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【黒ウィズ】エターナル・クロノス3 Story6

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最終更新者:にゃん

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〈黎明の入り江〉は以前見た通り静かだった。夜の闇がまとわりつくように、君の世界を狭める。

君たちの乗るゴンドラから見える場所が、世界の全てのような、そんな気がした。

水辺に浮かぶ、かがり火がわりの灯篭が、君の隣に座るアリスの顔を照らしている。

揺らめく陰影が彼女の感情を読み取らせなかった。

悲しそうに見える時もあれば、その逆の時もあった。

「今」ってどこにあるんでしょうね。

唐突にアリスは言った。

「今」、何をするか。

「今」、何をしているのか。

「今」、どんな選択をするか。

みんな、それが大切なもののように言います。でも……。

アリスは自分の考えを整理するように、間を置いた。君は黙って待った。

「今」は彼女の言葉を聞くべきところだと思ったからだ。アリスがまた話し始めた。

でも、「今」の選択は、過去が導いてくれたものです。過去が、そうあるべきだと教えてくれたものです。

「今」の選択は、未来を導いてくれるものです。未来は、そうあるべきだと示すものです。

そう考えたら、選択しなきゃいけないものって限られてきますね。

君はそうだね、と相槌を打つ。

実は「今」なんてないのかもしれない。選択もしていないのかも。

それはアリスが強い人間だからそう思うにゃ。みんな、過去から目を背けたり、未来をないがしろにしたりするのが普通にゃ。

みんな「今」、何をすべきかわからないにゃ。だから大変にゃ。

つまらないことを考えすぎなんですよ。私もそうだからわかります。

最初に思ったことをやればいいんです。大切な過去と、大切な未来のために。


それはまるで、「今」、君たちが置かれている奇妙な状況を、力強く否定している言葉だと、君は思った。

『今』が未来に影響するだけでなく、過去にも影響を及ぼしている。『今』は、未来でもあり、過去でもあった。

だからやっはり、「今」なんてない。


時間の環が生み出す奇妙な現象。「今」しかなく、「今」を繰り返し続ける奇妙な環。

そんな状況にいながら、アリスは「今」はないと言った。

彼女にとってそれほど、過去は尊く、未来は重いものなのだろう。

あるいはそんな彼女を、過去が作ったのかもしれない時計塔での過去が。

そして、それほど大切なんだろう、時計塔の未来が。

時計塔という言葉はユッカという少女の名に代えることができるかもしれない。

君は、水面を揺らめく炎の鏡像に、目を落とした。ふとひとつの船影に気づく。

見ると、入り江の中央にー鍍のゴンドラが滑るように現れた。サマーのゴンドラだろう。

行きましょう。

彼女の言葉は力強かった。

はいよ。

カヌエが擢を押し込み、君たちのゴンドラを前に進める。

御子に近づこうとすれば、護衛のものが阻止するはずです。

それは任せるにゃ。キミ、騒ぎを起こさないように、護衛を静かにさせるにゃ。

君は、ウィズの指示にひとつ頷いた。


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護衛を静かに排除していき、サマーのゴンドラに近づく。

君たちは船の底に身をひそめ、人目には誰も乗っていないように装っていた。

君たちは、来たるべき時を待った。


〈新しき炎〉に感謝を。〈新しき日〉に感謝を。カヌエに感謝を。

変わらずサマーの祈りは波音と優しく交じり合う。

天灯が空へ飛んでゆく光と影の光景の中に、ぼんやりとした白い光の輪郭が現れる。

ソラだ。


光の輪郭がより明瞭になり、ソラはサマーのゴンドラに降り立った。

どなたですか?

サマーは祈りを止めずに、答えた。その声に恐れの響きは無かった。

7ソラ。カヌエの御子よ。お前には悪いが、その寿命を貰う。

あの予感は、あなただったのですか。

サマーは淡々と対話を続ける。

なぜ私の命を差し上げなければいけないのですか?

7それを望むものがいる。間違った願いだが、私をそういう存在だと考える者がいる。

狂信者と呼ぶのだろうな、そういう者たちのことを。だが、私はその想いに、答えなければいけない。

君は、サマーの護衛が、自分のことを狂信者と疑っていたことを思い出した。

想いが神様に影響を与えるというこの世界では、狂った考えすらも影響を与えるのであろう。

信じる者に、優しいんですね。すごいです。

7立派な御子だ。カヌエは幸せだな。

ソラの寂しげな声がしじまに響くと、彼女の肩に乗る使いの鳥が、嘴をサマーに向けて大きく開く。

その喉の奥の暗黒が彼女を覗いた。呪いを与える瞬間であった。


だめ!

君の隣にいたアリスは、ゴンドラから飛び出す。

その体は暗闇の中に投げ出される。目指すのは、呪いの波動が飛ぶ。ソラとサマーの間だった。

彼女の身体は、呪いを遮る壁となる。サマーを襲った暗黒を浴びてアリスは、呆然と立ち尽くす御子の前に崩れ落ちる。

大丈夫ですか?

ぐったりとする少女を抱き起し、サマーは少女の顔をまじまじと見た。

あなた……誰?

ちょ、ちょっと怖かったけど、きっとこれでいい……。

触れた少女の頬は冷たい。サマーはその冷たさの中に死を感じた。

いや……!いやあああ!

いや!ソラ!この子を何とかしてください。私をかばい、死んだこの子を!

7神は自分の行いを、自ら正すことはできない。

それなら……この時間が永遠に訪れないようにしなさい!あなたなら出来るわ! 私は信じる!

鬼気迫るほどの信仰心が、ソラに力を与えるのが、君にはわかった。

ソラから感じる魔力の質が明らかに変わったのだ。

7それなら可能だ……。

君は間髪入れずに、声を上げる。その必要はない、と。

サマーは傍らに倒れ込む少女が、わずかに勤いたことに気づいた。

よく見るにゃ。その子は死んでいないにゃ。


「サマーに会ったら、アリスちゃんは死ぬ。」

詩計塔から落ちてゆく刹那の合間に見たユッカは、アリスにそう言った。

さらにユッカは続けた。

「それでも会うの?」

「もちろんだよ……。」

ニコリと笑ってユッカは言った。

「アリスちゃんなら、そう言うと思った。じゃ、これからアリスちゃんの命を守った方法を教えるね。」

「そんな方法があるの?」

「当然。アリスちゃんや魔法使いさんが、全部きれいに解決しちゃったんだもん。

私の知っている過去ではね。あれ、でもアリスちゃんにとっては未来か。あら? んー……ま、なんでもいいか。」


よろめきながら、アリスは起きあがった。

だいじょうぶ。呪いは受けていないよ。ちょっと怖かったけど………。

君の隣にいるカヌエは自慢げに言った。

わたしが呪いをカキーンってするやつを与えました。

ソラの呪いに対抗できるカヌエの祝福をアリスに与え、はじき返したのである。

どうもこうもないよ。大変だったんだから、ここまでたどり着くのに。ソラのせいだったんだねえ。

貴方が、時間の尾を繋げたことで、時間が消えかけていたんです。でもその原因ももう無くなりました。

私が?

正確にはサマーの願いを受けた貴方がです。

私の願い?さっきの願いが?

でももうそれは終わり。それはね。

と、アリスは君を見た。君はひとつ頷き、戦いの構えを取った。

”許さない”

君は、地の底から響き渡るような声に、自分のはらわたが震えるのがわかった。

その声はどことなくアリスに似ていた。

”私たちは死んでいったのに、どうしてあなたは死なないのよ”

来たにゃ。

禍々しい気配が大気を震わせる。

一体何が?

死んだアリスです。あの時、死んだはずのアリスの因果が回帰しようとしているんです。

私を殺そうとしているんです。

因果は必ず回帰する。時間の繰り返しの中で、死んだはずアリスの因果が回帰しようとしている。

積りに積もった因果が。この因果を必ず断ち切らなければいけない。

その禍々しい時間の怨念は、ソラに向かってゆく。

”お前が! お前が! 殺したのに!”

ぐああああああああ……ッ!

この世界の想いを具現する神は、死んだアリスたちによって、死を具現する神となった。


アリス! アリスゥゥ!


凶悪な衝動が、君の頬をビリピリと刺激する。君はゴンドラの船首に足をかけ、戦いの瞬間を待った。

誰かが君の肩をつんつんしてくる。

計画通り。時間を作ってね。元に戻せるはずだから。

了解した、と君は神に返した。

驚きの声は、すぐに御子としての使命にかき消される。彼女は決然と答える。

サマー。私はカヌエって言うんだけどさ、力を貸してほしい。

カヌエ……様?

うぉぉお!どけー!

ソラが振るう一撃をかわす。君は魔法を詠唱し、その大振りな攻撃が生み出した隙に、魔法の弾丸を撃ち込む。

グッ……小賢しい!

だが、返す刀で振るう、ソラの攻撃が君を捉える。

にゃにゃ!

衝突の余波で、君は時計塔めがけて吹き飛んだ。さすがに神との戦いでは君も分か悪かった。

止まりなさい!

時計塔にぶつかる目前、セティエが君の周りの時間を操作する。君の移動は突然緩慢な状態になった。

是ー!!

その君を〈バグ〉が捕まえる。

良くやりました、マター。魔法使いはエリカが全面的にバックアッブします。

エリカの「リ」の字はアリスの「リ」でもあるのです!アリスを殺させるわけにはいきません。

アリスを守るために、この戦いのために、準備していたみんなが君をバックアップした。

ウチらだって神様なんだ。舐めてもらっちや困るよ。

困るよ☆

ステイシー、セリーヌ。少しでも時間の流れの正常化を早めて、アリスの因果を解放しましょう。

任せて!

任せて☆

マダム、我々はどうすれば?

とりあえず、鉛弾をしこたまプレゼントしてあげましょう。

君が時間を作る間、サマーとカヌエは時計塔の最上階に向かっていた。

カヌエ様。ここで何を?

願うんだよ。ソラについて。彼女がどんな神だったかを。どんな神であってほしいかを。

それが、私たち神様の形を決めるのさ。大きな想いの力が必要だよ。だーいじょうぶ、御子なら出来るよ。

はい。


H待っていましたよ。

振り返ると、そこにいるのはマニフエの御子ホリーであった。

H状況の説明はカヌエ様に聞きました。端的に行きましょう。この世界を守るためなら、我々が協力するのは、当然です。

何より、ソラを守るのは私たちの使命でもあります。

うん。お願い。

じゃ、私は世界中の人の縁を繋いで、想いを大きくするよ。ふたりとも祈って。

ふたりの御子はゆっくりと瞼をおろし、祈りの世界に心を投じた。

祈りはカヌエを通して、全ての人々に伝わる。それぞれの想いが繋がる。

ぬああ!

狂ったように突撃を繰り返すソラ。その突撃にあわせ、君は障壁魔法を張る。

魔力と憎悪がぶつかり合い、散り散りとなった因果が霧散していく。

徐々に徘秋した因果は解放されているが、神様との根競べはさすがに最後までもちそうもない。

だが、それは最初から想定していた。

まだかにゃ?

君が待っているのは、別のものである。

と、どこからともなく天灯が上がる。

マニフエもヴィジテという垣根はなく、街中のいたる所から上がった。

全ての街の人々の想いをひとつにして、天灯として空に舞い上がっていた。

自分たちの神が元通りになるように。マニフエとヴィジテ、どちらの神様でもない。

『自分たちの神』を救いたい。

そんな想いを込めた天灯が、空を、街を赤々と照らす。

そして浮かぶ天灯に込められた想いの火は、狂った神を癒した。


ぬ……ん?

ソラの動きがピタリと止まった。

障壁魔法にかかっていたとんでもない圧力が徐々に弱まっていく。

死力を尽くしぶつかり合った君には、それがわかった。もう大丈夫だろう。

カヌエたちがやってくれのかにゃ?

みたいだね、と君はウィズに同意する。

な……ああ、ああ。

ソラは力なくその場に倒れる。

君も、それを見て、魔力の傘を閉じる。というよりも、もう限界だった。

終わりですね。アリスの記憶の通りなら。

違います。ユッカちゃんの言う通りなら、です。

ま、とりあえず、今は骨休めするにゃ。

とウィズはその場で丸くなり、空を見上げた。

その空には戦いの終わりとは思えない光景が広かっていた。その美しさはまるで……。

にゃは。戦いの終わりと思えないにゃ。

どうやらウィズが同じことを言おうとしているようだ、と君は気づく。

ここは師匠に花を持たせよう、と君はその先を譲った。

これはまるで……。

まるで魔法のようです。とエリカは締めの台詞のようなことを横取りします。

なにするにゃ!

ふっふっふ。エリカはあえて空気は読みませんよ。

せっかく譲ったが、その役目は奪われてしまったようだった。

まあ、なんでもいいや、と君は呟きながら、その場に腰を下ろした。

今日は長すぎた。本当に、この一日は長すぎた。それがようやく終わったのだ。

君はそのまま光の舞う空を眺めるように、仰向けになった。このまま眠ってしまいたかった。

早く明日になってほしかった。

心底そう思いながら、君は瞼の重さに耐えきれず、瞳を閉じた。






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暑いねえ。暑すぎて、暑いねえ。

擢を押し込みながら、神様は訳のわからないことを言った。

太陽の光は変わらず、刺さるような鋭さだった。

7お前! 太陽の神様のくせに、そんなこと言ってるのか!

暑いねえ。暑苦しいねえ。……ソラが。

7私のことか!

この、やたらのんびりしたのと、やたら声がでかいのが、この世界の神様である。

声がでかいよねえ、ソラは。声がでかいだけで神様になったくらいだからねえ。

7そんなわけあるか!

自分で言わないでほしい、と君は思った。

もの好きが多いんだろうねえ。

もう、うるさいにゃ……。みんなどうしてこんな神様を信仰するにゃ。


船は今、時計塔のみんながいる邸宅を目指していた。

そこで、もう何度も午後を過ごしているはずだが、世界はようやく2日目になる。

延々と続いた祭りは終わり、街は後片付けを黙々とこなす人々がまぱらにいた。  

人々は、延々と祭りが終わらなかったことなど知る由もない.

どことなく、祭りの後の寂しさが、街にはあった。

結局、何かいけなかったんだろうね、と君はウィズに言った。事の元凶となった〈黄金の一日〉のことである。

何も悪くないし、誰も悪くないにゃ。

時計塔のみんなはユッカを助けようとしただけにゃ。サマーもただ自分をかばったアリスを助けようとしただけにゃ。

全てが少しだけ良くない方に転がっただけにゃ。


最初にユッカが倒れたことから始まった。

それを助けるために、時計塔の人々は、サマーが呪いを受けた日にゃってきたのだ。

ソラに呪われるサマーを、アリスがかばい、彼女が死んでしまった。

それを見て、サマーはソラに、全てをやり直すように命じた。

ソラはサマーの強大な想いの力を得て、時間の尾を繋げ、アリスとサマーが出会うことの無いように、彼女たちの繰を切ったのである。

結果的に原因となった出来事に遭遇出来ないまま、何度も何度も一日を繰り返すことになったのだ。

だが、君たちが真相に近づくにつれ、アリスの知るユッカとの記憶が、事件を解決した記憶へと書き換わった。

ユッカとの記憶が、事件の解決を導いてくれたのだ。

でも、やり直し方に問題があるよねえ。もうちよつと穏便な方法でよかったんじゃないの?

7私に言うな。サマーが言い出したんだ。

たぶん、咄嵯のことで、考えもまとまってなかったし、言葉の伝わり方もおかしくなったにゃ。

偶然に偶然が重なったにゃ。一瞬で正しい判断を出来る人はそうそういないにゃ。

そう考えると、何回もやり直しが出来る状況というのは、最善の結果を導くことができる状況だったのかもしれない。

と君は呟いた。

お。やっぱりソラが良かった?

7良くはない。反省はしている。

ゴンドラは、水の上を滑らかに進んでゆく。照りつける太陽は、心地良かった。


 ***


庭園は、いつもより賑やかだった。

時計塔のみんな。それに加えて、サマーやホリー、セティエもいた。


そこで、セティエから説明があるとのことだった。

良く集まって下さいました。

一同が席に着くと、セティエが□を開いた。

今日は皆さん、特にカヌエさんとサマーさんに重大なお話があります。

ティーソーダやたくさんのお菓子、アルコール抜きのパンチなど様々な物が卓に並んでいる。

いつも通り食べきれないほどの量である。

時計塔のティータイムにとって、「足りない」という状況が許されざることだとその光景は語っていた。

私たちが時間を戻すために、頑張って来たのは言うまでもないことですが、この事件で色々な事実がわかりました。

特に重要なのが、時間の環によって、今ここが全ての始まりとなってしまったことです。

1それは時間に矛盾を生み出さずに、元通りにするには、今ここでの行動が全てを決定するということです。

ええ。問題はその決定というのが、多少この世界のバランスを崩してしまうかもしれない、ということです。

7具体的には、何をするんだい?

サマーさんを工ターナル・クロノスに送り、ユッカ・エンデとして生きてもらいます。

え……。

君はセティエに尋ねる。それは順序として、合っているのか、と。

はい。合っています。

でも、イレーナたちは時界から預かってほしいと言われ、ユッカを引き受けたと言っていたにゃ。

ええ、そうです。だから、そうしようと思っているんです。

魔法使いさん。私たちが知っていた過去が、時間の環の影響で変化していたのは、わかりますね。

だから、その通りの過去……この場合は未来というべきかもしれません。それを作るのです。

2何度も言うけど、ここが全ての始まりなのよ。ウチたちはパズルの出来上がりを知っている未来の存在なのさ。

だから、そのピースをひとつひとつあるべき所へ当てはめる。

1そのパズルで、もっとも重要なのが、サマーさんです。

あなたは、サマーという存在を捨て、ユッカにならなければいけない。

私たちを救ったのは、ユッカちゃんとの記憶です。そのユッカちゃんがいなければ、私たちは救われなくなる。

もちろん、時間もです。

異論の声が上がった。 異論と言うよりも不安と言った方がいいかもしれない。

そんなことをしたら、ヴィジテはどうなるのですか? 御子が突然いなくなったら、それこそ大問題です。

7だけじゃすまないね。カヌエにも影響がある。人々の信仰が薄れたら、カヌエにも良くない影響がある。

力が弱まるだけしや、すまないかもね。いなくなることだって考えられる。

君は、アリスの言葉を思い出した。


『今』は過去がそうあるべきだと教えてくれたもの。

「今」は未来をそうあるべきものだと示すもの。

「今」なんてない。


君たちが迫られている選択は、冷静に考えれば、選択の余地はなかった。

決められた通りの選択をせざるをえなかった。ただそれは、いいことばかりではない。

辛い決断を下さなければいけない人々もいた。

その決断の声は案外軽かった。

いいでないかい?そうしなきゃいけないんだよねえ?それならそうしたらいいんでないかい?

7お前、そんな簡単に!

ソラ……。わたしはこの世界を元通りにしたいと思って、セティエに協力したんだよ。

それを自分の身イかわいさで、土壇場で嫌だ嫌だとは言えない気がするねえ。ま、言う気もないけどね。

だーいじょうぶ、だーいじょうぶだから。だいじよぶだいじよぶ。なんとかなるから。

7お前は……。面倒見切れん、勝手にしろ。

カヌエは、サマーを見る。

サマーは……?

御子は、カヌエの御心のままです。私もそれがいいと思います。

答えを聞いて、セティエはふたりに頭を下げた。

ありがとうございます。

こちらこそ、サマーをよろしく頼むね。きっとこれもなんかの縁だからね。

1はい。


絶妙な頃合いで、エイミーが美味しそうな匂いと共に、ワゴンを押してくる。ティータイムの開始である。

ワゴンの上に乗っているのは、エイミー自慢のバナナパンケーキだった。

エイミーはパンケーキを、まず最初にサマーの前に置いて、それが何であるかを説明し始める。

サマー様、工ターナル・クロノスのハンケーキでございます。

とても美味しそうですね。それにこのトッピングすこヽく私好みです。

目の前のプレートに顔を間近まで寄せて、鮮やかに盛られた見た目を堪能してから、サマーはそう答えた。

エイミーはいつもより少し長く、そのパンケーキについて話る。

わたくしは料理を出すときはいつも、気に入っていただけるか心配になるのですが……。

このパンケーキの味はきっと気に入って頂けます。こればかりは、「きっと」です。

ようこそ、エターナル・クロノスヘ。心より歓迎申し上げます。


一通りにティータイムを楽しむと、参加者たちにゃや弛緩した時間をもたらした。 


ただその分、こっそりと親密な会話や、込み入った話をすることもできた。

Hさよならですね。いつ旅立つのか知りませんが。

彼女らしい率直な言葉であった。その率直さが、サマーにとっては辛かった。

ホリー……。ごめんなさい。

言葉にしたことはなかったが、心のどこかでお互いに信頼しあっていた存在である。

そんな相手に、断りもせず、この世界から消えてしまうのだ。サマーの□から自然と謝罪の言葉が出た。

その言葉に、ホリーは蓋をしてやる。必要でないものは、不要と切り捨てる。それがホリーという少女だった。

H謝る必要はありません。それがあなたの御子として使命なんでしょう。

と言って、笑って見せた。その笑いは彼女らしく、口角を簡単に上げただけの笑顔だ。

そして、付け加える。本心の声をわずかに。

H少しだけ、寂しい気もしますが。

私もです。

Hそれと、少しだけ、うらやましいです。

別れを控えた片割れに向けた励ましとして、ホリーはそう言った。

私、別人になっちゃうんだね。

言葉で言うほど、簡単な問題ではないということは、ふたりにはわかっていた。 

だが、天秤の反対側に置かれているのが『時間』という唯一無二のものであるだけに、秤が示す答えは明らかだった。

御子である彼女たちに、それがわからないわけはなかった。

だから、ホリーはあえて肯定してみせる。サマーを勇気づけるために。

H自分を変えてくれる何かが到来したということです。

うん。

サマーも、ホリーの気持ちが痛いほどわかった。不安はもう□に出すまいと心に誓う。

サマーの目がそう告げていた。ホリーは彼女らしい笑顔を見せてから、話題を変える。

私は、自分を変える何かを起こすことにします。ひとまずの目標はあなたがいなくなった後の混乱の収拾ですが。

お願い。

もちろんです。

そう言って、ホリーはサマーを抱きしめる。サマーの腕も、応じるようにホリーを抱きしめた。

行ってらっしゃい。

行ってきます。

背中に回した腕を解くと、ホリーはサマーの背中を軽く押した。

ととと、とサマーが2、3歩前に踏み出した先には、アリス・スチュアートがいた。

ホリーはそのまま、さよならは言わずに立ち去る。

背中に、似てない双子の温かさをありかたく思いながら、サマーはアリスの下に向かう。


アリスはどこか所在無さげに椅子に座っていた。

誰と話すわけでもなく、何をするわけでもなく、何かを考えているわけでもなさそうだった。

ただ、彼女の金色の髪を、 柔らかい午後の光が包んでいた。その光景がサマーの心臓をどきりと強く躍らせた。

美しいや素晴らしい、素敵。そのどの言葉とも違う何かが彼女を捉えた。

直感的に、サマーはその光景のことをずっと忘れないだろうと思う。なぜかそれだけは、確信できた。

これはきっと、アリスとの思い出の始まり。サマーは黄金色の少女に声をかけた。

話しかけてもいいですか?

え……うん。


妙な質問をしてもいいですか?

アリスは小さく頷いた。

あなたの親友のユッカ・エンデはどんな少女ですか? ふふ、私か言うことじゃないのはわかっています。でも聞かせて下さい。

とても、温かくて、親しみやすい子。

そっか。そういう子に私はならなくちゃいけないんですね。頑張らないと。

ううん。頑張らなくて大丈夫だよ。あなたの傍にいると、ユッカちゃんといるみたい。

そこまで言って、アリスは笑った。

よく考えたら当たり前のことかも。

そうですね。当たり前ですね。私がユッカ・エンデですもんね。

つられてサマーも笑う。とても自然に、笑顔が生まれた。


またいつか、こうやって笑い合いましょう。

またいつか、エターナル・クロノスで。


これがおそらく始まりの時、〈黄金のひととき〉なんだろう、とふたりは思った。


 ***


午後の太陽が、厳しさから優しさに変わりかけていた。

君とウィズは、思い思いに会話を交わすティータイムの参加者たちの様子を、木陰から見ていた。

平和な時間。安息の時間。それは事件とは無縁の時間だった。

そろそろクエス=アリアスに帰る方法を考えないといけないにゃ。

そうだね、と君は返す。

えい!

掛け声の後、誰かが君の肩をつんつんしてきた。たぶん神様だろう。

緑、切っておいたから。わたしとの緑、切っておいたから帰れるよ。

カヌエの力で、この世界に留まっていたことを、君は思い出す。

じゃあ、これで帰れるにゃ?……でもどうやって帰るにゃ?具体的な方法は何にゃ?

さあ……?

ちょっと適当過ぎるにゃ!

だーいじょうぶ。だーいじょうぶだから、神様がだいじょうぶっつってんだから、だいじょうぶ!


君はこの言葉を聞きすぎて、感覚が麻舞してきたせいか、たぷん大丈夫だろう、と君は思った。 

そのティータイムから数日後、サマーはセティエと一緒に、過去に向かった。

ユッカがエターナル・クロノスに預けられる直前の時期へ。

それで全てのパズルが組み合わさるのだ。時間は少しだけ形を変えて、元に戻る。

君もそのさらに数日後、カヌエとソラの力を借りて、クエス=アリアスに戻ることが出来た。


 ***


戻ってすぐにバロンと出会った。ずいぶんとおかしな格好をしていた。

暑さのせいだろうか、と君は思った。



「なんだお前、随分日焼けしているな。」

ちょっと暑い所に行っていたので、と君は答えた。

そんなことよりも、と前置きをして、君は尋ねる。海にでも行くんですか、と。

「はっはっは。生憎ギルドの仕事が忙しくてな、海には行けないんだ。」

「何を嬉しそうに言っているにゃ」とウィズは君に囁いた。

「だが、海に行った気分だけでも味わおうと、こうしてこの格好をしていたのだ。

そうだ。お前に良い物をやろう。」

と渡されたのは、変哲のない棒だった。

「何の棒だと思う。」

スイカ割りの棒ですか?と君は言ってみる。

「そうだ、その通りだ。これは先ほど、私か見事に一発でスイカを砕いた棒だ。

これをお前にゃろう。あと、長めの紐だ。」

どうやらカヌエが緑を切り忘れたようで、その夏、君はスイカ割りの棒と長めの紐には事欠かなかった。


 **


ヴェレフキナ シミラル イザヴェリ


どう?終わった?

まだや。時界の管理者の要求がとんでもなく細かいんや。

時界から記憶の書き換えの依頼なんて珍しいわね。

書き換えというか、追記やね。でも時間を守るために、すごい重要なことらしいから、手は抜かれへんのや。

どうでもいいから、早く終わらせろよ、短パンヤロー。

お、言うたね。ボクの短パン、バカにするんやったらもう許さんよ。短パンだけはホンマに許さんよ。

来いよ、万年短パンヤロー。


もう、いいから仕事しなさいよ。

バカばっかり。




―時詠みのエターナル・クロノスⅢ ―






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