ひだりの螺旋 Story

 
最終更新日時:
ストーリーまとめ

2017/00/00


目次

Story1 噂
Story2 弔い
Story3 左
Story4 鬼才
Story5 捻れ
最終話 骨

主な登場人物




story1 噂


 ―建設業の最先端、荒れ野の島。

1今の話、もう一度聞きたいのです。
あ、ああ……いいけどよ。俺も詳しいワケじゃねえんだ。



最近、村の外れにある館に、貴族様が引っ越してきたんだがそれが昨日、おっ死んだって話だ。
1はい。でも聞きたいのは、その後です。あなたは言いました。
あまりに異様だから誰も弔わずに、『そのままに』してあると。
……そうだ。館の使用人連中も、貴族様の死に方にビビッちまって、真っ青な顔で逃げてきたらしい。
1わかりました。教えてくれてありがとうございます。
お、おい、アンタまさか、館に行くつもりか?
1はい。この話を聞いたら、ほっておけないのです。
悪い事はいわねえ、やめときな……何かあるかわかんねえんだぞ。
1だとしてもいきます。私は、弔い師ですので。

1ゲンコツ。
4どうだったクラニイ。先ほどの噂話は聞けたか?
1はい。やはり、亡くなった方が、弔われずに放置されているみたいです。
4そうか。ではやはり行くのだな……
1もちろんです。でも、ゲンコツは……なにか気が進まないみたいですね。
4うむ……なにかな……胸騒ぎがするのだ。
1ゲンコツは骨なので、胸はないですけど。
4わ、わかっておるわ!だが……嫌な予感がするのは本当だぞ?
1……わかりました。できるだけ気をつけることにします。
4そうするがいい。ではゆくか。
1はい。場所は……この村の外れにある館です。


「いきましょう。」

story2 弔い


 村を抜けたどり着いた館は、かなり大きく立派なものだった。

4……ふむ。ここだな……
1ゲンコツは外で待つていてください。
4たしかに我の体では、中に入るのは難しいか……しかし……
1大丈夫です。中に人がいないなら、すぐに弔いを済ませ戻つてきます。
4……わかった。気をつけて行ってくるがよい。


1…………
 館の中は、荒らされた形跡もなく、ひっそりと静まり返っていた。
1……聞いた通り、誰もいませんね。でも、これは……
 言葉にならない『なにか』を感じ、周囲へと視線を走らせる……
 しかし、クラニイには、その原因を見つけることは出来なかった。
1……早く弔いを済ませましょう。

 ***

館の奥でクラニイは豪奢な造りの扉を見つけた。

1ぅ……!
扉を開けた瞬間、ツンとした鉄の混じったような生臭さと、ヒトの汚物の臭いに顔をしかめる。
その異臭に構わず、クラニイは扉を潜って部屋の中へと足を踏み入れた。そこには――
1……ッ!!
床にぶちまけられた赤と、その中に転がる異物と、『まわれ』という壁の赤い文字……
1……これは……ひどいですね……
赤の中に転がるモノに、クラニイは眉をひそめる。

固く固くしぼった雑巾のように、限界までねじれた――ヒトだった。
1なんて無惨な……骨が全部折れてしまってます。
ヒトの体では不可能な形に、ねじれ曲がることから、骨が無事でないことは一目瞭然だった。
1誰の仕業かは知りませんが……どうやら、お仕置きが必要です。
でも、それより先に……
憤る心をおさえつつ、クラニイは静かに弔いの言葉を紡ぎ始めた。
1……生の苦痛をひととき忘れ、あるべき場所へと還りなさい。
どうか次の生は、良き人生を。


「やすらかに……」

story3 左


2んん~!ここも、ねじれてるなあ。
背後からの声に振り返ると、上半身をひねったジョイスが、ドアノブを優しく撫でていた。
1……ジョイスさんですか。驚かせないで下さい。弔い中です。
2弔い? ……ふむ。それが貴族の彼だったのか。これは失礼をしたね。
1……あなたはなぜここへ?
2この近くの村で、ねじれた話を聞いたからだ。
1ねじれた話ですか。なるほど……でも、弔いの最中は静かに。
2クラフトメ~ン。わかっているとも。
1ならいいです。では――
2……ん? んん?
ジョイスは遺体の側までくると、しゃがみ込んだ。
1……邪魔です。そこをどいてください。
2なんだこれは……このねじれ……左巻き? ……ツ!!?
1聞きなさい、このねじれ男。無視するなら関節を外します。
2いや、いやいや待つのだ。焦ってはいかん。よく考えねば……だが……これは……
1……えい。
クラニイがジョイスの腕をひねり、肩の骨を外した。
2ぬああああああんんん!!なにをするんだ、お嬢さん!!
1話を聞かないからです。
2それは悪かったっ! しかし、今とても重要なことを考えていたのだ! 見逃してほしかった!

3その重要なことですけれど、ぜひわたくしにも聞かせてほしいですわ。
そこまで驚かれずともよろしいのではなくて?少し傷つきますわ。
1……ごめんなさい。でも、なぜリュゼーヌさんがいるのです?
3そこで死んでいるのが、わたくしの知人だからですわ。
1そうですか……お悔やみを申し上げます。
3お気遣い感謝いたしますわ。でもここへ来たのは、私用ではありませんの。
この<荒れ野の島>で貴族が死亡したのなら、王女として原因を知る必要があるのです。
そこでさきほどのお話ですわ。あなた……何を考えてらしたの?わたくしに教えてくださる?
2……それなら、これのことだ。
1わかりません。この遺体に、何か考えることがあるんです?
2みたまえ! このねじれを。おかしいのだ! ねじれおかしい!
まだわからないのか?ねじれが左巻きなんだぞお?!ネジも普通は右巻きだ!
3左巻き……なるほど、そうですか。わたくしの引っかかりが、ひとつ解けましたわ。
1なにかわかったのですか?
3ええ。今度はわたくしがお話しすることにしますわね。


「……静かに……」
「教えてもらおう!」
「お話しますわ。」

story4 鬼才


3この建物に入ってから、ずっと引っかかっていたのですけど、ようやく思い出せましたわ。
ロスナー・ワート。建築の世界では<鬼才>と呼ばれた建築家で……たぶん、この館を建てた方ですわ。
1……ロスナー・ワート?ロスナー……
わあああとおおおお!!?
そ、それは<異端の反転>のことではないかあああ!!
3そう呼ばれてもいますわね。
1……<鬼才>で<異端の反転>?どういう方ですか?
3わたくしにとっては、尊敬する建築家のひとり。もう故人ですけれど。
彼は元ネジ職人ですわ。才能はありましたが、でも……ある団体への入団は叶わなかった。
2当時のロスナーの思想は<煉獄の螺旋>に認められなかったのだ!
3そうらしいですわね。
権威ある団体に否定されたことで、彼はネジ職人の道を断たれたのですわ。
ですが、彼には建築家の才があり、後に、ただの職人とは比べ物にならない名声を得たのですわ。
1……私には建物のことも、ネジのこともわかりません。
でもお話を聞いて、とても苦労した方だということはわかりました。
3一般の方なら、それが普通ですわ。
2しかし……むふううん……ここが彼の手がけた館だったのか……ぬふうん……イイねじれだ。
3わたくしも、この館はとても素晴らしいと思いますわ。
機能に優れた美しいデザイン。そうかと思えば、細やかな遊び心もみせる。……素敵ですわ。
それだけに……今回のことは残念でなりませんわ。
1……この方と、この館、何か関係があるので――

3クラニイさん?どうかいたしまして?
1ふえてます……
3なにが……ですの?
1……文字が――ふえてます。
3ッ!走りなさいつ!

リュゼーヌの叫びに、ジョイスとクラニイも弾かれるように、部屋から飛ぴ出した!


「……あふれてます。」
「なにがおこっているのだ?!」
「急ぎなさいっ!」

story5 捻れ


壁、床、天井にいたるまで、赤い文字が部屋の全てを塗りつぶしてゆく。
その光景を瞳に捉えると、三人はー斉に玄関へと駆け出した。

2ねじれているつつ!!強烈にねじ切れている!

3ええ。尋常ではありませんわなんなのです、アレは!
1あれは――怨念。
誰かの……深くて絶望した、真っ黒な魂です。
3だとすれば、状況からみて……今回のことは彼が原因ですわね。
2<異端の反転>だな!
3ええ。ですが今は脱出が先ですわ!
三人は廊下を曲がり、玄関ホールヘと飛び込むと、玄関の扉へと手を伸ばす――
2お嬢さんたち、そこを右にねじれば玄関だ!
1ッ!?
3どうしたんですの?!早く扉を――クラニイさん?
1開かないのです。扉が……開きません。
2修理なら、俺の仕事だ!
クラニイと代わるようにジョイスが扉の取っ手を調べはじめる。
2……む? なんだこれはあ?鍵穴もなければ、継ぎ目すらないだとおおお??

3故障ですらないということね。――ッ!!
1近づいてきています。
3ええ。わたくしにも、なんとなく感じましたわ。
これは迷っている場合ではありませんわね……
2どうやら、そのようだ。彼のねじれを、もっと見ておきたかったんだけどな……
3わたくしも鬼才の手がけた館を、スケッチしておきたかったですわ。
1仕方ないです。あれは素直に、私の弔いを受け入れるとは思えませんから。
3では残念ですが……ここを破壊して外へと出ますわよ!

「私が弔います……」
「ねじ切れてる!!」
「なんてこと……」

最終話 骨


 大きな破壊音と共に、館が炎に包まれ燃え上がると、そこから三人が飛び出た。

2おおうぬふう……あのねじれは、俺にはあわない……
3ああいったものは、相手にするのが大変ですわね。
1……やっと出られました。
4クラニィ?! な、なんだっ?この騒ぎは、どうなっておるのだ?
1ゲンコツ。とりあえずブレスです。館に向けて。
4いや、意味がわからんのだが?それにもう燃えておるようだぞ?
1いいからやってください。
4う、うむ。
ゲンコツの放つブレスを受けると、館が崩れ始めた。
4手加減したが、いちおう撃つたぞ。……これでよいのか?
1はい。十分です。あとは、私の仕事ですから。

クラニイは燃える館の前に立ち、弔いの言葉を紡ぐ。
1……生の苦痛をひととき忘れ、あるべき場所へと還りなさい。どうか次の生は、良き人生を。
3……これで、彼も逝けるといいのだけれどね。
4誰の事かは知らぬが我には逝く魂が見えておる。心配はいらぬぞ、茨の姫よ。
3……それはなによりね。教えてくださって感謝しますわ。
ですが、彼ほどの方が、なぜこんなことを……

炎を巻き上げる館から、何かがクラニイの足下へ、はじき出された。
それは汚れてはいるか、元は白い……一本のネジだった。
1ネジ……?
2おおつぉお! 初めてみるネジだ!それも左巻き……これこそ<異端の反転>のネジだあああ!!
1そうなのですか?
3ええ。――左巻きのネジ。これが彼のネジ職人として、大成できなかった証なのですわ。
2……ほむうん? しかしこのネジの素材は……なんなのだ?
3大理石……ではありませんわね。石灰岩とも少し……
1それはヒトの骨です。
クラニイがいうなら間違いない。骨については、玄人であるからな。
3……骨……そう。彼はネジ職人という仕事に、こればどの未練があったのね……
1ヒトをねじり殺すほどの……未練……
2こればどのネジ愛……ロスナーは最後までネジ職人だったのだな。
3建築家としての栄光など、彼には意味のないものだったんですわね……



ネジとは、それほどまでに人を狂わすものなのか……まったく……人とは恐ろしい生き物だ。
1……どうか次の生は……真っ直ぐに……ねじれる事のなき人生を……
3…………

クラニイの弔いの言葉が響く中、炎の粉を巻き上げて、ねじれた建築家の館は崩れ落ちた。
その後――この場所には、左巻きのネジと薔薇をかたどった、小さな墓が建てられたのだった。



その他



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