リヴェータ&ルドヴィカ編 (5th Anniversary)Story

 
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2018/00/00

目次

Story1 戦勝記念パーティー
Story2 お料理の昧は
Story3 切り開く眼


主な登場人物

ルドヴィカ
グラン・ファランクス
リラ
リヴェータ
ハーツ・オブ・クイーン




story1


「どうにも、気が進まんな……。どうしても、行かなければいけないのか?」
ルドヴィカの元に招待状が届いていた。差出人は、リヴェータだった。

私たちケルド同盟軍が、お互いに手を結んでからというもの戦後の処理に忙殺されて、一度も結束を固めるための会合を持たなかったわね。
だから、パーティーやります。帝国に勝利した戦勝記念パーティーも兼ねてるから絶対に参加してよね?


「バカもの。勝利に浮かれている場合か。まったく成長しておらんな。
リラ、馬を曳け。ちょっと行って、リヴェータを叱りつけてくる。」

「パーティーに参加される口実は、万全ですね?」
「なにか言ったか?」
「く、口がすべりました!
あ、そうです。その招待状ですが、最後までお読みになられた方が、よろしいかと存じます。」
ルドヴィカは、招待状に目を落とした。最後に一言、つけ加えてある。

ルドヴィカ、パーティーに鎧は厳禁よ? 戦場じゃないんだからね。
ちゃんとパーティーの招待客らしく、正装してきてよ。頼むわね。

「……くだらん。どこで、どんな格好をしようが、私の勝手だ。
ましてや、リヴェータ。お前に指図されるいわれはない。
どんな格好でパーティーに行くかは、私自身が決める!」


 ***


「いらっしゃい。思ったよりも、早かったわね?」
「戦勝パーティーなどと言って、浮かれてるお前に釘を刺しに来た。」
「も~。いきなり小言? 勘弁して欲しいわね。
だいいち、浮かれてるのはルドヴィカも同じじゃない。そんな格好までしちゃって。」

「お前が、正装で来いと言うから、わざわざドレスを引っ張りだしてきたのだ。
昔のものだったから、袖を通すのに相当な覚悟と苦労があった。」
「え? もしかして、あの事件が起きる前から持ってたドレスなの?」

カンナブルが消失し、ルドヴィカの父が死んだあの事件のせいで――
ふたりが暮らしていたカンナブルの屋敷は炎上し、なにもかも消え失せてしまった。

「このドレスだけは、奇跡的に残っていた。私にとって忌まわしい思い出がつきまとう代物だが――
パーティーに着用するドレスごときに貴重な軍費を費やしたくない。だから、恥を忍んで袖を通している。」
「お腹の周囲きつそうね? さすがのルドヴィカも、昔より、少しぽちゃったのかしら?」
「……腹を触るな。もう我らは敵ではないが、だからといって、昔のように馴れあうつもりはない。覚えておけ。」
「私だって、馴れ合いなんて望んでないわ。
でも、このパーティーは、私たちの結束の強さをアピールするために開いたパーティーでもあるの。
ケルド同盟なんてご大層に名乗ってはいるけど、参加している領主の中には、同盟軍の結束に疑問を抱いている人も大勢いるわ。
そういう人たちの不安を払拭するためにも表向きだけでも、私たちハーツ・オブ・クイーンと――
あなたたち、グラン・ファランクスとの結束が、固いところをアピールする必要があるの。」

リヴェータとルドヴィカの過去の因縁は、周知のとおり。
イレ家に属する者の中には、リヴェータの父を葬ったルドヴィカに対する憎しみを捨て切れていない者もまだ大勢いる。

「……同盟の盟主としての気遣いというわけか?」
「そういうこと。ねえ、やっぱり昔より太ったんじゃない?その癖、胸は成長してないみたいだけど………。」
「お前の魂胆は理解した。協力するのは、やぶさかではない。だからといって、腹を触っていいとは言っておらん!」

 「あれは、イレ家のご当主さまとグラン・ファランクスの騎士団長殿か? なんと麗しいお姿だ。」
 「戦場でお見かけした軍装とは、まったく異なる装い。なんとも華やかなことだ。」

彼女たちを眼にした招待客だちから、感嘆の声が次々にあがる。
ドレス姿のふたりは、会場の華としての役割を十二分に果たしていた。

「リヴェーダの狙いどおりにいってるようだな。」
「同盟参加領主たちの不安を取り除くためにあえて開催した今回のパーティーです。
ルドヴィカには、いろいろ不満もあるでしょうが、今日ばかりは、我らが盟主の目論みに手を貸してもらいましょう。」


あれほど憎しみ合っていたハーツ・オブ・クイーンとグラン・ファランクスの両勢力が――
こうして同じ場所にいるだけでも、過去を知るものにとっては驚きなのだが。
両勢力のリーダーが並び立ってパーティーの華となって会場を彩っているのは――
これ以上ない同盟軍結束のアピールとなっていた。
すべて、リヴェーダの計算どおりだった。



story2


「□に合う合わない以前に、こんな美味しい料理、いままで見たことないです!」
「ほんと、美味しいものばかり……。アシュタルも来ればよかったのに……。」
「でも、師匠とメンジャルたちが顔を合せたら、パーティーどころじゃなくなるよ。」


「ほら、見て見て! みんなを驚かせようと思って、腕によりをかけて料理を用意したの。」
テーブルの上には、さまざまな食材が用いられた色とりどりの料理が並んでいる。
「……ふっ。よくできた作り物だな?」
戦時とは思えないほどの充実ぷりにルドヴィカは、己の目を疑わざるを得なかった。
「なに言ってるのよ? 全部本物よ。これらの食材は、すべてイレ家の領地で採れた食材なの。」
「イレ家の領地で食料自給の方策をいろいろ採用したと聞いていたが、もう実を結んだと言うのか?」
「まだまだ道半ばだけどね。」

「美味しいですね。リヴェータさまは、領地経営の才能に長けておられる。」
「我らがルドヴィカさまも、領地に対して多少は頭を使って欲しいものだ。」
護衛として共をしてきたギルベインたちも、用意された料理に満足げだった。


「はい、これ。うちの畑で採れたトウモロコシとジャガイモの料理よ。」
取り分けてくれた小皿には、香辛料とバターをふんだんに使った料理が載っている。
普段ろくなものを食べていないルドヴィカは、無意識のうちにフォークを握っていた。
(う……うまい! 昔、イレ家でごちそうされた料理と同じ……いや、それ以上の味だ
イレ家の領民たちは、こんなにうまいものを食べているのか)
帝国との戦争では、固い麦パンが常食だった。それに干し肉やチーズがつけば、ごちそうだった。
強さを追い求めるため、頻繁に山にこもるルドヴィカたちは、そんな粗末な食事すらろくに□にできない生活をつづけていた。
日々の辛苦を思い返すように、グラン・ファランクスの面々は、出された料理を黙々と昧わっている。
「どう? 美味しいでしよ?いえ、答えなくてもいいわ。ルドヴィカのいまの表情、とっても幸せそうだもん。
ねえ、今度は、これを食べてみない? 挽肉とチーズのパイよ。」
「認めるのは悔しいが、これもうまいな。料理人に直接感謝を述べたいほどだ。」
「うふふ。気に入ってくれてよかったわ。」
「……あ。」
我を忘れて夢中になって食べていたことにようやく気づく。
「ルドヴィカって、昔は食いしん坊だったものね。」
「お前に言われたくないな。イレ家で共に食卓を囲んでいた時は――」
フォークを握った手が、とつぜん止まった。
「いや……すべて台無しにした私に過去を語る資格はないな。この話はやめだ。」
「昔話をしたくないなら、これからの話をしない?」
「これから……? 同盟軍の行く末についてか?」
「違うわ。私とあなたの将来の話よ。」
「ごほっ! ごほっ! とつぜん、おかしなことを言うな!」
「ルドヴィカったら、なにか変な勘違いしてない?」
咳き込んだルドヴィカの背中をさすりながら、話をつづける。
「私たちのいるケルド島の平和を長くつづけるためには、いまのような領主同士の同盟関係だけじゃ、不十分だと思ってるの。」
真面目な話だと理解したルドヴィカは、表情を引き締めた。
「同盟の名のもと、いまは協力的な態度を取っている奴らも腹の中では、なにを考えているか、わからんと言いたいのだな?
ケルド島には、そういう奴らを無理やりにでも従わせる強い勢力が必要だ。」
「ルドヴィカは、いちいち物騒なのよ。別に無理やり従わせなくてもいいじゃない。
私たちに従えば利益がある、と思わせれば、欲深い連中は、勝手についてきてくれるでしょ?」
「いや、欲で人を従わせるのには限界がある。やはり力が必要だ。」
「それも、間違ってはないけどね。」
頑なに自分の主張を崩そうとしないルドヴィカだったが、それでこそルドヴィカだった。
「でね。いきなりこんなこと言うのはあれだけど……私たち手を組まない?」
「なに?」
「グラン・ファランクスとハーツ・オブ・クイーンをひとつの勢力にするのよ。
私たちが組めば、このケルド島に敵はいなくなるわ。ルドヴィカの言う、強い勢力になれるんじゃない?
「……なるほど。実は、似たようなことを私も考えたことがある。
「やっぱりね。私たち、心のどこかでは繋かっているのよ。
「だが、決断するには時間が必要だ。どういう形であれ、一緒になることを承服できないと言う者も大勢出てくる。
私だって、グラン・ファランクスをなくすつもりはない。
「そうね。この間まで、憎しみ合っていた同士だものね。簡単にはいかないわよね……。
いますぐ、答えが欲しいとは言わないわ。いつか返事してくれればいいから。
「ねえ、それよりも、新鮮な葡萄とリンゴを使った焼き菓子(タルト)があるの。リンゴ好きでしょ? 一緒に食べない?
あそこにある料理だな? 実は、先ほどから気にはなっていた。
「そうなの? 気になってたなら、遠慮せずに言ってよね。切り分けてもらいましょう。こっちに来て。
ルドヴィカの手を引いて、タルトのあるテーブルに向かうリヴェーダ。
周囲の者の眼には、そんなふたりの姿に、一瞬だけ子どもの頃の面影が重なったように見えた。





story3


パーティー会場に集まっているのは、ケルド同盟軍に参加する領主とその護衛たちだった。
彼らは、いまのところ盟主リヴェーダに従い、ひとつに纏まってはいるが――
過去に刻んだ深い因縁を、いまだに解消できていない者も沢山いるため、あちこちで小さな衝突が起きていた。

「イリシオス・ゲーの剣が、なぜここにいる?」
「いまはアリオテスさまの剣だ。二度と間違えるな。」
「若すぎる主を持つと大変だのう? ゲーの領地は、いまや山賊どもの根城になっていると聞くぞ。
「いまのところは、奴らの好きにさせておく。そのうちアリオテスさまと共に、ゲーの領地を回復してみせる。見ていろ。」
「お主たちだけでは、兵が足らんだろ? 意地を張らず、我らが主に助力を頼んではどうだ?」
「お心遣い感謝する。……だが、領地の問題は、我らゲーの家臣が解決する問題。助言は無用。」


「けどアシュタルにも、食べさせてあげたい……。そうだ。料理、お土産にもらっていこう。
「そんな厚かましいお願いしていいのかよ? ……ジミー殿。いいですか?」
「もちろんだ。好きなだけ持っていけ。」

「アリオテス。ルドヴィカさまにご挨拶はすませましたか?」
「姉上!? 実は、まだです。 ルドヴィカ殿が、姉上の上司だと思うと、なんだか足が煉みます。」
「おそれる理由などありません。ルドヴィカさまは私の主ですが、アリオテスは同じ立場の領主同士です。
だからこそ、礼儀を欠かしてはいけません。ルドヴィカさまのところまで案内してあげます。こっちへ来なさい。」

ルドヴィカの元に、姉に手を引かれたアリオテスがやってきた。
「ゲー家をまとめております。アリオテスという若輩ものです。同じケルト同盟軍に参加する領主として、ご挨拶に参りました。」
たどたどしい挨拶だった。うしろではリラが、ハラハラした面持ちで見守っている。
「よくいらした。ゲーの領主殿。その後、右眼は大事ないか?」
「はっ。なにごともなく平静を保っております。お気づかい痛み入ります。」
「そなたの姉、リラには世話になっている。リラの弟ならば、私の弟も同然だ。」
ルドヴィカは、アリオテスを招き寄せた。顔を両手でつかんで、原初の覇眼である右眼を覗き込む。
「奇麗な目をしているな? いまのところ暴走する気配はなさそうだが、忘れるな――?
覇眼は、いつか必ずそなたを破滅に導く。私も、それで一度、すべてを失った。
そなたの父イリシオスも覇眼に狂わされて、多くの人の運命をねじ曲げた。
覇眼は、そなたの可能性を開いてくれるものではない。むしろ、その身を破滅に導く呪いだということをくれぐれも忘れないようにな。」
「父上が生前になした悪行。それが、呪いそのもの……ですね?
俺は、その事実から、一度も目を背けたことはありません。これからも、そうします。」
「ふっ。いい弟を持ったな、リラ。」
「ゲー家の自慢です。」
「いつかゲーの領主殿も、覇眼についてより深く知らねばならぬ日が来るだろう。
その時は、私のところに来い。少なくとも、そなたの剣の師匠やリヴェータよりは、覇眼のことを知っている。」
「その時と言わずに、いますぐにでも教えて欲しいです。覇眼のこともっと知りたいんだ。」
「言ったはずだ。その眼は、呪いだと。自分に課せられた宿業に気づくには、そなたはまだ若い。
焦らずとも、必ずその日が来る。だから、それまで待て。いいな?」


パーティーは終わりを迎えた。
酔っ払ってハメを外しすぎた者もいるが、つつがなく終了したことに、リヴェータはほっと胸を撫で下ろしていた。

「部下たちを待たせている。先に帰らせてもらうぞ。」
「え? 泊まっていかないの? 寝床の用意させてたのに。」
「いつまで娘の気分でいるつもりだ? いい年した女ふたりが、仲良く枕を並べて眠れるか。」
「そっか、残念。でも、さっき話した件は、考えておいてよね?」
「それもいいがリヴェータ。私は覇眼のことをもっと知らねばならん。
だから、一度大陸に行こうと思っている。」
ケルド島から海峡を渡った東の場所にある、広大な大地。
皇帝グルドランの領地があった場所であり、いまも終わることのない後継者戦争がつづけられていると聞く。
「カンナブルに移り住んだ覇眼の一族が、どこから来て、どういう扱いを受けていたのか。
それを知ることにより、この眼がもたらす呪いに打ち勝つことが、できるかもしれん。
その時は、私の部下たちを頼む。」
「やだ。」
「なに?」
「その時は、当然私も一緒に行くわ。覇眼について知りたいのは、私も同じなんだから。」
「……そうか。」
ルドヴィカは、承諾も拒絶もしなかった。ただ、少しだけ表情を綻ばせただけだった。
「ではな。」
ルドヴィカは、パーティー会場をあとにする。
後ろにつづくリラは、タルトを沢山詰めてもらったお土産を抱えて、ルドヴィカのあとを追った。

「覇眼の光は、呪いも同然か……。この光が宿っている限り、平穏に暮らせることは、ないのかもしれないわね。
でも、ルドヴィカ……。あなたが、覇眼の宿業に抗おうというのなら、私も一緒に戦いたい。」
去って行くルドヴィカたちの背中を見つめながら呟く。
「もう置いてかれるのは嫌なの。絶対についていくわ。」
その言葉は誰にも届かずに、夜風に流され、消え失せた。
リヴェーダは、その場にとどまり、小さくなっていくルドヴィカの姿をいつまでも見つめていた。







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