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喰牙 RIZE 2 Story2【黒猫のウィズ】

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最終更新者:にゃん

白猫ストーリー

黒猫ストーリー


2017/09/15

目次


Story1

Story2

Story3

Story4

Story5






story 使命の意義




〈聖仙川〉を超え、北の街へと続く平原に入ったところで、日が暮れた。  

野営の準備はラディウスたちに任せて、君はミハネに巻いた包帯を取り、治癒の経過を確認する。


「……ごめんなさいミハネさん。」

たどたどしく包帯を巻きながら、アスピナが言った。

「私が化身の力を制御できなかったせいで……。」

「”己を鍛え、強くなる”。それが〈烈刀族〉の使命だ。

神を斬るのは、いい鍛錬になった。」

アスピナは、ちょっと驚いたようだった。

「ミハネさんでも、冗談、言うんだ。」

「言わないことはないが。突然どうした?」

「え?」

「ん?」

どうやら、今のは冗談ではなかったらしい。はたで見ていたユウェルがあきれた。


「おまえは、強さ以外もいろいろ磨け。」

「強さを極めてから考える。」

「いつ極まるんだ。」

「果てがない。そういう使命だ。」


「……ミハネさんは、使命が嫌になったことはないの?」

「ある。」

アスピナが、ハッと顔を上げる。

ミハネは、静かに深まりゆく夜空を見ていた。

そこに答えを見出そうとしているようでもあり、答えがないとわかっているようでもあった。


「かつて、疑問を抱いた。そして、道を誤った。〈呪具盗り〉の汚名は、そのときのものだ。

使命は、トーテムの意志に由来するという。だが、それを実際に守り、伝えてきたのは、氏族の祖先たちだ。

簡単に否定していいものではなかった。」

ミハネは、ちらりとアスピナを見やった。


「〈奪魂族〉の使命は――

”神の声を聞き、よりよき道を進む”こと。」

答え、少女はうつむいてしまう。

「でも、それって、本当に正しいことなのかな。族長も、スタードも……神の声を聞いて、それで、邪神なんて降ろそうとして……。

それに……もう、トーテムはなくなっちゃったのに使命なんか守ったって……。」


トーテムを失った氏族が、どうなるか。君は、アスピナのいないところで、シューラに教えてもらっていた。

「トーテムに授かった力は、そのまま残るの。〈奪魂族〉なら、異界の神様と交信する力だね。

だけど、新たに生まれてくる子供には、トーテムの力は引き継がれない。今の〈奪魂族〉が、最後の〈奪魂族〉になる。

つまり……滅びちゃう。トーテムを失った以上、それはもう、どうしょうもないことなんだ。」

使命を守ろうが守るまいが、滅びは避けられない。その運命は、もう決まってしまっているのだ。


「どんな氏族も、トーテムがいるからという理由で、使命を守ってきたわけではない。

祖先たちは、みな、使命の意義を考えてきた。そして、考えた末に守ると決めて実践してきた。

重要なのは、使命を守ることではない。なぜ、その使命が大切にされてきたのか……それを、考えることだ。

俺は、道を誤って、やっとそれに気づいた。おまえなら、道を誤ることなく、自分の使命を見つめられるはずだー―アスピナ。」


アスピナは、もらった言葉を噛み締めるようにうなずいた。


「いつになくしゃべるじゃないか、ミハネ。」

「話すべきことがあればな。」

「だから、話すべきことがなかったらしゃべらなくてもいいだろうとかいう考え方、いい加減どうにかしろ。

「…………。」

「しゃべれ!!!」



「小難しい話してんな、あいつら。」

「でも、大切なことだと思うな。」


 「まさしくそのとおりですな。レイルも、参考にするんですよ。」

「あたし、ちゃんと使命守ってんじゃん。”喧嘩を売る奴あボッコボコ”って!」

 「もっとひどくなってる。」


火打石を手にしたラディウスが、枝を運んできたジャビーの方を向く。

「おっさんはどうよ。ちゃんと守ってんのか?氏族の使命。」

「守れてたら、こんなケチな稼業してねえよ。」

「あ、そうだ。ジャビーさんって、氏族どこなの?」

「……言いたくねえ。絶対笑う。」

「えー、笑わないよおー。ね、ね、教えて、教えて。」

「放っといてくれよ……どうせ俺なんて人生の負け犬なんだ。どこの氏族だろうと関係ねえだろ。」


「何すねてんだよ。」

枝に火をつけながら、ラディウスが笑う。ジャビーは、ぷいとそっぽを向いた。

「すねたくもなる。

落ちぶれて流れて、盗賊やる度胸もなしに、裏の運び屋やってよ。それが、あんなもん運んじまって、今さらブルってんだ。

俺、なんのために生きてきたんだろうなぁ……。」

「いきなり重たいこと言わないでよ。反応に困るじゃん。」

「ごめん。」

「ただの負け犬なら、がんばってるガキ見て我が身を振り返ったりしねえさ。」

「言うなよ。自分でも情けねえと思ってんだよ。」

「だから、1歩、進んでみたんだろ。」

「進もうが進むまいが、負け犬は負け犬さ。」

「どうかな。」

「負け犬にだって、牙はある。倒れるたびに地面で研いでりゃ、いつか、喰らいつく日も来るだろう。

「喰らいつくって、何にだよ。」

「”これだけは許せねえ”。そんな、何かさ。」


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story 昼食RIZE



陽が中天にかかる頃。いったん昼の休憩を取ることにした。

ミハネが、早朝にこしえらえたという握り飯をみなに配っているなか。ラディウスがアスピナの方を向く。


「なあ。」

「ひっ!」

『バリアー!』

「……おい。」

「無理ぃー!」

『バリバリアー!!』


「もー、何やってるの、ラディウスさん。おどかしちゃだめだよー。」

「なんもしてねえんだけど。」


ラディウスは、目の前に展開した障壁――を構成しているペンデュラムを、つんつん突つく。

「変わった呪具だよな、これ。全部、ライズできんのか?」

『バリアー!』

「複数同時にライズとかも?」

『バリバリアー!!』

「会話しろ!!」

『バリバリバリアー!!』

 「はいはいラディウスさん、刺激しないの。」


「アスピナ。具はオカカとシャケがある。」

「シャケ。」


「なんでだ!!」

『バリアー!』

 「だーかーらー。」

君とジューラは、ラディウスを引っ張ってアスピナから遠ざけた。



納得いかないという顔で座るラディウスの前に、ミハネが、握り飯を持ってくる。

「塩だ。」

「選択の余地は!?」

「余った。我慢しろ。俺も塩だ。」

「いただきまーす!んー! 塩おいしー!」

無言で威圧してくるミハネに対し、別に嫌とは言ってねえよ、という顔で、ラディウスは、握り飯を受け取った。

「ミハネ、おまえ、米と具、いつも持ち歩いてんのか?

「実家が寿司屋だ。

ラディウスは、米を噴きそうになってむせた。

「お……おまえ……いきなり爆弾ぶん投げてくるな……微妙に会話になってねえし。」


L「スシって何?」

3「ご飯に具を乗っけて食べるの。おいしーんだよ一。」

4「今の話、何気に初めて聞いたんだが……〈烈刀族〉にも寿司屋なんてあるのか……。


「強くなることは、氏族の使命だ。だが、純粋な戦士の道を選ぶ者は少ない。みな、いろんな職に就く。

実家は兄が継いだが、俺も技は仕込まれた。そのせいか、米に触れていると心が落ち着く。本当は酢飯がいいんだが。」

3「お! そういえば、聞いたことあるよ。お寿司を出せる呪装符があるって!」

「なに!?」

4(喰いついた)

「なんて言ったかなあ。”銘”は忘れたけど。」

「そういう呪装符があるってことは、そういう精霊がいるってことだな。魔法使い、聞いたことあるか?」

どうだったかな……と君は記憶を探った。



「今日のご飯はSUSHIよ、ファルク!」

「なにそれ。」

「知らない。でもきっとだいじょうぶ!

ライズ――〈サイボーグ・スシ・シェフ〉!!


(やべー感じしかしねー)


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story 濡れた瞳の震える夜に



「こっちから、森に入れる。それが、街への隠れた近道になってんだ。

君たちは、ジャビーの案内で、平原の片隅から森に入った。

「入り組んだ森だからよ。普通に進むと時間を食っちまうんだが、道さえ知ってりゃ、こっちのが早い。


ジャビーの言うとおり、木々が密生していて、進みづらいことこの上ない。

しかし、それでも開けた場所というのはある。そこを繋ぐように密かに整備された道が、裏の運び屋たちの使う経路になっているらしい。

「結局、〈華聖族〉の里、行き損ねちゃったなあ。」

「しょうがないよ、ジューラ姉。今は、あいつらに追いつくのが先決だもん。

「そうだね。杖を封印したら、また戻ってこよっか。」

あのきれいな山も、どこかの氏族の聖地なの?と、君は口を挟んだ。


「ありゃ、〈天翔ける鳳凰姫神〉を卜―テムとする〈凰姫族〉の山さ。

〈凰姫族〉は翼が生えてるもんだから、山の高えとこに住んでて、滅多に降りて来ねえ。

ただ、あの山は年がら年中、木に色とりどりの花が咲いててよ。

わざわざ遠くから観光に来る奴もいるんで、けっこうにぎわってんだ。

3「お、さすが運び屋さん。詳しいんだ。

1「あんたが運ぶの、主に裏のブツなんだろ。そんなにぎやかなルートでいいのか?

「隊商にまぎれ込んだ方が、むしろ安全さ。ブツを追ってくる奴がいたって、観光名所で派手にやらかすのは避けたいはずだしな。

とか思ってたら、でけえ蛇に乗ったアスピナがー直線に突っ込んできて、頭ンなか真っ白になっちまったけど。

「やっと見つけたって思ったから。あわてちゃって、急に止まるの無理で……。

「そして、そこに私たちが現れたというわけにゃ。

「「死ぬかと思った。」」

L「同レベルか。」


「おっさんはいいとしてよ。アスピナは、なんでそんな怖がりなのに、戦ってまで杖を追っかけてんだ」

 「……と、ラディウスさんは申しております。」

「化身を呼んで戦える人は、少ないから。だから、やれる私がやんなきゃって……。」

 「……と、アスピナちゃんは申しております。」

1「意味あるか、それ……?」


森を出る前に、夜が訪れた。君たちは火を熾し、交代で見張りを立てて夜を過ごすことにした。


どこかで、フクロウが鳴いている。

闇と融け合うような鳴き声を、なんとはなしに聞いていると、ふとジャビーに肩を揺すられた。


「な、なあ、魔法使い。あっちの方から、なんか聞こえるんだ。その……人の声みてぇなのが。

わかった、とうなずいて君は立ち上がる。念のため、確認に行くつもりだった。

「見張りは私かやっておくにゃ。そう言ってくれるウィズに場を任せ、ジャビーが声を聞いたという方に向かう。



魔法で作った、かすかな灯りを伴い、足音を殺して慎重に進んでいくと、確かに、それらしい声が聞こえてきた。

か細く、弱々しい声だった。鳥や虫の鴫き声かと思ったが、違う。

それは、悲しみに濡れた泣き声だった。


「アスピナ……か?」

たぶん、と君はうなずく。耳を澄ませると、はっきり確信が持てた。


「うう……ううう……ううあああああああ……。」

ありったけ。ぎゅっと雑巾を絞り抜くように、自分の奥にあるものを、残らず絞り出す。そんな、烈しく痛々しい号泣が響く。

「もう……無理――こんなの……無理ぃ……!」

訴えるようであり、駄々をこねるようでもあった。撒き散らせるだけ撒き散らしているようでもあり、見えない何かに叩きつけているようでもあった。

「なんで、私じゃなきゃいけないのー―?こんなの……こんなことー―戦うなんて一一なんて、私に……」


ジャビーが、茫然と目を見開いていた。突然の雨に打たれた人のように、何もできず、ただ立ち尽くしていた。


「ううう……やだよ……やだ……無理……代わってよー―誰でもいいから!誰か、私と、私と、代わって……!!」

喉も裂けよと叫んでから、小さく咳き込んだ。嗚咽に混じって、弱々しくえずく(・・・)のが聞こえる。この闇のどこかで、小さな身体を折りながらー―


「あの子は、時折、ああしている。」


ひそめた声が、後ろからかかった。いつの間に起き出してきていたのか。ミハネが淡々と佇んでいた。

「俺たちのような戦士とは違う。力はあっても、心は命のやり取りに耐えられない。

それでも戦うために、押し込める(・・・・・)ことを覚えた。


「感情のやせ我慢と、先送りだな。怖えとか辛えとか、全部いったん押し込めて、とにかくその場は切り抜ける。

しばらくしてから、波が来る。先送りにした分、まとめてな。」

ラディウスも、気づかぬ間に近くに来ていた。彼の言葉には、どこか実感がこもっているように、君は感じた。


「アスピナは……本当に戦わなきゃなんねえのか?あんな子が、あんなにまでしてやんなくったって、それこそ、誰かが代わってやりゃあよ……。

2「あの子がそれを望んでいない。代わりに誰かが戦うことをー―負うべき痛みを押しつけることを。

だから、ああして耐えている。耐え抜くすべを見出してまで、スタードを止めようと、決意している……。」


誰かに代わって欲しいという願いと、誰にも背負わせたくないという思い。

恐怖をねじ伏せられるほど、強くはなく。責任を放り捨てられるほど、弱くもなく。

震えながら戦う。ただ必死に。喰らいつくように。


それが、アスピナという少女なのか。

ジャビーは言葉を失い、そして、悄然とうなだれた。


「帰りたい……帰りたいよぉ……うちに帰りたい……。」


叫ぶ。

そんなものは、もうどこにもないのだと――痛いくらいにわかっていても。


「帰して……誰か……。

うちを……返してぇ……!」


故郷をー―そしておそらくは家族も失い、たったひとり、力ある者の務めを果たすべく、恐怖を殺して止めるべき戦いに挑み続ける。

そんな少女の絶えざる弱音が、夜陰を静かに震わせ続けた。


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story 上級 外れた道はここで断つ



3「あー、北の街って、ここかぁ。」


用途も構造もわからない謎の機械が、街のあちこちで、煙を噴き上げながら盛んに動き回っている。

鳥を模した機械がハタハタと金属の翼をはばたかせて道を行き交い、何やら奇怪な声を上げる。


『ウェーイ。』

『ウェイウェーイ。』

どうやら、あいさつを交わしているらしい。その内容は、まったくとしてわからなかったが。

「……なんだここ。」

ある意味、そんなラディウスの感想が、この街をあらわすすべてだった。


「〈フワツとしたアレ〉を卜―テムとする、〈アレフワ族〉の街だよ。ここの人たちは、『ウェーイ』でだいたい会話できちゃうの。

「またそんなのか……。

「そもそも人じゃないにゃ。

3「あれは、魔道機械の使い魔。みんなものぐさだから、買い物とか、全部あれに任せちゃってるんだ。

4「なるほど、魔道研究が盛んなのか。道理で、やたら呪具が目につくわけだ。

「そういうこと。各地から呪具が集まってくるのさ。陸路以外に、海路や空路も使われてる。高飛びするには絶好の場所よ。

5「こんな、広くてごちゃごちゃしたとこじゃ、誰かを探すなんて、無理なんじゃ……。」

『ウェーイ。』

「ひいっ。」

『バリアー!』

『ウェーイ?ウェイウェーイ!』

『バリアー!  バリバリアー!』

『…………。』

『…………。』

『ノーバリアー。』

『ヨロッシヤース。』

 L「わかりあった!?」

「通さないでぇー……。」


飛んできた機械鳥は、シューラの頭の上で止まった。

『シューラ、ウェーイ。

「んん? あ、ひょっとして、モビィちゃん?わー、久しぶり!

「えっ、シュ―ラ姉、知り合い?

「うん。前にここに来たときのね。ちょうどいいや、ちょっと訊いてみよっか。


「ね、モビイちゃん。実は、人を探してるんだけど……。

シューラは、かくかくしかじかと、頭上の機械鳥に事情を説明した。

機械鳥はコクコクうなずき、何やら盛んにしゃべり始める。

『ウェーイ。ウェイウェイウェイウェーイ、ウェーイウェイ。ウェイ?』

 1「わかるか。」

「んー、ちょっと待ってね。通訳するから。」


言うなり、シューラの目からスッと光が消えた。唇が、ぼんやりと言葉を吐き出し始める。


「んつとねー。今、総合的魔道情報共有システムでみんなに聞ーてるとこなんだけどー。なんかそれっぽいのが、今朝くらいに来たって。

4「今、どこにいるかわかるか?」

「そゆの聞いちゃう? いろいろ許可いるんだけど、〈琥食み〉にゃー世話んなってるし、まあ、有事につき超法規的うんたらでゴリますわ。」

ゴリ押しでなんとかすると言いたいのだろうか、と君が考えているものの数秒の間に、〈アレフワ族〉は再びしゃべり出した。

「魔道航空艇発着場に、申請があったって。昼の便、南の島行き。申請者は、近くの宿にチェックイン中。

「この短時間で、そこまでわかるのか。すげえな、その総合的魔道なんちゃらってヤツ。

「でっしゃろ。


4「昼までには、まだ時間がある。ジャビーの近道が功を奏したな。

「あんまり、人に広めねぇでくれよ。運び屋しか知らねえ、秘密の道なんだから。

こうなりゃついでだ。発着場の近くまで案内してやるよ。この街も近道には事欠かねぇからな。

2「頼む。

確とジャビーにうなずいてから、ミハネはアスピナの方を向いた。 


「奴は、ここで止める。悪いが、命の保証はしてやれん。

「……わかってる。あの人が、本当に本気なら……たぶん、そのつもりじゃないと、止めるなんて無理だから。


アスピナは、気丈に言った。

今も、心を押し込めているのだろう。戦うことへの恐怖。同胞を手にかけることへの嫌悪。そのすべてを、”先送り”にして。


「やらなきゃいけないことだもん。だったら……やる。


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story 上級外れた道はここで断つ



1「”フィアフルクリメイター”!」

2「”真技・氷柱刃”!」


炎刃と氷刃が、眷族の群れを薙ぎ払う。

烈火のごときラディウスと、激流のごときミハネ。並び立つふたりの怒涛の剣撃が、路地にあふれる眷属たちを呑み込んでいく。


L「もー、なんでこんなに出てくんの!」

「どうも、こちらの接近に気づかれておりますな。神のお告げでもあったんでしょうかね。」

「まさしくその通りかもしれんぞ、フレーク殿。眷属を呼び出せるんだ、とうに邪神とねんごろだろうさ!」

路地を抜けた先の広場にも、眷属たちがひしめいている。

その広場の奥、大きな船のようなものが、ゆっくりと浮かび上がろうとしていた。


3「あっ、あの船!スタードに強奪されちゃったんだって!」

1「野郎、文字通り高飛びを決め込む腹か」

2「アスピナ!」

5「う、うん!〈命の御柱〉、〈光の礎〉――」

2「ライズ――〈白銀の竜騎士〉!」

神に呼びかけようとするアスピナを、ミハネが小脇に抱えて、跳躍した。

ライズによって強化された脚力で、蒼く澄み渡る空へ、高々と。

「え。待っ、無理、無理ぃぃいぃいいー―――!?」

悲鳴が、空に長く尾を引いた。

ふたりは矢のような速度で宙を駆け、やがて弓なりの軌道で落下する。

順調に離陸を続ける魔道航空艇―-その頭上へと。


「ロード――〈不動なる剛烈刀〉!」

「か、〈怪炎の魔神〉っ!!」


蒼の烈刀が、ばっくりと航空艇の装甲を引き裂く。

そこへ魔神が、呵々と笑いながら、暴虐そのものの業火を、ありったけぶち込んだ。


炎に蹂躙(じゅうりん)された魔道航空艇は、さらに内部機構に誘爆し、無数の爆華を宙に咲かせる。

そして、よろよろと広場に落下したかと思うと、そこにひしめく眷属たちを巻き込んで、すさまじい大爆発を引き起こした。



L「うっわあ……。」

4「お、おい、あれ、ふたりは無事なのか!?」

ユウェルが辛うじて声を絞り出した瞬間、青い空をもくもくと汚す爆煙のなかから、何かが飛び出し、こちらに飛んでくる。

ペンデュラムの形成する障壁に守られた、ミハネとアスピナだった。


障壁が、空中で崩れる。ミハネは、完全に硬直したアスピナを抱え、突き立つ刃の鋭利さで、君たちの前に着地した。


「よくやった、アスピナ。」

「ひゃい……。」

4「お、お、おおおおまえな!なんだ今の無茶! いやもはや無茶苦茶!!

「あれが、いちばん手っ取り早かった。」

さらりと言って、ミハネは吹き上がる炎に視線を向ける。

「気を抜くな。まだ終わっていない。」

その言葉を証明するように、ひと振りの刃が、炎の帳を引き裂いた。

舞い散る火の粉の狭間から、ゆっくりと、剣と杖を手にした男が歩み出てくる。



〈奪魂族〉の戦士――スタード。

いかなる加護によるものかー一大地を焦がす爆炎の只中にあって、その身は火傷ひとつ負ってはいない。


「大した男だ。”足”を潰されてしまった。」

残る眷属たちを付き従え、悠然たる足取りで近づいてくる。

「ご加護がなければ、死んでいた。」

「邪神の加護など、どうせろくなものではあるまい。」

ミハネは、ひたり、と刀を構えた。

「次は斬る。嫌なら、杖を渡せ。」

「断る。それでは神を降ろしえぬ。」

「なんで、そんなことするの!?”神の声を聞き、よりよき道を選ぶ”――それが、私たちの使命のはずでしょ!?」

「使命を守ると、誓えばこそだ。アスピナ。」

2年前――確かに俺は邪神の降臨を止めた。族長は邪神に魅入られ、傀儡と化していたからだ。それは、止めねばならない過ちだった――

だが結果――我が氏族はトーテムと故郷を失った。そして、他の氏族の侮蔑の視線を浴びながら永遠にさまよう、よるべなき流浪の民となった!

族長を止めたのは、正しかった。だが、そのせいで、俺は……同胞の故郷と、未来と、尊厳を奪ってしまった!

「だからって、邪神を呼ぶなんて!」

「俺が降ろそうとしているのは、邪神ではない。ヅエムヌアグヅー―”ただそこに在る”だけの神だ。

彼の神を降ろせば、そこが新たな故郷になる。”何があろうと絶対に存在し続ける”――決して失われることのない、永遠の故郷に!

俺に協力してくれている者たちも、同じだ。氏族を追い出され、居場所を失った、よるべなき者たち。どこへもゆけぬ者たちだ!

居場所なき者のための居場所!故郷なき者のための故郷!それを作るため俺は神を降ろすのだ、アスピナ!」

「…………っ!」

アスピナが、震えた。スタードの意志、そして願いの強さが、如実に伝わったからこその、震えだった。

震えながら、相手を見据えた。大きな瞳に、いっぱいの涙をためたままー-それでも、彼女は首を横に振った。

「人を殺して、魂を生費に捧げるなんて……そんなの、ぜんぜん”よりよき道”じゃない。私たち、そんな使命を守ってきたわけじゃない!

だから――」

ペンデュラムが、陣を組む。そこから激しい魔力があふれ、三柱の神の化身をあらわす。

大気のすべてが震えるほどの神気のなか、少女は声を振り絞る。

「外れた道は、ここで断つ!!」


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story2-2




剣|が、魔法が、神威の一撃が、スタードに殺到し、咋裂し、直撃し、打ちのめす。

「ぬううううううあああああああああッ!!」

己の血潮にまみれながら、それでも彼は倒れない。杖を掲げ、怪物を生み出し、剣を振るい続ける。


「タフな野郎だ。それが邪神のご加護ってやつか!?」

「そうだ! ヅエムヌアグヅの加護!何があろうと存在し続ける力だ!成すべきことを成すまで、この身は果てぬ!

ライズ――”冥府魔道の主”!」

スタードの剣が、妖しい輝きを放った。杖に宿る無数の魂が怨嵯を響かせ、荒れ狂う人魂の群れと化す。

怨霊と化した魂は、怨みの念の馳せるまま、むせび泣きながら君たちに喰らいついてくる。

3「人の魂を、道具みたいに!

「ライズー―”虚ろなる魂の還し手”、”天空の炎翼”、”日輪ノ巫女”!」

アスピナが、3枚の呪装符を放った。3つのペンデュラムが口で受け取り、むしゃむしゃと飲み下す。 

「”禍魂還し”!!」

みっつの霊炎が、荒れ狂う怨霊たちを、そっと優しく包み込んだ。清め、導き、植れを削いでいく。

「なんとー―ぬうっ!?」

驚きに目を見張るスタード――その側面から、地を這うように忍び寄っていたミハネが、すり上げるような一閃を見舞った。

スタードは、反射的に左腕の杖でこれを受ける。

それがミハネの狙いだった。杖は甲高い音を立て、宙に弾かれた。

「〈呪具盗り〉ィッ!!」

憤怒のままに、スタードは長剣を斬り下るした。隙を突くため無理な姿勢で飛び込んだミハネは、それを避けられず、袈裟懸けに斬り裂かれる。

ゆらり、倒れるミハネと入れ併わるように、その頭上を飛び越える影があった。

ラディウス。すでに剣が呪装符を食んでいる。

紅蓮の炎を振り上げながら、彼はさらなる力を求めて吼えた。

「我が剣に宿れー―〈紅き黄昏〉クルス・ドラク!」

剣が、血色の太陽を思わせる赫々たる輝きを放つ。君は咄嵯にそちらへ魔力を送った。叡智の扉に干渉し、暴走する力を抑え込む。

「”ダーク!サン!ブラッド”ォッ!!」

血色の炎刃が、星降るように雪崩れ落ちた。

真っ向から斬り伏せられる――寸前、スタードは辛うじて長剣を滑り込ませた。互いの剣が、火花を散らして噛み合う。


「同胞のためー―その故郷のため!こんなところで死ねるかァッ!!」

「悪くねえ牙だがな――

ねじくれてんだよ、てめえのはッ!」

伝説級の呪装符を使ったライズに、叡智の扉から呼び込んだ精霊の力を上乗せした一撃は、神の加護でも止めうるものではなかった。

すべてを喰らう燎原の炎さながらに、長剣もろとも、スタードの骨身を溶断する。

「があッ……、か、はっ……。」

炎に包まれたスタードは、がくりと膝をつき、そして、前のめりに倒れた。

同時に、広場に残っていた眷属たちが形を失い、赤黒い霧となって、風に吹き散らされていった。


「……さすがに、杖がなけりゃ、”存在”の加護も品切れか。」

スタードが完全に事切れていることを確認し、ラディウスは、ふうっと大きく息を吐く。合わせて、大剣が満足げに呪装符を吐き出した。


「ミハネさん!」

血相を変えたアスピナが、ミハネに駆け寄った。

己の血だまりから、剣士はむくりと起き上がる。袈裟懸けに斬り裂かれたはずの胸元には、うっすらと赤い線が刻まれているだけだ。

「生きている。急所は外した。」

ラディウスの”ダークサンブラッド”――その余波を受け、傷を癒したのだ。

「人のライズをあてにすんなよ。さては、前ので味をしめやがったな。

「あればいいとは思っていたが。ないならないで、やることは変わらない。

「ラディウスの方こそ、ウチの弟子をあてにしすぎにゃ。」

「やれるだろ、こいつなら。」

どうせ、ないならないで同じことしたでしょ、と、君は言った。

ラディウスとミハネが組むと、ろくなことにならん。

あきれたように言いながら、ユウェルが、弾き飛ばされた〈奪魂杖〉を拾い上げて、シューラに渡した。

「とりあえず、仮封印しとくね。」

シューラが、杖を槍に喰わせるのを見て、アスピナが、ほうっと息を吐く。


「終わった……。」

そして、倒れ伏したスタードの屍を見やり、うなだれるようにうつむいた。

「故郷が、なくなったこと……ずっと、自分のせいだって、思ってたなんて――」

「なまじ意志と責任感の強すぎる奴ってのは、自分で自分を止められなくなるもんだ。なあ、ミハネ。」

ミハネは、ラディウスの言葉に眉をひそめ、震えの止まないアスピナの小さな肩に、そっと白い手を乗せた。

「今は休め、アスピナ。考えるのは、後でもいい。」


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story 祭りの後



魔道航空艇発着場で起こった事件については、シューラが街の人々と交渉し、理解を得たことで、速やかに事後処理が行われた。

君たちは宿を借り、疲れ切った身体を休めた。特に、3柱の化身を呼んだアスピナは相当に疲弊していたらしく、泥のように眠り込んだ。


「ついでだから案内するなんて、言うんじゃなかったぜ。危うく巻き込まれるところだった……。」

「どうせなら、いっしょに戦えばよかったのによ。その剣、飾りにしとくにはもったいないぜ。」

「……まあな。実は、弟の形見なんだ。故郷でもいちばんの戦士でよ。あいつなら、あんな奴ら、目じゃなかったろうな。」

あいつみたいになれたらって持ち出したはずが、結局、宝の持ち腐れだ。

ジャビーには、約束通り、案内料が支払われた。

「エネリーのような魔道士には近づかない方がいい。いつまたあんなものを運はされるかわからんぞ。」

「そうだな。俺もさすがに、いろいろ懲りたよ。改めて、身の振り方を考えるさ。

”勇気を胸に決断する”……。なんて、俺にゃ無理な使命だと思ってたけどよ。ちったあ、あの子を見習ってみるかな。」

そう言って、ジャビーは街を後にした。


「私たちも、帰る方法を考えなきゃいけないにゃ。もちろん、たっぶり休んだらだけどにゃ。」

「そうそう、せっかく〈破食み〉が来たってことで、このあと、宴をすることになってるから。魔法使いさんも、参加してよ!」

「ここの名産品ってなんだ?まさかネジとか言わねえだろうな。」

「さすがに違うよー。私、ネジも食べられるけど。」

L「マジで!?」


宴のお触れが広まって、街に活気が満ちていく。

ほっとしたものを感じながら、君も、その雰囲気に心をゆだねた。



明るく騒がしい宴から、―夜が明けた。

朝食を取るため、宿の食堂に向かった君は、ラディウスたちが真剣な表情で相談しているところに出くわした。

どうかしたの、と尋ねると、ユウェルが苦い表情で頭を振った。


4「アスピナがいないんだ。」

2「ベンデュラムはないが、荷物はそのままだ。黙って旅立ったとは思えん。」

3「宴が始まる前、部屋に様子を見に行ったときは、まだぐっすり寝てたから……いなくなったのは、宴の最中だと思う。」

L「スタードのー味が、さらってっちゃったとか?」

4「スタードの代わりに邪神を降ろさせるために……という点では、考えられるが――それなら〈奪魂杖〉も必要だろう。」

1「シューラを狙う奴はいなかった。いちおう、宴にまぎれて杖を取り返しに来ないか、警戒してたんだがな。」

顔を突き合わせて唸っていると、


「魔法使い? あんた、なんてここにいんです?」

「〈琥食み〉が来たとは聞きましたけど。」

食堂の入口の方から、懐かしい声が飛んできた。



3「イルーシャさん、ファルクくん!お久しぶり!」

「ご無沙汰しておりますわ、みなさま。昨日は、大変だったようですわね。」

「それなんだけど、ちょうどよかった!禁具に人の魂が封じられてるから、清められる人を探そうと思ってたんだ。」

シューラが、槍から〈奪魂杖〉を取り出すと、イルーシャとファルクは、やけに鋭くその目を細めた。

「それが、怪物を――いえ、邪神の眷属を生み出す杖ですのね。」

「あれ、もうそこまで知ってるの?」

実は俺らも、それを追ってたんです。東で(・・)、怪物が出るって事件があったもんでね。」

1「東で?」

意味深な物言いに、ラディウスが眉をひそめた。

確か、シューラたちは、西で起こった怪物事件を調査していたのが、発端だったはずだ。」

「村を襲い、魂を奪っている輩を見つけて、やり合ったんですけどね――」

「追いつめきれないまま、この街に逃げ込まれてしまって。それらしい人が、昨日のうちに、船で南に発ってしまったのですわ。」

1「待てよ。つまり、あの杖が――」

F「最初から、2本あった。そういうことでしょ。」

4「そうか。奴ら、2本の杖の魂を合わせるつもりだったのか。」


――あの杖には、もう半分くらい、儀式に必要な魂がたまってる……。――

西と東で、必要な量の半分ずつ魂を集め、その2本で邪神降臨を行う。それが、彼らの狙いだったのだろうか。


F「邪神降臨?連中、マジにそんなことする気なんてすか?」

君たちは、スタードの言をふたりに話した。

するとふたりの表情が、さらに険しさを増す。

I「スタードと、彼の杖は、囮だったのかもしれませんわね。」

F「もう1本の杖を、確実に運ぶための。両方うまく運べりや、それがいちばん良かったんでしょうけど。」

4「2本の杖を運べれば、邪神降臨に事足りる。1本だけになったとしても、足りない分の魂はあとで集めればすむ……。

首魁のスタードが、自ら囮役を買って出るとは。いや、そうであってこそ、囮の意味が出るのか。」

「バルチャスが、すでに1度、囮をやってるにゃ。そのせいで、スタードは本命のはずだって、無意識に思ってしまったところもあるにゃ。」

4「とにかく、すぐに探し出さないと。魂を集め直すのに、時間がかかるとはいえ――」

F「杖1本で、じゅうぶんかもしれない。」

ファルクが言った。シューラに差し出された〈奪魂杖〉を、じっと見つめながら。

「邪神の力で、”故郷”を作る。それが奴らの目的なんでしょ?だったら、邪神を降ろすまでもない。

この世界ならね。」

その言葉に、シューラがハッと目を見開いた。

3「そっか。邪神を降ろさなくても、その力を呼び込むことができたら――」

I「その力は、トーテムとなって世界に根づく。”ただそこに在る”という特性を持った、新たな卜―テムとして。」

F「で、奴らはその氏族になるってわけです。たぶん、その契約は、すでに済んでる。」

言ってファルクは、手に提げていたズダ袋から、何かを取り出し、テーブルの上に置いた。

焼き焦がされた、スタードの生首だった。

L「ちょっ!どうしたのこれ!」

I「墓場から、お借りしてきましたの。一見、ふつうですけれど――」

F「ライズ――”真を見透かす三鏡”!」


フアルクが鎌に呪装符をライズすると、目の前に、淡く輝く魔力の鏡が生まれた。

その錆に、スタードの生首は映つていない。

禍々しくねじくれた、邪神の眷属の頭部。それが、テーブルの上に乗ったものの正体だった。


4「すでに――奴自身、眷属と成り果てていたのか……!」

2「なら、奴らが卜―テムを生み出そうとしているのは――」

3「トーテムのない場所。」

シューラが、真剣な表情で言った。

3「〈奪魂族〉の里の、あった場所――」


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story 封魔級 よるべなき者たち



闇を、我がものとしたかのような場所だった。

すべてを照らす光をさえぎり、罪も業も覆い隠す閥をこそ寝床とする。そんな意志を体現したような、暗く深い空間。

重く粘る空気が、肌にまとわり、沁み込んでいく。抜け出しようのない泥淳―一間色の蟻地獄。逃すまい、という意志をひしひしと感じる。


「うっ――」

頭痛。ペンデュラムを通じて神の声を聞こうとして、アスピナは、うめきとともにかぶりを振った。

声は聞こえた。脳をかきむしるような声だけが。おぞましさに震え、吐き気をこらえる。


「ここは、ヅエムヌアグヅの聖域だ。他の、いかなる神の声も届きはしない。

粘りつく闇の奥から、男の姿がにじみ出る。アスピナは、思わず息を呑んでいた。

「どう、して――死んだ、のに……。」

「心の目を背けるな。おまえには、見えるはずだ――アスピナ。」

「…………っ!!」

見たくなかったものが、見えた。男の本性。変質した根源。変わらぬままに変わり果てている(・・・・・・・・・・・・・・)ー―

「うう……あああ……あああああああ……!!」


声も、見た目も、意志も、何ひとつ変わらぬまま。存在そのものが、別の何かに置き換えられている。

寄生虫に侵された虫が、見た目の変わらぬまま、体内を喰い荒らされてしまったように。

「ここが、新たな我らの故郷となる。」

穏やかな口調で、スタードは言った。彼の声であり、彼の意志であり、彼の言葉だった。

だがー―内側から喰い荒らされた”彼は”どこまでがアスピナの知っている”彼”なのか。

「失われることも奪われることもない、悠久の故郷。何があろうと、在り続ける居場所だ……。

こんな場所を故郷と呼ぶ。呼べてしまう。今のスタードは、そんなスタードなのだ。スタードのまま、塗り替えられた……。

「もう、さすらうことはないのだ。アスピナ。他人のどんな言葉にも、怯えなくていい。

ここでなら――俺たちの魂は、永遠に安らいでいられるのだからな。」

きびすを返し、闇の彼方へ溶けていく。見慣れたはずの広い背中が、今はもう、誰のものとも思えなかった。


「……すまねえ。」

すぐ隣から、声がした。のろのろと顔を上げたアスピナは、そこにジャビーが座っているのに気づいた。

「気づいたら、おまえさんを連れて、ここに来てた。何か何だか、俺にもわかんねえうちに――」

悄然と、うなだれている。まるで自分みたいだと、アスピナは思った。自分を外から見たら、こんな風なのではないかと。

「きっと、一瞬ありだって思っちまったからだ。あのときあいつが言ってたこと……居場所のねぇ奴に居場所をって……それで、操られた……。

俺も……居場所のねぇ負け犬だから……。」

アスピナは、首を横に振った。

「ジャビーさんのせいしゃない。心の隙を突くのは、邪神がよく使う手だから……。」

自分でも気づかない穴。見たくもないどこか。そこに、するりと入り込み、そっとささやくのだ。

自分にとって、とても気持ちのいい言葉。”そうしたっていいはずだ”――そんな甘美な言い訳を。

「それでも……それでも俺は……自分が情けなくってしょうがねぇ。」

大の大人が泣く姿を、アスピナは初めて見た。

情けないとは思わなかった。

この人は、ずっと自分の弱さを許せないまま生きてきたのだろうと思うと――ただ悲しかった。


 ***


道に、禍々しい毒気が立ち込めている。踏み込めば踏み込むほど、その暗さはいや増し、心のすべてを呑み込もうとしてくる。


「推測は、まちがってなかったみたいにゃ。」

ウィズの言葉に、君はうなずく。

船に乗り、南の島へと渡った。そして、もう誰も近づくことのない、〈奪魂族〉の里の跡地を目指してきた。

そこが邪神降臨の地だろうという推測は、目の前の光景に裏づけられている。


4「土地が、変質を始めている。トーテムが根づこうとしているんだ。」

F「すでに儀式が始まってんでしょうね。急がねーと、手遅れになりますよ。」

1「向こうは、邪魔されちや困るってツラだな。」

地面から、次々と眷属が這い出してくる。根づいた木々が、急速に成長したかのように。


3「おもてなし……って雰囲気じゃないよねえ。」

I「〈琥食み〉がいらっしゃったものだから、張り切っているのでは?」

2「なんだろうと、切り抜けるしかあるまい。」


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story3-3



F「ライズー―〈魔界懲罰師〉!」

I「ライズー―〈悪鬼魔道の討ち手〉!」

大鎌から広がる闇の鞭で、礼儀正しく1点に集められた眷属たちが、神炎の滅矢を受けて消し飛んでいく。


次から次へと出てくる眷属たちを蹴散らしながら進むため、君たちは自然と固まっていた。

円陣に近い形で、四方の敵を退けながら、じりじりと前進を続ける。それはこの状況において最適な手であったが――

「眷属だけでこっちの進行を食い止められるとは、相手も思ってないはずにゃ。」

魔法を放つ君の肩の上で、ウィズが、ぽつりとつぶやいた。

「゛固まって進む、、。当然の判断にゃ。そうせざるを得ないよう、相手が誘導していたんだとしたら――」


「ライズ――〈機槍鋼帝〉。」

「――!」


この場において、ただひとり戦う力を持たず。誰より優れた知性と、猫ならではの鋭敏な感覚で、周囲の警戒に専念していたウィズ。

そんな彼女だからこそ、”それ”に気づけた。


「”システム・テンペスト”!」

「来るにゃ! 前方ッ! 障壁ッ!!」


鋭い声に叩かれて、君はほぽ反射的に、前方に防御障壁を構築していた。

直後――とてつもなく巨大な魔力の槍が、流れる川のすべてを蒸発させながら飛来し、君の形成した障壁に突き刺さった。

衝撃。重圧。まさしく嵐。何もかもを跡形もなく消し飛ばす、破壌と殲滅の魔槍が、君の障壁を穿ちながら進んでくる……!


「「ロード――〈白霊竜の金色の翼〉!」」

レイルとフレークが、金色の光を放った。それは不屈の意志を宿した翼となって、君の障壁を力強く包み込む。

「「゛負けないって誓ったッ!」」

甲高い音とともに、烈光が爆ぜた。

破壊の魔槍と、君たちの障壁――ぶつかり合った力が相殺した結果だった。


「ぐへぇ~……。」

「―気に、力を使い果たしてしまいましたな……。」

相当の体力を消費したのだろう。フレークの上で、レイルが突っ伏している。



「虎の子の1枚と、竜どもが引き換えか。まあまあ妥当な勘定だ。」

水が消え、深くえぐれた川底を、ひとりの女戦士が、淡々と歩いてくる。

その姿を認め、イルーシヤとフアルクが前に出た。


F「あんたのことは調べましたよ。〈血の運命を断つ者〉を卜―テムとする、〈断命族〉のロギア。

I「”あってはならぬものを断つ”。その使命のため、多くの禁術使いと戦い、禁具を破壊してきた狩人。そのあなたがなぜ、邪神降臨に手を貸しますの?」

「答えは、これだ。」

君は、思わず息を呑む。光を弾く、白い素肌。そこにうごめく”あってはならぬもの”――


「あなたが、異形に――」

「姉だ。」

ぽつりと言った。葉からこぼれる朝露のように。

「私じゃない。姉なんだ。禁術の使い手と戦ったとき、呪いをかけられ、こんな姿に変えられた。」

ロギアは服を戻し、そっと”それ”を隠した。

「そんな汚名を、我が氏族が許すはずもない。すぐさま刺客が放たれた。それを討ったときから私たちは居場所を失った。

姉が、生きることを許される場所。そんなところはどこにもない。

なければ、作るしかないだろう。”ここにいてもいい”という場所を――存在することが許される故郷を!」

叫びに応えるように、地から無数の手が立った。

手のような、あるいは根のような怪物たち。己の居場所を求めてやまぬ、欲望と希求の具象のごとき姿。

゛ただ在る、、だけの神――その眷属たちが、ぐるりと君たちを囲む。

「ここは聖地だ。誰もが還っていい場所だ。おまえたちとて、望むなら受け入れる。誰ひとりとして、拒みはしない……。」


「あいにく、こっちから願い下げだ。」

ラディウスが、剣を構えて前に出た。

「どこにいようが、俺の勝手だ。許されようが許されまいが、俺は俺の行きたいところで生きる。」

気負いのない、悠然とした構えだった。

どんな場所でも我が物顔で生き抜く不屈の獣――ピューマのように。


「俺が生きて、俺が戦う。俺の居場所は、そこだけだ!」



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story3-3



「ライズ――〈紅き黄昏〉!

「ロード――〈血の運命を断つ者〉!」


烈しい魔力を宿した両者が、真っ向から撃ち合う。

弾かれたのは、ラディウスだった。

「何っ!?」


”ロード”にも劣らぬ、伝説級の呪装符――その魔力が、剣から雲散霧消している。


I「”魔刀〈血喰らい殺し〉”――”あってはならぬものを断つ”力!〈断命族〉の特性は吸血鬼の天敵ですわ!」

1「先に言え!」

ロギアの剣が華麗に踊り、力を失ったラディウスを攻め立てる。


2「下がれ、俺が代わる!」

群がる眷属を薙ぎ払い、ミハネが叫ぶ。

伝説級の呪装符を封じられた以上、トーテムを持たぬがゆえに”ロード”できないラディウスは、あまりにも不利だ。

1「こんないいとこで代わるかよ!」

ラディウスは笑った。受けきれない斬撃に肌を裂かれ、血にまみれながら、それをこそ楽しむように。

血風のなか、その手が新たな呪装符をつかんだ。

剣が喰らったその”銘”を、ラディウスは高らかに叫ぶ。」


「ライズー―〈無窮自在の大牙〉!」

剣が、燃えるような魔力を宿した。〈紅き黄昏〉の呪装符にも劣らぬ力で、向かい来る血刀を弾き返す。

「むっ――」

ラディウスが、喰らいつくように前に出る。

攻撃も防御もまとめて呑み込む怒涛の剣撃が、紅の霖雨となってロギアに降り注いだ。

ロギアも、ただ呑まれるのを待ちはしない。剛剣の雨が連なる狭間、ほんのわずかな隙をついて一刀を繰り出した。


「”エクスターミネーション”!」


刹那――”ここだ、、とばかり、ラディウスの瞳がきらめくのを君は見た。

「”双旋逆渦”ッ!」

長剣がラディウスの首筋に届く直前、赤い光が、ロギアの胸元を貫いていた。

槍だ。炎によって形作られた魔槍。ラディウスの片手に握られたそれが、先の先の形で、ロギアの胸に届いていた。

攻撃に攻撃を重ね、相手の反撃にさえ先んじて攻撃を叩き込むー-なんとも彼らしい、どこまでも攻撃的な返し技だった。


力を失い、ロギアが倒れる。ラディウスは目を細め――

即座に跳ね上がった血刀を、手にした剣で受け切った。

心臓を貫かれたはずのロギアが、揺るぎなく剣を構え直している。


「イタチの最後っ屁――ってんじゃなさそうだな。」

「言っただろう。ここは聖地だと。」


ヅエムヌアグヅの加護篤き地だ。眷属は、何があろうと存在し続ける。

「てめえもとっくに眷属か。それでも”ロード”ができるとは驚きだな。」

「ヅエムヌアグヅは、存在を司る神だ。他のあらゆる存在を、ただ受容する。」

「”侵蝕”のまちがいだろ。そんな懐の深い神様には見えねえよ。」


ラディウスは軽口を叩いているが、まずい状況だ。

何があろうと存在し続ける加護――倒しても倒しても滅ることのない敵。

そんなものを相手に、どう道を拓けば――


「ロード――〈震天の雷神竜〉!」


道が。


拓かれた。一瞬にして。轟音とともに天より降り落ち、何もかもを吹き飛ばした雷によって。

雷は、人の姿をしていた。斧を手にした、筋骨隆々たる武人。そしてその傍らに立つ、ふにゃふわの戦士。

ロギアもろとも、前をふさぐ眷属たちをまとめて消し炭に変えたふたりは、それを誇るでもなく、淡々とこちらを向いた。


「宴もたけなわという頃合いだな。」

「ぷぅ。」


1「オウゼン、プグナ!」

I「良かった。間に合ってくださいましたわね。」

え? とイルーシャの方を見ると、彼女は、いたずらっぽく笑ってみせた。

「お招きしておきましたの。空から降ってくるとは思いませんでしたけど。」


「道は、拓いた。行ける者は行け。」

そうと言われて、否やはない。

オウゼンとプグナ、それに疲弊したレイルとフレーグを残し、君たちは聖域の奥へ続く道を急いだ。



「知っているぞ――」

ぼこり、と、地面が割れた。

地中から、傷ひとつない姿で現れたロギアは、じろりとオウゼンを睨みつける。

「〈猛者斬り〉オウゼン――貴様とて、氏族に帰れぬはぐれ者だろうに――」


「そうだな。だから、探している。」

復活する眷属たちを悠然と見回し、オウゼンは静かに斧を構えた。

「外道からの、帰り道をな。」


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