ドルキマスⅢ Story2

 
最終更新日時:
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2017/00/00

目次

Story1
Story2
Story3
Story4
Story5
最終話





story3 突撃兵の本領



「第7中隊。整列!
これより、我が艦は、敵戦艦に接舷し、敵イグノビリウム艦に乗り込み、奴らを迫撃する。

敵イグノビリウムは、魔法という特殊な力を有している。それに対する効果的な戦法は、ふたつしかない。
アーレント開発官が製造した新兵器で戦うか、敵の艦に直接乗り込んで、奴らを銃剣で貫くかだ!
我が、第7中隊に臆病者はいないな!?怖じ気づいたというものは、正直に手をあげろ。
ドルキマス国民に代わって私が、この場で撃ち殺す!」

兵たちの顔を見回す。当然ながら手を上げるものは、誰もいなかった。

「……覚悟は定まっているようだな?
では、各自、下士官の命令に従い、兵士としての務めを果たせ。以上だ。」

ローヴィ中隊長は、部下への訓示をすませた。
乗艦しているこの突撃艦は、敵艦に接舷し、向こうの艦に切り込むために造られた艦である。別名『棺桶』。
そしてローヴィは、敵艦隊に乗り込む突撃部隊を指揮する中隊長である。

彼女の命令ひとつで、120名の突撃部隊が敵のまっただ中に突入する。
ドルキマス軍の突撃部隊は、他国から(グラオザーム・リッター(残酷な騎士部隊))と呼ばれー―
その勇猛さと残酷さは、大陸で知らぬ者はいなかった。

(たとえ未遂とはいえ……私は、元帥閣下にとって裏切りもの。もう元帥閣下の副官ではいられない)

反乱成功後、ローヴィは前線部隊への転属を願い出た。
死亡率の高い突撃部隊の隊長など、仮にも将官の娘であるローヴィが、務めるべき役職ではない。
しかし、ローヴィは贖罪のためにみずから進んで(グラオザーム・リッター》の一員になることを選んだのだった。

艦全体が激しく揺れた。
モリのように尖った船首が、敵艦に突き刺さったのだ。

(いよいよだ――)

大隊長の怒号が飛ぶ。全隊敵艦内に向けて突撃せよとの命令だ。

ハッチが開く。外の陽光が、艦内に差し込んでくる。
その光帯の向こうには、敵艦に穿たれた穴が見えた。その先にイグノビリウムが待ち受けている。

「第7中隊前進!敵兵を蹂躙せよ!」

他の中隊長も、命令を叫び、続々と隊を前進させた。
それぞれの小隊長に率いられた第7中隊の兵たちが、ローヴィの号令を合図に、敵艦に向けて突撃していく。 

敵艦内にイグノビリウムの姿を認める。

ここまで来た以上、奴らを斃すか、こちらが斃されるかだ。
ローヴィは、声を張りあげて、さらに部下を前進させる。

突然、生唾かい血が、ローヴィの顔にかかった。
いままさに突撃を行っていた小隊の兵卒が、首から上を吹き飛ばされている。ローヴィの顔にかかったのは、彼らの血だった。

全身が震えた。こらえようのないおびえが、身体の底からせり上かってくる。

「……うっ。」

ローヴィは、胃の中のものをすべて吐き出したくなった。
過去ここで、心が折れてしまう指揮官も、たくさんいたはずだ。
だが、前線で兵を指揮するつもりならば、この程度の恐怖は、乗り越えなければいけない。

「立ち止まるな! 奴らの的になるだけだぞ!小隊長、兵を前進させるんだ!」

兵を動かすのは、ローヴィ個人の栄誉や名声を求めるためではない。
死にたくなければ、前進し目の前の敵を倒すしかない。それだけの理由で、ローヴィは戦う。

(隊が進まない。やはり、敵の抵抗が激しい)

背後では、予備中隊が控えている。とはいえ接舷中のこの状況では。
交戦域が狭く、味方の救援は、前線までたどり着けないだろう。
突撃隊は、その名のとおり、前に進むしか生きる道のない隊。活路は敵中にある。

「私が先頭に立って道を切り開く!」

銃剣の先端でイグノビリウムの喉を貫く。
隣の兵が、ローヴィに感化されて、敵に攻撃を加えるも、胸を狙撃されてうしろに倒れた。
「くっ……。」

下士官たちの怒号が、兵卒の悲鳴と嘆きをかき消した。
後方にいる味方が、倒れた仲間を踏み越えて、さらに先に進む。
第7中隊は、前進する。恐怖を払い、怯えと恐れを乗り越えて――

(こんな時になぜ元帥閣下のことを思い出す?
あのお方は、我々のような前線の兵を思う立場ではない。私はもう、あのお方の側にはいられないのに……)

それでも、心のどこかで、自分のことを少しでもいいから思いだして欽しいと願っている。
そんな自分の弱さにローヴィは、うんざりした。甘えや迷いは、部下を死なせる。

生きるために。任務を遂行するために。心を銑にするべきなのだと、血と硝煙に塗れながら、ローヴィは覚悟を固めるのだった。

 ***


一方、主力部隊より遅れてドルキマス本国を出発したディートリヒとドルキマス空軍第1艦隊は。
フェルゼン皇女メヒティルトをともない、ようやくフエルゼン国境付近の前線に到着した。
メヒティルトを王都に送り届けるつもりだったが、フェルゼン王都上空にもイグノビリウムの影が覆い被さろうとしていた。

ディートリヒはやむなく、メヒティルトを軍艦に乗せたまま、指揮を執ることにした。

「我がドルキマス空軍の優秀な将兵よ。
諸君らを先に死地へと送り込み、遅れてのうのうとやってくる無能な元帥をあざ笑うがいい。」

ディートリヒの声は、無線を通じて全艦の将兵に届けられた。

「だが、諸君らの奮戦のお陰で戦況はこちらが優勢だ。あとは、私に任せたまえ。
礼の代わりに、今宵、諸君らに私から酒を贈らせていただこう。《勝利の美酒》という名の酒だ。」

その言葉で、ドルキマスの兵たちは湧き立った。
ディートリヒが勝てるといった戦は、これまで必ず勝利してきた。だから今回も勝てる。そう思わせることができる指揮官は数少ない。
しかしそれこそが、軍の最高指揮官としての最も必要な素質である。

「ベルク元帥。どういうおつもりですかな?
ディートリヒは無線を兵に手渡しながら、首をかしげた。

「いまの演説、少々芝居臭かったとでも言いたいのかね?
「そのことではありません。
「審問会でベルク元帥に非礼を働いた私なんぞに、第1艦隊の指揮を執らせるとは。正気の沙汰とは思えませんな。
「私の役割は、ドルキマス国に勝利をもたらすことだ。そのために最善の人選をしただけだ。
第1艦隊は、アルトゥール陛下の近衛艦隊でもある。陛下の信頼厚い貴君にしか頼めんのだ。存分に腕を振るってくれたまえ。」

そう言われては、ユリウスは断ることができない。

「栄誉ある第1艦隊司令官の任。この老体に鞭打ち、役目を果たしてご覧にいれましょう。」

「それでは私は、《グランツ・デーゲン》に戻り、前線の様子を見させていただこう。」
「私も、元帥閣下の旗艦に乗艦させてくださいませ。」
ユリウスとともに第1艦隊の旗艦にいた方が安全なのは間違いない。
それでも、メヒティルトはあえてディートリヒとともに行動したいと言う。

「私の旗艦は、前線を飛び回ります。それでも宜しければ、お好きに。
「わがままを聞いてくださり、感謝に堪えません。ディートリヒ元帥閣下の指揮を間近で拝見できるなんて感激です。」

メヒティルトは、腹の底をなかなか見せない女性であり、これまでディートリヒの周りにいなかった類の女性だ。  

ーーーーーーーーーーーーー


story4 フェルゼン上空戦(中級)



フェルゼン王国は、大陸一の造船国家であり、その領土内には、最新の設備を整えた艦艇建造ドックを複数所持している。
空が主な戦場となるこの大陸では、艦隊の戦力を保持するには、建造ドックの確保が必須だった。

かたやイグノビリウム側は、続々と艦を地底より蘇らせ、戦列に加えている。
彼らとの戦いに勝利するためには、フェルゼン領土の確保は必須。
フェルゼン王国の存亡は、そのまま人類の行く末に繋がっていると言っても過言ではなかった。

だが、ドルキマスと対イグノビリウム連合軍は、圧倒的な艦艇の数を擁するイグノビリウムによって王都上空まで押し込まれていた。

「あのような巨大な戦艦まで持ち出してくるとは、奴らは、本気で地上を支配するつもりのようだ。」
「あれも、古代魔法文明時代に建造された戦艦なのでしょうか?」
「いかに高度な技術を持つ文明だったかがわかる。ディートリヒは、この大艦隊を前にして、どのような手を打つだろうか?」

 ***

ボーディス傭兵連隊を率いて、フェルゼンとボーディスの国境付近の山岳に到着したフェリクスは――
やっとの思いで引き上げてきた高射砲の組み立てを終えていた。

「戦争中にまた新しい兵器の実験か。使い物になればいいんだが……。
もし、使えなかったら、はるばるこんなところまでピクニックしにきた俺たちはとんだ間抜けだな。」
「心配いらないわ。私の造った兵器は、いままで失敗したことはないから。」
「そうだったか?まあいいさ。戦場に失敗はつきものだ。」

レベッカがフェリクスたちに運ばせたのは、対イグノビリウム兵器のひとつであるヴォーゲン・カノーネ(波打つ砲)を改良し――
地上から空にいる戦艦を狙えるように射程を延長させた長砲身中口径の高射砲だった。

「通常の砲弾は重力に引かれるからそんなに高くまで飛ばせない。
でも、グラールを励起させて生みだしたエネルギー弾なら、空を飛ぶ戦艦にも届くわ。
あの見た目の巨大戦艦だって、きっと艦の底はもろいはずよ。」
「当たればの話だよな?どこまで正確に狙えるかわからんが、“適当”にやってみればすむ話か。」


「おっと。こんなところにまでいやがったか。悪いが、大事なところなんだ。邪魔しないでもらえるか?
ボーディスの傭兵たちは、慣れた手つきで遭遇したイグノビリウムを殲滅する。
その躊躇のなさは、数々の戦場を渡り歩いてきた歴戦の傭兵らしい頼もしさだった。

「これで、準備は整った。これ以上、お嬢さん方(・・・・・)の邪魔が入らないうちに花火の打ち上げをはじめようぜ。」
「もっと真面目にやって欲しいものね。」

「おい、お前ら。たとえ失敗したとしても、たかだか命を失う程度のことだ。肩の力を抜いて気楽にやろうぜ。」
背後に控えていたボーディスの傭兵たちから、どっと笑い声があがる。

フェリクスは、生まれた時から傭兵に囲まれて生きてきた。
彼らのノリ(・・)は、レベッカよりも心得ていた。


 ***

ドルキマス軍第2艦隊を率いるのは、老提督ホラーツ・アイスラー上級大将である。
退役したレーベンクラン提督のあとを受けて、ドルキマス第2艦隊の指揮を執っていた。

「部下たちにあまり前に出るなと伝えるのだ。
それから、合間を見て食事を取るようにな。もっとも、この激戦の最中、手が空けばの話だがのう。」

ホラーツは軍人には珍しく、温厚な性格の提督で、戦場でもめったに声を荒げることはなかった。
かといって軍人として無能なわけではなく、艦隊指揮の経験は、空軍一。
攻めと守り、どちらにも長けた、有能な指揮官だと評されている。

ディートリヒがいなければ、ドルキマス王から元帥号を賜っていたのは、このホラーツかもしれなかった。

「なに? 元帥閣下が我が艦に? お通ししろ。失礼のないようにな。」

味方の艦といえど、交戦中の艦に接舷して乗り込むなど、なかなか勇気のいることだ。
だが、そんなことなど構わず、ディートリヒは平然と前線の艦隊司令官の旗艦に乗り込み、作戦の打ち合わせを試みる。
それが、ディートリヒのやり方だとホラーツたちも心得ているため、いまさら驚くことはない。


「前線の視察に来た。艦隊の状況を教えてもらおう。」
「よくぞいらっしゃいました。元帥閣下みずから、前線の視察とは、恐れ多いことです。」

砲弾が飛び交う前線に単艦で乗り込むのは。ディートリヒにとってなんでもないこと。

頭の硬いユリウスなどは『最高指揮官が、あちこち飛び回るのは、兵に無用な懸念を与える』
と言って、ディートリヒにいつも苦言を呈しているのだが、そんなことはお構いなしだ。

「構わん。各艦隊の司令官に直接作戦を伝えたいのでな。
「やはり、元帥閣下は、手を用意しておられたのですな。
「時間がないので、この場で直接命令を伝える。
第2艦隊は、15:00時から30分以内に地図上のこの地点まで後退せよ。
「後退ですかな?
「そうだ。兵たちには、戦略的撤退でも転進でも、耳障りの良い言葉を適当に弄するがいい。
こちらの命令は伝えた。なにか懸念点は?

ホラーツも無能な指揮官ではない。
すでに頭のなかで、どのようにしてイグノビリウムからの被害を最小限に食い止め――
指定された地点まで艦隊を移動させるかを考えはじめていた。

「では、これで失礼する。第4艦隊のバルフェット提督にも、同じ命令を伝えなければならんのでな。

ディートリヒは、去り際に艦橋から見える光景を確認してから、ホラーツ提督の艦から去って行った。

現在敵の攻撃は激しく、後退するには多大な出血を要するだろう。
だが、ホラーツの腕ならば、被害を最小限にとどめて艦を後退させるはず。
そういう確信があるため、ディートリヒは余計なことはなにも言わなかったし、ホラーツもなにも訊かなかった。

君が操縦する魔道艇は、一応ドルキマス軍に所属しているが、本来はドルキマスの艦ではない。
古代魔法文明の遺跡から発掘されたものであり、艦を操縦するには魔力が必要になる。
魔力を持たないこの大陸の人間では、誰も動かすことができない……はずだった。

「ディートリヒは、次どこへ向かうつもりかにゃ?」
君は、ディートリヒ専用艦《グランツ・デーゲン(輝ける剣)》を護衛する役割を担っていたのだが……。
あちこち飛び回るディートリヒに翻弄され、彼を見失うこともしばしばあった。
「にゃにゃ?ドルキマスの艦隊が、みんな引いていくにゃ。」

イグノビリウムに向けて激しい砲撃と突撃を繰り返していたドルキマス空軍は、波が引くように、一斉に戦線を後退させていく。
その統制された艦隊運動の見事さは、さすが大陸に名を馳せたドルキマス空軍であった。

「ドルキマスの艦が、退却していくだと?くっ、我々を捨て石にして、この戦線を放棄するつもりか?」
対イグノビリウム連合軍の艦隊がイグノビリウムとの艦隊戦から逃れられず、交戦をつづけている間に一一
ドルキマス軍は、すべての艦が前線から一歩引いた位置まで下がり、そこで停止した。

「我々も後退だ!……なに? 敵の追撃を振り切れんだと?」

前線に取り残されてはなるものかと、対イグノビリウム連合軍の艦も我先にと後退をはじめる。
だが、正面のイグノビリウムに艦尾を晒すわけにもいかず、戦線の後退は、思うようにはいかなかった。

「いまだ。起爆させろ。」
「はっ!」

前線で大きな爆発が起きた。連合軍の艦が、突然大爆発を起こしたのだ。
「なにごとにゃ?」
爆発は、イグノビリウムの艦を巻き込むほど広範囲だった。

次の爆発が起きる。

爆発した艦は、1隻だけではない。連続して打ち上げられる花火のように青い空に爆発音を轟かせた。
対イグノビリウム連合軍の艦隊は、次々にイグノビリウムの艦を巻き添えにして爆ぜ散っていく。
友軍の有様を目にした連合軍の提督は、ようやく『あの男に嵌められた』と気づくのである。

君たちは、似たような光景を以前も目にしていた。
「これはもしや……。」
またしてもディートリヒは、なんらかの方法で友軍の艦に、前もって罠を仕掛けておいたのだ。

「ディートリヒは、本当に油断のならない男にゃ。戦に勝つためなら手段を選はないにゃ。」

わかってはいたが、改めてディートリヒの冷酷さを目の当りにした。



story4-2



レベッカ・アーレントが研究し、その性質を解析した特殊鉱石グラールはー―

石に封じられた核を特殊な手段で励起させることに成功すれば、魔力と同程度の高濃度能量が得られることが判明している。
きっとグラールは、古代魔法文明時代のエネルギー供給源として利用されていたのだろうとレベッカは分析する。

そして、このグラールに内在されているエネルギー総量は、この時代の科学水準では、計り知れないほど膨大であることも判明している。

人類にとっては、未知の鉱石である。

戦前ディートリヒは、このグラールを対イグノビリウム兵器にエネルギーを送り込む燃料として用いることを決定した。
さらにドルキマス軍だけではなく、対イグノビリウム連合軍に参加している艦艇にも惜しげもなくグラールを供給したのだ。

「ディートリヒ元帥閣下は、たいへんお優しいお方だ。
とても貴重な石コロを日頃対立している連合諸国の艦に配ってくださるとはな。」

連合軍は、いくつかの国々が集まり、合議により軍の方針を決定している。
その議長を務めているのは、元ガライド連合王国宰相ゲルトルーデ・リプヒムという男だった。

「だが、匂うなぁ。元帥閣下の優しさの裏に隠れている策謀の匂いが、芽々と漂ってくる。

おい、お前。そのタラールという石を全部、艦から投げ捨てろ。
ディートリヒ元帥がお考えなさっていることは、私には手に取るようにわかる。
あのお方の行動の裏には、常に陰謀の気配と策動のうごめきを感じる。
むしろ、それを感じないものは、ディートリヒ元帥を真に理解することは不可能だ。
私こそディートリヒ元帥の唯一の理解者であると自負しているよ。なにしろ、私は1度負けているのだから。

完膚なきまでに叩きのめされ、ブライドも意地もズタズタに引き裂かれー―
それでもなお、あのお方は、私に生を与えてくださった。

だから私は、見届けることにしたのだ。ディートリヒ元帥が、この先、戦場で誰を血祭りにあげるのかを。
ディートリヒ元帥の飽くなき勝利への執念の影で、いったい誰が、どのような形で、犠牲になるのかを見届けたいのだよ。

ゲルトルーデ・リプヒムはかつて、歴史あるガライド連合王国の宰相を務めていた。
フェルゼン王国にならぶ大国のひとつとして大陸に君臨していたガライド遠合王国は、小国ドルキマスと戦い、あえなく滅亡した。

ドルキマス軍を指揮していたのは、ディートリヒ・ベルクである。
大陸戦史に残る鮮やかな艦隊戦を行い、10倍の兵力を有するガライド連合国の軍勢を見事に打ち破った。
その輝かしき戦功は、100年後も色あせることはないだろう。
戦後ドルキマス王グスタフは、ガライド遮合王国の王族すべてを処刑したが、宰相だったゲルトルーデだけは処刑を免れた。

その裏には、ディートリヒの働きがあったと噂されているのだが、真相は闇に包まれている。

「おやおや?友軍の艦が、爆発していくではないか。原因はやはり、あの石か……。危ない危ない。
巻き添えを食らっては面白くない。我らは退却。いや、転進するぞ。


 ***


フェルゼン王国皇女メヒティルトは、救援に駆けつけてくれた連合軍の艦隊が、次々に爆発しー―
イグノビリウムを巻き添えにしながら散っていく光景を呆然と眺めていた。

「元帥閣下は、お噂に違わず、手段を選はないお方ですわね。」

飛び散った艦の残骸が、大気中に分厚い塵の雲を追っていた。
この雲は、イグノビリウムの視界を妨げ、光砲の威力を減衰させるだろう。
ドルキマス軍が反撃に出る、またとない機会であった。

後方に転進していたドルキマスの艦隊は、即座に反転する。
そして、混乱する戦線に再び乗り込み、残ったイグノビリウムの艦を沈めにかかる。

「戦争には、勝者と敗者しかいない。勝者となる道を選ばぬのなら、残るは敗北の道だけだ。」
「仰るとおりです。ですが、私は非情に徹しきれません。私に軍の指揮は無理だと気づかされました。」
「戦のやりかたなど、知らないほうがいい。」
「元帥閣下は、どこで覚えられたのですか?戦のやりかたを。」
ディートリヒは艦橋から全戦域を眺め、動きの悪い艦隊に命令を下す
「そんなものは人から学べるものではない。これまで無数の戦場に出たが、ひとつとして同じ戦場は存在しなかった。」
とはいえ、ある程度、戦の結末は予測できる。

たとえば、戦力の差。兵器の性能。兵の士気と練度などを謁ベー-
不確定な要素をできる限り排除し、戦争の流れを想定すれば、勝利をつかむための計算が成り立つ。
その計算を立てるために参謀という存在がいる。優秀な参謀ならば、戦況を的確に暁み切るだろう。

ディートリヒが考える戦争のやりかたは、その計算を成り立たせないような状況をあえて造り出すことだった。
不確定要素を取り去るのではなく、むしろ増やすことで、敵の計算を狂わせる。
予測できない事態をあえて招いて、戦場の霧を濃くすることによりー―
優秀な頭脳を持つ参謀たちの計算を狂わせることこそ、勝利をたぐり寄せる方法だと考えている。

「だが、予測できない事態は常に起るもの。そして、起こす側は、常にこちらだとは決まっていない。

イグノビリウムとドルキマス軍の合間を縫って、少数の艦艇を引き連れた戦隊が、ディートリヒの艦目かけて向かってくる。
その艦影から判断するに、それらはイグノビリウムではない。
人間たちが乗り込み、人間が操縦するどこぞの軍艦だった。

ドルキマス軍は、すべて攻勢に出ていて、余剰戦力はない。我が艦は、単独で空に浮かんでいる。
この機会を狙っていた輩が、いたというわけだな。

ディートリヒの艦を急襲しようとしているのは――


滅ぼされたガライド連合王国の残党たちによって編成された艦隊だった。
対イグノビリウム連合軍にまぎれ込み、ディートリヒの命を奪い、復讐する機会を虎視耽々と伺っていたのだ。

指揮を執るのは、アクロイス・リンデ中将。
かつて、ドルキマス軍との戦いにおいて、ブルーノ・シャルルリエの艦隊と砲火を交えた提督である。

「我らは、ガライド連合王国の歴史と騎士道精神を受け継ぐ最後の騎士である。
国滅びしのち、我らは亡霊のごとく、復讐する機会をうかがい、大陸を彷徨ってきた。
そして機会をようやくつかんだ。ディートリヒ・ベルク。死出の門出に貴様の命もらいうける!」

アクロイスの指揮する艦隊は、ディートリヒ専用艦《グランツ・デーゲン》に襲いかかる。
彼らの存在を予測していなかったドルキマス軍には、救援に向かう艦がない。

だが、飛び出してきた艦が1隻だけあった。

「珍しくディートリヒが、危機に陥ってるにゃ。キミ、全速力にゃ!
君とウィズが乗り込む魔道艇は、ガライド連合王国残党の艦隊を捕捉した。

「そんな小型艇でなにができる?邪魔をするな!

ディートリヒは、残酷なことをするが、まだこの戦争には必要な人だ。
イグノビリウムの脅威が消え去るまでは、全力で守り切ると君は覚悟を決めていた。


story4-3


「そのような小型艇に翻弄されたあげく、打ちのめされるとは……。
君の操縦する魔道艇は、本来ならば小型艇の部類に入る。
通常の戦闘ならば、戦艦の相手にはならないはずだが、(魔道艇)には戦艦を上回る火力と運動性能がある。

「ガライド連合王国の騎士道精神は、ここで滅びてしまうのか?いや、そうはいかん。
我らこそがガライド連合王国の魂を受け継ぐ大陸唯一の勢力。
憎きディートリヒ・ベルクの命を奪い、復讐を遂げるまで、果てるわけにはいかん。」

小型とはいえ、君の操縦する魔道艇には、古代魔法文明の兵器が搭載されている。
数で勝るとはいえ、人間の艦隊では太刀打ちできないことをアクロイスたちは気づいていない。
バラバラになった艦を結集させて、再度攻勢に出るために態勢を立て直そうとしている。

「これ以上、やっても無駄にゃ。」

君は、魔道艇の主砲をアクロイスたちの艦に向けているが、撃つつもりはなかった。
砲を向けているのは、あくまで警告のためだ。

”魔法使い。なにをしている?なぜ、奴らにとどめをささんのだ?”

「ディートリヒからの無線にゃ?
もしもし。こちらはウィズにゃ。敵は、もう戦う力はないにゃ。見逃してあげても、いいと思うにゃ。
”それはなぜか?戦場で敵を見逃す意図を明白に述べたまえ。”
意図もなにも、無駄に人の命を奪うのはよくないと君は無線を通してディートリヒに伝える。
”ここが戦地でなければ、君たちはさぞ立派な博愛精神の持ち主だと、大勢の人々から讃えられたであろうな。”
「なんとでも言うがいいにゃ。私たちは無益な殺生は、絶対にしないにゃ。

戦場で命令に従わない部下は、厳罰に処される。
それは、ディートリヒが特別厳しいからではなく、軍隊とはそういう組織なのだ。
個人の主朧主張の前に、軍隊としての規律が優先される。

”……いいだろう。好きにしたまえ。君たちがそれを望むのなら。”
だが、君たちは軍人ではない。ディートリヒは、君に無理やり言うことを聞かせようとはしなかった。
「わかってくれたにゃ。やっばり、ディートリヒは根はいい人にゃ。
”その中途半端な優しさが招いた結末。すぐに後悔することになるかもしれんな。”
「どういう意味にゃ?

アクロイスが率いる艦隊に無傷な艦はない。
それでも彼らは、ガライド連合王国の誇りある空軍兵らしく艦を整列させ、最後の任務に取りかかろうとしていた。

「ガライド連合王国、輝かしき1000年の歴史を地上より消し去った憎きドルキマス国。そしてディートリヒ・ベルク。
この空から貴様を消し去るのが、我々の願い。ともに煉獄に渡ろうではないか!
ガライド連合王国万歳!地獄に落ちろディートリヒベルク!」

ディートリヒは、アクロイスたちが乗る艦の挙動のおかしさに気づいていた。
「面舵45度。両機一杯。全力でこの空域から離脱しろ。」
命を下すのと時を同じくして、ガライド連合王国の艦のひとつが、まばゆい光を放って爆発した。

「な、なにごとにゃ!?

その光は、紛れもなくタラールを用いた爆発だった。
君たちは、ガライド遮合王国の残党たちが、周囲を巻き込むほどの爆発量のタラールを所持しているとは夢にも思わなかった。
彼らがそれを持つ理由――
連合軍の軍艦から奪ったか。それとも、どこかほかの艦からの横流しがあったかだ。

「こうでなくては、つまらん。
爆風を受けたディートリヒの艦は大きく傾き、メヒティルトは姿勢を崩して倒れ込む。

「皇女、お手を。」
「お礼を申します。」

その間もガライドの艦は、連鎖するように次々と自爆していく。
その光景を見たウィズは、先はどのディートリヒの言葉の意味を悟った。
「わ……私のせいにゃ。ディートリヒを助けるにゃ!」

まだドルキマスには……いや、この大陸にはディートリヒが必要だ。
しかし、君の操縦する艦も、爆発の衝撃をまともに受けて、風に煽られる木の葉のように大気中を舞う。
その間にもディートリヒの艦は、再び大きな爆発に巻き込まれていた。
なんとか助けに向かいたいが、魔道艇は左に傾き、水平姿勢を回復するには、時間がかかりそうだ。

「私で最後だ!消え去れディートリヒよ!」

そのとき魔道艇と同じ形の黒い艦艇が、君たちの視界を横切る。
「真つ黒な魔道艇!?まさかイグノビリウムが操作しているにゃ!?

よく見ると、艦橋で黒い魔道艇を操縦しているのは人間だった。
ドルキマスの艦ではないようだが、乗っているのはいったい誰なのか。
黒い魔道艇は、空を貫き、迷うことなくガライド遠合王国の残党の艦に突撃する。
アクロイスの艦は、風を切り裂くほどの速度で突進してきた黒い魔道艇を避けきれずー―
艦の真横に鋭利な船首を突き立てられてしまった。

「ドルキマスの援軍か?構うな! さっさと、グラール弾を起爆させろ!
我々はここで死ぬ。そして、ガライド連合王国の騎士魂も、不滅のものとなるのだ!」
だが、アクロイスの命令を聞く兵は、誰もいなかった。

「……お前のせいで部下が犠牲になった。冥福でも祈るか?」

振り返ったアクロイスが目にしたもの。それは、刃に付いた血を振り払う鴉のように黒い服の男。
彼の名はジーク・クレーエ。その空賊としての名声と残忍さは、空を飛び渡る者にとって知らぬものはいない。

「それと、その鉱石は俺たちクレーエ族のものだ。下らないことに使うなら、ここでお前を殺すがいいか?」
「どけぇ!薄汚いクレーエ族の生き残りなんぞに我らの復讐を邪魔されてたまるか!」

 「あ~あ、言っちゃった。それは、禁句なのに。」
 「知らないでゲビスよ……。」

「俺を怒らせるな。なぜなら憤慨したり、怨恨を抱いたりするのは、とても疲れるからだ……。」
ジークの皮膚に紋様が浮かび上がり、黒い衝動が全身から立ち上る。

瞬きする間もなく、ジークは再び手にした刃を振りかざしていた。アクロイスの視界に輝く、瞬光の反射。
ジークが持っている刃が、2度3度と翻ったのを肉眼で捉えられたものはいない。

「ぐつ! 貴様……その姿は……。そうか、それがクレーエ族の本当の姿か……。」
「お前たちが、この大陸から消し去ろうとした我がー族クレーエ……。それを侮辱したこと――」

彼らの角膜に飛び込んできたのは、寸瞬のきらめき……ただの光にすぎなかった。

「死をもって償え。」


アクロイス・リンデたちによる元帥暗殺計画は、失敗に終わったとイグノビリウム戦史には書かれている。

旧ガライド連合王国の艦は、ディートリヒの旗艦《グランツ・デーゲン》に肉薄したが。
あと一歩のところでディートリヒの艦を沈めることができなかった。
ガライド連合王国の残党たちは、アクロイスを筆頭にすべて戦場の塵となった。

彼らが、ただ戦場の混乱を突いてディートリヒの命を狙っただけのテロリストなのか。
それとも、彼らの動きは、巨大な策謀の一部なのか。
イグノビリウム戦史は言及を避けており、後世の歴史研究者たちの意見もわかれている。

そして戦史には、この時点ではまだナハト・クレーエ(闇夜の鴉)と彼が率いる空賊(ナハト・クレーエ)の名前も記されていない。


story5 黒い鴉


「貴君が、我が艦と兵たちの命を救ってくれたそうだな? 礼を言おう。」
「礼を言うだけにしては……。やけに物々しいな?」

艦橋にいる兵士たちは、それぞれ武器を手にしている。
だがそれも当然だった。ジークとその子分たちは、どこの軍にも属さないただの空賊を自称している。
なのに彼ら(ナハト・クレーエ)の艦は、古代魔法文明の遺跡にしか存在しない魔道艇と同じ艦だ。 
イグノビリウムと戦っているドルキマス兵に警戒されるのは、当然のことだった。

「私からもお礼を言わせて欲しいにゃ。私たちの失態で、ディートリヒを危険に晒したにゃ。助けてくれてありがとにゃ。
でも、あの魔道艇を動かすには、魔力が必要なはずにゃ。誰が動かしているにゃ?」
「あの艦は……俺のものだ。勝手に触れるな……。触れると殺す……。」
「君なのかにゃ? 君は何者にゃ?魔道士には見えないけど、魔道艇を操縦できるなんて……。」
ジークは答える代わりに、しゃがみ込んでウィズを招き寄せようと、手をひらひらさせている。
「……答えて欲しかったら、こっちに来るんだ。」

ジークは、ウィズが近づくと両手でしっかり抱きしめた。

「にゃ?」
「もふもふ……。もふもふ……。」
そしてウィズの腹に顔を埋めての大胆なもふもふ行為。
「こらやめるにゃ。」

君が師匠に遠慮して、そこまではできなかったことをジークは初対面でやってのけた。
とても驚くと同時に、少しうらやましかった。
もし君に逮捕権があれば、過度なもふもふ行為違反でジークを逮捕していたかもしれない。
そんな意味不明なことを考えてしまうぐらい、君の頭は混乱していた。

「貴君は、ガライド連合王国に恨みを抱いていたようだが、なにがあったのかね?」
「ガライド連合王国……。その国土には、古代魔法文明の遺跡が大量にある。
奴らは、古代魔法文明の遺跡に埋まっている魔道艇や魔道兵器を戦に利用しようとしていた……。
そのために俺の一族は、皆殺しにされた。だから俺も、奴らを皆殺しにする。
奴らのことを思うと感情が沸き立つ……。抑えようとしても抑えられない。くっ……。」
苦しそうに呻いた直後、艦橋の外にある黒い魔道艇が、誰も乗っていないのに起動する。
「無人の魔道艇が、勝手に動くなんて!

「感情を抑え込まなきゃだめだ相棒!ドルキマス軍と戦争になっちまうぜ!」
「おかしらぁ!? いま、ナディちゃんが、心が安らかになるマーチを奏でてあげるからね。」
 「こら!勝手に艦橋に入るな!」」
「お頭! 気持ちを落ち着かせるには、難しい数学の公式を思い出すでゲビス!」
「いや、それよりも猫を触っていたほうが心が落ち着くはずだ。黒猫、悪いが相棒のために身体を貸してやってくれ。」
「私は、ぬいぐるみじゃないにゃ!」

「もふもふ……もふもふ……。」
ジークは遠慮無く、師匠の柔らかいお腹に思う存分、顔を埋めている。
一見、怖いひとなのかなと思ったが、猫に触ると心が安らかになるなんて、おもしろいひとだなと君は思った。

存分に師匠で遊ぶジーク。周囲には、銃を構えたドルキマス兵がいるというのに、気にしている様子がまったくない。
肝が太いのか。それとも、猫を目の前にして我を失っているだけなのか、さっぱりわからない。

やがてジークは、落ち着きを取り戻す。
動きかけていたナハト・クレーエの魔道艇は、ぴたりと動きを止めていた。

「ガライド連合王国が、貴君らになにをしたのか、詳しく知りたいものだな。
力になれるかもしれん。」
「クレーエ族を無理やり連行し……遺跡の封印を解くために利用した奴らがいる。」
「なぜ、貴君らに遺跡の封印を解く力がある?」

ジークたちクレーエ族は、古代魔法の研究を続けてきた少数民族だった。
一説によれば、古代文明人の末裔とも言われているが真相は不明。
クレーエ族は、その魔法文明を扱える特殊性から、昔から為政者たちの標的にされつづけて来たのだが……。
いまは、ジークひとりが生き残っているだけだという。

「一族の生き残りとして、俺たちを人間扱いしなかった奴らのことはいまでも憎んでいる。」
「ガライド連合王国はもうないが、それでも復讐するつもりか?
こちらには情報がある。求めている情報を教えてやれるかもしれん。だが、タダでは教えん。」
ジークは首を横に振った。
「復讐など無意味だ。俺はただ欲しいお宝を求めて、空を自由に飛びたいだけだ。」
平然と言ってのけた彼の表情に、刹那の哀切が満ちたのを君は見逃さなかった。

「古代魔法文明の時代には、こういうものが存在していたらしい。
なにか知らないか?こいつの情報だったらいくらでも買おう。」
ジークが取り出したのは、六分儀のような形をした道具だった。

「かすかな魔力を感じるにゃ。それは、航海用の道具にゃ?」
「古代遺物(アーティファクト)のひとつだ。《天運の六分儀》という。
魔力を持つものが扱えば、気象を自在に変化させることができると言われている。」
「ほんとうにゃ?魔力は感じるけど、そんな凄い道具には見えないにゃ。」
「……信じないのなら、それでもいい。」
六分儀をしまうと、ジークは踵を返す。

「帰ろう。悪いが軍人を見ていると吐き気がする。
俺たちのー族を虐殺した奴らは、みんなどこかの国の軍服を着ていた……。
俺から自由を奪うつもりなら、躊躇うことなくお前を殺す……。」

ディートリヒとしては、魔道艇を操作できるジークを味方に引き入れたかったのかもしれない。
しかし、協力はあえなく断られ、ジーク率いる空賊ナハト・クレーエは、再び大陸の空へと帰っていった。

「ディートリヒが、味方じゃない人を見過ごすなんてにゃ。いつか味方にしたいと思ってるのかにゃ?」
「クレーエ族が持つ力は利用できる。貴君らと同じようにな。
それに、命を救ってくれた恩人に非礼はできんよ。」
「死にそうになったのは、私たちのせいにゃ。ごめんにゃ。」
「……前線に移動する。艦を前進させろ。」

ディートリヒは険しい指揮官の顔に戻る。
そして、一刻も早く戦線に復帰するべく机上の地図に目を落とした。


story6 浮かぶ鉄の塊



ガライド連合王国は、歴史の古い国である。
その国土は新文明勃興期から、大陸の中心地であった。

その事実を示すように、旧ガライドの国土には、様々な時代の旧跡、遺跡が点在している。
そしてそれら遺跡の中でもっとも古いもの。それは、古代魔法文明時代の遺跡だった。


「見ろ。奥にイグノビリウムが眠っていたとおぼしき、まゆがいくつか残っている。」

地下空洞には、人ひとりが入れそうな楕円形の入れ物が、無数に並んでいる。
それは、まさに蚕がつくりだすまゆ(・・)を切り開いたような形をしていた。

「イグノビリウムは1万年もの間、このような地底に潜み、目覚める時期が来るまで眠り続けていたのでしょうか。
1万年前といえば……。アウルム卿はまだ?
「記憶にない。私の個体は、1万年前の古代魔法文明との最終戦争の時代には、まだ存在していなかったのやもしれぬ。
「私も最近《知恵の実》によって、自我を得たぱかりですので、1万年前のことなどとても……。

ふたりは、遺跡の探索をつづける。
プルミエとルヴァルは、メインの階層を探索し。ファーブラの他のものたちは、その他の階層の探索にあたった。

そしてたどり着いた最深部には、戦艦らしきものを開発・製造する工廠のような空間があった。
その空間にある設備は、現在の軍事工場の技術レベルと比較しても、逢かに進んだ設備と機能を備えていた。

「これは、驚きました。古代文明時代のものとは思えません。」
「おそらく、イグノビリウム独自の技術力だろう。当時、この大陸には、これほどの技術力はなかったはず。」
「この時代にしては、あまりにも飛び抜けた文明をイグノビリウムたちが持ち込んだと?」
「確証はない。ただ、理由もなく同じ大陸で、ある一部の文明だけが、急激に発展することなどありえない。」
「仰るとおりです。
ただ、イグノビリウムたちの文明が、あまりにも進化しすぎていたために――
天上の主は、イグノビリウムを地底に封じることにした――」

1万年前に天と地で起きた(大戦)の終焉は、イグノビリウムの壊滅ではなかった。
彼らを文明ごと地底に封印するだけで、終わりを迎えた。

「この大地に人間たちが繁栄し、たしかな文明を築くには、必要な処置だったのだろう。」

そしてイグノビリウムは、1万年前に止められていた時間の針が動きだしたように、この時代に蘇った。
時計の針が動き始める切っ掛けは、なんだったのか。
ルヴァルたちは、なんとしてもそれを突き止めたかった。

「残念ながら、ここにはなにもないようだ。」
「次の遺跡に向かいましょう。」


 ***


「大きな戦艦の懐に潜れば、打つ手はない。肉薄し、ロイヒテン・レーム(輝く粘着爆弾)を山ほど食べさせてあげなさい!」
「ドラコ、怖からないで。あの大きな戦艦を落とせば、戦いはきっと終わるはずだよ。」

フェルゼン王都直上に迫るイグノビリウムの巨大戦艦は、その巨体から、幾筋もの黒煙を上げはじめていた。
周辺のイグノビリウムの艦は、ドルキマス軍の砲撃によって次々に撃墜されていく。

”戦線に風穴をあけたぞ。竜騎軍、いまこそ出撃だ!”
「とっくに出撃してるわよ。あとから来て、偉そうにしないで欲しいものね。
”なんだとー!?”

空いた戦線の穴を、クラリア磨下の艦隊が押し広げている間――
竜に乗って空を飛び回る竜騎軍が竜騎空母から、続々と出撃していった。

「私たちの強みは、自在に空を飛び回れることよ。竜騎軍に比べれば、戦艦なんてのろまな亀同然よ。
「ロイヒテン・レームをお届けにあがりました。よいしょ。よし、くっつけたよ。ドラコ、逃げよう?


空を飛び回る竜の小さな体格は、大型の戦艦、巡航艦、駆逐艦などの空戦で主力を務める(戦闘艦)では対応しようがなかった。
戦闘艦は、戦闘艦同士で戦うことを想定して設計されている。
口径の大きな艦載砲では,個々の竜騎軍に照準をつける前に逃げられてしまう。

そして、これまで空戦の切り札とされてきた、運動性能が低いが、巨大な主砲を積み込んでいる戦艦タイプの艦は。
竜騎軍になんら有効な手段を持たない、ただの浮かぶ鉄の塊と成り果てていた。

「あのでかいのを落とすわよ!キャナル、ついてきなさい!」
「が、がんばります!

ライサに指揮されたウォラレアルの竜騎軍は、フェルゼン王都上空を覆う、イグノビリウム巨大戦艦に取りついた。
巨大戦艦は、直掩の小型艇を発進させるなど、防御態勢を固めたが……。
ライサたち竜騎軍の活躍とボーディス傭兵団の地上からの高射砲の援護射撃により。
航空機能の大半を喪失し、その巨体は沈むようにゆっくりと地上へ墜ちていった。



「ボーディス傭兵連隊撤退だ!あのでかいのが、地上に落っこちてくる!
下敷きになりたくなければ、全力で走れ!

「《メカシャルルリェア―MARK11》発進!お先に離脱させて貰うわね。
「あっ!? それ、ちょっとずるくねえか?」

 ***

フェルゼン王国皇女メヒティルトは、《グランツ・デーゲン)の艦橋で、巨大な侵略者が、沈下していくのを眺めていた。

「フェルゼンは救われました。ディートリヒ閣下、なんとお礼を言えばいいのか……。
「皇女、私は軍人だ。敵がいたから討つたまでのこと。礼にはおよばん。
「勇敢なドルキマスの将兵と閣下のこヽ采配に、フェルゼン王国を代表して、尊敬と感謝の気持ちを送らせていただきます。
「だが、まだ戦いは終わりではない。イグノビリウムの戦闘意欲を挫くには、あの巨大戦艦が堕ちただけでは足りぬ。
ドルキマス軍全軍に告げる。この空域から残る敵戦力を掃討し、しかるのち次の戦場へ向かう。」

巨大戦艦の撃墜は、戦いの終わりではなかった。
ディートリヒにとっては、緒戦の勝利を飾ったにすぎない。
金髪の隙間に光る瞳は、すでに次の戦場を見据えていた。

 
「戦いは、終わりじゃなかったんだ。ドラコ、がっかりだねー。」



ドルキマス3 Story

ドルキマス3 Story1
 プロローグ
 連邦国に栄光あれ!
 陽光照らす軍旗(初級)
ドルキマス3 Story2
 突撃兵の本領
 フェルゼン上空戦(中級)
 黒い鴉
 浮かぶ鉄の塊
ドルキマス3 Story3
 ヴェルカン公国の機動戦(上級)
 許されざる蛮行
ドルキマス3 Story4
 鉄機要塞へ
 要塞防衛戦(封魔級)
 ドルキマス空軍
ドルキマス3 Story5
 ホラーツ提督の決断(絶級)
 元帥の奏上
ドルキマス3 Story6
 空前のドルキマス軍(覇級)
ドルキマス3 Story7
 屍の上に
 傷ついた翼
 王座にふさわしきもの




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空戦のドルキマス ~沈まぬ翼~ 
ドルキマス軍 最終戦
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空戦のドルキマス 外伝集2015/10/22

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空戦のドルキマスⅡ ~昏き英雄~
 前編中編後編
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イグノビリウム侵略
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