「信じられない!!」

千年桜について言ったわけではない
ヤヤコ・ミカグラが言葉を向けたのは親友のツツジに対してだった。
巫女と踊り手は桜花の儀にとって不即不離の関係である。
巫女が祈り、踊り手が舞う。
それを幼馴染の二人が担うことになったのは偶然たが、ヤヤコが踊り手に選ばれたのは必然だった。
それほどに彼女は同世代の踊り手の中では抜きんでていた。
ひとえにそれは彼女の努力の賜物だった。
託宣に任せる巫女の選出とは違い、踊り手は過去の踊り手たちからの推挙によって選ばれる。
偶然の入る余地はない。

「ヤヤコちゃん、これ終わったら魔法使い探すの手伝ってね! 
その人がいればきっと千年桜の花が咲くの。ヤヤコちゃんも桜花の儀で桜咲いたほうがいいよね!」

普段は温厚で、小心者でさえあるヤヤコがツツジのこの言葉を聞いて完全に切れた。
三日連続の遅刻の挙句に、口の出したのが、桜を咲かせるために魔法使いを探す、という年相応とは言い難い言葉。
そこから先のツツジの言葉をヤヤコはほとんど覚えていない。
頭に血が上っていた。
バカにされたと思った。踊りを。
要するに彼女にとっての全てを。

ヤヤコは桜花の儀に不安を抱えていた。
本番に対する不安。
それもある。
だがもっとも強かったのは、子どもの頃から春日祭の踊り手となることを目指して
費やしてきた時間が祭りの終わりとともに霧散するのではないかという不安。
燃え尽きてしまうのではないかという不安。

それを払拭する唯一の方法が本番に向けて専心し練習することだった。

――それなのにツツジちゃんは……

おそらくヤヤコとツツジがケンカをするのはこれが初めてだった。
温厚な小心なヤヤコと無垢でちょっと世間難れしたツツジ。
お互いぶつかり合うぽどエゴがない。
自然と気が合ったのは二人とも小さな頃から同じ目標を目指していたからだった。

春日祭の桜花の儀。
――その巫女となる。
――その踊り手となる。

同じものを目指していたはずが、いよいよという時になって掛け違いが顕わになった。
春日祭までそう時間もないというのに二人の友情の元手となっていたものを根本から見直さなければいけなくなった。

「桜の花なんてどうでもいい! ツツジちゃん、迷感だよ!」

そんなふうなことを言った。
正確なところはヤヤコも覚えていない。怒りに我を忘れていた。

次の日、ツツジは桜花の儀の練習に来なかった。
ヤヤコは怒りにのまれて自分の踊りすら見失った。
いつもなら自分の未熟さと戒めるはずが、それすら出来なかった。

――ツツジちゃん、最低だよ。

限界まで高まった怒りは案外あっけなく鎮まった。

ツツジが千年桜の侶で見つかったのだ。
深い眠りに囚われて。


story8 冬枯凍姫 アイシャ・ミエヴィル


その森には二人の乙女がいた。
長い間、二人は交互に眠り続けた。
それは季節の循環をなぞる様に、一人は生命の芽吹きを、一人は生命の終わりを司った。
前者は自ら司る象徴のごとく天真爛漫な乙女だった。
その対をなす乙女はー方の影のようにつねに悲しげな表情をしていた。
自らの司るところが誰も喜ばないものだと彼女は決めつけていた。
たしかに彼女が目覚めている時、生命は厳しい時を過ごさなければならない。
彼女の名はアイシャ・ミェヴィル。
その名を呼ぶものはいなかった。
あるものは彼女を“終わり“と呼び、あるものは彼女を“死”と呼んだ。
彼女は自らを“悪”と呼んだ。

そのひどい思い込みは、森の知恵者を自称する者に利用されることなった。
彼女は本来の役割を放棄し、眠ることをやめた。

――あの子がいなくなれば、私も必要とされるかもしれない。

些細な出来心は森の季節を奪った。
きまぐれな案内人が森の道を閉ざし、ささやかな森の冷気が融けることのない凍てつきとなった。
森の知恵者は自らの辞書に新たな項目を書き足し悪びれなかった。
やがて森は何者も寄せ付けぬ場となり、ついには忘れさられた。

望んでいたものがなんだったのか。
こんなものではなかったのは確かだった。
だが元に戻るにはどうすればいいのか、そもそも元に戻る
ことが正しいことかどうかも、彼女にはわからなくなっていた。
残っているのは以前よりも深い悲しみと徒労感だけだった。

諦めに支配されていた彼女の感情はある日、ある出来事によってわずかに鼓動した。
大きな力がこの森にやってきて、失われた季節を取り戻そうとしていた。
彼女は少しずつ色彩がこの森に蘇るのを見て、自分が安堵のようなものを感じていることに驚いた。
久しぶりに見た桜に心が躍った。
懐かしい友人に会った気がした。
けれども再び彼女を悲しみが捉える.

――森が完全に季節を取り戻すためには彼女は眠りにつかなければいけない。

いまここへ向かっている大きな力は、自分の眠りと"あの子”の目覚めを望んでいる。
結局、いつまでも自分は求められることはない。
誰からも。

彼女は自らに言い聞かせた。
私の名は“終わり”であり“死”であり“悪”である。
舞い落ちる桜は彼女の傍までくると枯れていった。

――おはよう、アイシャ
――おやすみ、アイシャ

彼女はかつて自分の名を呼んだものがあったことを思い出した。
一年に一度、せわしなく交わされる「おはよう」と「おやすみ」
彼女は自分を捉える悲しみの理由がようやく分かった気がした。


story9 春眠桜姫 フィオナ・カリーナ


――呼ぶ声が聞こえる。
――まだ寝ていたいのに。

おかしい。またー年経ってないはずなのに。
時間になったらフクロウさんが起こしてくれるはずなの
に.

――でも呼ぶ声がずっと止まない。

ツツジ。ツツジっていうの? あたしを呼ぶのは。
あたしはフィオナ・カリーナ。って言っても聞こえないか。
千年桜?
あたし、千年も眠っているの?
大変! 起きなきゃ!!
あれ?あれれ?嶮が重い……
体が言うことを聞かない……

――あっ、また呼ぶ声。
あたしってば二度寝してた?
この声、ツツジね。ツツジ、ちょっと大きくなったの?
千年にー度咲く?
あたしのことそんなふうに言ってるんだ。前はちゃんと起きられたのに……
ダメだ。体がホカホカして……ダメだ……

――ツツジの声。
ごめんね。起きなきゃとは思うんだよ。
でも、まだ眠いの。
やっぱりこんなに眠いのはおかしいな。
あのフクロウさんにもらったホットミルク。あれかな?あれがダメたったのかな?
ああ.....ツツジ、またね。

――ツツジ。
今年はすごくうれしそうだね。
うれしそうなあなたを見ているとあたしもうれしいよ。
巫女?巫女になったの。桜花の儀?
よくわからないけどおめでとう。
うれしいことなのは伝わるよ。
今年が千年に一度の年……
そんなにその日が大切なんだね……
花?
うん。あたしが起きなきゃ花は聞かないよね。
でももう一人で起きる自信がないの。

――ここだよ。
あたしの居地所はここ。夢の中なら伝えられる。
でもここはもう普通じゃなくなっているはず。
あたしが眠っている問に季節が失われた過酷な環境に変わってしまっている。
ツツジー人じゃきっとムリだから手伝ってくれる人を呼ぶね。
この森の奥まであなたを導いてくれる力と知恵と勇気を持った人。
そしてとんでもなくお人好しな人。
そんな人いるかな?

――ツツジ……
泣いているの?
一人だから?
あたしはツツジー人でも十分だよ。
その心があなたをきっとこの森の奥まで導いてくれるよ。
とびっきりのお人好しも見つかったの。
昨日教えた黒猫を連れた魔法使い。
ツツジ、さあこっちに来て。
きっと。きっと会えるよ。

その時まで少しだけ二度寝。
無理し過ぎちゃった。

――おやすみ。


エピローグ


その後のことは拍子抜けするほどあっさりしていました。
私とツツジちゃんなんてケンカしていたはずなのに、仲直りなんてする前に、いつも通りの二人に戻っていました。
そして次の日には街も、私たちも、例年通りに春日祭の準備に忙殺されるようになってしまい、ごく一部の人以外は
私たちが経験した事件について、あったことすら気づいていませんでした。
たしかに事件と呼ぶほどのことは何も起きてないのは事実です。
桜が咲いた以外は。

桜の開花は、街を華やかにしたのはもちろんですが、私たちにも変化を与えました。
ツツジちゃんは人が変わったように真面目になりました。
ちょっと抜けているのは相変わらずですが、ツツジちゃんなりに一所懸命がんばっていました。
マツリちゃんは、うれしい悲鳴?っていうの(初めて見ました)をずっとあげていました。
桜のおかげで今年の呑日祭の見初客の入りがすごいことになるから、らしいです
が、ちょっと気持ち悪かったです。

――マツリちゃんの言っていた通り、祭り当日の見物客はすごかったです。
いままでにないくらいの人の数でした。
当日はマツリちゃんに会えなかったけど、会えなくてよかったと思います。
だってすごいことになっていたはずだったから。
私とツツジちゃんは桜花の儀の本番を迎えました。

練習の時に間違いばっかりしていたツツジちゃんはウソみたいにばっちりと巫女の大役をこなしていました。
なんだかんだでやるときはやっちゃう子なんです、ツツジちゃんは。
いつもそんなツツジちゃんに勇気をもらうのが私です。
本番直前の緊張JIは知らないうちにどこかにいってしまいました。
あの時、私は最高の舞いを千年桜に垂納できたと思います。
なによりあの時、私はようやく千年桜の舞いの意味がわかりました。
いままであれぽど練習してきたのに、私は千年桜の舞いが意味するところを見出せませんでした。
ただ型としてそれをなぞっていただけだったと思います。
でも、千年桜の花が私に舞いの意味を教えてくれました.
――あの霖を呈初に霖った人はきっと、あの時のような桜吹雪の中で舞ったんだと思います。断言してもいいです。
どんなに昔だったとしても、あの興いを初めて垂納した時、桜はたしかに咲いていました。
あの舞いは桜の花の下で舞うこと、それ自体の喜びを表現している舞いです。

いま私は祖父の言葉を思い出します。
子供が喜ぶと手足をめちゃくちゃに勧かす、その増でぐるぐる回る、あれが舞いの起源なんだ、そんな言葉でした。
最初から舞いは喜びだったんです。
私のヤヤコという名は遠い昔に、子どものことを意味する言葉として使われていました。
名づけたのは祖父だと聞きます。

たぶん祖父は舞いの意味を知ってほしいと願い、この名をつけたんだと思います。
あの桜のおかげでなんだかいろんなことがわかりました。
そして私の未来のこともわかりました。

――私は桜花の儀の踊り手を勤めた後に自分がどうなるのか不安でした。
それをー臼こ目拍していた分だけ終わってしまった時にどうすればいいのかわかりませんでした。
マツリちゃんに聞いたら、千年桜の花を使った新しい商売をいっぱい考えていました。
ツツジちゃんに聞いたら、特に何も考えていませんでした。
私と違うのはそのことで不安になってないことでした。
ツツジちゃんらしいといえば、ツツジちゃんらしいです。

私は……次の千年後の踊り手に私が感じた喜びを伝えるために、
千年桜の舞いを守り、伝えたい。そんなふうに考えました。
なんだか大それた考えに聞こえますが、まずは人に教えられるくらいの踊り手になることが先決です。
そのためにこれまで以上に精進しようと思います。けっこう単純なことです。

話は変わりますが、いま街ではある噂が流行っています。

――千年桜は来年も咲くのか――

私たちは咲くって信じています。
マツリちゃんがー番熱心に咲く、って信じています。
もしかしたらマツリちゃんが噂を流しだのかもしれません。
マツリちゃんならやりかねません。


――未来の私。
本当はどうでしたか?
あなたはどうなっていますか?
まだ泣き虫ですか?
踊りは上手になりましたか?
みんなと仲良くしていますか?

――桜は咲いていますか?



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