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【黒ウィズ】その光は淡く碧く 第一章 Story

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最終更新者:にゃん
2015/12/24 ~ 12/25



目次


Story1 皇帝と剣

Story2 想い出の霊雪

Story3 無礼な従者






story1 皇帝と剣



 私が『皇の剣』として仕えることになったのは、幼い皇帝、シャロン・イェルグ様だった。


「あなたが新しい“剣“?」

「……はい。先の“剣“は任を解かれ、私がそのお役を拝命いたしました。

今日より、私が“剣“として陛下をお護り致します。何なりとお申し付け下さい。」

「……お名前は?」

「テオドール……。テオドール・ザサと申します。」

「テオドール……。ならテオって呼んでもいい?」

「テオ……でございますか?」

「……だめ?」

「いえ、ご随意にお呼びいただければ……。」

「よかった。じゃあ、テオに決まりね。」

そう言って微笑む幼い皇帝の無邪気な顔が、私にはただ不憫に思えた。

この皇界に生きる全ての存在、全ての国を統べるには、彼女はあまりに幼く無力だ。

宮廷は、何もかもが用意されていながら、何も与えられることのない孤独な牢獄。

彼女にとって、『世界』は意識の内側にのみ存在する冷たい虚空に過ぎなかった。

だから私は、彼女へ全てを捧げることを決意した。

彼女の「世界」を無限に広げてあげたいと願った。


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story2



「皇の剣」となった私は、シャロン様と行動を共にするようになった。

その日々の中で、私たちは互いに信頼と忠誠を深めていった。

それはそんなある日、シャロン様と野原へでかけた時のこと――。


柔らかな日差しが隣り注ぐ野には一面、美しい花が咲いていた。

シャロン様は野に咲いた花へそっと手を伸ばしたまま、困った顔をして私を見上げる。

「……テオ。」

シャロン様にとって宮殿の外に出かけることは、未開の地へ投げ出されるにも等しい。

花一輪、摘むことにさえ躊躇するほどだった。

私は彼女に微笑んで、そっとその花を摘む。

「ありがとう、テオ。」

不安がほどけていくように、シャロン様は柔らかくはにかむ。


(……シャロン様は、変わられた。)

出会った頃のシャロン様は、役割を果たすためだけの人形のようだった。

自我は薄く、欲求も無く、放っておけば陽の光に溶けてしまいそうなほど儚い少女……。

青い空を仰ぎながら、私は出会った頃のそんなシャロン様を思い出す。

「ねえテオ、あの丘の上に行きたいわ。」

しかし、日傘を透かした光に照らされる横顔には、その頃の面彫は既に無い。

穏やかな性格はそのままであるが、彼女の表情はころころとよく変わるようになった。

私を困らせるようなワガママも、時折口にするほどだ。

皇の剣として忠誠を誓っているものの、そういった変化は心から嬉しかった。

「……ねえ、テオ。」

ゆっくりと花の咲き乱れる丘を、私に抱えられ登りなから、シャロン様はつぶやいた。

「わたしね、あなたが居てくれて、本当に良かったと思う。

ただのお飾りだったわたしに、テオはいろんなことを教えてくれた。」

そこまで言うと、シャロン様は降り注ぐ陽の光に目を細めた。

ふと、少し強い風が吹く。

私はその風からシャロン様を守るように、太陽に背を向けた。

「……まるで、テオは大きな空みたいね。優しく、力強く、わたしをいつも見守ってくれる。

わたしの本当に欲しいものを、いつも何も言わずに与えてくれる。」

思いがけない言葉に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

「あのね、テオ。わたしはね……その………」

シャロン様は胸につかえた気持ちを、どうにか言葉にしようとしている。

「わたしはね、テオ。わたしは……!」

心を絞り出すように、シャロン様は言葉を紡ごうとした。

しかし、その先の言葉を聞いてはいけない。

そう思い、私はそっと彼女の唇を人差し指で抑えた。

「シャロン様。それ以上は、私には勿体無いお言葉でございます。」

シャロン様は、きょとんと驚いた表情をしてから、丘の向こうへと目を流す。

「……見て、テオ。綺麗な海。」

「……ええ。」

小高い丘の上、潮の香が混じるそよ風を受けて、私たちは何も言わずに佇んだ。

水平線に混じる空と海を見つめて。



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story



私が「皇の剣」としてシャロン様へ仕える様になってから幾つもの季節が過ぎ去った。

「テオ、テオ?」

「どうしいたしました?シャロン様?」


「あのね、テオ。今晩の舞踏会なんだけど………やっぱり行かないといけない?」

幼くして皇帝の座についてから時は流れ、シャロン様も舞踏会を開くお年ごろとなった。

その晩は彼女にとって初めての舞踏会。

そこでのお披露目を済ませれば、シャロン様はひとりの成人として認められる。

宮殿の檻に囲われることなく、自身の意思で他の王族や貴族と交流することができるようになる。

しかし、シャロン様はどうも気が進まない様子だった。

「踊りはお嫌いですか?」

「ううん。踊るのは好きよ。でもね……。ああいろのってほら、たくさん人が来るんでしょう?」

「はい。国を超えて多くの王族、貴族が訪れます。みな、シャロン様にお目にかかりたい、と願っているのです。」

「違うわよ、テオ……。みんなが会いたいのはわたしではないわ。皇帝でしょ………」

そう言って、シャロン様は少しだけうつむいた。

「……それは、そうかもしれません。

それがシャロン様だろうが、誰だろうが、彼らは皇帝にさえ会えれば満足をするでしょうね。」

「テオのいじわる……。そこまではっきりいうことないじゃない!」

「でもそれは、致し方のないことです。彼らはシャロン様のお人柄を知らないのですから。

そして、シャロン様もまた、彼らのことを何ひとつ知らない………」

「それはそうかも知れないけど………」

「誰かと知り合うということは、世界をひとつ知るのと同じだけの価値がございます。

私はシャロン様を知ったことで、世界が大きく広がりました。」

「わたしだって、テオのおかげで………」

「今日の舞踏会にだって、シャロン様の世界を広げてくれる誰かがいるかもしれませんよ。」

「わたしは、テオさえ近くにいてくれればそれでいいのにな……。」

「なにも聞こえませんよ。」

「もういい……。少し、ひとりで歩いてきます。」

そういって、彼女は宮殿の外へと出て行った。

しかし、日が傾き始めても、シャロン様は宮殿に戻ってはこなかった。

そして私は、シャロン様を探しにいくことにした。



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私が向かった先は「霊雪の洞窟」。

いつだったか、以前にもシャロン様を探してここへ来たことがあった。

あれは確か聖夜の晩――。

私が彼女を見つけたとき、シャロン様は泥だらけになって土を堀り返していた……。


「んしょ……んしょ……。あ、あった!」

「シャロン様、ここにいらしたのですか?」

「テオ、あの……私ね、ちょっと用事があって……」

「それは私に申し付けて頂ければ済む話です。」

「でも……これは私がやらないと、駄目なの……。」

「泥にまみれることがですか?」

私が問い詰めると、彼女は隠していた霊雪の結晶を取り出す。

「これは……?」

シャロン様は、そのありふれた安価な宝石を、泥だらけになって堀り返していたのだ。

「今日は、聖夜なんでしょう?

下界ではこの宝石を、大切な人に贈る日だって聞いたから……」

「シャロン様が……私に?」

「ええ、だってテオはわたしの大切な人だから……。」


あの日、シャロン様から頂いた霊雪の結晶は、今でも私の部屋に飾られている。

そんなこと思い出しなから洞窟を進んだ先に、シャロン様の姿があった。


「シャロン様……やはりここにおられたのですね?」

「……やっぱりわたしは、テオからは離れられないのね?」

そういえば、あの聖夜の頃からだった。

私が彼女のいる場所や彼女に迫る危機を感じ取れるようになったのは……。

それはまるで、私とシャロン様の心がどこかでつながっているような感覚だ。

「テオ……。わたし、ごめんなさい……。」

「さあ、戻りましょう。」

「……本当に行かないとダメ?」

「……シャロン様。」

「テオと一緒ならいいわ。ね? いいでしょ?」

「お聞き分け下さい。私はシャロン様の剣でございます。」

「そうよ。テオはわたしを守る剣なんだから、ちゃんとわたしを守ってくれないと。」

「舞踏会に剣は必要ありませんよ。私とともに宮殿へ戻りましょう……。」

「……ねえ。覚えてる? わたし、ここでテオに霊雪の結晶をあげたことがあったでしょ?」

「さあ、どうでしょう? おそれながらあまり記憶にございませんが……。」

「……うそよ。わたし知ってますからね。テオが毎日あの結晶を磨いているの。」

「……なっ! 確かにたまに眺めることはありますが、毎日磨いてなど……。」

「ふふふっ。」

慌てる私の顔をひとしきり笑うと、シャロン様の欲求は満たされたようだった。


「皇帝陛下、どうか、宮殿へお戻りください。まもなく舞踏会が始まります。」

 そういって、私はいつもよりいくぶん大げさに頭を下げた。

「分かりました。それでは戻って支度をいたしましょう……。」


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 舞踏会が終わり、シャロン様は私の元へとやって来た。


「それで、いかかでしたか? 初めての舞踏会は?」

「……うん。」

シャロン様はそう言って俯いた。

「……ごめんね、テオ。わたし、舞踏会を抜けだしちゃった。」

「まったく悪いお人だ……。もっとご自分のお立場というものを……。」

「わたしだってそれくらい、わかっているつもりでいたわ。我慢だってしたつもりよ………

……でもね、舞踏会で、色んな人と言葉をかわしていくうちに、自分がどんどん空っぽになっていくような気がしたの……。」

「……空っぽに?」

「テオは、わたしを変えてくれた。いろんな世界を見せてくれた――。

無色で空虚で空っぽな、そんなわたしの世界を、いろんな色に染めてくれた。

それはきっと、テオがわたしのことを本当によく知ってくれて、思ってくれているからだと思う。」

「勿体無いお言葉です。」

「でも、あの人たちは違う。

……気持ちのない言葉を重ねたところで、その人を知ることはできないし、世界は広がらない。」

シャロン様はそこまで話して一つ大きなため息をついた。

「……つまりそういうことだと思う。

それで「ああ、結局わたしの世界はこの宮殿から広がることはないんだ」って思ったの。

やっぱり苦手だな……ああいう人がたくさんいる場所って………」

「初めてのことですから、戸惑われただけかとおもいますよ。」

「……そういうものなのかな?」

「そういうものです。次はきっともう少し楽しくなりますよ。少しずつ、慣れていけばよいのです。」

そんな風にシャロン様を励ますと――

「慣れる? わたしはね、テオ。絶対に慣れることのない人だっていると思うわ!」

と、彼女は不意に語気を強めた。

「どうしたのですか? 私が何か失礼なことを申しあげたでしょうか?」

「ううん……テオじゃないの。あの人にはきっと慣れないだろうな……って思いだしちゃって。」

「あの人……? それは、どのような方なのですか?」

「……なんていったらいいのかしら? とにかく凄く失礼な人だったわ。

だって、突然わたしの手をとって「どこか遠くに行かないか?」なんて言い出すのよ。」

「皇帝陛下にそんなことを?」

「ううん。わたしが皇帝だって知らないで話しかけてきたの。」

「それはずいぶんと世間知らずな王子様ですね。」

「ちがうのよ、王子様でもないの。どこかの貴族の従者だといっていたわ。」

「王族でも貴族でもない、ただの従者がシャロン様と? 舞踏会に従者の出席が許されるはずはない。」

 私は戸惑いながらシャロン様に訊ねる。

「もしやシャロン様、舞踏会を抜けだした後に、その従者に声をかけられたのですか?」

「ええ、そうよ。夜の森のあたりで。」

「なんということを……。シャロン様、夜の森をおひとりで歩くなんて――」

「テオ!お小言だったら後で聞くわ。今は私の話を聞いて!」

 いつになく感情を露りにし、シャロン様は続ける。

「その方ったら本当にひどいの!

わたしは皇帝だからあなたと遠くに行けないわっていうと、

「ヘー、皇帝ってのは可哀想ですね。ひとりじゃどこにも行けないんだ」、なんて言うのよ。」

「……それはひどい。分をわきまえぬにも程がある、というものでございます。」

「やっぱりテオもそう思うでしょ? わたしだって怒ったわ。謝らないとゆるさないわよって!」

「シャロン様が、お怒りになられたのですか?」

「そうよ! 当たり前じゃない!「悔しかったら、ひとりで僕に会いに来てみたら?そしたら謝ってやるよ――」なんて言われたのよ!」

シャロン様がここまで感情を露わにすることなど、これまであっただろうか?

よくも悪くも、シャロン様は、またひとつ世界をひろげたようだ。

「それで、その方はどちらに?」

「うーん。なんかね、これがヒントだって。見たことのない紋章なんだけと………」

 そう言って、紋章の入ったブローチを取り出した。

「これは……。」

 その紋章に、私は見覚えがあった。

「では、その彼に謝ってもらいに行きましょうか?」

「えっ? テオはその人がどの国の従者かわかるの?」

「はい。どういたしますか、シャロン様? 無礼者の戯れ言に付き合う必要もありませんが……。」

「もちろん、会いに行くわよ。でも……テオはいいの?」

「はい。シャロン様の世界が広がるかもしれませんからね。」




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「まもなくでございます。ほら、あそこにお城が見えてまいりました。」

「きれい……。こんなところにお城があるなんて知らなかったわ。」

「城主が少々変わっている、という噂でございます。」

「ねえ、テオ。わたしが突然現れたら、きっと驚くでしょうね? あの従者。」

「ええ、きっと驚かれますよ。」

「ふふ……楽しみだわ。」


私は城の衛兵に話をつけ、シャロン様とともに城内へと入る。

気づけば、シャロン様の怒りはすっかり収まっているようだった。


「シャロン様、とても良くお似合いですよ。そのお花。」

と、私はシャロン様の髪に飾られた花をみる。

その花は、宮殿を出るときから彼女の髪に飾られていた。

「ありがとう、テオ。久しぶりのお出かけだから、少し浮かれているのかもしれないわ。

……そうだ。テオのこともちゃんと紹介しないといけないわね。」

「いえ、私はご一緒いたしませんよ。」

「どうして?」

「友と会うのに剣は必要ないでしょう?」

「友? どうして私と彼が友だちなの?」

「なんとなく、でございます。その者について話られる様子が、まるで友を話るようでしたので……。」

「どうして? 私はちっともあの人のことをいい人だと思っていないわ。友だちってすごく仲の良い人のことでしょ?」

「友とは、気兼ねなく自分の気持ちをぶつけることのできる相手なのです。ですから当然、喧嘩をすることもある。」

「それなら、友と敵の違いはなに?」

「喧嘩をしたあとに、もう一度会いたい、と言うのが友です。」

「そうなの? わたしにはわからないわ。友だちなんていたことがないもの……。

でも友だちなら、なおさらテオを紹介したいな……わたしの大切な人だから。」

と、私たちは大きな扉の前にたどりついた。


「さあ、到着しました。“無礼者”の部屋はこちらでございます。」

私の“無礼者”という言葉に、傍らの衛兵が目色をかえた。

「……ねえ、テオ。従書の部屋にしてはかなり大きくないかしら?」

「そうですね。少し大きいかもしれません。」

「……もしかして、あの従者が……城主なの?」

「では、“友人”とのよきひとときを………」

「……テオ、やっぱり一緒に来てくれない?」

「でも私と一緒では、“ひとり”でここに来たことにはなりませんよ?」

「それはそうだけど……。」

不安げに私を見つめるシャロン様をみて、

私は、手のひらに宿した冷気で一輪の花をつくり、それをシャロン様の髪に添えた。

「ご安心ください。どこにおられましても、私はあなたをお護りいたします。」

「……ありがとう、テオ。」


そう言って、シャロン様は扉を開いた。

新しい世界へと繋がる扉を――。




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「「メリークリスマス」」



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